サンタ・アニタの王者、ゲーム・オン・デュード
3月に入って最初の土曜日、アメリカは東海岸に西海岸にと注目の、そして伝統のG戦が行われました。何と言っても昨日の注目はサンタ・アニタ・ハンデですが、ここは順にレポートして行きましょう。
先ずはG戦開催が丁度1か月ぶりとなるアケダクト競馬場から3つのグレード・レースを。トップ・バッターはトップ・フライト・ハンデキャップ Top Flight H (GⅡ、3歳上牝、8.5ハロン)です。馬場は fast 、1頭取り消しの7頭立て。出走馬中唯1頭のG戦勝馬であるサマー・アプローズ Summer Applause が6対5の1番人気に支持されていました。
スタートで2頭が出遅れ、その1頭ナタリー・ヴィクトリア Natalie Victoria がやや強引に先頭を奪って先頭。前半3番手から一旦は4番手に控えた本命サマー・アプローズが外からスルスルと脚を伸ばし、追い込む3番人気(7対2)のトゥワイス・ザ・レディー Twice the Lady に2馬身4分の3差を付ける貫録勝ち。首差3着にも2番人気(3対1)のサニー・デザート Sunny Desert が入って順当です。
チャド・ブラウン厩舎、ジョン・ヴェラスケス騎乗のサマー・アプローズは、ブレット・カルホーン厩舎からブラウン師の元に転厩しての初勝利。去年3歳時は前師の元でレーチェル・アレクサンドラ・ステークス(GⅢ)に勝ち、フロリダ・オークス(GⅡ)が本命で2着(勝馬はケンタッキー・オークス馬ビリーヴ・ユー・キャン Believe You Can)。ケンタッキー・オークスは4着でしたが故障が発覚、長期休養と移籍を挟んで1月26日にサム・ヒューストンの一般ステークスで復帰(6着)していた4歳馬です。
続いてはトム・フール・ハンデキャップ Tom Fool H (GⅢ、3歳上、6ハロン)。10頭が出走し、GⅠ馬のコンマ・トゥー・ザ・トップ Comma to the Top が2対1の1番人気に支持されています。
ダッシュ良く先頭に立ったコンマ・トゥー・ザ・トップ、直線もインを衝いて粘り、大外から猛追するサタデイズ・チャーム Saturday’s Charm に一旦は交わされながらも二の脚を使って差し返し、同馬をハナ差交わして人気に応えました。2頭の間を衝いたヘッド・ハート・フーフ Head Heart Hoof が1馬身差で3着。
ピーター・ミラー厩舎、勝馬には初めて跨ったジョエル・ロザリオ騎乗のコンマ・トゥー・ザ・トップは、2歳時にキャッシュコール・フューチュリティー(GⅠ)を制し、2歳時にはサンタ・アニタ・ダービーで2着した4歳馬。カリフォルニアを本拠とし、州外遠征はケンタッキー・ダービー(19着)以来2度目のことでしたが、前走サン・カルロス・ステークス(GⅡ)3着から連闘で臨んでのG戦4勝目となります。恐らく4月6日に行われるカーター・ハンデ(GⅠ)を狙っての遠征でしょう。
アケダクトのメインは、クラシックの前哨戦として重要なガッサム・ステークス Gotham S (GⅢ、3歳、8.5ハロン)。既に紹介したように、1月のジェローム、2月のウィザースに続くクラシック・トライアル第3弾です。ウィザーズの勝馬レヴォリューショナリー Revolutionary は欠場し、2歳時にレムゼン(GⅡ)とフューチュリティー(GⅡ)を制したオーヴァーアナライズ Overanalyze が8対5の本命。これがシーズン・デビューですが、ジェロームの覇者ヴァイジャック Vyjack (2対1、2番人気)を抑えての1番人気です。1頭取り消しの11頭立て。
スタートで外枠発走の馬たちがクラブハウス・ターンで好位を獲ろうと殺到、内の馬たちが何頭か接触するアクシデントがありました。結局逃げたのは10番枠から出たウエスト・ヒルズ・ジャイアント West Hills Giant 。大外11番枠スタートのオーヴァーアナライズも早目に3番手に付けての追走です。前半の無理が祟ったか、休み明けが堪えたかオーヴァーアナライズは直線で一杯、代わって前半は後方2番手、第4コーナーも後方4番手で回ったヴァイジャックが目の覚めるような瞬発力で抜け出し、2着に逃げ粘ったウエスト・ヒルズ・ジャイアントに2馬身4分の1差を付ける快勝です。半馬身差3着にはエルナーウィ Elnaawi が飛び込み、オーヴァーアナライズは5着敗退。
逃げ馬が2着に入ったこともあり、最初のコーナーでのゴチャ付きで不利があったジョッキーから異議が申し立てられましたが、長い審議の末に着順通りで確定。いずれにしてもアクシデントを後方で避けていた勝馬には関係の無い審議でした。
ルディー・ロドリゲス厩舎、ジョエル・ロザリオ騎乗のヴァイジャックは、これで4戦無敗。ダービーへの50ポイントも獲得して有力なクラシック候補に躍り出ました。後方からの競馬、リラックスしてレースを進められるのが同馬の利点で、ロドリゲス調教師は未だ底を見せていない馬と期待。アケダクトの最終便ウッド・メモリアルが真の意味での試金石となるでしょう。
次にフロリダのガルフストリーム・パーク競馬場に飛びましょうか。ここは2鞍のG戦で、いずれもクラシックに繋がる3歳戦。先に行われたのが牝馬によるヒアカムズザブライド・ステークス Herecomesthebride S (芝GⅢ、3歳牝、9ハロン)、但し芝コースのトライアルですから、ここからオークス馬が誕生するかは微妙でもありましょう。芝コースは firm 、3頭が取り消しての6頭立て。イタリアからアメリカに移籍、前走の一般ステークスに続き連勝でG戦初勝利を目指すトゥッティパエージ Tuttipaesi が8対5の1番人気。
レースはアイ・オー・アイルランド I O Ireland が逃げ、トゥッティパエージは4番手を追走する流れ。直線で2番人気(9対5)のトーキョー・タイム Tokyo Time が内に進路を獲ろうとしましたが、逃げ馬が外に寄れて2頭が接触。アクシデントを横目に2番手を追走した4番人気(6対1)のキッテンズ・ポイント Kitten’s Point が馬4頭分の外から抜けると、再び内から迫るトーキョー・タイムを首差抑えての逆転劇。本命のトゥッティパエージは、1馬身4分の1差3着に終わりました。直線での接触が審議になりましたが、結局は入線通りで確定しています。
勝馬と、人気で3着に終わった2頭は何れもグレアム・モーション師の管理馬。キッテンズ・ポイントにはエドガー・プラードが騎乗していました。勝馬は2歳時にプレスク・アイル・ダウンズ競馬場で初勝利。キーンランドのジャスミン・ステークス(芝GⅢ)では2着でしたが、BCジュヴェナイル・フィリーズ・ターフでは12着惨敗。今年2月初めにガルフストリームのクレーミング戦で2着し、ここに臨んでの2勝目と言う戦歴です。ダートに転じてクラシック路線に踏み出すかが、モーション師の思案の為所でしょう。
もう一鞍がスウェイル・ステークス Swale S (GⅢ、3歳、7ハロン)。これも3歳戦ながら7ハロンの短距離がポイントで、クラシックに向かうかスプリント路線に専念するかが勝馬の思案になりそうな一戦です。2頭が取り消して11頭が出走、馬場は fast 。先月同じ7ハロンで行われたハッチェソン・ステークスで2着に急襲したフォーティー・テイルズ Forty Tales がイーヴンの1番人気に支持されていました。
レースはブービー人気(50対1)のシングアナザーソング Singanothersong が逃げ、フォーティー・テイルズは前走同様に後方待機策。しかし直線で鮮やかに抜けたのは、本命馬の一つ前で競馬していた4番人気(7対1)のクリアリー・ナウ Clearly Now 。逃げたシングアナザーソングに1馬身4分の3差を付けていました。2番人気(4対1)のアンドラフテッド Undrafted がハナ差で3着、フォーティー・テイルズも追い上げましたが5着まで。
ブライアン・リンチ厩舎、ルイス・サエズ騎乗のクリアリー・ナウは、2歳時はカナダで3戦し短距離で2勝。今シーズン初戦のホーリー・ブル・ステークスでは勝馬から離された3着でしたが、リンチ師は短距離が適していると判断している様子。この後は一応クラシックに向けた調整をするようですが、結果次第ではスプリンターとしての道を歩むことになるでしょう。
最後にサンタ・アニタ競馬場。この日はGⅠ戦3連発の豪華版ですが、メインは言うまでも無く「ビッグ・キャップ」、サンタ・アニタ・ハンデです。その前に前座!となるGⅠ戦2鞍から。
ラス・ヴァージェネス・ステークス Las Virgenes S (GⅠ、3歳牝、8ハロン)は、牝馬クラシックに向けた重要なトライアル。勝馬にはケンタッキー・オークス出走権利50ポイントが加算されます。馬場は fast 、8頭が出走してきましたが、4対5の圧倒的1番人気はBCジュヴェナイル・フィリーズの勝馬で去年の2歳牝馬チャンピオンであるビホールダー Beholder 。シーズン初戦の前走サンタ・イネズ・ステークス(GⅡ)では伏兵ルネーズ・タイタン Renee’s Titan に思わぬ敗戦を喫しましたが、レース後に咽喉に出来物があったことが判明。それは無事に完治し、本来のスピードを活かすことに期待が掛かります。
そして期待通り、スタートからダッシュ良く飛び出したビホールダーの逃げ切り勝ちです。2着は3馬身4分の3差で2番人気(2対1)のフィフティーシェイズオブヘイ Fiftyshadesofhay 、行った行ったの順当な結果でした。3着は更に1馬身半差でスカーレット・ストライク Scarlet Strike の順。
リチャード・マンデラ厩舎、ギャレット・ゴメス騎乗で見事復権を果たしたビホールダー、戦績を7戦4勝2着2回とし、GⅠ2勝でオークスの最有力候補の座を間違いないものにしたようです。
第2弾はフランク・E・キルロー・マイル Frank E. Kilroe Mile (芝GⅠ、4歳上、8ハロン)。今年の芝コースのマイル・チャンピオンを目指す馬にとって最初のGⅠ戦となります。芝コースは firm 、予定通り8頭が出走してきました。1番人気(3対2)はアルゼンチンの強豪で、前走アルカディア・ステークス(芝GⅡ)でも実力を見せ付けたサジェスティヴ・ボーイ Suggestive Boy 。
ヴァガボンド・シューズ Vagabond Shoes の逃げを3番手で追走したサジェスティヴ・ボーイ、直線では馬3頭分の外から抜け出すと、内ラチ沿いに猛追するシレンティオ Silentio に詰め寄られながらも、ハナ差抑えて人気に応えました。3着は1馬身4分の1差で芝コースも古馬との対戦も初となるフェド・ビズ Fed Biz 。更にハナ差で2番人気(5対2)のミスター・コモンズ Mr. Commons が続きます。
勝馬を管理するロン・マッカナリー師にとっては、これが記念となるサンタ・アニタでの700勝目となる由。鞍上はジョセフ・タラモ。サジェスティヴ・ボーイは、2歳時にはアルゼンチンのチャンピオン決定戦でもあるラウル・イ・ラウル・シュヴァリエ(日本なら朝日杯)を制し、3歳時にもアルゼンチン2000ギニーなどに勝ったクラシック馬。血統も名馬ラフィアン Ruffian やコロナドズ・クェスト Coronado’s Quest の近親とあって、増々今後の活躍が期待されます。
そして愈々第76回を迎えるサンタ・アニタ・ハンデキャップ Santa Anita H (GⅠ、4歳上、10ハロン)。他のGⅠ戦と違って、グレード制が導入された1973年から終始GⅠに格付けされてきた伝統の一戦です。1頭が取り消して9頭が出走してきましたが、今年は一昨年の覇者ゲーム・オン・デュード Game On Dude と去年の勝馬ロン・ザ・グリーク Ron the Greek の対決が見もの。前者が6対5の1番人気、後者が5対2の2番人気で続き、2強対決の様相を呈していました。
しかしレースは一方的。スタートで先手を取ったゲーム・オン・デュードが、最後まで後続に影を踏ませぬ一人旅。終わって見れば2着クラブハウス・ライド Clubhouse Ride に7馬身4分の3差を付ける圧勝劇でした。ハナ差でコールド・トゥー・サーヴ Called to Serve が3着、ロン・ザ・グリークも中団から伸びましたが4着止まり、勝馬とは9馬身以上の差が付いてしまいました。レース実況アナウンサーが、“サンタ・アニタ・ハンデ史上最大のらくしょおっ~!”と叫んでいたのが印象的でしたね。
サンタ・アニタでは8戦7勝と、正に王者の地位に座るゲーム・オン・デュード、サンタ・アニタ・ハンデ2勝は史上4頭目の快挙となります。これまでのジョン・ヘンリー John Henry 、ミルウォーキー・ブリュー Milwaukee Brew 、ラヴァ・マン Lava Man がいずれも2連覇だったのに対し、隔年での2勝は初めてのこと。また管理するボブ・バファート師にとっても2000年のジェネラル・チャレンジ General Challenge 、2010年のミスリメンバード Misremembered に続く4勝目となります。
意外なことに騎乗したマイク・スミスにとっては嬉しいサンタ・アニタ・ハンデ初制覇。2011年にゲーム・オン・デュードを勝利に導いたのは、スミス騎手の「元カノ」で、今は引退してしまったシャンタル・サザーランド。サザーランドは、女性騎手としてビッグ・キャップ初制覇した美女であることは皆様ご存知でしょう。
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