ニューヨークから、ケンタッキーから、カリフォルニアから

今週は世界に先駆けて日本でクラシック・レース第一弾が行われますが、アメリカはダービー・オークスを一か月後に控えてトライアルの最盛期。土曜日は3つの競馬場で10鞍ものG戦が組まれ、その半分はGⅠ戦という豪華版でした。

最初はニューヨークのアケダクト競馬場から。アケダクト競馬場、今年はスケジュールの見直しが行われ、去年までとは異なったローテーションで面食らいます。この日のG戦は5鞍でしたが、最初のラフィアン・ハンデキャップ Ruffian H (GⅡ、3歳上牝、8ハロン)は去年は開催されなかったもの。理由などは書かれていないようですが、2年振りにGⅡとして復活しました。
馬場は fast 。6頭立てですが、2月16日にローレル競馬場で行われたバーバラ・フリッチー・ハンデ(GⅡ)の1着から3着までが出走し、再戦の趣。ただしローレルは泥んこ馬場だったこともあって、人気は勝馬のファニーズ・アプルーヴァル Funnys Approval (7対1、4番人気)ではなく、2着のマイ・ウォンディーズ・ガール My Wandy’s Girl (4対5)に集中していました。プエルト・リコで連戦連勝してきた快速馬の雪辱が期待されたのでしょう。
レースはファニーズ・アプルーヴァルが二匹目の泥鰌を狙ってスタートからハイペースで飛ばす展開。しかし前半控えていたバーバラ・フリッチー3着のウィズグレートプレジャー Withgreatpleasure (14対1、ブービー人気)が内ラチ沿いギリギリを通って一気に先頭を奪って直線。一時は2馬身差を付けてゴールに向かいましたが、外を回ったマイ・ウォンディーズ・ガールが追い詰め、4分の3馬身差まで詰め寄った所がゴール。2馬身半差の3着争いは激戦で、ハナ差でトゥワイス・ザ・レディー Twice the Lady が食い込みました。逃げたファニーズ・アプルーヴァルはバテて5着。
バーバラ・フリッチーとは逆の結果になりましたが、何と言っても経済コースを通った勝馬のジョン・ヴェラスケスの判断が勝因、1・2着の差は明らかにコース取りから生じたものでしょう。勝馬の調教師は若手のデヴィッド・ナン、ナン師にとってウィズグレートプレジャーはステークスを初めて勝った馬で、G戦も初勝利となります。同馬は3歳時にインディアナ・オークス(GⅡ)で2着、モンマス・オークス(GⅢ)でも3着しており、バーバラ・フリッチーのあと、前走はチャールズ・タウン競馬場でハンデ戦に勝っていました。

続いてはガゼル・ステークス Gazelle S (GⅡ、3歳牝、9ハロン)。去年までは秋競馬のGⅠ、日本で言えば秋華賞、ヨーロッパならヴェルメイユ賞的存在でしたが、今年は春に変更された上、GⅠからGⅡに格下げています。100ポイント加算のオークス・トライアルとしての再スタートを切りました。ここも6頭立て。ステークス初挑戦ながらここまで2戦無敗のクローズ・ハッチェス Close Hatches が6対5の1番人気、
スタートから先手を取ったクローズ・ハッチェス、直線では一旦2番人気(3対2)のプリンセス・オブ・シルマー Princess of Sylmar に並ばれるも、未だ余裕を残した逃げで再び加速、プリンセス・オブ・シルマーに3馬身4分の1差を付けて無敗記録を「3」に伸ばしました。3着は更に3馬身4分の3差が付いて3番人気(7対2)のウォークウィズアパーパス Walkwithapurpose の順。
ウィリアム・モット厩舎、ジョエル・ロザリオ騎乗のクローズ・ハッチェスは、フランケル Frankel でもお馴染みジャドモント・ファームの自家生産馬。1月26日にガルフストリームで新馬勝ち、前走3月10日には同じガルフストリームでアローワンスに連勝していました。この勝利により、ケンタッキー・オークスの第5の存在(後述)に挙がってきました。

アケダクト3鞍目のG戦はベイ・ショア・ステークス Bay Shore S (GⅢ、3歳、7ハロン)。3歳戦ながらダービーに向けてのポイント対象ではなく、春の3歳スプリント決戦という性格。9頭が出走し、ここアケダクトで一般ステークスに勝ってきたマレー Maleeh が5対2の1番人気に支持されていました。
レースは前走スウェール・ステークス(GⅢ)の覇者で2番人気(3対1)のクリアリー・ナウ Clearly Now と伏兵(24対1)リトリーヴ Retrieve が激しくハナを奪い合うハイペースの流れ。前半7番手に控えたこれも人気薄(12対1、5番人気)のデクランズ・ウォリアー Declan’s Warrior が大外を回り、直線で先頭に立ったクリアリー・ナウをゴール直前で頭差捉えての逆転劇。3着には3馬身差でザ・トラス・アンド・ケー・ジー The Truth and K G が入りました。本命マレーは6着敗退。
ニコラス・ジート厩舎、ホセ・レズカノ騎乗のデクランズ・ウォリアーは共同馬主の所有ですが、中心は調教師ジート師の夫人。ここまで一般戦に4戦で、前走はガルフストリームのアローワンス戦で1着同着でした。そのときに優勝を分け合ったナルヴァエス Narvaez は先週のフロリダ・ダービーで4着していましたから、人気の盲点だったかもしれません。

そしてアケダクト競馬場のGⅠとしてはシーズン最初となるカーター・ハンデキャップ Carter H (GⅠ、3歳上、7ハロン)。春の古馬短距離路線の頂点の一つ、1頭が取り消して6頭が出走してきました。イーヴンの1番人気はプレッチャー厩舎のディスクリート・ダンサー Discreet Dancer 。前走ガルフストリーム・パーク・ハンデ(GⅡ)を5馬身差で圧勝し、フロリダから乗り込んできました。
コンソーティアム Consortium の逃げを4番手で追走したディスクリート・ダンサー、外を通って直線で伸びたものの、離れた後方2番手を進んだブービー人気(15対1)スワッガー・ジャック Swagger Jack の更に外からの急襲に並ぶ間もなく交わされてしまいます。ゴール前では最後方から追い込む2番人気(9対5)サハラ・スカイ Sahara Sky にも交わされて3着。結局スワッガー・ジャックがサハラ・スカイに4分の3馬身差で優勝、更に1馬身差でディスクリート・ダンサーの順。後方待機組のワン・ツー・フィニッシュとなりました。
マーチン・ウルフソン厩舎、イラッド・オルティス騎乗のスワッガー・ジャックは、2月9日のガルフストリーム・パーク・チャンピオンシップ(GⅡ)で2着、前走ガルフストリーム・パンク・ハンデも2着と今一歩及ばなかった5歳馬。逆転劇で念願のGⅠ制覇を果たしました。そらにしては人気が無かったのが不思議なほど。

最後は本日のメイン、ニューヨークで行われる最後の、そして最大のダービー・トライアルとなるウッド・メモリアル・ステークス Wood Memorial S (GⅠ、3歳、9ハロン)。もちろん勝馬には100ポイントが加算されます。10頭が出走してきましたが、レース前の話題は2頭の無敗馬対決。タンパ・ベイ・ダービー(GⅡ)を制したヴェラザーノ Verrazano に対し、ガッサム・ステークス覇者ヴァイジャック Vijack が挑む構図で、前者が4対5の1番人気、後者は3対1の2番人気で続きます。
伏兵(78対1)クリスアンドザカッパー Chrisandthecapper の逃げを2番手でマークしたヴェラザーノ、早目にこれを捉えて先頭に立つと、3番手から挑むヴァイジャックとの一騎打ちに持ち込みます。直線、ロドリゲス騎乗のヴァイジャックが懸命に差を詰めにかかりますが、むしろ差は開くばかり。2強に割って入るように追い込んだ3番人気(7対2)ノルマンディー・インヴェ―ジョン Normandy Invasion を4分の3馬身抑えて無敗を守りました。力負けの感があるヴァイジャックは首差及ばず3着となり初黒星。なおスタートで大外枠スタートのフリーダム・チャイルド Freedom Child が大きく出遅れて競走中止したことの審議が行われましたが、最終的な結果には影響ありませんでした。
この勝利でダービー候補の最前線に立ったヴェラザーノ、終わって見ればトッド・プレッチャー厩舎、ジョン・ヴェラスケス騎乗の黄金コンビで、無敗のままダービー馬になる青写真が見えてきたようです。

次に、前日に開幕したキーンランド競馬場からアシュランド・ステークス Ashland S (GⅠ、3歳牝、8.5ハロン)。この日キーンランドのG戦はこの一鞍のみですが、もちろんオークス(勝馬には100ポイント加算)に向けて目の離せない一戦、フルゲートを上回る4頭が登録していましたが、最終的には2頭の除外の他に1頭が取り消して13頭立て。馬場は fast で行われました。4対1の1番人気に支持されたスプリング・イン・ジ・エア Spring in the Air は出走馬中唯1頭のGⅠ馬、2歳時に勝ったアルシバイアディース・ステークスは、同じキーンランドのレースでコースとの相性も問題ないでしょう。
しかしレースは小波乱。大外枠スタートから楽に先頭に立った3番人気(6対1)エモリエント Emollient が、そのまま後続に影も踏ませぬ圧巻の逃げ切り勝ち。何と2着2番人気(9対2)トゥッティパエージ Tuttipaesi に9馬身もの大差を付けていました。3着は更に1馬身4分の1差でキッテンズ・ポイント Kitten’s Point が食い込み、スプリング・イン・ジ・エアは4番手追走も不発、9着と大敗。
ウイリアム・モット師が管理するエモリエントは、先週のガルフストリーム・オークスではドリーミング・オブ・ジュリア Dreaming of Julia に30馬身も離された大敗を喫しており、ここではやや人気を落としていた存在。同馬に初騎乗した名手マイク・スミスも、彼女の能力の高さに舌を巻いた様子。2歳時はドモワゼル・ステークス(GⅡ)2着でシーズンを終え、今季は2月にガルフストリームのアローワンスに勝ってスタート、前走の思わぬ敗北を克服してオークス候補4番手に再浮上してきた感がありましょう。

土曜日最後はサンタ・アニタ競馬場の4鞍。いきなりサンタ・アニタ・オークス Santa Anita Oaks (GⅠ、3歳牝、8.5ハロン)で始まります。今年のサンタ・アニタはオークス、ダービーが同日開催とあって、全米の競馬ファンの目が集まりました。メインコースは fast 、6頭と少頭数ながら、BCジュヴェナイル・フィリーズとラス・ヴァージェネスと二つのGⅠを制しているビホールダー Beholder が1対5の断然1番人気。ニューヨーク、ケンタッキーからも有力なオークス候補が出現しただけに、ここは負けられない一戦でしょう。
そしてファンの期待通り、ビホールダーは余裕の逃げ切り勝ちで3つ目のGⅠを手にしました。2馬身4分の3差で2着にはアイオタパ Iotapa が入り、首差でフィフティーシェイズオブヘイ Fiftyshadesofhay 。
リチャード・マンデラ厩舎、ギャレット・ゴメス騎乗のビホールダーは、名門スペンドスリフト・ファームの所有馬。この勝利で今年のオークス候補筆頭に躍り出たのは間違いないでしょう。

続いては古馬の短距離戦、ポトレロ・グランデ・ステークス Potrero Grande S (GⅡ、4歳上、6.5ハロン)。同じ日にアケダクトで行われるカーター・ハンデを避けた馬たちによる、西海岸の短距離王決定戦とでも言えましょうか。2頭が取り消して6頭立て。2頭のGⅠ馬が揃う好メンバー、6対5の1番人気に支持されたのは前走マリブー・ステークスの覇者ジミー・クリード Jimmy Creed 。今期初戦、久し振りの実戦にも拘わらずその自在性ある脚質に期待が集まっていました。
トム・フール・ハンデ(GⅢ)勝馬で2番人気(2対1)の逃げを2番手で追走したジミー・クリード、直線で抜け出すと4番手から追い込むアンブライドルズ・ノート Unbridled’s Note に4分の3馬身差を付ける貫録勝ち。2馬身4分の1差3着にはエイプライオリティー Apriority が入り、コンマ・トゥー・ザ・トップは4着。
勝馬を管理するリチャード・マンデラ師、騎乗したギャレット・ゴメス両者にとってオークスに続くダブル達成。オーナーのウェイン・ヒューズ氏もビホールダーの生産者で、3人ともG戦連勝に意気軒昂といったところでしょう。

3鞍目はプロヴィデンシア・ステークス Providencia S (芝GⅢ、3歳牝、9ハロン)。こちらも3歳戦ですが、芝コースのためクラシックには繋がらない一戦。firm の芝に10頭が揃いました。2対1の1番人気は、未だ1勝馬ながらGⅠ戦で3度も入着を果たしているスカーレット・ストライク Scarlet Strike 、そろそろタイトルが欲しい所です。
2番人気(4対1)のバードラヴァー Birdlover が快調に逃げる中、後方8番手辺りに付けていたスカーレット・ストライクがスローに流れるのを懸念して3コーナー手前から一気にスパート、逃げたバードラヴァーを半馬身捉えての2勝目、G戦初勝利のタイトル獲得です。更に2馬身4分の1差でスイート・レッド・キャット Sweet Red Cat が3着。
ジェリー・ホーレンドルファー厩舎、ラファエル・ベハラノ騎乗のスカーレット・ストライクの生産者は、ポトレロ・グランデのジミー・クリードと同じ法人。彼らにとってもG戦ダブルとなります。スカーレット・ストライクが3着したラス・ヴァージェネス・ステークスを制したのが、この日サンタ・アニタ・オークスに勝ってケンタッキー・オークスの中心になるであろうビホールダー Beholder 。チャンピオンとは違う道を歩むことになるでしょうが、スカーレット・ストライクの今後にも大注目です。

そして土曜日のトリは、サンタ・アニタ・ダービー Santa Anita Derby (GⅠ、3歳、9ハロン)。出走登録時点ではロバート・B・ルイス(GⅡ)の勝馬フラッシュバック Flashback と、サン・フェリペ(GⅡ)の覇者ヒア・ザ・ゴースト Hear the Ghost の一騎打ちと見做されていましたが、残念なことにヒア・ザ・ゴーストが事前の調教で軽症ながらも故障発生。三冠を断念することになりました。人気の一角が取り消して8頭立てとなった今年のサンタ・アニタ・ダービー、ライヴァルを欠いたフラッシュバックがイーヴンの1番人気に支持されます。
レースは2番人気(9対2)スーパー・ナインティー・ナイン Super Ninety Nine の逃げで始まり、フラッシュバックは4番手から3番手と徐々に進出、そのまま栄冠を手にするかと思われましたが、2番手を追走した5番人気(6対1)のゴールデンセンツ Goldencents の脚色が良く、結局は1馬身4分の1差で伏兵を捉え切れませんでした。3着は8馬身半の大差が付いて逃げたスーパー・ナインティー・ナイン。
勝ったゴールデンセンツは、前走サン・フェリペでは4着だった馬。ハイペースに巻き込まれて不覚を取った内容でしたが、今回は本来の競馬での逆転。騎乗したケヴィン・クリッガーはこの日5勝目と絶好調だったこともプラスに作用したのでしょう。また同馬を管理するのは、去年アイル・ハヴ・アナザー I’ll Have Another で二冠を制したダグ・オネイル師。今年も“もう1頭いるよ”と主張したようなトライアルは、クラシック戦線に如何にも不気味なムードを漂わせたようですね。

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