読売日響・第483回名曲シリーズ
アルブレヒト/読響のフランス音楽プログラムを聴きました。
予定にはなかったのですが、当日の午前に知人からお誘いを受け、急遽行くことになったのです。
コンサートに出掛けるときは多少の準備をします。CDで予習というのは滅多にありませんが、一応楽譜に目を通して確認したり、作品に関する文献をそれとなく確かめてポイントを頭に入れておく等々です。
この回はそういうことなしの、言わばブッツケ本番。
結果は、やや物足りなさが残りました。自分にも責任ありですが、最近では珍しい体験です。
間違えないで欲しいのは、決して「不満が残った」のではなく、「物足りなかった」のであります。何にか、についてはおいおい説明しましょう。
まずプーランクのグローリア。名作と言われながら聴く機会は決して多くありませんね。
初演は1961年1月20日、クーセヴィツキー財団の委嘱を受けた作品ですから、当然ながらボストン交響楽団でシャルル・ミュンシュの指揮。ソプラノ・ソロはアデーレ・アディソンです。この際の録音はどこかに残されているはずですから、誰か発掘してくれませんかネェ。
ヨーロッパ初演はその翌月、1961年2月にジョルジュ・プレートル指揮・フランス国立放送管弦楽団とロザンナ・カルテリのソロで行われました。
この直後に同じメンバーで録音されたレコードで、私などは親しんできました。プーランク自身が録音に立ち会って監修していますから、言わば「お墨付き」です。
この録音に比べると、アルブレヒトは随分速いテンポを取っていました。
プーランクの作品は、大雑把に言って世俗的なものと宗教的なものが両立していると書かれていますね。このグローリアは、その二つの要素が巧い具合に混在して、独特な魅力を醸し出しているように思いました。
もちろんグローリアといえば宗教的作品ですが、第2部「ラウダムス・テ」と第4部「ドミネ・フィリ・ウニジェニテ」は快活で運動的な要素が強く、特にラウダムス・テは敬虔なキリスト教徒たちからは顰蹙を買った、という記録が残っています。
これに対してプーランクは、“ゴッツォーリの天使たちが舌を出しているフレスコ画とか、実際に見たベネディクト会修道士たちのサッカーの試合を思い浮かべただけだ”と反論しています。
ゴッツォーリ(Benezzo Gozzoli)のフレスコ画というのはネットなどであちこちの美術館を検索してみたのですが見つからず、残念ながら特定できません。
ラゥ・ダー・ムス・テッ、という合唱のやり取りを聴いていると、誠にサッカーボールの奪い合いを見ているようで、本当に楽しい。宗教作品であることを忘れさせます。
これに対し第3部「ドミネ・デウス」は旋律線が美しいですね。真に荘厳であり、豊かな抒情を感じます。
特にパーテル・オムニポテンスの歌詞、二・ポ・テンスに相当するミ・ド・ラーという下降音型には何とも言えぬ切なさが感じられて素敵!
またソプラノの菅英三子さんの独特な高音が作品にピッタリですね。特に第5部「ドミネ・デウス、アニュス・デイ」では神秘性も加わって白眉でした。
チョッと物足りなさを感じたのは、次のラヴェルです。ダフニスとクロエ全曲。
実は7月に同じ曲を沼尻竜典指揮・日本フィルで聴いてしまったのです。これが飛び抜けて良かった。今回はどうしてもこれと比べてしまい、アルブレヒト=読響には不利が働いてしまったようです。
聴き手によっては今回の方を上に採る人もあるでしょう。オーケストラのパワーという点では、読響に利があることは私も認めます。しかしフランス音楽はチョッと別なのです。
沼尻は、このバレエをバレエとして、つまり細かな筋書きを丁寧に音にしていった。楽器による描写が見事だったのです。
例えば舞台裏からと指定されている金管を吹く場所を微妙に変えながらドラマを高めていきました。
スコアに指定されているように、Esクラリネットやピッコロをオーケストラから分離して鳴らしていました。
合唱の効果も同じです。確かにアルブレヒトは合唱団を後ろ向きにして歌わせる工夫を取り入れていましたが、沼尻は更に上手(うわて)でした。細かいことは書きませんが、私はアルブレヒトの工夫には少し物足りなさを覚えたのです。
更にカットが致命的でしたね。事前にスコアをさらってこなかったので何処という正確な指摘はできませんが、例えばドルコンの踊りを皆で嘲る箇所とか、全員の踊りのあとの物悲しいパッセージとかが省略されてしまいました。アルブレヒトとしたことがどうしたのでしょうか。
これを初めて体験された方には大変素晴らしい演奏と感じられたでしょう。そのことに異論を差し挟む積りは決してありません。
しかし残念ながら私には、“何かラヴェルじゃないなぁ”という感じと、“あれ、どこか飛ばしたんじゃない”という感想が重なって、「物足りないラヴェル」になってしまった次第。
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