ブービー人気、それでもプレッチャー師のケンタッキー・オークス

金曜日、愈々アメリカのクラシック・シリーズがスタートしました。先ずはケンタッキー・オークスですが、この日のチャーチル・ダウンズ競馬場はオークスを含めてG戦は5鞍。レース順に紹介して行きましょう。

最初は第6レースのラ・トロワイエンヌ・ステークス La Troienne S (GⅡ、4歳上牝、8.5ハロン)。fast の馬場に7頭が出走し、去年のケンタッキー・オークス馬ビリーヴ・ユー・キャン Believe You Can がイーヴンの1番人気、オークスを女流騎手として初制覇したロージー・ナプラヴニクとのコンビでオークス再現を目指します。
レースは内を通る4番人気(5対1)のオーセンティシティー Authenticity と、外を回る3番人気(9対2)オン・ファイア・ベビー On Fire Baby とが先頭を争い、ビリーヴ・ユー・キャンは4番手待機。しかし直線でも先頭2頭の脚色は衰えず、最後まで両馬の叩き合いが続き、最後は終始インコースを通ったオーセンティシティーがオン・ファイア・ベビーを頭差抑えて優勝。ビリーヴ・ユー・キャンは直線では寧ろ離される展開となり、4馬身4分の3差で3着に終わりました。勝時計1分42秒09はステークス・レコード更新でもあります。
勝ったオーセンティシティーはトッド・プレッチャー厩舎、ジョン・ヴェラスケス騎乗で、これが未だ7戦目の4歳馬。2歳の6月にここチャーチル・ダウンズで初勝利を挙げたあと今年1月まで長期休養。アローワンス戦で3着、1着となり前走ガルフストリームのランパート・ステークス(GⅢ)で2着。今年は早くも4戦目でのG戦初勝利となります。

第7レースの一般ステークスを挟み、次はエイト・ベルズ・ステークス Eight Belles S (GⅢ、3歳牝、7ハロン)。クラシック世代の牝馬戦ですが、オークスは距離が長いというメンバーの一戦。今年のオークスは初めてポイント・システムが導入されましたが、最終的にオークスはフルゲートにならず、こちらの断念組がフルゲートの14頭立て。直前に1頭が取り消し、結局は13頭で争われました。2対1の1番人気は、大外枠ながら2戦2勝のカリストーガ Calistoga 。ステークス初挑戦ながら距離的に格上相手も克服できるだろうという期待感です。
レースは1番枠を利して伏兵チョートル Chortle の逃げ、大外のカリストーガは後方2~3番手の外を通る不利な流れ。直線では7~8頭がコース一杯に広がる大接戦で、この混戦を制したのは前半7番手を追走し、大外を回って追い込んだ5番人気(7対1)のソー・メニー・ウェイズ So Many Ways 。内の2番人気(4対1)フサイチズワンダフル Fusaichiswonderful に半馬身差を付けていました。更に半馬身差でアイリッシュ・リュート Irish Lute が3着に入り、勝馬の一つ内コースを追い込んだカリストーガは半馬身及ばず4着まで。枠順が微妙に影響した結果とも言えましょう。
勝たれて見ればソー・メニー・ウェイズは2歳時にスピナウェイ・ステークス(GⅠ)など3戦3勝だった実力馬。前走フェア・グラウンズ・オークス(GⅡ)5着で評価を下げていましたが、敗戦はこれだけ。通算で5戦4勝、G戦は3勝目となります。前走までトニー・ダトロウ師が管理していましたが、今コースからトーマス・エイモス師の元に転厩、ギャレット・ゴメスが初騎乗で臨んでいました。

第9レースはアリシェバ・ステークス Alysheba S (GⅡ、4歳上、8.5ハロン)。9頭が出走し、前走オークローン・ハンデ(GⅡ)を圧勝したサイバー・シークレット Cyber Secret が5対2の1番人気に支持されています。
レースは最低人気のライト・トゥー・ヴォート Right to Vote が先手を取りましたが、クラブハウス・ターン(第1コーナー)に向かう所で馬が殺到し、何頭かがチェックするシーンも。逃げ馬を2番手で追走した2番人気(5対2)のテイク・チャージ・インディー Take Charhe Indy がスパートすると、あとは一方的な展開。3番手を追走した本命サイバー・シークレットに6馬身の大差を付ける圧勝でした。1馬身差でヒム・ブック Hymn Book が3番手で入線。
しかしレース直後にクラブハウス・ターンでのアクシデントに関し、最も被害を被ったマチョ・マチョ Macho Macho のコーリー・ナカタニが外の馬(バーボン・カレッジ Bourbon Courage)に対して異議申し立て、10分以上の審議の結果、混乱の原因は大外9番枠から一気に内に切れ込んだサイバー・シークレット(アルバラード騎手)にあるとして、2着入線馬を8着降着とすることで確定しました。この結果3番手入線のヒム・ブックが2着に繰り上がり、3着にもバーボン・カレッジが繰り上がるという波乱になりました。
パトリック・バーン厩舎、ロージー・ナプラヴニク騎乗のテイク・チャージ・インディーは、去年のフロリダ・ダービー馬。前走ガルフストリームのスキップ・アウェイ・ステークス(GⅢ)は2着、その前ドン・ハンデ(GⅠ)でも3着していた馬。去年の最後をクラーク・ハンデ(GⅠ)2着で締め括っていた4歳馬で、惜敗続きに終止符を打っています。ナプラヴニクは、去年のオークスに続きオークス・デイのG戦連覇となりました。

そして本番一つ前、第9レースが芝コースで争われるアメリカン・ターフ・ステークス American Turf S (芝GⅡ、3歳、8.5ハロン)。馬場は firm 、2頭が取り消して11頭立てで行われました。3対2の1番人気は、一時はダービーを目指していたノーブル・チューン Noble Tune 。ブルー・グラス・ステークスからダービーという青写真を描いていましたが、キーンランドのポリトラック・コースでの調教が芳しくないため、得意の芝コースに方向転換をしてきた経緯があります。
エニーライドリル・ドゥー Anyriderill Do の逃げを3~4番手でマークしたノーブル・チューン、ジックリと内に待機しながら直線では内ラチ沿いに鋭く伸び、2着アニマル・キッテン Animal Kitten に1馬身4分の3差を付ける快勝で見事期待に応えました。この日初めて本命馬の勝利です。3着は更に半馬身差で2番人気(4対1)のウォー・ダンサー War Dancer 。
これで5戦4勝、2着1回とほぼパーフェクトな戦績となるノーブル・チューンは、チャド・ブラウン厩舎、ハヴィエル・カステラノ騎乗。2歳時はベルモントのピルグリム・ステークス(芝GⅢ)に勝ち、BCジュヴェナイル・ターフでアイルランドのジョージ・ヴァンクーヴァー George Vancouver の2着。G戦は2勝目となり、3歳芝コースのチャンピオンを目指すことになるでしょう。
この勝利で注目が集まりそうなのが、同馬をBCで破ったオブライエン陣営のジョージ・ヴァンクーヴァー。今日行われる2000ギニーに出走していますが、この結果を受けてオッズも急速に上がるのではないかと思われます。

そして愈々、この日のメインとなるケンタッキー・オークス Kentucky Oaks (GⅠ、3歳牝、9ハロン)。今年は第139回目の開催となります。既に紹介したように今年はポイント制が導入されましたが、結局最終登録を行ったのは11頭。フルゲートには3頭を余していたため、オークスに関してはポイント制の意味は無かったことになります。直前に1頭が取り消して10頭立て。最終的に3対2の1番人気に支持されたのは、ガルフストリーム・オークス(GⅡ)で圧巻の21馬身差大差勝ちを演じたドリーミング・オブ・ジュリア Dreaming of Julia 。彼女の存在故に回避した陣営も多かったでしょう。
サンランド・オークスを8馬身で大勝したミッドナイト・ラッキー Midnight Lucky が3対1の2番人気で続き、フェア・グラウンズ・オークス(GⅡ)などG戦に3勝して無敗のアンリミテッド・バジェット Unlimited Budget が4対1で3番人気。本命馬と3番人気馬とを管理するトッド・プレッチャー師は、最終的には4頭出しで臨みました。
しかし、8番枠スタートのドリーミング・オブ・ジュリアが両枠の馬に挟まれるようにスタート。スタートの段階で後方3番手と暗雲が立ち込めます。逃げたのは2番人気のミッドナイト・ラッキー、これを2歳チャンピオンで5番人気(9対1)のビホールダー Beholder 、アンリミテッド・バジェットが追走する展開。ドリーミング・オブ・ジュリアも後方から徐々に進出します。直線、満を持してビホールダーが先頭を奪い、2歳チャンピオン復権かと思われた時、前半は本命馬の更に後方に控えていたブービー人気(38対1)のプリンセス・オブ・シルマー Princess of Sylmar が最終コーナーを4番手で回り、直線で鋭く伸びるとビホールダーを半馬身抑えての大逆転でした。2馬身差で3番手を追走したアンリミテッド・バジェットがそのまま粘り込み、ドリーミング・オブ・ジュリアは前半の遅れを挽回して良く追い上げたものの頭差4着。スタートの不利が無かったらと悔やまれる結果となりました。
大穴とも言えるプリンセス・オブ・シルマーは、何と終わってみればトッド・プレッチャー師の管理馬で、騎乗したのは名手マイク・スミス。とても大穴を開けるコンビとは言えないでしょう。同馬は2歳時、最初の2戦をペン・ナショナルの小コースで経験して2戦目で初勝利。2歳最終戦となるアケダクトのアローワンスも勝って2勝目。今期はそのままアケダクトに留まり、1月初めにブサンダ・ステークス、2月初めにもブッシャ―・ステークスと何れも一般ステークスを制し、4月初めのガゼル・ステークス(GⅡ)でG戦に初挑戦してクローズ・ハッチェス Close Hatches の2着していました。この時勝ったクローズ・ハッチェスもオークスに出走して4番人気(7対1)を集めていましたが、今回は7着と逆転されています。
4頭出しの3番手の馬で制したプレッチャー師、オークスは2004年のアシャド Ashado 、2007年のラグス・トゥー・リッチズ Rags to Riches に続く3勝目。スミス騎手にとっては、意外なことにオークス初制覇となりました。

なお、この日の観客数は11万3820人でオークス史上第2位だったとか。史上最多は2010年の11万6046人なのだそうです。

Pocket
LINEで送る

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください