2013クラシック馬のプロフィール(1)

今年も英愛仏のクラシックを制した馬の血統を見ていくシリーズをスタートさせます。イギリスの5冠レースに加え、アイルランドとフランスはギニー、ダービー、オークスの勝馬。セントレジャーについては、仏愛共に古馬に開放された時点で狭義のクラシックという意味から外れましたから、対象外です。

ということで第1回は例年の通り2000ギニーの勝馬から。今年の勝者ドーン・アプローチ Dawn Approach は単に無敗と言うにとどまらず、2着以下に5馬身差という圧勝で注目を集めました。果たしてダービーも制して2冠なるか、興味津々です。
ドーン・アプローチは、父ニュー・アプローチ New Approach 、母ヒム・オブ・ザ・ドーン Hymn of The Dawn 、母の父フォーン・トリック Phone Trick という血統。先ず父について簡単に紹介しておきましょう。

ニュー・アプローチはガリレオ Galileo 産駒で、ヨーロッパでは先ず指を折るべきサドラーズ・ウェルズ Sadler’s Wells 直系のスタミナ父系。ニュー・アプローチ自身もダービー馬で、チャンピオン・ステークスと愛チャンピオン・ステークスに勝ったスタミナ馬と評しても外れじゃないでしょう。
ドーン・アプローチと同じジム・ボルジャー師が調教し、2歳までの成績は父子相似た戦績を残していることも特筆すべき点でしょうか。
即ち2歳時は無敗、ロイヤル・アスコットでコヴェントリー・ステークスを制して注目され、地元アイルランドに戻ってナショナル・ステークス(ドーン・アプローチの年からはヴィンセント・オブライエン・ステークスと改名されましたが)に勝ち、再び英国でデューハースト・ステークスを制して2歳チャンピオンの座を射止めた、という内容です。

ニュー・アプローチは2000ギニーと愛2000ギニーがいずれも2着、距離が伸びたダービーを制覇してクラシック・ホースになりましたが、ドーン・アプローチは2000ギニーに優勝。その意味では父を超えたとも言えるでしょう。
ドーン・アプローチはニュー・アプローチの初年度産駒で、同馬の活躍によりヨーロッパのチャンピオン・ファースト・シーズン・サイヤー(獲得賞金ランク部門で)を獲得しています。加えて初年度産駒には他にもロイヤル・アスコットでの勝馬が2頭おり、2012年にその種付け料は一気に2倍超の5万ポンドにまで跳ね上がっています。これからも一線級の勝馬が続々と登場してくることが期待されましょう。

父はこの辺にして、2000ギニー馬の牝系を見ていきましょうか。
母、祖母と遡っていくと、この直近の牝系にはほとんど活躍馬が出ていないことに気付きます。母ヒム・オブ・ザ・ドーン(1999年、鹿毛)は1マイルまでの距離で5戦し、勝利はおろか入着すらしていません。管理したのは息子と同じジム・ボルジャーで、2歳時にタイムフォームが評価したレーティングは「73」。凡馬と言って良い成績です。

その産駒も列記するには及ばないほど貧弱で、ドーン・アプローチ以前に勝鞍を記録したのは、2006年生まれのコマドール Comadoir (栗毛、牡、父メデシス Medecis)1頭だけ。7ハロンのハンデ戦などに2勝しただけで、5番仔のドーン・アプローチは母の2頭目の勝馬でした。
なおドーン・アプローチの下は同じニュー・アプローチ産駒の牝馬で、プルーデント・アプローチ Prudent Approach と命名されている由。今年の2歳馬ですが、果たして兄ほど注目されるでしょうか。

2代母コロニアル・デビュー Colonial Debut (1994年、鹿毛、父プレザント・コロニー Pleasant Colony)も、競走成績・繁殖成績共に同じようなもの。自身は8戦して未勝利、入着は一度だけ。
その産駒も、現時点では2003年生まれのガランタス Galantas (牡、父テール・オブ・ザ・キャット Tale of The Cat)が2005年にアイルランドのフューチュリティー2着、カナダでウッドバイン・マイル3着したのが最も良い成績というに留まります。コロニアル・デビューも、ガランタスも共々ボルジャー師の管理馬で、言わばこのファミリーはボルジャー師のファミリーであるとも言えるでしょう。

ところで、母ヒム・オブ・ザ・ドーンをニュー・アプローチに配合したのは、ボルジャー師独自の哲学に基づいているのだそうで、数世代「休眠」が続いている牝系にこそ、一級の種馬を配合するというポリシーの結果。母も2代母も目立たない牝馬であったからこそ、ドーン・アプローチが産まれたというそうです。
そう言われればなるほど、と納得してしまいますが、こうしたリスクの裏には師の信念があったのですね。ボルーシャーほどの経験も実績もある調教師なら、サラブレッドの配合にも影響力を及ぼすことが出来る、ということでもありましょうか。

さて休眠状態の牝系を更に遡ると、3代母キティ―ホーク・ミス Kittyhawk Miss (1986年、栗毛、父アリダ― Alydar)もまた、7戦1勝と特筆するものの無い競走成績。少なくとも、この馬からドーン・アプローチまでは取り立てて名を挙げるほどの馬は出ていません。

しかし4代母キティ―ウェイク Kittywake になると話は一点。この馬は54戦18勝の成績で、現在はGⅠに格付けされているパーソナル・エンサイン・ステークスの勝馬です。尤も彼女が勝った年は未だグレード制が導入されておらず、レース名もフィレンツェ・ハンデキャップとして知られていましたが、どちらにせよ現在のGⅠ格の歴史ある一戦であることには違いがありません。
4代母にまで遡って、漸く眠りから覚めた牝系と言えるでしょうか。いや逆でしたね。キティ―ウェイク以後、この直系は眠りに入ったのでしょう。

とは言え、キティ―ウェイクは繁殖牝馬としても優秀で、その直仔には少なくとも3頭のG戦勝馬が存在します。生年順に取り上げると、
1979年生まれのラリーダ Larida は、オーキッド・ハンデ(GⅡ)、ヒル・プリンス・ハンデ(GⅢ)、ボイリング・スプリングス・ハンデ(GⅢ)の勝馬で、ドモワゼル・ステークス(GⅠ)は2着。彼女の娘マジック・オブ・ライフ Magic of Life は英国で走り、GⅠコロネーション・ステークス勝馬。
1981年生まれのミス・オセアーナ Miss Oceana はフリゼット・ステークス(GⅠ)、エイコーン・ステークス(GⅠ)、ガゼル・ステークス(GⅠ)、セリマ・ステークス(GⅡ)、アーリントン=ワシントン・ラッシー・ステークス(GⅡ)勝馬でケンタッキー・オークス2着、CCAオークス3着の準クラシック馬。
1989年生まれのキットウッド Kitwood はフランスでジャン・プラ賞(GⅠ)に勝ち、パリ大賞典2着。アメリカでもハリウッド・ダービー3着となり、安田記念に参戦(武豊騎乗で6着)したことを記憶されている方もあるでしょう。

更に枝葉を広げると、キティ―ウェイクの1976年生まれの娘リッサ Rissa は、トトソルズ・ゴールド・カップ(現GⅠ、当時はGⅡ)勝馬プリンス・オブ・アンドロス Prince of Andros の2代母となり、
1978年生まれの娘アイヴォリー・ウィングス Ivory Wings も、一昨年のスピンスター・ステークス(GⅠ)勝馬アルーナ Aruna の3代母になるという具合。

ジム・ボルジャー調教師が指摘しているように、確かにここ数世代は休眠してるファミリーですが、配合の妙によりクラシック馬を出す可能性を隠している牝系と言えるのでしょう。

ファミリー・ナンバーは 4-m 。マグノリア Magnoria を基礎とする牝系で、日本でもアサデンコウ、メリーナイス、テイエムオペラオー、カワカミプリンセス、レジネッタなど8頭のクラシック馬を出しているファミリーです。

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