2013クラシック馬のプロフィール(7)

今回はオークス馬タレント Talent のプロフィールです。ベケット調教師にワン・ツーをもたらした立役者ですが、厩舎としては2番手の馬だったのが皮肉。3代母がオークス馬であったことはレーのレポートでも紹介しましたが、その辺りを詳しく観察して行きましょうか。
タレントは父ニュー・アプローチ New Approach 、母プラウエス Prowess 、母の父パーントル・セレブル Peintre Celebre という血統。

ニュー・アプローチについては、2000ギニー馬ドーン・アプローチ Dawn Approach のプロフィールでも紹介しました。タレントが2頭目のクラシックホースになります。

母プラウエス(2003年 栗毛)はリチャード・ギブソン厩舎に所属した馬で、9戦1勝。勝鞍はヨーク競馬場の1マイル半でのもので、凱旋門賞馬の父パーントル・セレブル産駒らしく、スタミナ系に相応しい成績と言えましょう。そのスタミナはタレントも受け継いでいると思われます。

タレントは母の2番仔で、初産駒は二つ年上のスキルフル Skilful (2008年 栗毛 牡 父セルカーク Selkirk)。こちらはジョン・ゴスデン師が調教し、去年までの3シーズンで10戦3勝。勝鞍はリングフィールドとヘイドックでの1マイル戦。最も重要なレースは、アスコットの伝統あるハンデ戦チャレンジ・カップ(7ハロン)でした。半兄は名マイラーとして鳴らしたセルカークの仔だけに、スピードを活かしたマイラーとしての活躍が目立ちます。
タレントは1年空胎を経ての産駒。

2代母はヨール Yawl (1990年 黒鹿毛 父レインボウ・クエスト)。現役時代はバリー・ヒルズ厩舎のクラシック候補で、2歳時に3戦目で7ハロンのロックフェル・ステークス(GⅢ)を制して名を挙げ、タイムフォームも112Pという高い評価を与えてエッセイを掲載します。
3歳になったヨールは当初からオークスを目指し、シーズン初戦にグッドウッドのリステッド戦(ループ・ステークス、10ハロン)で2着。叩かれた変わり身が期待されてオークスは4対1の1番人気で臨みます。しかしレース後の情報では道中怪我をするというアクシデントもあって14頭立て12着と大敗。このシーズンはこれが最後のレースとなりました。
明けて4歳となったヨールは、より短い距離の一般戦とハンデ戦で2戦しましたが勝てず、そのまま引退して繁殖に入ります。通算成績は7戦2勝、いずれも7ハロンでの勝鞍でしたが、血統的には1マイル半をステイするスタミナを持って生産された1頭でした。

ヨールの繁殖成績は以下の通り、主なものを列記すると、
1995年 ジェノア Genoa 鹿毛 牝 父ザフォニック Zafonic 母と同じバリー・ヒルズ厩舎で7戦1勝、勝鞍はヤーマス競馬場の11ハロン
1996年 スパンカー Spanker 栗毛 牝 父スアーヴ・ダンサー Suave Dancer ヒルズ厩舎で9戦未勝利 リングフィールドの10ハロン戦2着が最高位
1997年 クリッパー Clipper 鹿毛 牝 父サルス Salse ヒルズ厩舎で8戦1勝 勝鞍はエアの8.5ハロン タレントも勝ったニューマーケットのプリティー・ポリー・ステークス3着で、オークス出走も9着
1999年 シー・レーン Sea Lane 黒鹿毛 牝 父ザフォニック 未出走
2003年 プラウエス
2007年 シャロウ・ベイ Shallow Bay 鹿毛 せん 父シャマーダル Shamardal ウォルター・スインバーン厩舎(平場)で21戦1勝。障害に転向も、勝鞍はケンプトンの10ハロンハンデ戦
2009年 マリヌス Marinus 鹿毛 せん 父ホーリー・ロマン・エンペラー Holy Roman Emperor シルヴェスター・カーク厩舎で12戦1勝 勝鞍はウルヴァーハンプトンの6ハロン

そして3代母が、冒頭にも紹介したオークス馬バイリーム Bireme (1977年 栗毛 父グランディー Grundy)。この馬こそがアーチズ・ホール・スタッドを設立した高名なホリングスワース家の唯一のクラシック馬で、ホリングスワース・ファミリーの総決算でもありました。
スタッドの設立(1945年)は父でしたが、その血統は息子リチャード・ホリングスワースに引き継がれ、基礎牝馬フェルゼッタ Felsetta (1933年 鹿毛 父フェルステッド Felstead)から枝葉を伸ばしたファミリーの馬たちが英国の競馬史を彩ってきたのです。

フェルゼッタの娘フェルッカ Felucca は当時でも最高級の繁殖牝馬として知られ、その3頭の娘たちが何れもパーク・ヒル・ステークス(牝馬のセントレジャーと呼ばれるドンカスターの長距離戦)を制して競馬界を驚かせます。
その3頭とは即ち、アーク・ロイヤル Ark Royal (1952年 黒鹿毛 父ストレート・ディール Straight Deal)、カイヤック Kyak (1953年 黒鹿毛 父ビッグ・ゲイム Big Game)、カッター Cutter (1955年 鹿毛 父ドナテロ Donatello)。

アーク・ロイヤルは他にニューマーケット・オークス、オークス・トライアル、リブルスデール・ステークス、ヨークシャー・オークスに勝ち、オークスは2着(勝馬はメルド Meld)。母としてはコロネーション・ステークスのオーシャン Ocean 、ダンテ・ステークス等のヘルメス Hermes 、日本で種牡馬として成功したイーグル Eagle を輩出、
カイヤックは他にナッソー・ステークス2着、リブルスデール・ステークス3着し、母としてキング・エドワード7世ステークスのマリナー Mariner 、プリンセス・エリザベス・ステークスのラフト Raft を出し、
カッターはジョン・ポーター・ステークス、ヨークシャー・カップも制してオークスは3着(勝馬はベラ・パオラ Bella Paola)。母としてもクレイヴァン・ステークスのスループ Sloop 、ジョン・ポーター・ステークスとジョッキー・クラブ・ステークスに勝ってゴールド・カップと仏セントレジャーで2着したトルピド Torpid を出すという具合。

この真ん中の娘カイヤックこそが、今年のオークス馬タレントの5代母に当たります。
カイヤックの娘リペック Ripeck (1959年 黒鹿毛 父リボー Ribot)は8戦1勝、リングフィールド・オークス・トライアルで4着の実績があるだけですが、繁殖牝馬として成功。オークス馬バイリームの他にコロネーション・カップの勝馬でセントレジャー2着、愛ダービー3着のブイ Buoy を出しています。

またリペックの別の娘アンカー Anchor を通してドンカスター・カップのシー・アンカー Sea Anchor 、フィリーズ・マイルとコロネーション・ステークスを制したナンニーナ Nannina 、豪州でシドニー・カップに勝ってるジェシカビール Jessicabeel などが出ていますし、
ボートハウス Boathouse も、モイグレア・スタッド・ステークスに勝ってGⅠ馬となったメイル・ザ・デザート Mail the Desert の3代母になりました。

更にクラシック・レースに絞れば、3人娘の一角カッターからは、愛2000ギニーのシャープ・エッジ Sharp Edge 、セントレジャーのカット・アバヴ Cut Above 、長距離三冠のロングボート Longboat 、愛オークスのボラス Bolas がこのファミリーの出。
既に故人となったホリングスワース氏のクラシック制覇の夢はバイリームによって達成され、現在でもタレントの出現によって後世に受け継がれていくことになります。

ファミリー・ナンバーは、11-d。フライト Flight を基礎牝馬とする牝系です。

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