愛仏のGⅠ戦

昨日の日曜日は東京優駿に沸きましたが、アイルランドとフランスでも複数のGⅠに注目が集まりました。先ずはアイルランドから。

G戦は3鞍でしたが、先にクラシック・レースのレポートから行きましょう。アイルランド1000ギニー Irish 1000 Guineas (GⅠ、3歳牝、1マイル)。
馬場は前日と同じ good to firm 、当初登録からアサシ・ステークス(GⅢ)勝馬のヴィズトリア Viztoria が取り消して15頭立て。4頭出走してきた英1000ギニー組から、2着最先着のジャスト・ザ・ジャッジ Just The Judge が2対1の1番人気に支持されていました。続いてはシーズン初戦ながらキラヴュラン・ステークス(GⅢ)勝ちの実力馬ビッグ・ブレイク Big Break が2番人気(4対1)で続き、ハノン/ヒューズ・コンビがイギリスから挑戦する英ギニー6着のモーリーン Maureen が11対2で3番人気。

イクザクトメント(フランス風に読めばイグザクトモン)の逃げを、デリンスタウン1000ギニートライアル(GⅢ)勝馬でオブライエン厩舎のジャスト・プリテンディング Just Pretending 、オックス厩舎のワット・スタイル What Style が追走。本命ジャスト・ザ・ジャッジは内々の4番手で待機します。一杯になったイクザクトメントをジャスト・プリテンディングが捉え逃げ込みに入りましたが、外に持ち出したジャスト・ザ・ジャッジが一気に脚を伸ばし、後方から鋭く追い込む人気薄(40対1)レーンズ・ネスト Rehn’s Nest を1馬身半差抑えての戴冠。頭差でジャスト・ブリテンデングが3着に粘り込み、更に首差で意外に伸び脚が無かったビッグ・ブレイク Big Break が4着。
3番人気のモーリーンは6着に終わり、オブライエン厩舎のエースでジョセフが選んだスノー・クィーン Snow Queen (7対1、4番人気、英ギニー5着)も10着と期待を裏切りました。

ジャスト・ザ・ジャッジを管理するチャールズ・ヒルは、2011年8月にライセンスを取得して父バリー・ヒルズの跡を継いだ若手の調教師。もちろんこれがクラシック初制覇となります。父ヒルズは愛1000ギニーを1993年のナイサー Nicer 、1999年のフラ・エンジェル Hula Angel で制しており、ファミリーでは三度目の勝利。また、騎乗したジェイミー・スペンサーは、1998年のタラスコン Tarascon に次ぐ2勝目。
更に陣営について紹介すると、オーナーはカタール出身のアル・サニ兄弟を中心とするカタール・レーシングという名のグループ馬主。代表を務めるのはシェイク・ファハド・アル・サニ氏で、彼等にとってもクラシックは初制覇となります。

ジャスト・ザ・ジャッジは、2歳時には3戦無敗でロックフェル・ステークス(GⅢ)に勝ってG馬となり、シーズン初戦の1000ギニーがスカイ・ランターン Sky Lantern の2着。ここまで5戦4勝、一度の敗戦は英1000ギニーのみと、ほぼパーフェクトな戦績です。父ロウマン Lawman 、母の父レインボウ・クェスト Rainbow Quest という配合から見てスタミナも兼ね備えていると思われますが、当面はロイヤル・アスコットのコロネーション・ステークスを目標にする由。先ずはマイル戦で頂点に立つ計画でしょうか。

次に、ギニーの前のレースとして行われたトトソルズ・ゴールド・カップ Tattersalls Gold Cup (GⅠ、4歳上、1マイル2ハロン110ヤード)。僅か4頭立てで、大手術の後の復帰戦を無事に通過した二冠馬キャメロット Camelot が4対11の1番人気。ペースメーカーとしてウインザー・パレス Windsor Palace を準備しましたが、これまた故障明けを快勝したアル・カジーム Al Kazeem がキャメロット独走を阻むべく立ち塞がります。相手として9対4の2番人気。

予定通りウインザー・パレスがペースメーカーとしての役割を終えると、ジョセフ騎乗で3番手待機のキャメロットが抜けましたが、この時を待っていたアル・カジームがスパートし、最後は1馬身半差を付けて逆転。9馬身半の大差がついてウインザー・パレスが3番手で入線しています。もう1頭のネゴシエイト Negotiate は圏外。
イギリスからロジャー・チャールトン師が送り込み、ジェームス・ドイル騎手の落ち着いた騎乗でまんまとクラシック馬に土を付けたアル・カジームは、4歳時にニューマーケットでジョッキー・クラブ・ステークス(GⅡ)を制しながら骨折でほぼ1年を棒に振った5歳馬。長期休養明けとなった前走サンダウンのゴードン・リチャーズ・ステークス(GⅢ)を制して復活の狼煙を挙げたばかり。レース経験が浅いだけに今後の更なる成長が見込まれ、アスコットかエクリプス・ステークスを使いながら、最終的には凱旋門賞を目指す意向のようです。

一方敗れたキャメロット、麻酔の影響が抜けるには半年が必要と言う大手術の後だけに、エイダン・オブライエン師も無理をせずに使うことが第一義。今後も様子を見ながら、馬と相談しながらレースを選んでいく由。

この日のもう一鞍は、G戦の最初に行われたガリニュール・ステークス Gallinule S (GⅢ、3歳、1マイル2ハロン)。時期的に見ても愛ダービーのトライアルとなる一戦です。出走馬は8頭、評判の高いオブライエン厩舎のリーディング・ライト Leading Light が4対6の被った1番人気に支持されています。

スタートから主導権を奪ったリーディング・ライト、スタンドに近いラチ沿いを選んでいましたが、最後は馬場中央に向かって離れつつも、2番手を進んだ2番人気(4対1)リトル・ホワイト・クラウド Little White Cloud に2馬身4分の1差を付けて危な気ない優勝。更に1馬身4分の1差で、これもオブライエン厩舎(ライアン・ムーア騎乗)のカウント・オブ・リモネード Count Of Limonade が3着。
一般戦を含めて3連勝となるリーディング・ライト、カラー競馬場は今回が初体験で、もちろんG戦初勝利となります。騎乗したジョセフ・オブライエンによれば、ズブいタイプの馬で、今回チークピース着用で臨んだのもそのため。このあとはアスコットか愛ダービー、いずれは2マイル戦でも克服できるスタミナの持ち主と見込んでいるようです。

二つのGⅠを共に落としたチーム・オブライエンですが、この日の第1レースを勝って、しっかりダブルを達成しています。GⅠは一休みで、次なる目標は来月初めのエプサムでしょう。

一方フランスはロンシャン競馬場。こちらもGⅠレース2本立ての豪華版です。
最初に行われたのが、仏オークス最大のトライアルとなるサン・タラリ賞 Prix Saint-Alary (GⅠ、3歳牝、2000メートル)。soft の馬場に8頭が顔を揃えました。23対10の1番人気に支持されたのは、意外にも4月22日にロンシャンでのデビュー戦に勝ったばかりのシエニカ Siyenica 。アガ・カーンの所有馬で未知の魅力、という点が魅力なのでしょう。

しかし、シエニカはスタートで3番人気(43対10)アラムナ Alumna と接触してしまい、これが響いたか結果は7着と大敗してしまいます。そのアクシデントを余所に4番人気(13対2)のパルル・モア Parle Moi の逃げ。
ゴール前は5頭が横一線の大激戦で、写真判定の結果、最後方から外に回して追い込んだ2番人気(17対5)シラソル Silasol が優勝。短頭差2着が仏1000ギニー10着に終わったアルテライト Alterite 、短首差で3着にフェレヴィア Ferevia 、更に首差で4着はアラムナとアルティスト・ディヴィヌ Artiste Divine が同着という結末。

終わってみれば去年のマルセル・ブーサック賞覇者シラソルの二つ目のGⅠ制覇となりましたが、この混戦ならどの馬にも仏オークスの可能性はありそう。勝馬を管理するのはカルロス・ラッフォン=パリアス師、オリヴィエ・ペリエ騎乗。シーズン初戦のヴァントー賞(GⅢ)は2着と期待を裏切りましたが、今回は2歳時とは打って変わって後方待機策での勝利。一味違うシラソルを見せ付けた形です。去年の凱旋門賞馬ソレミア Solemia の近親と言う血統であれば、更なる活躍も見込めそうですね。
また3着のフェレヴィアにも注目が集まっており、現時点で仏オークスの登録はありませんが、追加登録料を支払ってでもクラシックに挑戦する価値はあるのではないか、というのが周囲の声でした。

パリのGⅠ第2弾は、古馬によるイスパハン賞 Prix d’Ispahan (GⅠ、4歳上、1850メートル)。残念ながら去年の仏ダービー馬サオノア Saonois が出走を取り消してしまいましたが、7頭の強豪が揃います。23対10の1番人気は、前走ガネー賞(GⅠ)2着のマクシオス Maxios 。6歳の古豪プランテール Planteur が2番人気(9対2)で続き、ディープインパクト産駒でクラシック馬のビューティー・パーラー Beauty Parlour も6対1の4番人気。

レースはプランテールが引っ掛かりながらも意表を突く逃げ。マクシオスは中団の内で我慢し、ビューティー・パーラーは最後方から進みます。プランテールの逃げが嵌るかと思われた時、行き場を失って絶望的な状況だった本命マクシオスが漸く間隙を見つけると、最後の100メートルで一気に抜け、プランテールを半馬身捉えて優勝。4分の3馬身差の3着にマンドゥール Mandour が食い込み、英国からセシル師が送り込んだビューティー・パーラーは末脚不発で6着敗退。
今年5歳のマクシオスは、ジョナサン・ピアース厩舎、ステファン・パスキエ騎乗。今期はダルクール賞(GⅡ)に勝って、前走ガネーで2着。念願のGⅠ初制覇でもあります。この勝利を受けて、エクリプス・ステークスに16対1のオッズが出されました。
敗れたビューティー・パーラー、騎乗したトム・クィーリーによれば、道中の手応えは真に良かったようですが、追い出してからは寄れるような場面もあり、明らかに休養明けが敗因とのこと。陣営も次走に期待を繋いでいます。

ロンシャンの最後はステイヤーのためのヴィコンテス・ヴィジエ賞 Prix Vicomtesse Vigier (GⅡ、4歳上、3100メートル)。1頭取り消しがあり6頭立て。去年のロワイアル・オーク賞4着馬で前走バルヴェヴィユ賞2着のヴェレマ Verema が2対1の1番人気。

レースは3番人気(14対5)のレ・ボーフ Les Beaufs がスローに落として逃げ、ヴェレマは後方待機3頭の中の1頭。一時は10馬身も離してレ・ボーフの大逃げになりましたが、中団から徐々に追い上げた4番人気(22対5)のドームサイド Domeside が最後の1ハロンで漸く逃げ馬を捉え、レ・ボーフに2馬身差を付けて優勝。更に3馬身差で2番人気(5対2)のラスト・トレイン Last Train が3着。人気のヴェレマは結局5着と期待を裏切りました。
勝馬を管理するマウリシオ・デルヒャー=サンチェス師は、今年になってマドリッドからシャンティーに本拠地を移動したばかり。ドームサイドは今期5戦目で、前々走でサン=クルーのクレーミング戦に勝ち、前走バルべヴィユで3着。フランスはスペインとは異なる調教スタイルで、これに慣れてくれば更に成績が上がるかも知れません。陣営ではアスコット・ゴールド・カップへの追加登録も考慮中とか。
一方2着のレ・ボーフ陣営はアスコットに行く積りはなく、夏場を休養して秋競馬に備えるとのこと。もちろんカドラン賞狙いと思われます。

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