愛仏のGⅠ戦

昨日の日曜日に行われたヨーロッパ競馬のレポートです。
ロンシャンには凱旋門賞を目指す日本馬も出るということもあり、いくつかは我が国のテレビでも放映されたようですから、結果は既に報道されているでしょう。ここではレース順に取り上げていくことにしました。

先にアイルランドのカラー競馬場から行きましょう。GⅠが2鞍、来年のクラシックのためにも見逃せないレースも行われました。馬場は前日より乾いて good 、所により good to firm 。
最初はソロナウェー・ステークス Solonaway S (GⅢ、3歳上、1マイル)。10頭が出走し、アメリカのプレッチャー厩舎からエイダン・オブライエン師の元に転厩して2連勝中のダーウィン Darwin が4対7の断然1番人気。

3番人気(10対1)のアンスガー Ansgar が逃げ、これを2番手で追走した2番人気(9対2)のブレンダン・ブラッカン Brendan Brackan が2馬身捉えて優勝。ダーウィンも4番手から追い出しに掛かりましたが、3番手に上がるのがやっと、逃げたアンスガーにも1馬身4分の1差届かず3着に終わりました。
ゲール・ライオンス師が管理するブレンダン・ブラッカンは、前々走ゴールウェイの一般ステークス(トパーズ・マイル)に勝って注目されましたが、前走のハンデ戦(1マイル)では13着と大敗していた存在。前々走の内容がフロックでは無かったことが証明されました。
騎乗したコリン・キーン騎手にとっては、これが嬉しいG戦初勝利。自身にとって最高の瞬間です。前々走の勝利で新車を購入したというキーンくん、今年1月にライオンス師の元に加わった新人。忘れられない1頭になりそうですね。

この日最初のGⅠは、アイリッシュ・セントレジャー Irish St. Leger (GⅠ、3歳上、1マイル6ハロン)。11頭が登録していましたが、唯一の3歳馬ガリレオ・ロックが最終的には前日の英セントレジャー(3着)に回ったため取り消し、古馬ばかりの10頭立てで行われました。かつてのクラシック・レースの様変わりを喜ぶべきか悲しむべきか。
人気も中心になる馬が無かったようで、前走ヨークでロンスデール・カップ(GⅡ)に勝ったゴドルフィンの4歳馬アージーマー Ahzeemah が7対2の1番人気。前年の勝馬ロイヤル・ダイヤモンド Royal Diamond は3番人気(9対2)で、2番人気(4対1)は7歳馬のレッド・カドー Red Cadeaux という正に古馬のための一戦になっていました。

レースは調教師/騎手と二足の草鞋を履くジョニー・ムルタのロイヤル・ダイヤモンドが逃げて2連覇を目指しましたが、中団から徐々に順位を上げた伏兵(9対1、6番人気)ヴォルーズ・ド・クール Voleuse de Coeurs がバトンを引き継ぐように先頭で直線に入り、本命アージーマーの6馬身の大差を付ける圧勝。頭差でサドラーズ・ロック Sadler’s Rock が3着、以下レッド・カドー4着、ロイヤル・ダイヤモンド5着の順でした。
勝馬を管理するデルモット・ウェルド師にとっては、ヴィニー・ロー Vinnie Roe の4連覇を含めてこれが7勝目となる愛セントレジャー。ヴォルーズ・ド・クールはテオフィロ Teofilo を父に持つ4歳牝馬、前走カラーのセントレジャー・トライアル(GⅢ)では2着でしたが、その後急上昇。去年は愛セザレウィッチ・ハンデに勝っており、スタミナが活きるレースになれば侮れない存在でしょう。
騎乗したクリス・ヘイズ騎手は、先週のメイトロン・ステークスをラ・コリーナ La Collina で制してGⅠ初勝利を挙げたばかり。その時は感涙に咽たヘイズでしたが、2週連続とあって今回は涙なし。同馬はこれで今期終戦となる予定ですが、ウェルド師はオーナーに来年も現役に留めることを進言。カップ・レースを狙える牝馬として貴重な存在に成長しそうです。

アイルランドの最後は、平場のGⅠとしても最後となるヴィンセント・オブライエン・ナショナル・ステークス Vincent O’Brien National S (GⅠ、2歳、7ハロン)。2頭が取り消して5頭立て。英国からハノン厩舎が送りこんだ2戦無敗のトールモア Toormore がイーヴンの1番人気。

そのトールモア、スタートからスピードが違うとばかりに先頭に立つと、後続馬を引き付けてから突き放すという横綱相撲で圧勝。GⅠ(フェニックス・ステークス)馬スディルマン Sudirman に2馬身4分の3差を付けていました。更に1馬身4分の1差で新馬勝ちしたばかりのジョヴァンニ・ボルディーニ Giovanni Boldini が3着。
これで無傷の3連勝となったトールモアは、前走ヴィンテージ・ステークス(GⅡ)に続くG戦勝利で見事GⅠホースに。ヴィンテージで2着だったアウトストリップ Outstrip が、先のドンカスターでシャンペン・ステークスを制したことからも、トールモアの評価は更に高くなること間違いなし。
トールモアはレーシング・ポスト・トロフィーにも登録があるものの、今期はこれで終戦とする可能性大。また来年のクラシックについても、2000ギニーには直行する予定の由。騎乗したリチャード・ヒューズによれば、同馬は決して早熟なタイプではないとのことで、遥かに先を見据えたローテーションを歩むことになりそうです。

さて日本でも話題を集めているフランスのロンシャン競馬場。馬場状態は、秋特有の soft 、この日は凱旋門ウィークを3週間後に控えているということもあり、GⅠ2鞍を含めて6鞍のG戦が組まれていました。
日本馬の活躍が気になる所でしょうが、こちらもレース順に紹介して行きます。

最初は短距離戦のプティ・クーヴェール賞 Prix du Petit Couvert (GⅢ、3歳上、1000メートル)。日本馬ブラ―ニーストーン(Blarney Stone)を含む9頭が出走し、サン=ジョルジュ賞(GⅢ)勝馬で、前走モーリス・ド・ギースト賞8着のキャットコール Catcall が9対5の1番人気。

ゴール前は混戦となり、中団から進出して先に先頭に立った7番人気(16対1)のミルザ Mirza に、後方から追い上げた3番人気(11対2)のディバージ Dibajj が襲い掛かったところがゴール。写真判定の結果、2頭の同着1着となりました。2馬身差で本命キャットコールが3着。ブラ―ニーストーンは終始後方からの競馬となり、最後に追い上げたものの6着まで。
優勝を分け合った一角ディバージは、アラン・ド・ロワイヤー=デュプレ厩舎、アントワーヌ・アムラン騎乗。前走モトリー賞(GⅢ)は3着でした。
一方ミルザは英国のレー・ゲスト厩舎、ウイリアム・ビュイック騎乗。前走はヨーク競馬場のリステッド戦での7着で、後ろから3番目の人気だったのも当然でしょう。

続いて、3歳馬限定の凱旋門賞トライアルとなるニエル賞 Prix Niel (GⅡ、3歳牡せん、2400メートル)。10頭が顔を揃えましたが、ファーブル厩舎が4頭も出走させてきたのが注目。その大将格であるパリ大賞典勝馬フリントシャー Flintshire が6対4の1番人気。そのあとの2番人気(13対2)に並んだ2頭もファーブル厩舎の馬で、東京優駿のキズナ(Kizuna)が68対10で4番人気、英ダービー馬ルーラー・オブ・ザ・ワールド Ruler of the World は78対10の6番人気でしかありません。

レースは、厩舎は違えどフリントシャーと同じオーナーのプリエンプト Preempt がペースメーカーを務め、フリントシャーは中団から、キズナは例によって後方から進みます。
しかし肝心のフリントシャーは前走の切れが無くもがく中、大外から鋭く伸びたのが我がキズナ。一方内で待機していたルーラー・オブ・ザ・ワールドは外も内も八方塞の状態から漸く馬群を縫って急襲した所がゴール。際どい写真判定となりましたが、キズナが短頭差で先着。4分の3馬身差で5番人気(7対1)のオコヴァンゴ Ocovango が3着に入り、フリントシャーは4着敗退。

佐々木晶三厩舎、武豊騎乗のキズナは、これで4連勝。これまでヨーロッパの馬との比較になる材料がありませんでしたが、これで改めて日本競馬のレヴェルの高さを立証、一気に凱旋門賞の有力候補に上がってきました。
一方で不利がありながらも惜敗のルーラー・オブ・ザ・ワールド、あと一歩で交わしていたと思えるほどの脚色。このレースの評価はブックメーカーによって割れており、例えば凱旋門のオッズをボイルスポート社はキズナ8対1に対しルーラーは6対1に。方やウイリアムヒル社はキズナ8対1は同じものの、ルーラーは10対1という具合。
いずれにしてもこれはトライアル、仮に同じメンバーで戦ったとしても、同じ結果になるとは思えないような内容でした。

一息入れてグラディアトゥール賞 Prix Gladiateur (GⅢ、4歳上、3100メートル)。こちらは14頭も出走する混戦で、19対5の1番人気に支持されたアイケン Aiken は前年アスコットのロング・ディスタント・カップ(GⅢ)の2着馬。今期は前走ジェフリー・フリーア・ステークス(GⅢ)で漸く始動して6着と、叩かれての上積み期待と、ゴスデン厩舎が態々遠征に踏み切ったという希望を加算しての人気でしょう。

しかしアイケンは11着と惨敗。優勝は4番人気(36対5)のドームサイド Domeside で、2着3番人気(7対1)のレ・ボーフ Les Beauf に半馬身差を付けていました。更に2馬身差でゴールドタラ Goldtara が3着。
マドリッドからフランスに転じたマウリシオ・デルヒャー=サンチェス師が管理、クリストフ・スミオンが騎乗したドームサイドは、今年5月にヴィコンテス・ヴィジエ賞(GⅢ)に勝った7歳馬。これはカドラン賞のトライアルとなる一戦ですが、本番でも活躍が見込めそうな1頭。

この日のG戦4つ目、そしてGⅠでもあるヴェルメイユ賞 Prix Vermeil (GⅠ、3歳上牝、2400メートル)は既に古馬にも開放され、1頭取り消しての10頭立て。何と言っても注目は無敗の仏オークス馬トレーヴ Treve で、もちろんここが目標と言うよりも凱旋門賞への試走としての参戦。4対5と断然1番人気に支持されていました。

レースは5歳馬でレディー・セシルが送り込んだワイルド・ココ Wild Coco が後続を引き離しての逃げ。内で我慢のトレーヴでしたが、最後の1ハロンで圧倒的な末脚を爆発させると、粘るワイルド・ココに1馬身4分の3差を付けて見事期待に応えます。更に3馬身半の差が付いて仏オークス4着のタサデイ Tasaday が3着。サン・タラリ賞勝馬で仏オークス3着のシラソル Silasol は6着、ジャン・ロマネ賞(GⅠ)勝馬ロマンティカ Romantica 7着、ヨークシャー・オークス2着のヴィーナス・ド・ミロ Venus de Milo も8着と敗退。決してレヴェルが低かった訳ではないでしょう。

トレーヴはこれで無傷の4連勝、仏オークスに続くGⅠ連勝で、凱旋門賞への標準をピタリと合わせた印象。登録はありませんが、当然ながら追加登録料を支払っての参戦となるはず。オッズは4対1となり、パディーパワー社、ウイリアムヒル社共に並んだ本命に上がりました。仮にヴェルメイユ/凱旋門の連覇となれば、2008年のザルカヴァ Zarkava 以来のこととなります。
彼女を管理するクリティック・ヘッド=マーレク女史は、道中内に包まれてドキドキしたとのこと。勝利に導いたフランキー・デットーリは、去年の愛チャンピオン・ステークスをスノー・フェアリー Snow Fairy で制して以来、騎乗停止明け最初のGⅠ制覇となります。

そして日本から熱い期待が集まった注目のフォア賞 Prix Foy (GⅡ、4歳上牡牝、2400メートル)。大手術のあと回復がままならないキャメロット Camelot は取り消し、9頭立ての舞台は1番人気(4対5)オルフェーヴル(Orfevre)の独り舞台となる予感。実際、相手になるほどの実績を持ち馬はなく、僅かにGⅠで連続2着になっているデュナデン Dunaden が5対1の2番人気というメンバーです。

レースも一方的、尾関厩舎で武豊騎乗のステラウインドがレースを引っ張り、内の3番手で待機したオルフェーヴルがスパートすると後は一方的。最後は鞍上クリストフ・スミオンが抑えながらも2着ヴェリー・ナイス・ネーム Very Nice Name に3馬身差を付ける余裕の圧勝。4分の3馬身差で社台のピリカ Pirika が3着に入り、ステラウインドも5着に逃げ残りました。デュナデンは8着惨敗。
言うまでも無く池江泰寿師が管理するオルフェーヴルは、去年に続きフォア賞2連覇。相手が弱かったとはいえこの圧勝、オッズはウイリアムヒルが11対4に、パディーパワーもトレーヴと並ぶ4対1を維持しています。

最後はマイルの頂点レースとなるムーラン・ド・ロンシャン賞 Prix Moulin de Longchamp (GⅠ、3歳上牡牝、1600メートル)。これは凱旋門賞とはほぼ無関係の一戦です。
1頭が取り消して7頭立て。内6頭が3歳馬というメンバー、ヴェルメイユで久し振りにGⅠジョッキーとなったデットーリが騎乗するオリンピック・グローリー Olympic Glory が9対10の1番人気。前走ジャック・ル・マロワ賞でムーンライト・クラウド Moonlight Cloud の2着、シーズン初戦にグリーナム・ステークス(GⅢ)に勝ち、仏2000ギニーは11着に終わっていました。

レースは仏1000ギニー馬フロティーラ Flotilla のペースメーカーを務めるセージ・メロディー Sage Melody の大逃げ。2番手に付けたマクシオス Maxios に3馬身差を付け、3番手の後続集団は更に5馬身遅れの展開。
これでは前残りは必至で、2番手のマクシオス(3対1、2番人気)がペースメーカーを捉えると、後は辛うじて2着を確保したオリンピック・グローリーに5馬身差の圧勝。短頭差でアノディン Anodin が3着、フロティーラは6着敗退で、GⅠ戦としてはやや内容に疑問の残る結果になってしまいました。

ジョナサン・ピアース厩舎、ステファン・パスキエ騎乗のマクシオスは、出走馬中唯一の古馬で、今年5歳。今期初めてGⅠのイスパハン賞を制し、前走プリンス・オブ・ウェールズ・ステークスが6着、二つ目のGⅠタイトルを手にしました。

以上が日曜日の結果、これでほぼ重要なトライアルを終えた凱旋門賞ですが、キズナ、トレーヴ、オルフェーヴル共に順調なステップを踏み出した印象。
あとはドイツでトライアルを終えたノーヴェリスト Novelist 、セントレジャーから意欲を見せる馬、じっくりと調教を重ねて本番を迎える馬がある位でしょうか。

キズナにはルーラー・オブ・ザ・ワールドという負けてなお強い馬がおり、トレーヴには牝馬戦での実績という不安、オルフェーヴルにも相手の弱いトライアルという懸念も残りましょう。
3週後、日の丸がロンシャンに揺れることになるか、期待を持って待ちたいと思います。

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