第288回・日本フィル横浜定期演奏会
土曜日に横浜みなとみらいホールで行われた日フィル横浜定期、本来なら翌日の日曜日にレポートする予定でしたが、昨日は他のカテゴリーに忙しかった上に外出予定も重なり、結局は二日遅れの日記になってしまいました。
記憶を頼りに感想など。
ボロディン(グラズノフ編)/歌劇「イーゴリ公」序曲
サン=サーンス/ピアノ協奏曲第5番「エジプト風」
~休憩~
リムスキー=コルサコフ/交響組曲「シェエラザード」
指揮/アレクサンドル・ラザレフ
ピアノ/伊藤恵
コンサートマスター/江口有香
ソロ・チェロ/菊池知也
今年の1月から2月に掛けて長期滞在を果たしたマエストロ・ラザレフ、今回は6月の横浜と東京定期を振るための短期集中講座です。相も変わらずエネルギッシュだ。
先ず今回の来日に合わせたように発売されたばかりのラフマニノフ/第3交響曲のライヴ盤をゲット。40分の収録で3000円はチト高いんじゃ、と思いましたが、まぁご祝儀でしょう。
横浜の選曲はラザレフらしい、隠れテーマを宿したもの。そう、異国風とでも呼べる繋がりが魅力です。それにしてもサン=サーンスというのはラザレフには珍しいレパートリーじゃないでしょうか。
プログラムにも「遥か彼方への憧れ」と紹介されていましたが、他に「作曲以外にも才能を発揮した人たち」という隠しテーマもあるそうな。これはどうでしょう、そんなことを言えばロシア5人組など全員が音楽はアマチュア。作曲家には他分野でも専門家顔負けの人が結構多いものです。
冒頭のイーゴリ公序曲。本業が化学者のボロディン作曲となっていますが、実際はアレクサンドル・グラズノフが作曲したもの。一般にはボロディンの即興によるピアノ演奏をグラズノフが扉の影で聴いていて、後で記憶を頼りに興したとされていますが、果たしてどうでしょうか。
オペラが有名な割には聴く機会が少ないのは、正統なボロディン作品ではない、と言う実態が災いしているのかも。ラザレフの指揮は貴重な機会でもありました。
続いては文学者・哲学者・天文学者・自然科学者・考古学者の傍らにピアノやオルガンを弾き、序に作曲もしたというサン=サーンスのピアノ協奏曲。「エジプト風」というタイトルの真偽のほどは良く判りませんが、私には懐かしい作品です。
学生時代のこと、今や「大」の字が付くほどの某女優が、一番好きな曲がこの作品と発言。ピアノも達者だった彼女が、当時在籍していた某W大学のオケでソロを弾くというような噂もあって、半世紀前には一般的にも良く聴かれていた作品。私自身はN響定期(モニーク・ド・ラ・ブルショルリーのソロ、岩城宏之指揮)で聴く機会にスコアを買って予習をしたこともありました。
多分ナマ演奏はそれ以来じゃないでしょうか。久し振りにエジプト風の雰囲気を楽しみました。第2楽章中間部のメロディーは「ナイル河を下ったとき船上にいたヌビア人の愛の歌」であるとか、伴奏音型はコオロギの鳴き声を模倣したものだとかいう解説は、今回初めて知りました。
考古学者で自然科学者であったサン=サーンスなら如何にもありそうな設定ではあります。
久し振りに聴いた美しい伊藤恵のソロ、立派なラザレフの伴奏で聴くサン=サーンスは、そんなロマンチックな連想を受け付けないほどシンフォニックなもので、以前に聴いた印象とはだいぶ趣を異にしていました。特に第3楽章の華麗なオーケストレーションに改めて気付かされます。
ラザレフに握手を求める伊藤に、マエストロは“ダメダメ、貴女が主役だ”と言わんばかりにソリストを立てる様子がユーモラス。中々鳴り止まない拍手に、シューマンの子供の情景から終曲「詩人は語る」がアンコールされました。
メインは職業軍人リムスキー=コルサコフの最も有名な作品。確かこの曲をラザレフに提案したのは、何年か前の横浜シーズン・ファイナル・パーティーでの木野コンマスの発言。実現したのは木野氏ではなく、今回の江口コンマスでした。
個人的にはこれが幸いだったような。失礼ながら日フィル3人のコンマスの中では最も思い切りの良いソロを聴かせる(と思っている)江口、ラザレフも絶賛のシェエラザード姫を演じました。
指揮台に上がるやいなやシャリアール王のテーマを豪快に要求したマエストロ、続くソロには指揮台の背もたれに寄りかかってヴァイオリン・ソロに聴き入ります。
この光景を見て、ラザレフ/シャリアール王 vs 江口/シェエラザード姫か、思いました。それも束の間、シェエラザードはこれまで聴いた中でも最も速いテンポで突き進んでいくのでした。
特に第4楽章の速さは尋常ではなく、後で聞いた話ではリハーサルよりも速かったとか。
要するにラザレフ版シェエラザードは、定番として解説される様なストーリー、表題とは無縁。一切の抒情性を廃し、あくまでも純粋交響的構築物として響いてくるのでした。
交響組曲ではなく、交響曲。あるいは東洋風主題による四つの交響的楽章とでも言えましょうか。そもそも作曲者の発想は、実際にスコアには表記されていないのですからね。
ということで息を衝く暇も無く終了したプログラム、最後にはアンコールも用意されていました。ボロディンのイーゴリ公から「ポロヴェッツの娘たちの踊り」。
イーゴリ公に始まってイーゴリ公で終わる。演奏会全体に筋を通したラザレフでした。
いつも、楽しい、日本フィルの、コメント、楽しみです。
6月5日、が、渡邉暁雄先生の、誕生日、言及して欲しかった。です。
来年に、期待します。