クァルテット・エクセルシオ第25回東京定期演奏会

年に2回の「エク」定期。春夏シーズンは6月が恒例でしたが、今年は7月に入ってからの公演でした。いつものように九品仏の大瀧サロンでの試演会と、札幌定期を経ての上野(東京文化会館小ホール)です。
定期らしく以下のプログラム。

モーツァルト/弦楽四重奏曲第12番 変ロ長調 K172
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第1番 ヘ長調 作品59-1「ラズモフスキー第1番」
     ~休憩~
ブラームス/弦楽四重奏曲第1番 ハ短調 作品51-1

会場に着くと、先ず気になっていたことから。そう、ラボ・エクセルシオの試演会の際に著者ご本人から案内があった「世界の弦楽四重奏団とそのレコード」第5・6巻をゲットします。個人的に「幸松本」と称しているシリーズもいよいよ完結編となりました。
自由席なので真ん中より後方の席を見つけ、早速今夜の主役「21 クァルテット・エクセルシオ」の項に目を通します。フムフム、と納得。
それにしてもこの著作は内容充実。メンバー個々の経歴や変遷なども詳しく紹介されていて、全巻揃えれば正に弦楽四重奏曲百科事典の趣。改めて幸松肇氏の博識と情熱に頭が下がりました。

次にプログラムを開くと、気軽な読み物として定着しているエク通信が目に入ります。ニヤッとしながら本体のプログラム誌。
私はプログラムを取っておく習慣が無いので記憶は曖昧ですが、以前はごく普通の構成で書かれていたと思う曲目解説、最近はメンバーのつぶやきを主体にしたプログラムに統一されているようです。
最初はエク通信、次にメンバーのつぶやき、最後に渡辺和氏執筆による曲目解説、というのが私の演奏会開始前の歩き方になってきました。それは、朝起きたら洗顔、朝食を済ませて新聞チェック、という毎日の生活習慣にも似て、儀式の如く進んでいくことに意義があるようにも感じられます。

そして愈々モーツァルト。冒頭はモーツァルト初期、というのもずっと習慣になっていましたが、何でも今回が最後とか。2006年から続いたシリーズも今回で完結してしまいました。
“当初は手探り”だったモーツァルトも、今や“瑞々しい才能の歩みを楽しめる”レヴェル。私も当初はオープニングの耳慣らし程度に考えていましたが、今やモーツァルト初期は天才の様々な芽生えを発見できる貴重な機会になりました。是非アンコールを!

続いてはベートーヴェン。これだけは何度演奏しても卒業ということにはならないでしょう。今回は前半の最後にラズモ1番が登場。これで演奏会が終了、ということにならないのも中々新鮮です。
それにしても今回は、試演会の段階からエクが更にパワー・アップしたという印象。九品仏の茶話会でも“何かあったんですか?” と思わず聞いてしまったほど。
どうやら正解は、先日開催されていたブルーローズのチェンバーガーデンで接したボロメーオQからの刺激が大きかった様子。ベートーヴェン全曲の会場で彼らの姿も見かけましたし、一寸した感想などを交換したりもしましたっけ。演奏家は常に外からの刺激によって成長すべきもので、エクが後進の指導にも当たっているという事実が、次第に目に見えない形で彼等自身にも蓄積されてきているのでしょう。
肉体的にも精神的にもパワー・アップしていくエクを発見するのは、真に頼もしく感じられます。

最後はブラームスの1番。何でもコンクールの課題のために取り組んで以来の挑戦だそうですが、実際に聴いてみると如何にもブラームスらしい、屈折した空間音楽が見事に表現されていることに驚きました。10年以上隔てているとは“ウソでしょ”と思うくらい。
特に第2楽章の「旋律と伴奏」とに明確に分割できない世界の捉え方に感心。内声の肌理細やかな動き、チェロの豊かな旋律線、泣き節一歩手前で飲み込むファーストの節度等々、十分にブラームスを満喫することが出来ました。

以上、定期ではモーツァルト、ベートーヴェン、ブラームスとドイツ音楽王道作曲家の個性が適切に描き分けられ、幸松氏の「豊かな経験が実を結んだ緊張度の高い演奏」を実感した次第。

先日NHK・FMの「現代の音楽」でも先のラボ・エクセルシオ演奏会が放送されましたが、徐々にエクの実力がファンの間にも浸透して来たようですね。正確な所は判りませんが、少なくとも東京に関しては定期演奏会の座席数は確実に増加しつつあるようです。

来年は愈々団体結成20年の節目。何か特別な企画でも練られているのでしょうか。図らずもこの日受け取ったチラシの中にスペシャル・コンサートの意欲的なプログラムを見つけました。
表参道のスパイラルガーデンで開催される美術展の特別イヴェントに登場、ヒナステラ、グラス、西村朗などの現代作品をさり気なく、ズラリと並べられるクァルテットは、彼等以外には考えられません。益々今後の活動から目が離せないエクではあります。

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