トレーヴ3連覇成らず、2015凱旋門賞ウイーク2日目

現地からのライヴ中継を見た方も多いでしょう。私は前夜の強行軍に疲れてその頃は白川夜船でしたから、今朝起きてから結果をチェックした次第。恐らく日本の報道は凱旋門賞だけでしょうから、当欄はその他のGⅠ6レースも含め、ゆっくり振り返りましょう。
結果は既に知れていますから、レース順に行くことにします。この日は第1レースから第7レースまでが全てGⅠ戦、最後にハンデ戦が一鞍行われるという番組編成でした。

ロンシャン競馬場の馬場はスピード馬に有利な good 。日本なら「稍重」相当でしょうが、この時期にしては固い馬場で、凱旋門賞も結果を左右したことになりましたね。
去年まではアベイが幕開け戦でしたが、今年の第1レースはマルセル・ブーサック賞 Prix Marcel Boussac (GⅠ、2歳牝、1600メートル)。8頭が出走し、前走オマール賞(GⅢ)を圧勝して2戦無敗のアントノア Antonoe がイーヴンの1番人気に支持されていました。

ペースを創ったのは6番人気(214対10)のケイティーズ・ダイアモンド Katie’s Diamond 、アントノアは中団の外に付けて瞬発力勝負に賭けます。しかしアントノアには前2戦の切れ味が無く、これを牽制するように本命馬の内で機を窺っていた2番人気(6対4)のバリードイル Ballydoyle が一気に抜け、2番手から一旦は先頭に躍り出た4番人気(127対10)のターレット・ロックス Turret Rocks に1馬身4分の1差を付けて快勝。短首差で後方から追い込んだ5番人気(13対1)のケマー Qemah が3着に入り、アントノアは7着と期待を裏切りました。
勝ったバリードイルはエイダン・オブライエン厩舎、ライアン・ムーア騎乗。2着のターレット・ロックスもジム・ボルジャー厩舎、ケヴィン・マニング騎乗で、アイルランド勢のワン・ツー・フィニッシュ。オブライエン師はこのレース4勝目で、去年のファウンド Found に続き、オブライエン/ムーア・コンビは2年連続制覇となりました。
前々走のデビュタント・ステークス(GⅡ)に続きG戦2勝目となったバリードイル、前走モイグレア・スタッド・ステークス(GⅠ)は2着でしたが、間違いなくクラシック候補。オーナーの一人であるマイケル・テイバー氏は、ギニーの距離が理想的だとコメントしています。1000ギニーのオッズはブックメイカーによってバラつきがありますが、5対1から7対1の間に収まっているようです。

第2レースは ジャン=リュック・ラガルデール賞 Prix Jean-Luc Lagardere (GⅠ、2歳牡牝、1600メートル)。距離が200メートル延長され、グラン・クリテリウム時代と同じになりました。フランス競馬がスピード重視に舵を切った結果が、全体的なレヴェルの低下と短距離馬の不毛を齎したのは如何にも皮肉。その見直しの動きがあるのでは、と想像されます。
今年は11頭が出走し、マルセル・ブーサックを制したオブライエン/ムーア・チームのヨハンネス・フェルメール Johannes Vermeer が11対5の1番人気に支持されていました。前走ジュヴェナイル・ステークス(GⅢ)に勝ったクールモアのクラシック候補です。

レースは8番人気(232対10)のファースト・セレクション First Selection が逃げて最後の50ヤードまで良く粘りましたが、ここから有力馬が一斉に急襲。2番手追走から残り1ハロンで先頭に立った3番人気(11対2)のアルトラ Ultra が、中団から追い込む9番人気(239対10)キムリック Cymric を短首差抑えて優勝、ゴドルフィンのワン・ツー・フィニッシュとなりました。1馬身差の3着には2番人気(29対10)のガリレオ・ゴールド Galileo Gold が食い込み、人気のヨハンネス・フェルメールは最後の叩き合いで1・2着馬の間に挟まれて前が開かず、ムーア騎手がほとんど追えなかったのはアンラッキーの一言。それでも3着馬とは首差の4着でしたから、スムーズな競馬が出来れば、もっと際どい勝負になっていたでしょう。
勝ったアルトラは、名前の様に「ウルトラ・タフ」と言うべきで、先ず本命馬に、続いて2着馬に競り勝った根性は父マンデュロ Manduro 譲り。アンドレ・ファーブル厩舎、ミケール・バルザロナ騎乗で、クレールフォンテーヌで新馬勝ちし、前走ロンシャンの条件戦も1番人気で快勝し、これで無傷の3連勝。ギニーというより明らかにダービー向きの血統で、現時点でダービーのオッズは20対1となっています。

次はオペラ賞 Prix de l’Opera (GⅠ、3歳上牝、2000メートル)。13頭と頭数も二桁に揃い、サンタラリ賞(GⅠ)の勝馬で仏オークスは1番人気に支持されながら11着に敗退したクィーンズ・ジュエル Queen’s Jewel が7対2の1番人気。愛オークス馬、仏オークス馬も参戦する豪華メンバーとなりました。
スタートは然程ではなかったものの、直ぐに2番人気(18対5)のカヴァート・ラヴ Covert Love がハナを主張して逃げ、クィーンズ・ジュエルは中団に待機します。しかし本命馬は仏オークス以来の競馬ということもあってか動けず、2番手の内を追走していた4番人気(54対10)のジャッズィ・トップ Jazzi Top が逃げ馬を捉えて先頭。しかし残り100メートル、一旦は交わされたカヴァート・ラヴが再び巻き返し、最後は叩き合いを頭差制しての結果逃げ切り勝ち。3歳馬のワン・ツー・フィニッシュです。最後方から3番人気(51対10)で去年の勝馬ウィー・アー We Are が猛追しましたが、2馬身半差届かず3着までで、人気のクィーンズ・ジュエルは9着と仏オークスに続く着外に終わりました。また仏オークスの覇者で6番人気(158対10)だったスター・オブ・セヴィル Star of Seville も8着敗退。

ヒューゴー・パーマー厩舎、パット・スマーレン騎乗のカヴァート・ラヴは、もちろん愛オークスの勝馬で、GⅠ戦は2勝目。前走ヨークシャー・オークス(GⅠ)2着の無念を晴らした形です。管理する若きパーマー師は、“感動でナンも言えねぇ”と絶句。それでもBC挑戦は来年(サンタ・アニタ競馬場)まで待つ、とだけは伝えていました。

そして愈々、凱旋門賞 Prix de l’Arc de Triomphe (GⅠ、3歳上牡牝、2400メートル)。例年より1レース前倒しされましたが、既に紹介した枠順からメレアグロス Melaeagros が取り消して17頭立てで行われました。ご承知の様に3連覇が掛かるトレーヴ Treve が9対10と2倍を切る圧倒的な1番人気で、相手と見られる英仏ダービー馬がこれに続きます。
最終的にはファーブル師から絶好調宣言が出た仏ダービー馬ニュー・ベイ New Bay が48対10の2番人気に上がり、トレーヴ陣営から距離云々を指摘され、外の14番枠を引かされた英ダービー馬ゴールデン・ホーン Golden Horn は26対5で3番人気。単勝倍率1ケタ台はこの3頭で、4番手以下は単勝10倍以上と、正に3強対決の様相を呈していました。

先ず予定通りトレーヴのペースメーカーを務める16番人気(120対1)のシャーハー Shahah が逃げますが、ペースは意外にもスロー。スタートして直ぐに目を惹いたのがゴールデン・ホーンで、外枠発走から外を回るのを嫌って直ぐに2番手に上がり、後続馬を前で、且つインコース寄りで待つ作戦に出ます。
いざ直線、頃は良し、フランキー・デットーリが一気にスパートを掛けて先頭に立つと、観客の目は一斉にトレーヴに注がれます。8番枠スタートから終始中団の外を回った大本命も最後の瞬発力に賭けますが、これまでのような切れは無く、結局はゴールデン・ホーンが2着以下に2馬身差を保ったまま、事実上の逃げ切り勝ちを演じました。際どい2着争いは外から来た5番人気(186対10)のフリントシャー Flintshire が制し、首差で内から伸びたニュー・ベイが3着、ハナ差でトレーヴは4着惜敗。
以下、8番人気(29対1)でパリ大賞典勝馬のイラプト Erupt が5着、4番人気(168対10)でプリンス・オブ・ウェールズの覇者フリー・イーグル Free Eagle が6着。トレーヴの3連覇は成らなかったものの、有力馬・人気馬が上位を独占する真に見応えのある凱旋門賞だったと総括できるでしょう。

勝利騎手フランキー・デットーリは凱旋門賞4勝目、管理するジョン・ゴスデン師は初制覇となります。デットーリは“私がこれまで騎乗した中で最高の馬、かも”とコメント。流石に長年トップ・ジョッキーとして活躍して来ただけのことはあります。不利とされる外枠発走を果敢な判断で克服し、逆にライヴァルに先手を取ってプレッシャーを掛けた辺りは、名手の手腕と称賛すべきでしょうね。
勝馬のオーナー、アンソニー・オッペンハイマー氏は、馬場が良かったこと、この馬場でトレーヴ相手に楽勝したことが全てだとコメントしています。一方のトレーヴ陣営は、やはり馬場、そしてペースが遅かったことを敗因に挙げましたが、自陣営のペースメーカーがスローに落したのですから、作戦負けと言われても致し方ないでしょう。即断は避けていますが、これを最後に引退するものと思われます。
更に2・3着は何れもアンドレ・ファーブル師の管理馬で、しかも共にハーリッド・アブダッラー皇子の所有馬。特にフリントシャーは2年連続の2着で、オルフェーブルと同じ状況を味わっていることになります。いずれにしても、今年の3歳馬のレヴェルの高さが凱旋門賞でも証明されました。

ダービー、エクリプス、愛チャンピオン、凱旋門賞と、世界の競馬人が一度は取りたい四つのGⅠ戦を一シーズンで総ざらいしたゴールデン・ホーン、次はどうするかが早くも話題。ブックメーカーはBCに4対5ととんでもないオッズを出しましたが、果たして今期もう一戦することが考えられるでしょうか。

そして第5レースが、例年は第1レースだったアベイ・ド・ロンシャン賞 Prix de l’Abbey de Longchamp (GⅠ、2歳上、1000メートル)。こちらも1頭が取り消して18頭立ての大混戦となりましたが、16対5の1番人気には英国からハッガス厩舎が送り込んだキング・ジョージ・ステークス(GⅡ)勝馬のムスミール Muthmir が選ばれていました。18頭も出走していながら、地元フランス調教馬は、何と12番人気(43対1)のランガリ Rangali ただ1頭と言う仏短距離界の凋落には目を覆うばかりです。
レースは9番人気(171対10)のテイク・オーヴァー Take Over が中間地点まで逃げましたが、後方に待機したフランスの期待ランガリが鋭く伸びて一旦は先頭に立ってファンを沸かせます。しかし中団に待機した5番人気(9対1)のゴールドリーム Goldream が鋭く迫り、フランスの夢を短首差で挫いてしまいました。1馬身4分の3差で3番手を進んだ人気のムスミールが食い込んで面目を保っています。

勝ったゴールドリームは英国のロバート・カウエル厩舎、マーチン・ヘイリー騎乗。これで英愛のスプリンターは、今世紀に入ってからアベイを13勝したことになります。今年のロイヤル・アスコットでキングズ・スタンド・ステークスを制したゴールドリーム、今期2勝目のGⅠ戦となりました。前走ナンソープ(GⅠ)でも5着だった同馬、この冬はドバイに遠征してある・クォーツを目指すとか。

続いてもGⅠ戦のフォレ賞 Prix de la Foret (GⅠ、3歳上、1400メートル)。13頭が出走し、コモンウェルス・カップ(GⅠ)の2着馬で、前走パーク・ステークス(GⅡ)を制したリマート Limato が6対5の1番人気。
11番人気(69対1)のサラティーン Salateen が逃げましたが、残り2ハロンで一杯。替って先行していた4番人気(7対1)のトールモア Toormore が一旦は先頭に立ちましたが、内で先行していた2番人気(39対10)のメイク・ビリーヴ Make Believe が抜け、後方からリマートが追い込むも遅し、本命馬に1馬身4分の1差を付けて優勝です。更に1馬身半差でトールモアが3着。これまた3歳馬のワン・ツー・フィニッシュとなりました。

メイク・ビリーヴは、この日アルトラに続いて二つ目のGⅠ制覇となるアンドレ・ファーブル厩舎、オリヴィエ・ペリエ騎乗。既にプロフィールを紹介したように、今年の仏2000ギニーの勝馬で、続くセント・ジェームス・パレス・ステークス(GⅠ)は5頭立ての5着に敗退していました。今回は4か月ぶりの休み明けでしたが、腐っても鯛、今期二つ目のGⅠ制覇で貫録を見せつけた形です。未だ余力を残している同馬、BCに遠征する可能性が高いと言えましょう。

GⅠ7連発の最後は、余り人気の無い長距離のカドラン賞 Prix du Cadran (GⅠ、4歳上、4000メートル)。1頭が取り消して10頭立てとなり、前走ドンカスター・カップ(GⅡ)で2着したばかりのクロンドウ・ウォリアー Clondaw が3対1の1番人気と言う、GⅠにしては内容に疑問符が付くメンバー。
レースは6番人気(111対10)のミル・エ・ミル Mille et Mille が逃げ、最低人気(57対1)のキッキ―・ブルー Kicky Blue が2番手追走。これを4番人気(49対10)のファン・マック Fun Mac が3番手で進みましたが、結局このままの順序でゴール。所謂行った行ったの競馬で、長距離戦に人気が戻るのは未だ未だ遠い将来のことと言えそうです。勝馬と2着は1馬身半差、2着と3着は2馬身半差で、クロンドウ・ウォリアーは最下位敗退と言う凡走。

勝ったミル・エ・ミルはカルロス・レルナー厩舎、ティエリー・テュイレ騎乗。今期5戦で3勝となる5歳せん馬で、G戦はこれが初勝利。サン=クルーとメゾン=ラフィットのハンデ戦に勝っており、挑戦した二つのG戦では、夫々ヴィコンテス・ヴィジエ賞(GⅡ)が2着、前走グラディアトゥール賞(GⅢ)は8着で、どの馬も成績がムラなところが昨今のステイヤーの特徴でしょうか。

以上、今年も凱旋門賞祭が終わりましたが、GⅠ戦7鞍は本命馬が全て敗退という結果でした。それでも凱旋門賞を初めとして実力のある馬が相応の活躍を見せた年だったとも言えるでしょう。
取り急ぎのレポート、誤字脱字も多かろうし、文脈のおかしい所があるかもしれません。未だこの後もアップしなければならない記事が待っていますから、訂正は後日ゆっくり検証してからのことと致します。

 

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