一日にGⅠ戦3勝の快挙

8月17日の土曜日、アメリカ競馬はGⅠ6鞍の壮観さで世界を圧倒しています。何時ものようにニューヨークとカリフォルニアに加え、この日はシカゴでもインターナショナル・フェスティヴァルが開催されました。
しかし今レポートは最も結果が早いニューヨークからスタートしましょう。

サラトガ競馬場はGⅠ2鞍、先に行われたのが芝の長距離戦、ソード・ダンサー・インヴィテーショナル・ハンデキャップ Sword Dancer Invitational H (芝GⅠ、3歳上、12ハロン)でした。芝コースは firm 、1頭取り消しがあって12頭立て。前走マンノ・ウォー・ステークス(芝GⅠ)に勝ったボイステラス Boisterous が9対5の1番人気に支持されています。
レースは、同じオーナーの2頭出しによって馬券上はカップリングされたストーミー・ロード Stormy Lord の逃げ。同じオーナーの2番人気(5対2、逃げ馬とカップリング)ビッグ・ブルー・キッテン Big Blue Kitten は最後方から進みます。恰もヨーロッパ競馬では普通に見られるペースメーカー的役割。人気のボイステラスは5番手から抜け出す機を窺う展開。しかし末脚が切れたのは後方一気の脚を繰り出したビッグ・ブルー・キッテンで、3番手で粘ったトゥワイライト・エクリプス Twilight Eclipse に1馬身差を付ける鮮やかな差し切り勝ち。1馬身4分の3差で内から伸びたフランス馬ヌテロ Nutello が3着。ボイステラスは8着に沈んでしまいました。
チャド・ブラウン厩舎、ジョー・ブラーヴォ騎乗のビッグ・ブルー・キッテンは、前走(7月6日)ユナイテッド・ネイションズ・ステークス(芝GⅠ)に続く芝のGⅠ戦に2連勝。その前のモンマス・ステークス(芝GⅡ)ではボイステラスの2着でしたが、ここで雪辱を果たした形です。同馬は一昨年のサラトガでも芝のGⅡ戦(ナショナル・ミュージアム・オブ・レーシング・アンド・ホール・オブ・フェイム・ステークス)に勝っており、このコースは得意のもの。

勝馬はオーナーであるケン、セーラ・ラムゼー夫妻の自家生産馬ですが、オーナー夫妻にとって、この後信じられないような朗報が続々と入ってくることになります。

続いてダートコースのアラバマ・ステークス Alabama S (GⅠ、3歳牝、10ハロン)。こちらの馬場も fast 、やはり1頭取り消しがあり5頭立て。大穴でケンタッキー・オークスを制し、次走コーチング・クラブ・アメリカン・オークスも貫録勝ちしたプリンセス・オブ・シルマー Princess of Sylmar が1対2の断然1番人気。ライヴァルになるような同世代が他に回るなどして回避したため、同馬の独り舞台になることが予想されました。
実際その通りの展開となり、逃げるカーニヴァル・コート Carnival Court を4番手で追走したプリンセス・オブ・シルマー、直線入口では早くも先頭に立つと、後は独走、2着2番人気(5対2)のフィフティーシェイズオブヘイ Fiftyshadesofhay に2馬身半差を付けてGⅠ3連勝(ハットトリック)を達成しました。更に3馬身4分の3差で逃げたカーニヴァル・コートが3着。
トッド・プレッチャー厩舎、ハヴィエル・カステラノ騎乗のプリンセス・オブ・シルマーは、これで6戦5勝2着1回。GⅠ3連勝の前にもアケダクトでブサンダ・ステークス、ブッシャ―・ステークスに勝っており、唯一の敗戦はガゼル・ステークス(GⅡ)でクローズ・ハッチェス Close Hatches の2着のみというほぼパーフェクトな戦績。ケンタッキー・オークスを38対1で勝った時にはフロック視する向きもありましたが、今や最強3歳牝馬のタイトルに最も近い存在であることは間違いなさそうです。

そして愈々インターナショナル・フェスティヴァルのアーリントン競馬場に向かいましょう。インターナショナルに相応しく、海外からの挑戦も多彩なGⅠ戦連発です。
3つのGⅠに入る前に、去年も紹介した今年2回目となるアメリカン・セント・レジャー American St. Leger (芝、3歳上、13.5ハロン)から。未だグレード戦には昇格していませんが、明らかにヨーロッパからの参戦を期待しての一戦です。芝は firm 、1頭取り消しがあり7頭立て。去年の創設戦をジャッカルベリー Jakkalberry で制した英国のマルコ・ボッティ厩舎が送り込んだダンディーノ Dandino が4対5の1番人気。
アメリカには珍しい長距離レースとあって、オジョス・デ・ヒエロ Ojos de Hielo の逃げはスローペース、直線の勝負に勝敗が掛かります。一時は7馬身も離された4番手追走の本命ダンディーノ、内を衝いて前が塞がる場面がありましたが、鞍上ライアン・ムーアが好判断で外に出すと、ヨーロッパ馬独特の切れ味で馬群を抜け、外から追い込むサントレイサー Suntracer を半馬身抑えて期待に応えました。4分の3馬身差でナジャール Najjaar が3着。
これでこのレースを連覇したボッティ師ですが、オーナーも前年と同じオーストラリアン・サラブレッド・ブラッドストック。前走はロイヤル・アスコットのハードウィック・ステークス(GⅡ)2着の6歳馬で、4歳時にはGⅡのジョッキー・クラブ・ステークスも制している実力馬です。

そしてGⅠ第一弾の第37回セクレタリアート・ステークス Secretariat S (芝GⅠ、3歳、10ハロン)。ヨーロッパからの挑戦3頭を含む13頭が顔を揃え、前走ヴァージニア・ダービーでは不利がありながら3着のジャック・ミルトン Jack Milton が2対1の1番人気。
レースは伏兵(97対1)ゴールデン・ジェイソン Golden Jason が逃げ、2番人気(9対2)のライディリュック Rydilluc が2番手追走。ライディリュックが早目に逃げ馬を捉えて先頭に立ちましたが、4番手スタートから中団に控えていた3番人気(5対1)アドミラル・キッテン Admiral Kitten が一気に抜け、先行粘り込みのストーミー・レン Stormy Len に1馬身4分の1差を付けて快勝。本命のジャック・ミルトンも良く追い上げましたが、同じく1馬身4分の1差で3着まで。
マイケル・メイカー厩舎、ロージー・ナプラヴニク騎乗のアドミラル・キッテンは、アケダクトでGⅠに勝ったビッグ・ブルー・キッテンと同じラムゼー夫妻の持ち馬。両馬とも名前から想像されるように父はキッテンズ・ジョイ Kitten’s Joy で、やはりラムゼー氏が生産した芝馬。父もセクレタリアート・ステークスを制しており、親子制覇でもありました。アドミラル・キッテンはアーリントン・クラシック、アメリカン・ダービーなど4戦続けて2着が続いていましたが、これで念願のGⅠ初制覇となります。

続いて古馬牝馬のGⅠ戦、ビヴァリー・D・ステークス Beverly D. S (芝GⅠ、3歳上牝、9.5ハロン)。勝馬にはBCフィリー・アンド・メア・ターフへの出走権が与えられます。9頭立て、去年のBCではザゴラ Zagora の2着、また去年のこのレースでもアイム・ア・ドリーマー I’m A Dreamer の2着だったマーケティング・ミックス Marketing Mix がイーヴンの1番人気。彼女の目標は牝馬相手ではなくBCターフ、更には香港カップも狙うということで、同じ牝馬相手のここは負けられない所でしょう。
レースは伏兵(31対1)ラ・ティア La Tia が逃げ、マーケティング・ミックスは3番手追走。しかし優勝は、前半6番手で待機していた英国から遠征の2番人気(3対1)ダンク Dank 。馬4頭分の外から鋭く伸びると、ゴールではこれも英国組ギフテッド・ガール Gifted Girl に4馬身4分の1の決定的な差を付ける圧勝。1馬身半差の3着争いは4頭が並ぶ混戦で、マーケティング・ミックスを内ラチ沿いに急襲したオーサス Ausus が本命馬をハナ差で交わしていました。
ダンクはサー・マイケル・スタウト師の管理馬で、二つ前のアメリカン・セント・レジャーを制したライアン・ムーア騎乗。前走(7月21日)カラー競馬場のキルボイ・エステート・ステークス(GⅡ)に勝っており、大西洋を隔ててのG戦2連勝達成となりました。もちろんGⅠ戦は初勝利。

アーリントンのメインは、今年が第31回目となるアーリントン・ミリオン・ステークス Arlington Million S (芝GⅠ、3歳上、10ハロン)。これも勝馬にはBCへの出走権が与えられ、もちろん対象はBCターフです。5頭のヨーロッパ勢に南アフリカからの1頭も含めた13頭立て。前年の覇者リトル・マイク Little Mike には史上初の2連覇が掛かります。ミリオンを2回制覇したのは、2年の間隔を空けたジョン・ヘンリー John Henry のみ。最終的なオッズは入電していませんが、恐らく1番人気はノセダ厩舎のグランダー Grandeur で、アメリカでハリウッド・ターフ・カップ(芝GⅡ)とトゥワイライト・ダービー(芝GⅡ)に勝っている馬。リトル・マイクは2番人気だったと思われます。
しかしレースは波乱。連覇を狙ったリトル・マイクが逃げ、直線入口までは先頭を守っていましたが、後方からインを通って抜けたのが6対1のジ・アパッチ The Apache 。南アフリカ(デ・コック厩舎)初制覇の夢を載せたジ・アパッチに外から迫ったのが、6番手を追走していたリアル・ソルーション Real Solution 。2頭の激しい叩き合いは頭差でジ・アパッチが先着しましたが、2番手に騎乗したアラン・ガルシア騎手からの異議申し立て。内で左ムチを使ったクリストフ・スミオンが外に寄れたため数回に亘る接触。長い審議の結果、意義は受け入れられ、2番手入線のリアル・ソリューションが繰り上がっての優勝、ジ・アパッチは2着降着となりました。2馬身差で英国のサイド・グランス Side Glance が3着、リトル・マイクは6着、グランダーは7着に終わっています。
この結果、優勝はチャド・ブラウン厩舎、ラムゼー夫妻の元に転がり込み、何とオーナーにとってはこの日、ソード・ダンサー(ビッグ・ブルー・キッテン)、セクレタリアート(アドミラル・キッテン)に続き3つ目のGⅠ制覇。しかもリアル・ソルーションもキッテンズ・ジョイ産駒とあって、調教師と父馬にとってのGⅠハットトリックでもありました。
リアル・ソリューションは、これが今期3戦目。5月のフォート・マーシー・ステークス(芝GⅢ)が3着、前走6月6日のマンハッタン・ハンデ(芝GⅠ)では故障したポイント・オブ・エントリー Point of Entry の3着していた馬。同馬は、2歳時にはイタリアのジャンルシア・ビットリーニの管理下で3連勝、イタリア・ダービーでも6着に入っていましたが、ダービーの後に肺の感染症に罹り治療。どうしても薬物処方が必要だったため、ラシックス使用が認められているアメリカに転戦した経緯があります。
尚、アーリントン・ミリオンで降着があったのはこれが3度目。2003年にはストーミング・ホーム Storming Home が、次の2004年にもパワースコート Powerscourt が共に1着で入線しながら4着に降着となった歴史があります。ガルシア騎手によれば、“少なくとも4回はぶつけられた。あれが無ければ2馬身か3馬身差で勝っていたネ”と言う一方、スミオン騎手は“馬がゴール前のスクリーンに驚いて外に逃げた。アメリカでの競馬は初めてだったので残念”とコメント。何度も映像を見ましたが、無ければ3馬身というのはチョッと大袈裟なようにも感じましたね。

最後は、デル・マー競馬場からもGⅠ戦のデル・マー・オークス Del Mar Oaks (芝GⅠ、3歳牝、9ハロン)。こちらも芝コースは firm 、1頭が取り消して10頭立て。ここにもラムゼー夫妻の持ち馬でキッテンズ・ジョイ産駒の馬が2頭出走、レイク・ジョージ・ステークス(芝GⅡ)を含め3連勝中のキッテンズ・ダンプリングス Kitten’s Dumplings が8対5の1番人気に支持されていました。もちろんこの日既にGⅠ3勝と言うニュースが伝わっていたこともあるでしょう。
レースはニード・ユー・ナウ Need You Now が逃げ、キッテンズ・ダンプリングは後方2番手の待機策。3番手に付けていた2番人気(9対2)のディスクリート・マルク Discreet Marq が直線で先行2頭を外から捉え、内を衝いて追い込むウィッシング・ゲート Wishing Gate に4分の3馬身差を付ける小波乱です。更に4分の3馬身差でエモーショナル・キッテン Emotional Kitten が3着に入り、本命キッテンズ・ダンプリングスは4着。ラムゼー夫妻は3・4着に終わり、4匹目の泥鰌はいませんでした。
ニューヨークをペーストするクリストフ・クレメント厩舎、ジュリアン・ルパルー騎乗のディスクリート・マルクは、サンズ・ポイント・ステークスを含めて3連勝。当初はジェーン・シベリ厩舎に所属していましたが、現在のクレメント厩舎に移ってからは3連勝と無傷。クレメント師は2007年にもこのレースをラザリエンヌ Rutherienne で制しており、得意の遠征競馬となっています。

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