真夏のダービーも番狂わせ

8月24日の土曜日、アメリカ競馬はサラトガとデル・マーの2場でのG戦、特にサラトガはGⅠ3連発で盛り上がりました。

そのサラトガ競馬場から、最初はテスト・ステークス Test S (GⅠ、3歳牝、7ハロン)。fast の馬場、1頭が取り消して8頭立て。ステークスは初挑戦ながら、ここまで無傷で3連勝中のスイート・ルル Sweet Lulu が9対5の1番人気に支持されていました。
逃げるベビー・ジェイ Baby J を2番手で追走したスイート・ルル、内ラチ一杯に先頭に立って逃げ込みを図る所、外から追い込むワイルドキャット・リリー Wildcat Lily に一旦は差されたものの再び二の足を使って差し返し、頭差でワイルドキャット・リリーを抑えて優勝、真に勝負強い所を見せ付けました。首差3着には2番人気(2対1)のマイ・ハッピー・フェイス My Happy Face が大外から追い込み。
ジェリー・ホーレンドルファー厩舎、ジュリアン・ルパルー騎乗のスイート・ルルは、これまでカリフォルニアのタペタ・コースで3連勝。今回は遠征競馬、しかも初めてのダート・コースでG戦初勝利となり、いきなりGⅠのタイトルを獲得したことになります。これからの活躍が期待されましょう。

続いては芝コースのボールストン・スパ・ステークス Ballston Spa S (芝GⅡ、3歳上牝、8.5ハロン)。馬場は firm 、ダートコース変更時のみ登録の1頭の他にもう1頭が取り消して7頭立て。人気は接戦でしたが、去年のこのレースで2着したハングリー・アイランド Hungry Island が5対2の僅差で1番人気。同じオッズで2年前にアイルランドから転戦して来たラーフィング Laughing が2番人気で続きます。
先行した3頭が並んで直線に入りましたが、ここは逃げたラーフィングが優勝、首差2着のピアニスト Pianist 、2馬身4分の3差3着のハード・ノット・トゥー・ライク Hard Not to Like も夫々2・3番手を追走した馬で、所謂行った行ったの競馬でした。人気のハングリー・アイランドも4番手追走で4着のまま。
アラン・ゴールドバーグ厩舎、ホセ・レズカノ騎乗のラーフィングは、これがアメリカで4つ目となるG戦勝利、今期は6月のイートンタウン・ステークス(GⅢ)、7月のダイアナ・ステークス(GⅠ)に続く連勝で、GⅠ馬の貫録を見せ付けた形です。

GⅠ第2弾となるキングズ・ビショップ・ステークス King’s Bishop S (GⅠ、3歳、7ハロン)は、14頭立てと多頭数。3頭出しプレッチャー厩舎のエース格で、G戦3連勝中のフォーティー・テイルズ Forty Tales が5対2の1番人気に支持されていました。
しかし結果は大波乱。2番人気(3対1)レット・エム・シャイン Let Em Shine を早目に捉えた4番人気(7対1)のメンター・ケイン Mentor Cane がそのまま押し切るかに見えた時、前半は後方11番手に待機していた9番人気(28対1)のカポ・バストーン Capo Bastone がコース中央を通って末脚を爆発させ、メンター・ケインに2馬身差を付けてスタンドを黙らせてしまいました。更に3馬身4分の1差で8番人気(22対1)のセントラル・バンカー Central Banker が3着。人気のフォーティー・テイルズは4着、同じプレッチャー厩舎の副将格オーヴァーアナライズ Overanalyze も5着。
しかしプレッチャー師にとっては満足の結果で、勝ったカポ・バストーンも同じ厩舎第3の存在、イラード・オルティスが騎乗していました。通算3勝目でステークスは初勝利となるカポ・バストーン、2歳時はジョン・サドラー師が管理していた馬で、今年からプレッチャー師の元に転厩。実はBCジュヴェナイルで3着の実績がありながら、転厩初戦のアローワンス戦以降勝鞍が無く、忘れられていた存在でした。チャーチル・ダウンズのダービー・トライアル(GⅢ)2着で一時思い出した向きもあったでしょうが、いきなりGⅠに勝たれて、その実力に気が付いたというのが正直な印象でしょう。前走ウッディー・スティーヴンス・ステークス(GⅡ)は7着でしたからね。

サラトガのメインは、真夏のダービーと異名をとる第144回トラヴァース・ステークス Travers S (GⅠ、3歳、10ハロン)。去年は史上初の同着を記憶されている方も多いでしょう。今年は9頭立て、実力馬が揃いました。
8対5の1番人気は、ハスケル・インヴィテーショナル(GⅠ)に勝ったばかりのヴェラザーノ Verrazano 。差無く2対1の2番人気で続くのが、本命と同じプレッチャー厩舎のベルモント・ステークス勝馬パレス・マリス Palace Malice 、前走ジム・ダンディー・ステークス(GⅡ)も順当に勝っており、3歳馬の頂点を目指します。これを阻むべく3番人気(3対1)に続くのが、リフレッシュ休暇から戻ったケンタッキー・ダービー馬オーブ Orb 。世評も実力も3強の争いと見るべきでしょう。
しかしながら、一つ前のキングズ・ビショップに続きここでも波乱、いや波乱とは言えないかもしれません。レースを引っ張ったのは、31対1の伏兵モレノ Moreno 。人気各馬を尻目に逃げ切るかと思えた時、真っ黒になって追い込んできたのが4番人気(9対1)のウイル・テイク・チャージ Will Take Charge 。ゴール直前、最後の2歩半でモレノをハナ差交わしての戴冠でした。4分の3馬身差でインを衝いたオーブが3着と面目を保ち、更にハナ差でパレス・マリスが追い込んだものの4着、本命ヴェラザーノは2番手まで上がりながら直線は後退して7着敗退に終わっています。
1991年のコーポレート・レポート Corporate Report 、1995年のサンダー・ガルチ Thunder Gulch に続く3度目の制覇となるウェイン・ルーカス厩舎、同馬に初騎乗で、GⅠ初制覇となるルイス・サエズ騎乗のウイル・テイク・チャージは、レベル・ステークス(GⅡ)に続き二つ目のG戦勝利。レベルではプリークネス・ステークス勝馬オックスボウ Oxbow に勝っていました。また前走ジム・ダンディーではヴェラザーノの2着、その時3着だったのがモレノでもあります。
ルーカス師は、今年のプリークネス(オックスボウ)を15対1で勝ち、トラヴァースも9対1の逆転劇。サエズ騎手は、今年21歳のパナマ出身で、2009年からアメリカで騎乗している若手。単純に計算しても17歳からアメリカで乗っていることになり、日本の騎手などとは経験がまるで違うことになります。ジョッキーの分野では世界の壁が如何に厚いか、それを見せ付けたトラヴァースでもありましたね。
更に続ければ、ウイル・テイク・チャージの母はGⅠに4勝した名牝で、その仔には去年のフロリダ・ダービー馬テイク・チャージ・インディー Take Cahrge Indy (ウイル・テイク・チャージの半兄)もいるという名血。奇しくもキングズ・ビショップを制したカポ・バストーンとは、5代母タイムズ・トゥー Times Two が共通という同じファミリーに属しており、血統面でも大きな話題となりそうな今年のトラヴァースでした。

やや影が薄くなった感はありますが、デル・マー競馬場でもG戦が一鞍、デル・マー・ハンデキャップ Del Mar H (芝GⅡ、3歳上、11ハロン)が行われています。GⅡながら勝馬にはBCターフへの優先出走権が付与されるということで見逃せない一戦です。馬場は firm 、1頭取り消して6頭立て。今年からアメリカに転じ、これまで勝鞍は無いものの前走エディー・リード・ステークス(芝GⅠ)でジェラニモ Jeranimo の2着しているヴァガボンド・シューズ Vagabond Shoes が2対1の1番人気。
レースはミスター・ティー・バード Mr T Bird が逃げ、後続各馬も差無く続くコンパクトな流れの中、後方2番手に付けたヴァガボンド・シューズが直線では外から追い上げ、最後方待機から直線では一気に内を衝いた2番人気(5対2)ルカイヤン Lucayan を半馬身差抑えてアメリカでの初勝利を挙げました。更に半馬身差でハンツヴィル Huntsville が3着。
ジョン・サドラー厩舎、ヴィクター・エスピノザ騎乗のコンビは、一昨年のセルティック・ニュー・イヤー Celtic New Year に続いてこのレース2勝目。ヴァガボンド・シューズは、フランスで4歳時にメッシドール賞(GⅢ)、5歳時にはシュマン・ド・フェル・デュ・ノール賞(GⅢ)に勝っており、6歳にして3つ目のG戦勝利。フランス時代からの6連敗に終止符を打ちました。やはり距離が伸びたこと、レースがヨーロッパ的な流れになったことで能力を出し切れたのでしょう。BCターフが楽しみになりました。

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