ヴァンスカの悲愴

昨日のプロムスは、ラスト・ナイトを除けば地元英国のオーケストラが登場する最後のコンサート、ホスト・オケでもあるBBC響のコンサートでした。
プログラムも今年のテーマであるポーランド音楽特集であり、なおかつチャイコフスキー交響曲全集の番号付きシンフォニー連続演奏会の最終会と、ホスト・オケに相応しいプログラミングが披露されています。以下のもの。

≪Prom 71≫
グレツキ/交響曲第3番「悲しみの交響曲」
     ~休憩~
ヴォーン=ウィリアムス/4つの最後の歌(ペインによる管弦楽編曲、BBC委嘱、世界初演)
チャイコフスキー/交響曲第6番
 BBC交響楽団
 指揮/オスモ・ヴァンスカ
 ルビー・ヒューズ(ソプラノ)
 ジェニファー・ジョンソン(メゾ・ソプラノ)

パッと見ただけでは気が付かないかもしれませんが、この回は「告別」作品特集でもあるという中々に捻った選曲。2曲目はプロムスのためにペインがアレンジしたもので、今回が世界初演というプロムス・初演シリーズの一品でもあります。

最初のグレツキは、ソプラノ・ソロを伴うシンフォニーで、ソプラノのヒューズは今回がプロムス・デビュー。全体は3楽章で構成され、演奏に1時間を要する大曲です。
この曲を聴くのは久し振りで、一昔前に癒し系音楽の名曲としてヒットしたことを覚えている方も多いでしょう。私もその時に録音で聴いた覚えがありますが、全編これヒーリングという内容で、個人的には抵抗があったことを思い出しました。
今回は恐らくそれ以来の体験で、ブームも過ぎたことだし、改めて「真面目」に聴いてみようと思った次第。ヴァンスカの指揮ということで、新たな感想も持てましたね。

2曲目は作曲者晩年の作と言うことで、オリジナルはピアノ伴奏曲。私は不勉強で、こういう歌曲集があるということは今回の演奏まで全く知りませんでした。日本語には訳し難いタイトルで、Procris, Menelaus, Tired and Hands, Eyes and Heart の4曲から成ります。最初の2曲はギリシャがテーマ。
新たにオーケストレーションを行ったのは、エルガーの第3交響曲のオーケストレーションで有名になった作曲家兼評論家のアンソニー・ペイン Anthony Payne (1936-)。ヴォーン=ウィリアムスに成り替わって客席の歓声に応えていました。

最後は何の説明も要しない名曲。今年のプロムスで敢行されてきたチャイコフスキー交響曲全集の、番号付き作品の最終回に当たります。
昨日も触れた楽章間の拍手。悲愴でも容赦なく楽章ごとにパチパチとありましたが、第3楽章と第4楽章の間は、ヴァンスカは全くパウゼを入れずにフィナーレに突入しました。例によって手を叩いた人もありましたが、これには面食らって直ぐに中断。ヴァンスカも流石で、フィナーレの最初の音をやや長めに引っ張って第一音が消されないように配慮。役者が上手ですな。

ここで思い出したのはカラヤン。音楽監督としてベルリンで最初にこの名曲を取り上げた時、思わず第3楽章が終わると拍手が起きました。カラヤンはベルリンの聴衆の教養の無さを嘆きましたが、巨匠が気に入っていたのは日本の聴衆の真面目さでした。
その点だけを取り上げれば、聴衆のレヴェルは高い順に、東京→ベルリン→ロンドン ということになりましょう。もちろん様々な意見があることはもちろんです、がネ。

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