第一次世界大戦に縁の作曲家たち

今年のプロムスのデーマの一つが第一次世界大戦勃発100周年ということは何度も紹介していますが、その極め付けが17日に行われたBBCスコティッシュ管の演奏会でした。
このプログラムを見て直ぐにそれがピンと来る人は、余程のクラシック音楽通でしょう。
8月17日 ≪Prom 42≫
ステファン/管弦楽のための音楽(1912)
ケリー/弦楽のためのエレジー~ルパート・ブルックの思い出に
バターワース=ブルックス/「シュロップシャーの若者」 A Shropshire Lad ~6つの歌
~休憩~
ヴォーン=ウィリアムス/田園交響曲
BBCスコティッシュ管弦楽団
指揮/アンドルー・マンゼ Andrew Manze
テノール/アラン・クレイトン Allan Clayton
バリトン/ロデリック・ウィリアムス Roderick Williams

 

特に前半の作曲家3人は、全て戦地で斃れた若い人たち。簡単なプロフィールと共にその作品をジックリと味わいましょう。
最初のルディ・ステファン Rudy Stephan は1887年生まれのドイツの作曲家。その存在は天才としか言いようがありませんが、1915年、僅か28歳で従軍先の現ウクライナ西部でロシア兵に撃たれて死亡。従って残された作品は僅かですが、今回演奏されたのは代表作と言える1912年の「管弦楽のための音楽」です。
ステファンの作品は「音楽」というタイトルがほとんどで、交響曲や協奏曲の代わりに「音楽」と理解すれば良いでしょう。1912年作品は、シューリヒトやチェリビダッケの録音が残されており、17分ほどかかる単一楽章の「交響曲」。四つの音が様々な様式でシンフォニックに構築され、彼が早逝しなければドイツ音楽の世界は現在ほど貧弱ではなかったと思わせるに十分なものがあります。ステファンの作品が演奏されること自体がプロムス初だそうです。
二人目のフレデリック・セプティマス・ケリー Frederick Septimus Kelly (1881-1916) はオーストラリア生まれの英国人で、彼も大戦末期の1916年、第一次世界大戦最大の会戦と言われたソンム Somme の戦いで戦死しています。
ケリーは風変わりな経歴の持ち主で、アスリートとしての才能を発揮。1908年ロンドン・オリンピックに於いて、ボート競技のエイツでイギリス・チームの一人として参加し、金メダルに輝いています。 その作品はほとんど知られていませんが、今回紹介されたのは弦とハープによる10分ほどの短いもの。美しいメロディーが魅力的です。
三人目のジョージ・バターワース George Butterworh (1885-1916) もケリーと同じソンムの戦いで戦死、ドイツ軍と闘った英仏連合軍の一員でした。二人とも志願兵だった由。
バターワースも大作と呼べるものは残していませんが、今回取り上げられた歌曲集は15分ほどの作品で、バリトン独唱とオーケストラによる版。オリジナルはピアノ伴奏だったと思います。
後半はヴォーン=ウィリアムスの第3交響曲に当たるもの。「田園交響曲」というタイトルからイギリスの長閑な田園風景の描写かと誤解されますが、実はこれも作曲家が従軍していた第一次世界大戦、フランスの戦場での経験をシンフォニーで描いたもの。
第2楽章に登場するナチュラル・トランペットとナチュラル・ホルンは、軍隊ラッパを捩ったもの。戦死した友人バターワースへの追悼曲とも考えられています。第4楽章の最後に歌詞の無い声楽が聴こえてきますが、ヴォーン=ウィリアムスの指示はソプラノ又はテノール。歌手がいない場合はクラリネットで演奏することも可能と書かれています。今回マンゼの選択はテノールの独唱でした。
マンゼは2012年のプロムスでもヴォーン=ウィリアムスの交響曲第4・5・6番という凄いプログラムを振りましたが、今回の選曲で3番から6番までを全て指揮したことになります。来年以降も期待できそうですね。

 

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