いざ凱旋門

今朝は東京が五輪招致レースに圧勝したということで日本中が大騒ぎしていますが、それは7年先のこと。小欄はあまり興味も無いので、目先の凱旋門賞の話題から行きましょう。

本番をほぼ1か月後に控え、有力各馬が最後の試走を迎える時期がやって来ました。当ブログではドイツ競馬は扱いませんが、先週バーデン競馬場ではバーデン大賞典が行われ、凱旋門賞1番人気のノーヴェリスト Novelist が無事に試走を終えています。
キングジョージ5馬身差の圧勝程のパフォーマンスではありませんでしたが、それでも2・3着馬は何れもGⅠ馬と言うことで、この調整によってロンシャンでは万全の態勢で臨んでくるでしょう。

そして昨日、アイルランドのレパーズタウン競馬場でも重要なトライアルが行われましたので、今日はこのレポートから始めます。
アイリッシュ・チャンピオン・ステークス Irish Champion S (GⅠ、3歳上、1マイル2ハロン)。雨が降って馬場は湿り勝ち、発表は good ですが、所により good to yielding と、重馬場を気にする陣営には悩ましい状態で行われました。
当初は8頭が登録していましたが、馬場の状況を見てオブライエン厩舎がヨーク・インターナショナルの勝馬デクラレーション・オブ・ウォー Declaration Of War を取り消し(レース前は2番人気でした)、更に1頭も回避しての6頭立て。一時期は凱旋門の本命に上がっていたアル・カジーム Al Kazeem が9対10の1番人気に支持されています。

レースはキングジョージ2着馬で、前走ヨーク・インターナショナル(2着)ではアル・カジームに先着したトレーディング・レザー Trading Leather が逃げ、かなりのリードを取って直線に入ります。直線では前半3番手につけていたアル・カジームも進出を開始しましたが、これを更に外から追い上げたのが並んだ2番人気(4対1)のザ・フューグ The Fugue 。叩き合いの末、本命の牡馬を1馬身4分の1差切って捨ててのGⅠ2連勝を達成しました。2馬身差でトレーディング・レザーが3着に入り、デクラレーション・オブ・ウォーの取り消しによりジョセフ・オブライエンが乗り替わった久々のキングスバーンズ Kingsbarns (4対1で去年のレーシング・ポスト・トロフィー優勝以来の実戦)は脚元に不安を感じたこともあって大差の最下位に終わっています。
ジョン・ゴスデン厩舎、ウイリアム・ビュイック騎乗のザ・フューグは、去年から不運続きで勝鞍に恵まれませんでしたが、前走ヨークシャー・オークスに快勝して波に乗り、3つ目のGⅠ制覇。牡馬相手のGⅠは初勝利となり、凱旋門賞にも弾みをつけた様子。そのオッズも8対1と上昇しましたが、今回も出否を迷っていたように、重は決して巧くないタイプ、仮にパリの馬場が悪化するようなら回避するということを条件に上げての参戦となるようです。
彼女のオーナーは、ミュージカルの大作曲家ロイド=ウェッバー氏の夫人。夫妻は名牝ダー・レ・ミ Dar Re Mi のオーナーとしても既に成功していますが、ザ・フューグはそれ以来のトップ・クラスの競走馬に育ってきました。果たして凱旋門で再び頂点に立つか・・・。

この日のレパーズタウンはG戦が4鞍と大賑わい、あとはレース順に取り上げていきましょう。
最初は今年からGⅢに格上げされたBCジュヴェナイル・ターフ・トライアル・ステークス Breeders’ Cup Juvenile Turf Trial S (GⅢ、2歳、1マイル)。もちろんレース名の通り、勝馬には自動的にBC出走権が与えられる一戦。今回が4回目となりますが、これまでの3回は何れもエイダン・オブライエン厩舎の馬が勝ってきました。因みに去年の勝馬はバトル・オブ・マレンゴ Battle of Marengo 。
今年は僅かに4頭立て。独占状態のオブライエン厩舎からは2頭が参戦してきましたが、2対5の圧倒的1番人気に支持されたのは、ウェルド厩舎のフリー・イーグル Free Eagle です。前走8月の同じレパーズタウンの新馬戦を5馬身半で圧勝、今回も出走しているオブライエン厩舎のキングフィッシャー Kingfisher には8馬身差を付けていたのですから、ほぼ勝利は堅いと思われていました。
そのキングフィッシャーが今回はペースメーカー、フリー・イーグルは2番手から抜け出す筈でした。しかし実際に主導権を取ったのは、3番手を進んでいた2番人気(5対2)でジョセフ・オブライエンが選択したオーストラリア Australia 。何とフリー・イーグルに6馬身の大差を付けて一気にスターの座に躍り出ました。3馬身半差でキングズフィッシャーが3着。前回の8馬身差を逆算しても、オーストラリアの方が内容的には勝っていた勘定でしょう。

結局はエイダン・オブライエン師にこのレース4勝目(そして全勝)をもたらしたオーストラリア、デビュー戦こそ2着でしたが、2戦目にカラーの7ハロン戦で初勝利を記録したばかり。師によれば、未だ自分が競走馬であることを理解していないほどの若馬とのこと。今回の圧勝で、各ブックメーカーは一斉に来年のダービーの本命馬に挙げています。オッズは6対1。
これには血統的な魅力があるのは勿論で、父はガリレオ Galileo 、母はGⅠ8勝馬のウイジャ・ボード Ouija Board と泣く子も黙る様な名血。母は英愛オークス連覇、BCも連覇し、凱旋門3着、ジャパン・カップにも参戦して3着だったと言えば思い出されるファンも多いでしょう。凱旋門賞の話題が先行する昨今ですが、突如として来年のダービー候補出現に驚く土曜日でした。

続いてもGⅠのメイトロン・ステークス Matron S (GⅠ、3歳上牝、1マイル)。やや影が薄くなった印象ですが、12頭が出走。5対2の1番人気に推されたのは、フランスから遠征してきたケンホープ Kenhope 。GⅠ勝の実績はありませんが、前々走コロネーション・ステークスが2着、ロッシルド賞も3着と、もう一歩でGⅠのタイトルに手が届く位置にいる3歳馬です。

しかし馬場が重い上に、ペースはスロー。後方からレースを進めたケンホープは、後半伸びたものの4着までに終わりました。優勝は、意外にもブービー人気(25対1)に忘れられていた4歳馬のラ・コリーナ La Collina です。ゴール前の接戦を外から制し、半馬身差でこれも人気薄(14対1、7番人気)のリリーズ・エンジェル Lily’s Angel が入り、短頭差でセイ Say が3着という波乱。
地元ケヴィー・ブレンダーガスト厩舎、クリス・ヘイズ騎乗のラ・コリーナは、2歳時にフェニックス・ステークス(GⅠ)に勝って以来の2年振りの優勝。自身二つ目のGⅠ制覇となります。重馬場で行われた去年のこのレースでは5着、凡走はこれが唯一とも言えますが、ここまでは運に恵まれなかった存在でしょう。前走メルド・ステークス(GⅢ)、前々走プリティー・ポリー・ステークス(GⅠ)では共に6着に終わり、人気を落としていました。

レパーズタウンの最後はエンタープライズ・ステークス Enterprise S (GⅢ、3歳上、1マイル2ハロン)。7頭が出走し、未だこれが4戦目とキャリアの浅いジ・ユナイテッド・ステーツ The United States が2対1の1番人気に支持されています。
そのジ・ユナイテッド・ステーツ、期待に応えての逃げ切り勝ち。2着は半馬身差でイレヴァル Elleval 、3着が1馬身4分の1差でタンデム Tandem の順。

勝馬はエイダン・オブライエン、ジョセフ・オブライエンの黄金コンビで、2歳時はカラーの新馬戦(7ハロン)に勝ったのみ。3歳の今年はレパーズタウンの2000ギニー・トライアル(リステッド戦)の6着が始動、前走ティッペラリーの一般戦(9ハロン)に勝っての連勝でG戦初勝利。遅れて来たスターとなるか。

ところで土曜日はイギリスでも二つの競馬場で夫々2鞍づつのG戦が行われています。最初はヘイドック・パーク競馬場からスーペリアー・マイル Superior Mile (GⅢ、3歳上、1マイル)。これも今年からGⅢに格上げされた一戦で、余り馴染のあるレース名ではありません。馬場は good to soft 、所により soft の重い馬場。
2頭が取り消して8頭立て。前走グッドウッドでGⅢ(サラブレッド・ステークス)に勝ったモンティリッジ Montiridge が10対11の1番人気。

レースは前半がスローとなる流れ、優勝はブービー人気(22対1)の伏兵トップ・ノッチ・トント Top Notch Tonto という馬で、もちろんG戦勝は初めて。2馬身4分の1差で2着に入ったヘイ・デュード Hay Dude という馬も14対1の人気薄、首差でガブリアル Gabrial と大荒れの結果となりました。モンティリッジは5着敗退。
この結果に驚いたのはむしろ陣営の方。ブライアン・エリソン調教師、デール・スウィフト騎手も共にG戦勝ちは初体験で、残り2ハロンでスパートし、大差を付けたのが勝因のようです。
前走、前々走共にニューマーケットのハンデ戦で、夫々1着、2着と堅実に走っては居ましたが、エリソン師はあくまでもリステッド・クラスの馬とコメント。最早ハンデ・クラスは卒業の成績ですが、秋のニューマーケットで行われる名物ケンブリッジシャー・ハンデの候補と噂されています。華栗毛という見た目にも派手な馬体で人気の馬。

そしてヘイドックで行われる最大のレースが、ベットフレッド・スプリント・カップ Betfred Sprint Cup (GⅠ、3歳上、6ハロン)。馬場の悪化を嫌って3頭が取り消し、それでも13頭立て。ダイアモンド・ジュビリー・ステークス、ジュライ・カップとGⅠに連勝し、前走モーリス・ド・ギースト賞でも名牝ムーンライト・クラウド Moonlight Cloud の2着したレーサル・フォース Lethal Force が実績からも5対2の1番人気に支持されていました。

レースはヒーラート Heeraat の逃げで始まりましたが、やはり馬場が影響したかレーサル・フォースは動けず、2番人気(7対2)のゴードン・ロード・バイロン Gordon Lord Byron が先行から抜け出しての逆転勝ち。3馬身差でスレード・パワー Slade Power 2着、4分の3馬身でフーフ・イット Hoof It が3着に入り、レーサル・フォースは9着に終わりました。本命馬のクライヴ・コックス調教師は、“馬場を見て迷ったが、出走させた自分の誤り。馬には何の責任も無い”とコメントしています。
トム・ホーガン厩舎、ジョニー・ムルタ騎乗のゴードン・ロード・バイロンは特にタフな馬。前々走モーリス・ド・ギースト賞はレーサル・フォースに続く3着でしたが、前走はレパーズタウン競馬場でデスモンド・ステークス(GⅢ)に優勝しており、パターン・レース連勝でGⅠは二つ目となります。去年勝ったフォレ賞(GⅠ)の連覇が目標で、今後は1マイルのGⅠにもチャレンジしたいと意気軒昂な5歳馬ではあります。

一方ケンプトン競馬場は、英国では数少ないポリトラック・コースでのG戦が行われるコース。この日は standard という馬場発表で、最初はセプテンバー・ステークス September S (GⅢ、3歳上、1マイル4ハロン)から。
1頭取り消しがあり10頭立て。前走ジェフリー・フリーア・ステークス(GⅢ)に勝ったロイヤル・エンパイヤ Royal Empire が、ペナルティーの3ポンドを背負っても9対4の1番人気に支持されていました。

本命馬の相手は、同じ厩舎で4番人気(7対1)のプリンス・ビショップ Prince Bishop 。ゴール前はゴドルフィンの勝負服を付けた2頭の叩き合いとなり、赤い帽子(2番手が装着する色)のプリンス・ビショップが白い帽子(1番手の色)のロイヤル・エンパイヤを頭差抑えていました。3着は3馬身半差で去年のダービー2着馬メイン・シークエンス Main Sequence 。なお去年の凱旋門賞3着のマスターストローク Masterstroke も参戦していましたが、こちらは8着に終わっています。ポリトラックながら高レヴェルのメンバーが揃っていましたね。
サイード・ピン・スロール厩舎のワン・ツー・フィニッシュでしたが、選択権のある主戦騎手スーザは本命馬を選び、勝馬にはキーレン・ファロンが騎乗していました。プリンス・ビショップはドバイで走っていた6歳馬で、前走シーマ・クラシックでは着外に終わっています。

最後は2歳馬によるポリトラック・コースのG戦、サイレニア・ステークス Sirenia S (GⅢ、2歳、6ハロン)。ここは3頭が取り消して7頭立て。9対4の1番人気に支持されたブレイヴ・ボーイ Brave Boy は、ゴドルフィンの馬でやはりスーザが選んだ1頭で、ノッティンガムで2連勝してきた馬。

しかし優勝は、モールコム・ステークス(GⅢ)の勝馬ブラウン・シュガー Brown Sugar で、既にGⅢに勝った3ポンドのペナルティーにも拘わらず、短頭差でゴドルフィンのフィギュア・オブ・スピーチ Figure Of Speech (9対2、3番人気)を抑えての貫録勝ちです。4馬身差でシンプル・マジック Simple Magic が3着。
リチャード・ハノン厩舎、今回はパット・ダブスが騎乗したブラウン・シュガーは、前走モルニー賞(GⅠ)に挑戦して5着。今回はペナルティーも考慮されて4番人気(11対2)に留まりましたが、G戦勝の実力が伊達では無いことを証明した形です。

Pocket
LINEで送る

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください