凱旋門賞最終便
今週のヨーロッパは比較的地味なG戦の連続、土曜日はイギリスとフランスからのレポートです。
英国のエア競馬場、9月後半に行われるエア・ゴールド・カップが一般ファンの間では大変な人気ですが、これはハンデ戦。一日お祭りのプログラムの中、G戦は2歳牝馬によるファース・オブ・クライド・ステークス Firth Of Clyde S (GⅢ、2歳牝、6ハロン)一鞍でした。
馬場は good to soft 、所により soft と秋らしい湿ったコース、15頭が出走してきました。荒れることの多いレースで、前走グッドウッドの未勝利戦(6ハロン)を快勝したヴァローニア Valonia が9対4の1番人気に支持されています。このレースで入着した馬も何頭かがその後のレースで勝っており、改めてこの未勝利戦のレヴェルが高かったことに注目が集まっていました。
人気のヴァローニアが積極的に先頭でレースを進めましたが、好位追走の3番人気(11対2)コーラル・ミスト Coral Mist の末脚が勝り、ホク Hoku をハナ差抑えての優勝。首差でヴェンチュラ・ミスト Ventura Mist が3着で続き、3頭とは半馬身差でヴァローニアは4着に終わりました。
チャーリー・ヒルズ厩舎、トム・クィーリー騎乗のコーラル・ミストは、デビュー戦が先に紹介したグッドウッドの未勝利戦の3着で、その時はヴァローニアとは1馬身半差でした。そのあとヘイドックの6ハロン戦で初勝利を挙げ、今回が3戦目でのG戦初勝利となります。
続いてニューバリー競馬場からは3鞍のG戦。最初はアーク・トライアル The Arc Trial (GⅢ、3歳上、1マイル3ハロン5ヤード)から。馬場は soft 、所により good to soft とエアよりもう一段重いコースで、1頭が取り消しての6頭立て。
凱旋門賞トライアルとは名ばかりで、確かにローテーション的にはパリの決戦に間に合う勘定ですが、メンバー的にも凱旋門とは無関係と考えて良いでしょう。その中から10対11の断然1番人気に支持されたのは、ゴドルフィンのカッシアーノ Kassiano 。初めて聞く名前ですが、それもそのはず、ドバイで3連勝。前々走のドバイ・ワールド・カップでは9着に終わりましたが、前走ニューマーケットに登場して条件戦ながら快勝した4歳馬。
しかし、期待されたカッシアーノは全くの不振で最下位敗退。優勝は、最後方から追い込んだ2番人気(4対1)のカンボーン Camborne でした。1馬身4分の3差で3番人気(6対1)のギフテッド・ガール Gifted Girl が2着、ハナ差でメイン・シークエンス Main Sequence が3着。
ジョン・ゴスデン厩舎、ラヴ・ハヴリン騎乗のカンボーンは、8日前にドンカスター競馬場のハンデ戦に勝ったばかり。ゴスデン師は馬を8日間で2度使うのは異例のことで、余程馬が充実していたのでしょう。実際、ドンカスターでは勝ったものの、ここではメンバーが格上と見做されていたほどです。
カンボーンはもちろん凱旋門賞に向かう気はさらさら無く、ニューマーケットのセザレウィッチ・ハンデが目標となりそう。G戦に勝ったことでハンデは重くなりますが、オッズは10対1が出されました。
続いて2歳戦のミル・リーフ・ステークス Mill Reef S (GⅡ、2歳、6ハロン8ヤード)。2頭が取り消して7頭立て。7対2の1番人気には、前走ドーヴィルのリステッド戦を含めて2戦2勝のシャムション Shamshon と、リステッド戦を含めてライポンで2連勝中のサプリカント Supplicant が並んでいました。
伏兵(20対1、7番人気)ラフォード Rufford が逃げ、これを捉えたのが人気の一角サプリカント、ラフォードに4分の3馬身差を付けていました。半馬身差でホット・ストリーク Hot Streak が3着に入り、シャムションは5着敗退で初黒星が付きました。
勝馬サプリカントと2着ラフォードは、共にリチャード・ファヘイ厩舎。ファヘイ師のワン・ツー・フィニッシュです。勝馬に騎乗したトニー・ハミルトンは仕掛ける際にムチを落とすアクシデントがありましたが、それにも拘わらずの快勝。3走前にはモールコム・ステークス(GⅢ)に挑戦して5着しており、ここは格上だったと言えるでしょうか。
次走はミドル・パーク・ステークスの予定ですが、ファヘイ師のミスとかで登録を失念。止む無く追加登録料を支払っての参戦となりそうです。
ニューバリーの最後はワールド・トロフィー World Trophy (GⅢ、3歳上、5ハロン34ヤード)。1頭取り消しがあり13頭が出走してきましたが、この時期としては中々の好メンバーが参戦。人気も割れ、ここ3戦ハンデ戦で2着が続いているステップス Steps と、前走ナンソープ・ステークス(GⅠ)6着のティックルド・ピンク Tickled Pink が4対1で1番人気に並んでいました。
しかし人気両頭は何れも凡走、ティックルド・ピンク6着、ステップス10着と波乱に終わり、優勝は3番人気(9対2)のマーレク Maarek でした。1馬身差で4番人気(7対1)のヨーク・グローリー York Glory が2着、頭差で5番人気(12対1)の古豪キングスゲート・ネイティヴ Kingsgate Native が3着。1番人気の2頭が凡走した他は順当と言う結果に終わっています。
ダイヤモンド・ジュビリー9着を最後にデヴィッド・ネーグル厩舎からバーナード・レイラ―厩舎に転じ、その初戦となった前走カラー競馬場のルネサンス・ステークス(GⅢ)では11着と大敗したマーレクでしたが、今回はデクラン・マクダナーとの初コンビでの快勝。重馬場を滅法得意とする馬で、乾燥した夏場は成績が奮いませんでしたが、秋の雨シーズンを迎えて本来の調子を取り戻してきたようです。
このあとはロンシャンのアベイに挑戦し、去年勝ったアスコットのブリティッシュ・チャンピオン・スプリント(GⅡ)2連覇を目指すことになるでしょう。
さてここからはフランスのロンシャン競馬場。こちらも soft と雨に恵まれ、G戦は2鞍。先ずは2歳馬のシェーヌ賞 Prix des Chenes (GⅢ、2歳牡せん、1600メートル)から。
僅か5頭立て。6対5の1番人気に支持されたエクトー Ectot が、逃げるアンダー・ザ・レーダー Under the Radar の4番手から鮮やかに抜け出し、エリブティック Elliptique を3馬身差引き離して期待に応えました。2馬身半差でダライビ Daraybi が3着。
エリー・ルルーシュ厩舎、グレゴリー・ブノア騎乗のエクトーは、2戦目にシャンティーで未勝利を脱し、前走ドーヴィルでリステッド戦に優勝。着実にランクを上げながらの3連勝で、G戦勝馬のタイトルを手にしました。間違いなく来年のクラシックに乗ってくる存在でしょう。
土曜日最後のレポートは、プランス・ドランジュ賞 Prix du Prince d’Orange (GⅢ、3歳、2000メートル)。凱旋門賞への最後のステップと目されるレースですが、3歳馬限定、距離も本番より2ハロン短い2000メートル戦とあって、現実にはここからが本番に勝った例は余りありません。
今年も6頭立てと少頭数でしたが、仏ダービー馬インテロ Intello の参戦で俄然注目を集めた形。もちろんダービー馬が2対5の圧倒的1番人気。仏ダービー2着のモランディ Morandi が3対1の2番人気で、2頭の力関係を確認するうえでも重要なトライアルとなりました。
結果は、ペースメーカーを務めるパーン Paan の逃げを3番手で待機したインテロの貫録勝ち。2着モランディとの着差は4分の3馬身でしたが、オリヴィエ・ペリエ騎手はムチには手も付けない持ったままの圧勝。半馬身差でジーイ Zhiyi が3着。
ウェルザイマー兄弟の所有、アンドレ・ファーブル厩舎のインテロについては、オーナーと調教師の間で評価が微妙に異なります。オーナー・サイドは、2400メートルへの不安がありながらも、凱旋門賞に向かいたい意向。
一方ファーブル師は、距離の延長は不安と言うより疑問を抱いている様子で、むしろ2000メートル路線のチャンピオン・ステークスを狙う構え。最終的には両者の会議で決定されますが、取り敢えず凱旋門賞のオッズは10対1に上がりました。
これでほぼ凱旋門賞のトライアルは終了。2週前のオッズではオルフェーヴルが1番人気、というのが大方のブックメーカーの見方となっています。
以下、トレーヴ Treve 、ノーヴェリスト Novellist とヨーロッパ勢が続き、4番手も日本のキズナ。そのあとにルーラー・オブ・ザ・ワールド Ruler of the World 、フリントシャー Flintshire と来て、インテロがその次と言う人気。
日本のエース2頭対ヨーロッパ勢、それも地元フランスとドイツにアイルランドが中心で、低迷が続く競馬の発祥国イギリスは蚊帳の外というのが現状でしょう。
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