スーパー・サタデー(ニューヨーク編)

今年のブリーダーズ・カップは、10月31日と11月1日の二日間サンタ・アニタ競馬場で開催されます。それから逆算すると今週は5週前、アメリカの東西で重要なトライアルが行われます。
ヨーロッパのトライアルと違って、ほぼ全てがGⅠ戦であること、勝馬には登録料や遠征費用を全て負担してくれる優先出走権が付与されるのが特徴で、土曜日は何とGⅠだけでも10鞍が行われる正に「スーパー」サタデーとなりました。
一つの記事に全てを盛り込むのは大変だし、読む方も煩わしいでしょうから、今年は東と西を分けてレポートすることにしました。

ということで先ずはベルモント・パーク競馬場のG戦6鞍。一つを除いて全てGⅠ戦ですが、最初はGⅡのケルソ・ハンデキャップ Kelso H (GⅡ、3歳上、8ハロン)。fast のダート・コースに7頭が出走し、前走ウッドワード・ステークスでGⅠホースとなったイッツマイラッキーデイ Itsmyluckyday が3対5の1番人気。
2番人気(5対1)のリヴァー・ロックス River Rocks 、イッツマイラッキーデイ、同じく2番人気ブラデスター Bradester の3頭が雁行する速い流れとなり、4番手に待機した5番人気(9対1)のヴァイジャック Vyjack が3頭を外から捉える形で直線に入ると、逃げたリヴァー・ロックスを1馬身抑えて優勝。2馬身半差でイッツマイラッキーデイは3着に終わりました。
ルディー・ロドリゲス厩舎、イラッド・オルティス騎乗のヴァイジャックは、去年のジェローム・ステークス(GⅡ)とガッサム・ステークス(GⅢ)に勝った4歳馬で、前走フォアゴ―・ステークス(GⅠ)ではスタートで出遅れての3着。スタートに難点のある馬で、今回はスタートを完璧に決めたことで結果に繋がったと言えるでしょう。

ここからはGⅠ戦5連発で、その最初はベルデイム・ステークス Beldame S (GⅠ、3歳上牝、9ハロン)。この日のGⅠでは唯一ブリーダーズ・カップ優先出走権の対象レースではありませんが、7頭が出走し、CCAオークスとアラバマ・ステークス覇者ストップチャーシングマリア Stopchargingmaria が3対2の1番人気。
レースは大外7番枠スタートのベル・ギャランティー Belle Gallantey が飛び出し、後続を離し気味に逃げると、ジョッキーが3~4コーナー中間で後続を確認する余裕を見せ、直線では独走。2番手を追走していた本命ストップチャージングマリアに何と8馬身4分の1差を付ける圧勝です。2馬身4分の1差で6番人気(8対1)のエンドレス・チャッター Endless Chatter が3着。
ケルソに続いてG戦ダブルとなるルディー・ロドリゲス厩舎、ホセ・オルティス騎乗のベル・ギャランティーは、クレーミング戦出身の5歳馬で、7月12日にデラウェア・ハンデに勝ってGⅠホースになっていました。ただ、前走8月22日のパーソナル・エンサイン・ステークス(GⅠ)では勝馬から25馬身以上離される6着と敗退しており、今回のリバウンドは想定外だったと言えるかもしれません。

続くフラワー・ボウル・ステークス Flower Bowl S (芝GⅠ、3歳上牝、10ハロン)からの4レースは、何れも各ジャンルでのBCシリーズの対象レースで、何れも勝馬には優先出走権が与えられます。firm の芝コースに1頭が取り消して8頭立て。今期未勝利ながら、徐々に調子を上げているGⅠホースのステファニーズ・キッテン Stephanie’s Kitten が6対5の1番人気。
レースは並んだ2番人気(9対2)のブラジル馬ヴィヴァ・ラファエラ Viva Rafaela の逃げで始まり、ステファニーズ・キッテンは4番手待機。一旦は5番手に控える場面もありましたが、第4コーナーでは外を回って進出、逃げ馬を捉えて安全圏内に。5番手から追い上げた2番人気の一角アバコ Abaco に1馬身4分の1差を付けて人気に応えました。首差でヴィヴァ・ラファエラが3着逃げ粘り。
チャド・ブラウン厩舎、ジョン・ヴェラスケス騎乗のステファニーズ・キッテンは、2011年のアルシバイアディーズ・ステークス、去年のジャスト・ア・ゲーム・ステークスに続き三つ目のGⅠ制覇。今期は5戦目にして初勝利となります。前走ビヴァリー・D・ステークス(芝GⅠ)、前々走ダイアナ・ステークス(芝GⅠ)は共に2着で、照準のBCに向けて調子を上げてきた印象です。BCでは2歳時にジュヴェナイル・フィリーズ・ターフ(芝GⅡ)に勝っており、今年のフィリー・アンド・メアーズ・ターフで2勝目を飾れるか?

次がBCスプリントの対象となるヴォスバー・ステークス Vosburgh S (GⅠ、3歳上、6ハロン)。8頭が出走し、今期フォアゴとヴァンダービルトという二つのGⅠ戦を制して短距離戦線の最前線に位置しているパレス Palace が6対5の1番人気。
2番人気(9対2)の一角ハッピー・マイ・ウェイ Happy My Way が逃げ切りを図りましたが、2番手を追走した4番人気(5対1)の一角プライヴェート・ゾーン Private Zone と3番手に付けた6番人気(15対1)ダッズ・キャップス Dads Caps が直線で抜け出しての叩き合い。一旦は外のダッズ・キャップスがリードを奪いましたが、内のプライヴェート・ゾーンが差し返し、最後は首差でマッチレースを制しました。本命パレスも5番手から追い上げたものの1馬身半届かず3着に終わっています。
勝ったプライヴェート・ゾーンは、マーチン・ペドローザ騎手共々ヴォスバー2連覇。ただ去年はダグ・オネイル師の管理下でしたが、今年はこれがGⅠ初勝利となる31歳のアルフレッド・ヴェラスケス厩舎が登録された厩舎。このままヴェラスケス師の元に留まってBCに向かうのか、従前のオネイル厩舎に戻るのかは、オーナーの判断次第という微妙な立場のようです。いずれにしてもパレスとの再対決で短距離チャンピオンの座を確定したいところ。前走パークスのターフ・モンスター・ハンデ(芝GⅢ)4着が今期デビューだったプライヴェート・ゾーン、これが未だシーズン2戦目というのがフレッシュな強みになりそう。

この日四つ目のGⅠ戦は、BCターフのトライアルとなるジョー・ヒルシュ・ターフ・クラシック Joe Hirsch Turf Classic (芝GⅠ、3歳上、12ハロン)。7頭の出走馬全てが芝のGⅡ戦以上の勝馬という好メンバー。同じ馬主、同じチャド・ブラウン厩舎で何れもGⅠ馬、共にキッテンズ・ジョイ Kittne’s Joy 産駒というビッグ・ブルー・キッテン Big Blue Kitten とリアル・ソリューション Real Solution がカップリングされて9対5の1番人気。GⅠ2連勝中のメイン・シークエンス Main Sequence も同じオッズで僅かの差の2番人気、というか3番人気で続きます。
4番人気(3対1)のイマジニング Imagining が逃げ、リアル・ソリューションが2番手、ビック・ブルー・キッテンは後方2番手で進む展開。直線、イマジニングが良く粘りましたが、5番手から外を回ったメイン・シークエンスと、4番手から馬群を割って追い込む5番人気(7対1)トゥワイライト・エクリプス Twilight Eclipse の差し脚比べ。最後の叩き合いで両者が接触するアクシデントがありましたが、外のメイン・シークエンスが首差でトゥワイライト・エクリプスに先着。1馬身差でイマジニングが3着に粘りました。2着入線のホセ・レズカノ騎手が異議を申し立て審議となりましたが、正面のパトロールフィルムを見れば勝馬が内に切れ込むと同時に2着馬も外に寄れており、有利不利はお互い様と判定されて着順通りで確定しています。ビッグ・ブルー・キッテンは4着、リアル・ソリューションは6着と共に敗退。
グレアム・モーション厩舎、ラジーヴ・マラー騎乗のメイン・シークエンスは、ユナイテッド・ネーション・ステークス、ソード・ダンサー・ステークスに続いてGⅠ戦に3連勝。英国ダービー2着という実績を引っ提げてアメリカに転戦、これで3戦無敗でBCターフにアメリカ代表として臨むことになります。現役ヨーロッパ勢との対決が楽しみであると同時に、ダービーを介して世代間の実力評価にも繋がる興味あるチャレンジャーですね。

スーパー・サタデーのベルモント、最後のトライアルはもちろんBCクラシックに直結するジョッキー・クラブ・ゴールド・カップ Jockey Club Gold Cup (GⅠ、3歳上、10ハロン)。BC時代以前からクラシック三冠に匹敵する名声を維持してきた大レースでもあります。12頭が登録してきましたが、パドックでの放馬があってプレイヤー・フォー・リリーフ Prayer for Relief が取り消して11頭立て。押し出されるようにベルモント・ステークスに勝った3歳馬トーナリスト Tonalis が3対1の1番人気に支持されていました。
しかしレースは波乱。大外発走のビッグ・カザノヴァ Big Cazanova が逃げ、トーナリストは後方2番手で待機。アクシデントが起きたのは向正面で、2番手を追走していた4番人気(5対1)のモレノ Moreno が急に進路を内に取ったため、後ろを走っていた2番人気(3対1)のウイッケド・ストロング Wicked Strong が落馬。落ちたラジーヴ・マラー騎手を避けるために影響を被った馬が何頭もあったようです。レースは空馬も含めて進行し、直線半ばで馬群を割りながら伸びた本命トーナリストが突き抜け、5番手を進んでいた番人気(4対1)ジーヴォ Zivo に1馬身4分の3差で優勝。更に2馬身差でブービー人気(52対1)のロング・リヴァー Long River が3着。4着で入線したモレノは、落馬の原因と判定されて最下位に降着となり、5着以下が夫々繰り上がる結果となりました。マラー騎手は念のため病院に運ばれています。
クリストフ・クレメント厩舎、ジョエル・ロザリオ騎乗のトーナリストは、ベルモントを制したあとジム・ダンディーがウィッケド・ストロングの2着、トラヴァースでもヴィー・イー・デイ V.E.Day (今回は4番人気で5着)、ウィッケド・ストロングの3着に敗れていましたが、負けの無いベルモント競馬場で一気に借りを返した形です。2戦目に装着して以来となるブリンカーを復活させたことでレースへの集中力が増した由。3歳馬がゴールド・カップを制したのは2009年のサマー・バード Summer Bird 以来、BCクラシックも制覇すれば、3歳と古馬を含めたチャンピオン中長距離馬に君臨することは間違いないでしょう。

以上でベルモントを終え、カリフォルニアを含む続きは後ほど稿を改めます。

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