読売日響・第531回定期演奏会
11月の読響定期は極めてオーソドックスなプログラム、生誕200年を迎えたワーグナーのライヴァル、ブラームスにスポットを当ててきました。
定期のあとの名曲もオール・ブラームスで、こちらは小林研一郎のタクト、定期とは正反対の個性を持つ指揮者のブラームス聴き比べが11月の読響の目玉のようです。で、定期。
洋酒好きの善男善女を迎える臨時施設が展開するホール前、人垣を縫って会場に入りました。以下のプログラム。
ブラームス/ピアノ協奏曲第2番
~休憩~
ブラームス/交響曲第3番
指揮/上岡敏之
ピアノ/デジュ・ラーンキ
コンサートマスター/デヴィッド・ノーラン(ゲスト)
フォアシュピーラー/鈴木理恵子
ちょっとサプライズもあった公演で、コンマスは退任したはずのノーラン。ヴィオラのトップには、これまた元首席の生沼晴嗣氏が着座。何か昔を思い出す光景でした。
昔と言えばソロを弾いたラーンキ。デビューして間もない頃はシフ、コチシュと並んでハンガリーの若手三羽烏として登場したピアニスト。安房にあった会社の独身寮で一人寂しくFM音源で彼のライヴ録音に耳を傾けたものです。
悠々と登場するラーンキ、その頭は早や白く、往年の面影を知る者にはかなりの驚きでした。エッ、これがラーンキ! 自分が老いたのも忘れて頻りに感心。
と見るや、後に続く上岡にもビックリ。トレードマークだった「アレ」がありません。単純に後退したのか、今までが演出だったのかは知る由もありませんが、音楽が始まる前からサプライズにやや緊張気味のメリーウイロウです。
しかしそれは外見だけ。前半の第2協奏曲は音楽的にも実に落ち着いた演奏で、極めて自然なブラームスを満喫できました。ピアノも過度に突出はせず、オケもソロに寄り添うように付けていきます。
第3楽章のチェロ・ソロも控え目。野太い音とは正反対の、繊細で美しい歌が魅力的。私の席からは奏者の足元しか見えず、はて今日のトップは毛利? それともゲストかしらと思いながら聴いていました。
ピアノが片付けられ、後半のシンフォニーになって漸くメンバーの顔を拝めます。見るとチェロはゲストと思われる眼鏡の若手。ハテ何処かで見たような、と思っていましたが、演奏会が終わってから判明しました。
帰路、偶然に鉢合わせしたY夫人から、“宮田君のチェロも素敵だったわねェ~”と言われて納得。“眼鏡掛けてるから判らなかったんでしょ。そう、宮田大よ”。なるほど。これも交響曲の途中で気が付きましたが、フルートのトップは新日の白尾彰氏でしたよね。他にも何名か見慣れぬ顔もチラホラ。この夜の読響はゲストの大量出演でした。
協奏曲では大人しい伴奏に終始した上岡。交響曲では上岡節が炸裂、客席の喝采を浴びます。
特に「らしさ」が爆発したのが第1楽章で、音量をやや控えめに開始した提示部、繰り返しに入ると俄然テンポもパッションもギア・アップ。ティンパニの強烈な一撃を交え、最初とは全く異なる提示部を繰り出すのでした。
以下も同様。基本に pp の繊細な弱音をベースとし、ダイナミックな個所では思い切った切り込みを披露。ために、時折登場するトロンボーンが却って活きて来るという「仕掛け」が施されることになります。
この辺りが評価の分かれ目になるところで、好きな人にはたまらない「個性」となりますが、「衒い」と取る聴き手もあるでしょう。
上岡はオペラ畑で評価を得ているだけに、シンフォニーでも見せ場・聴かせ所をどうしても作り出してしまう。私は彼のようなブラームスも面白くて好きですが、良い意味でハッタリに満ちた解釈と言えましょうか。以前にマーラーを聴いた時にも思いましたが、彼は日本のメンゲルベルクでしょう。
ということで「期待通り」のブラームス。上岡の資質はピン・ポイントで後期ロマン派が最適ですが、そろそろ現代音楽も聴いてみたいところ。もちろん現代と言っても最新のものではなく、レトロな現代音楽。例えばベルクとかバルトークとか、思いもよらないサプライズが待っているような気がしてなりませんね。
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