2014年最初のGⅠ戦

2月に入って最初の土曜日、アメリカ競馬で今年最初のGⅠ戦が行われました。その前に各地で行われたG戦をレポートして行きましょう。

最初はアケダクト競馬場から、先ずトボガン・ステークス Toboggan S (GⅢ、3歳上、6ハロン)。ダートの内コースを使って行われる短距離戦で馬場は fast 、2頭が取り消して6頭立て。出走すれば1番人気になるはずのGⅠ馬(ストラッピング・グルーム Strapping Groom)が取り消したため、6対5の1番人気になったのは、前走一般ステークスで2着したダッズ・キャップス Dads Caps です。
そのダッズ・キャップス、前走同様にスタートからハナに立って逃げ切りを図りましたが、2番手を追走した2番人気(5対2)のキャンディーマン・イー Candyman E がゴール直前で鋭く伸び、本命馬を4分の3馬身交わしていました。残り100ヤードでは逃げ切り確実と見えましたが、最後の最後での逆転です。3着には2馬身半差で後方から追い込んだノン・ストップ Non Stop の順。
デヴィッド・ヤコブソン厩舎、チャールズ・ロペス騎乗のキャンディーマン・イーは、実は前走の一般ステークス(スプーキー・モルダー・ステークス)でダッズ・キャップスを差し切った7歳せん馬。前走のビデオテープになった形です。前々走ベルモント競馬場のクレーミング戦に勝ってマイケル・マレイナ厩舎からヤコブソン師の元に転じたばかり、これで3連勝、環境が変わってステークス連勝となりました。ステークスは4勝目で、G戦は初勝利。一昨年のトボガン・ステークスでは4着しており、その時は故障を発症して暫く休養を余儀なくされた経緯があります。

続いては、お正月のジェローム・ステークスに次いで二つ目となるクラシック・トライアルのウィザーズ・ステークス Withers S (GⅢ、3歳、8.5ハロン)。ダービーへのポイント対象レースで、4着までの馬に夫々10-4-2-1ポイントが加算されます。6頭が出走、2頭のニューヨーク産馬が人気を分け合っていました。前走2戦目で2着以下に14馬身半差を付けて未勝利を脱したアンクル・サイ Uncle Sigh と、前走条件ステークス(デーモン・ラニョン・ステークス)をやはり16馬身以上の大差で制した無敗のサムラート Samraat 。共にオッズはイーヴンで、前者が僅かに勝っての1番人気です。
レースも人気通りのマッチ・レースに終始。1番枠の利で先頭に立ったアンクル・サイと、これを終始半馬身差で追走したサムラートが終始ビッシリと競り合い、最後は外を通ったサムラートが1馬身差で優勝。2着アンクル・サイと3着スコットランド Scotland との差は10馬身4分の1差にまで広がっていました。
リチャード・ヴァイオレット厩舎、ホセ・オルティス騎乗のサムラートは、これで4戦4勝と無傷をキープ。一方敗れたアンクル・サイは3戦1勝2着2回ながら勝馬との実力差はほとんど無いことを証明しました。2頭のライヴァル関係はダービーまで続くでしょう。このあとニューヨークのダービー路線はガッサム(GⅢ)、ヴッド・メモリアル(GⅠ)と続いて本番へ。ヴァイオレット師によると、ガッサムはパスしてウッド・メモリアルに向かう可能性が高いということでした。

次にタンパ・ベイ・ダウンズ競馬場を見ていきましょう。こちらもクラシックのトライアルとなるサム・F・デーヴィス・ステークス Sam F. Davis S (GⅢ、3歳、8.5ハロン)から。去年はダービー・ポイントの対象レースでしたが、今年は対象外。それでも8頭が参戦し、前走一般ステークスで2着惜敗のノーブル・コーナーストーン Noble Cornerstone が9対5の僅かな差で1番人気。
しかし本命ノーブル・コーナーストーンはスタートを失敗、最後方からの競馬を強いられ、結局は7着と競馬になりませんでした。先手を取ったのは3番人気(7対2)のカズン・スティーヴン Cousin Steven 、直線でも良く粘りましたが、後続馬が次々と襲い掛かり、ゴール前は4頭が一線の大混戦。最後は前半2番手から一旦4番手に下げた5番人気(12対1)のヴィンセレモス Vinceremos が内で我慢、ラチ沿いから脚を伸ばし、前半6番手から4頭の大外を急襲した2番人気(本命と同じ9対5)のハープーン Harpoon をハナ差凌いでいました。4分の3馬身差でカズン・スティーヴンが3着に粘り、カナダから参戦のマタドア Matador は首差で4着惜敗。1・2着は共にトッド・プレッチャー師の管理馬で、陣営では同着が理想だったでしょう。
エドガー・プラード騎乗、プレッチャー厩舎では人気が無い方だったヴィンセレモスは、デビュー戦2着に続く前走1月4日のガルフストリームで僅差の初勝利。もちろんステークス、G戦とも初勝利でクラシック戦線に名乗りを上げてきました。この後は50ポイントを目指してタンパ・ベイ・ダービー(GⅡ、3月8日)に向かうのが順当なルートでしょう。この日発表された三冠の登録馬、史上最高の42頭をノミネートしたプレッチャー厩舎ですから、管理馬のローテーションは多様にならざるを得ないでしょうね。

続いて古馬の芝戦線、タンパ・ベイ・ステークス Tampa Bay S (芝GⅢ、4歳上、8.5ハロン)を取り上げましょう。馬場は yielding と渋く、3頭が取り消して9頭立て。前走12月28日に同じく yielding の同じコースで行われたエル・プラード・ステークスで1番人気になり2着惜敗のアイルランド産馬サルト Salto が1対2の断然1番人気に支持されていました。
レースは大外からメロウ・フェロー Mellow Fellow がハナを奪って逃げ、サルトは3番手追走。直線で前を交わし勝利目前でしたが、前半最後方から内ラチ沿いに徐々に進出した5番人気(14対1)のガイズ・リワード Guys Reward が最終コーナーで巧みに外に持ち出すと、直線で一気の末脚を爆発、本命馬を並ぶ間も無く1馬身半差し切っての逆転劇です。4分の3馬身差でゴールデン・セーブル Golden Sabre が3着。
デール・ロマンス厩舎、アブデイエル・ハエン騎乗のガイズ・リワードは前走本命馬と同じエル・プラードでは10着に敗れていた馬、人気が無かったのも当然でしょう。勝鞍は19か月前のファイアクラッカー・ハンデ(芝GⅡ、チャーチル・ダウンズ)以来で、ステークスは3勝目、G戦は2勝目となります。G戦では他に5回入着したこともある7歳馬、6連敗に終止符を打ちました。

東海岸からはもう一鞍、同じフロリダのガルフストリーム・パーク競馬場で行われたのが、やはりクラシックに繋がるハッチェソン・ステークス Hutcheson S (GⅢ、3歳、7ハロン)。去年のGⅡから格下げされた一戦です。当初10頭の登録がありましたが、プレッチャー厩舎のヴィンセレモス Vinceremos がタンパ・ベイに回った(そしてサム・デーヴィスを快勝)ため取り消しての9頭立て。前走ガルフストリーム・パーク・ダービー(一般ステークス)で2着惜敗のワイルドキャット・レッド Wildcat Red が2対1の1番人気に支持されていました。
レースはギャンブラーズ・ゴースト Gambler’s Ghost の逃げ、2番手を3頭が争う展開となりましたが、3番手の外から徐々に進出した本命ワイルドキャット・レッドが第4コーナーで逃げ馬に並び掛けると、直線は独走。2着シー・ジー C. Zee に4馬身4分の3差を付ける圧勝でした。半馬身差で2番人気(3対1)パブロ・デル・モンテ Pablo Del Monte が3着。
ホセ・ガロファーロ厩舎、ハヴィエル・カステラノ騎乗のワイルドキャット・レッドは、これで5戦3勝2着2回。2歳の終わりにガルフストリームのジュヴェナイル・スプリントでは1着で入線しながら進路妨害で2着に降着となっていました。短距離血統ながら調教やレースでは脚を貯める能力があり、陣営では長い距離も行けると判断。次走はファウンテン・オブ・ユース・ステークス(GⅡ)を予定しており、結果次第でダービーへのチャレンジも視野に入れているようです。

最後に今年最初のGⅠ戦が組まれているサンタ・アニタ競馬場。G戦は2鞍ですが、先に行われたのがGⅠの第32回ラス・ヴァージェネス・ステークス Las Virgenes S (GⅠ、3歳牝、8ハロン)でした。去年に比して1か月前倒しで施行されるオークス・トライアルです。1頭取り消して7頭立て、2戦2勝でハリウッド・スターレット(GⅠ)覇者のストリーミング Streaming がイーヴンの1番人気、当然な流れでしょう。
ダッシュが良かったのは2番人気(5対2)のテイスト・ライク・キャンディー Taste Like Candy 、スタートからハナを主張して先頭に立ちますが、2番手に付けた3番人気(9対2)ファッション・プレート Fashion Plate が行くなら今と向正面で先頭を奪います。本命ストリーミングは3番手から。直線、ストリーミングが動いて外から逃げ馬を捉えに掛かりますが、ファッション・プレートの末脚は衰えず、結局は半馬身差で本命の追撃を凌ぎ切っての逆転優勝。4分の3馬身差で最後方からアレスーザ Arethusa が3着に追い込みました。
サイモン・キャラガン厩舎、ゲーリー・スティーヴンス騎乗のファッション・プレートは、前走12月29日に3戦目で未勝利を脱した新星。これで4戦2勝、もちろんステークスもG戦も初挑戦でのGⅠタイトルを獲得しました。父オールド・ファッションド Old Fashioned にとってもGⅠ初勝利となります。この後は4月初旬に予定されているサンタ・アニタ・オークス(GⅠ)からケンタッキーを目指す予定の由。

そしてGⅠの直後に行われたのが、古馬の芝コースで行われるマイル戦、アルカディア・ステークス Arcadia S (芝GⅡ、4歳上、8ハロン)。去年は3歳上という条件でしたが、今年からは4歳上。今の時期には3歳馬の参戦は見込めませんから、レースの性格には影響しないでしょう。firm の馬場に3頭が取り消しての7頭立て。アルゼンチン出身の2頭が人気を分け合っていました。僅かの差で5対2の1番人気に支持されたのは、アルゼンチンのGⅠ馬で去年のこのレースの勝馬サジェスティヴ・ボーイ Suggestive Boy 。去年はそのあとフランク・E・キルローマイル(芝GⅠ)を勝ってアメリカでもGⅠ馬となりましたが、今回はそれ以来となる11か月の休み明けが死角でしょう。人気では互角のウイニング・プライズ Winning Prize もアルゼンチンでGⅠに3勝した強豪で、前走サイテーション・ハンデ(芝GⅡ)では逃げて3着。アメリカでの2勝目を狙います。
レースは3番人気(5対1)の一角リーガリー・レディー Regally Ready が逃げ、後続を一時は5馬身も引き離す逃げ作戦。これまで逃げに徹してきたウイニング・プライズは2番手に控え、久し振りのサジェスティヴ・ボーイは4番手からの競馬。直線、大逃げのリーガリー・レディーが懸命に粘るところ、徐々に差を詰めていたウイニング・プライズが遂にこれを捉えると、3番手から伸びたトムズ・トリビュート Tom’s Tribute に1馬身半差を付ける快勝。リーガリー・レディーも最後まで頑張っていましたが首差の3着に粘り、サジェスティヴ・ボーイは久々が堪えたのか5着に終わりました。
アメリカではニール・ドライスデール師が管理、ラファエル・ベハラノが騎乗したウイニング・プライズは、これが念願のアメリカでのG戦初勝利。デル・マーでのデビューを含めアメリカでは4戦2勝となります。今回はこれまでの逃げから控えて先行する競馬に変更したのが奏功したとのこと。先輩格のサジェスティヴ・ボーイに倣い、フランク・キルロー・マイルでアメリカ初GⅠ制覇を目指すでしょう。しかし同馬は引退後はアルゼンチンに戻って種牡馬となることが決定しているようで、大きなアメリカ土産をゲットできるかが見所となります。

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