読売日響・第534回定期演奏会

今月2本目の演奏会カテゴリーです。
昔から「ニッパチ」と言って商いの少ない2月ですが、私も予定していたコンサートは4回だけ。その最初、ミロQの晴海演奏会はメンバーの都合で5月に延期になってしまいました。そして何故か21日は当読響定期と鶴見のSQSが見事にバッティング、どちらにするか迷った挙句にサントリー行を選択した次第。決め手は初めてナマ体験することになるリゲティ作品でした。
私は、基本的には演奏家より音楽作品を第一義として選ぶスタンスですから、ここは基本に立ち還った形です。

読響2月定期は指揮者もソリストも初めて聴く人、共に初物という興味もありました。プログラムは以下のもの。

リゲティ/ルーマニア協奏曲
ブルッフ/ヴァイオリン協奏曲第1番
     ~休憩~
バルトーク/管弦楽のための協奏曲
 指揮/クレメンス・シュルト
 ヴァイオリン/セルゲ・ツィンマーマン
 コンサートマスター/デヴィッド・ノーラン(ゲスト)
 フォアシュピーラー/鈴木理恵子

今回は本題に入る前、ホールの照明が落とされ、バッハのアリア(組曲第3番から)が演奏されました。もちろんこの2日に胃癌で亡くなったゲルト・アルブレヒトを追悼するためです。
アルブレヒトには、オケも私も随分お世話になりました。読売日響が今日あるのは、全くアルブレヒトの功績でしょう。アルブレヒト前の同オケを知る人は、その一言で納得されるはず。私が定期会員に戻ってきたのは、故人がいたからに他なりません。

またアルブレヒトは多彩なレパートリーでも聴き手を驚かせました。思い出せば限りがありませんが、パルシファルやヤナーチェク、ヘンツェなどのオペラ作品は第7代常任指揮者が残した金字塔と言えるでしょう。
暫し合掌。

さて今回は新しい指揮者の紹介から。1982年にブレーメンで生まれたドイツの若手で、デュッセルドルフ音楽院でヴァイオリンを学んだ由。指揮者としては2010年にロンドンのコンクールで優勝、1年間ロンドン響のアシスタントとして研鑽を積んでいます。
これまでオペラとコンサート、主にドイツのオーケストラを指揮して認められ、今回は読響と初共演だそうです。初来日かどうかはプログラムには書かれていませんでした。

正直なところ、一度聴いただけで器は測り兼ねます。背が高くハンサム、指揮棒もスコアも使って指揮し、その身振りは大きめ。第一印象では、特別に惹き付けらるものは残念ながらありませんでした、というのが正直な感想です。未だ未だ経験と勉強が必要でしょう。

聴きたかった冒頭のリゲティは、去年のプロムスでヤンソンス/バイエルン放響がフィナーレをアンコールした作品。それ以来世界中で話題沸騰になっている、というのは嘘で、私故人の中でだけブレイクしている佳曲でもあります。
全体は4楽章から成りますが、休み無く通して演奏される15分弱のコンサート・オープナー。リゲティと言えば12月定期のロンターノや、アトモスフェール、ヴォルミーナなどの難解な音楽で知られますが、こうした耳に馴染み易い民族的な側面もあるのです。

編成も2管が主体。金管はトロンボーン以下の重低音は用いません。打楽器は二人ですが、中心たるティンパニは無し。第4楽章中程にはヴィオラ以下のピチカートがティンパニを模す効果を要求する個所がありますが、聴いていて余り効果的には感じられませんでしたが、ネ。
面白いのは3本使われるホルンで、特に第3楽章と第4楽章の最終部で大活躍。共に1番が吹くパッセージを舞台裏で3番がエコーとして吹く場面があり、今回は久永重明氏が舞台上で1番を、主席代行の松坂隼が舞台裏で3番を受け持つという趣向。リゲティの指示では2本ともナチュラル・ホルンを使うよう指示がありますが、見た目では二人とも通常のバルブ・ホルンで代行していたようでした。
最終小節の1小節前、コンマスの中ハイポジションでの鳥を連想させるトリルに乗ってホルンの掛け合いがカデンツァを奏し、全奏の ffff が作品を断ち切るのですが、最後の一発が僅かに決まりませんでした。スケートなら減点対象かな。

続くブルッフを弾くツィンマーマンは、「ドイツ音楽界の期待を背負うヴァイオリンのサラブレッド」という触れ込みですが、名前から想像されるように、フランク=ペーター・ツィンマーマンの御子息。個人的には若手だと思っていたフランク=ペーターに、こんな息子がいたというのが驚きです。
当然父親に学んだのかと思うと、ヴァイオリンのてほどきは母親から受けたのだそうな。1991年生まれですから未だ22歳か23歳。堂々たる弾き振りでしたが、私にはやや線が細いようにも聴かれました。

最後はバルトーク晩年の傑作、もちろん最初のリゲティと併せてハンガリー・プログラムということでしょう。バルトークもリゲティも故郷を離れて国際人として活躍したという共通点もあります。
有名なオケコン、プログラムには第4楽章にショスタコーヴィチの引用があると書かれていましたが、私は最近ではレハールの「メリー・ウイドウ」の引用と見做した方がより相応しい考えるようになってきました。レハールもまたハンガリーの作曲家、これを否定するトロンボーンは嘲笑ではなく喝采と聴こえなくもない。そんなことを連想させる当夜の演奏でもありました。

プログラム2月号には、今月で退団する3人のメンバーが紹介されています。セカンドのトップを務めてきた清滝徹氏、ソロ・ホルンの山岸博氏、そして今定期が最後となる客員コンサートマスターの鈴木理恵子氏。
カーテンコールの最後、鈴木女史に大きな花束が渡され、長年の貢献が讃えられました。冒頭はアルブレヒト、最後は鈴木と、読響の顔が次々に去っていきます。
月刊誌には特別に鈴木氏のプロフィールを紹介。ピアニストの若林顕氏とのツー・ショットも掲載されています。「音楽のパートナーであり人生の伴侶でもある若林氏」との一文、私の認識とは違っているのに愕然。ということは彼女の活動の一つだったプレアデス・クァルテットは解散した、ということか?

脳味噌でも、普段はあまり使わないパーツに刺激のあった演奏会でした。

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