新たな歴史、ゲーム・オン・デュードがサンタ・アニタ・ハンデ3度目の勝利
昨日の土曜日、3月第2週のアメリカ競馬はGⅠ2鞍の熱戦に沸いています。
最初はフロリダ州に二つある競馬場から。タンパ・ベイ競馬場では3鞍のG戦が行われ、最初は芝コースのヒルスボロー・ステークス Hillsborough S (芝GⅢ、4歳上牝、9ハロン)。firm の馬場、ダート変更時のみの登録馬1頭は出走せず8頭立て。英国から転戦して2戦目のリポスト Riposte が6対5の1番人気。
レースは3番人気(7対2)のクラウド・スケイプス Cloud Scapes が逃げましたが、半ばから伏兵(70対1)ドンナズ・フライ・ガール Donna’s Fly Girl が一気にスパートしてハナに立ちます。しかし出し抜けは奏功せず、3番手に付けていた2番人気(3対1)のウォーターウェイ・ラン Waterway Run がインを通って抜け出すところ、一旦2番手に下げていたクラウド・スケイプスが外から再び差し返し、ゴール寸前でウォーターウェイ・ランをハナ差捉えて優勝。本命リポストは前半6番手から直線で良く伸びましたが、1馬身半差及ばず3着まで、アメリカ初勝利はお預けとなりました。
グレアム・モーション厩舎、エリック・ロドリゲス騎乗のクラウド・スケイプスは、前走エンデヴァー・ステークス(芝GⅢ)を含めてここタンパで3連勝。ところで前回1月25日のエンデヴァーでは馬名をクラウド・エスケイプス Cloud Escapes と紹介してしまいましたが、クラウド・スケイプスの誤り、ここで訂正してお詫びいたします。
続いては同じ芝コースのフロリダ・オークス Florida Oaks (芝GⅢ、3歳牝、8.5ハロン)。去年は2月初めに行われましたが、今年は1か月後の施行でよりクラシックに繋がる一戦となりました。出走枠を超える14頭が登録していましたが、結局は2頭が除外されてフル・ゲートの12頭立て。前走BCジュヴェナイル・ターフ2着馬テスタ・ロッシ Testa Rossi が3ヶ月振りながらイーヴンの1番人気。
レースは11対1のイスタンフォード Istanford が先頭に立って快調に逃げましたが、5番手で待機したテスタ・ロッシが外からこれを交わすと、まるで別のエンジンを備えているような伸び脚を見せ、粘るイスタンフォードを3馬身半切って捨てる圧勝でした。更に2馬身4分の1差でインターラブテッド Interrupted が3着。
チャド・ブラウン厩舎、ホセ・レズカノ騎乗のテスタ・ロッシは、フランス産馬で、彼の地で5戦したあとアメリカに転じた馬。10月のベルモントでミス・グリロ・ステークス(芝GⅢ)を後方からの競馬で快勝し、BCでも豪脚を披露して着に食い込んでいました。陣営ではこのあとキーンランドのアシュランド・ステークス(GⅠ)でポリトラックの適性を試し、結果が出なければ芝路線を歩む由。もちろん結果が良ければケンタッキー・オークスに向かうかもしれませんね。
そして開催の目玉となるタンパ・ベイ・ダービー Tampa Bay Derby (GⅡ、3歳、8.5ハロン)。こちらは fast のダート・コースで行われ、10頭立て。前走ホーリー・ブル・ステークス(GⅡ)2着のコンケスト・タイタン Conquest Titan が実績から5対2の1番人気に支持されていました。
しかし結果はサプライズ、1番枠を利してスタートから先頭に立った伏兵(14対1、全馬のオッズが入電していないので人気順位は不明)リング・ウィークエンド Ring Weekend があれよあれよの逃げ切り勝ち。レース半ばでは後続に8馬身の大逃げでしたが、その差は3馬身まで縮めるのがやっとでした。2着は2番人気(9対2)でサム・F・デーヴィス・ステークス(GⅢ)勝馬のヴィンセレモス Vinceremos が入り、4分の3馬身差で2番手追走のサーフィング・ユーエスエー Surfing U S A が3着。コンケスト・タイタンは4着に終わっています。
グレアム・モーション厩舎、ダニエル・センテーノ騎乗のリング・ウィークエンドは、前走ガルフストリームの未勝利戦に勝ったばかり、5戦目で初勝利を挙げたばかりのせん馬です。今回の勝時計はレコードには1秒ほど及ばないものの決して内容は悪くありませんが、陣営でも同馬の能力を測り兼ねている様子が窺えました。兎にも角にもダービーへの出走権50ポイントを獲得、このあとのローテーションに注目しましょう。
そして同じフロリダから、この日はG戦1鞍のガルフストリーム・パーク競馬場から伝統のガルフストリーム・パーク・ハンデキャップ Gulfstream Park H (GⅡ、4歳上、8ハロン)。GⅡですが同競馬場では最も歴史ある一戦でもあります。fast の馬場、1頭が取り消して7頭立てでしたが、ベルモント馬、トラヴァース勝馬、カナダのクラシック馬、プリークネス2着馬と豪華なメンバーが揃いました。中でもBC以来4ヶ月振りながら去年のベルモント・ステークス勝馬パレス・マリス Palace Malice が6対5の1番人気。
レースは2番人気(9対5)のフォーリング・スカイ Falling Sky が逃げましたが、5頭が差無く追走する出入りの激しい展開。5→4→3番手と外から順位を上げたパリス・マリスが先頭で直線に入りましたが、これを外からカナダのクラシック馬アンキャプチャード Uncaptured が交わして先頭。更に外から後方に待機していたトラヴァース勝馬ゴールデン・チケット Golden Ticket が急襲しましたが、最内のパリス・マリスが二の脚を使って差し返し、ゴールでは頭差先着して3頭の叩き合いを制しました。外のゴールデン・チケットが2着、中のアンキャプチャードは3着入線。
トッド・プレッチャー厩舎、ジョン・ヴェラスケス騎乗のパリス・マリスは、前走BCクラシックが6着。休養明けを見事に復活で飾り、今シーズンの古馬戦線の中心になる1頭であることは間違いないでしょう。もちろんシーズン前半の目標は、メトロポリタン・マイルで二つ目のGⅠ制覇です。
次にアーカンソー州のオークローン・パーク競馬場に向かいましょう。ファンタジー・ステークス(GⅠ)の前哨戦で、オークスへの50ポイント加算対象となるハネービー・ステークス Honeybee S (GⅢ、3歳牝、8.5ハロン)。fast の馬場に11頭が揃い、2戦2勝でニューヨークから遠征してきたタリス Taris が9対5の1番人気。
そのタリスが先頭に立って逃げ切り策を図りましたが、2番手でマークしていた3番人気(7対1)のシュガー・ショック Sugar Shock が本命を交わして先頭。3~4番手に付けていた4番人気(8対1)のユーフロシニー Euphroseyne が外から迫りましたが、シュガー・ショックが物見をして驚いたのか、突然外に寄れてユーフロシニーの進路に。そのままユーフロシニーが首差先着してゴールに入線しましたが、このアクシデントが審議対象に。結局着順は入れ替わり、2番手で入線したユーフロシニーが繰り上がっての優勝。4分の3馬身差3着に追い込んだ2番人気(3対1)のプリーズ・エクスプレイン Please Explain の騎手からもシュガー・ショックへの異議申し立てがなされましたが、こちらは却下されています。本命タリスは6着敗退。
スティーヴン・アスムッセン厩舎、リカルド・サンタナ騎乗のユーフロシニーは、1月11日に4戦目で未勝利を脱した(フェア・グラウンズ競馬場)あと前走フェア・グラウンズの一般ステークスで2着。ステークス2度目の挑戦でG戦のタイトルを獲得しました。当然ながら50ポイントを獲得した同馬、オークローンの目玉となるファンタジー・ステークスが真の試金石になるでしょう。
最後に西海岸、カリフォルニアのサンタ・アニタ競馬場。この日は同競馬場最大の呼び物の一つたるサンタ・アニタ・ハンデを含めてGⅠ2鞍、G戦4鞍の豪華版。レース順に紹介して行きましょう。最初はサン・フェリペ・ステークス San Felipe S (GⅡ、3歳、8.5ハロン)から。馬場は fast 、本命になるはずのバイエルン Bayern など3頭が取り消しての7頭立て。出走馬中唯一のカリフォルニア産馬カリフォルニア・クローム California Chrome が7対5の1番人気に支持されていました。一般ステークスながら2連勝中の同州期待の1頭です。
スタートで先手を取ったカリフォルニア・クローム、道中3番人気(2対1)のミッドナイト・ホーク Midnight Hawk に絡まれましたが、直線に入ってライヴァルを引き離すと、最後はミッドナイト・ホークに7馬身4分の1差を付ける完勝で期待に答えました。3着も6馬身4分の1の大差が付いて3番人気(7対2)のクリスト Kristo 。
勝馬を管理するアート・シャーマン師は、騎手から調教師と競馬界に長く50年のヴェテラン、その半世紀に及ぶキャリアで初めてダービー候補を得たことになります。鞍上は、キング・グローリアス・ステークス、カリフォルニア・カップ・ダービーと連勝中に手綱を取ってきたコンビ。50ポイントを獲得し、愈々ダービー出走の夢が現実に近付いてきました。
二つ目は古馬の短距離戦、サン・カルロス・ステークス San Carlos S (GⅡ、4歳上、7ハロン)。10頭立て、マリブー(GⅠ)とストラブ(GⅡ)ダブルを達成したシェイキン・イット・アップ Shakin It Up が7対5の1番人気。
レースはダッシュ良く飛び出した4番人気(9対1)のビッグ・マカー Big Macher が逃げましたが、直ぐに伏兵(33対1)サイクロメター Cyclometer が交わして先頭。シェイキン・イット・アップは5番手の内を追走します。直線で全馬が一団の混戦となる中、前半後方3番手を進んでいた2番人気(3対1)のサハラ・スカイ Sahara Sky が内で我慢、最後方で直線に向かうと、馬群を割るように鋭い差脚を爆発、前を一気に捉えて粘るビッグ・マカーに半馬身差を付ける目の覚めるような差し切り勝ちを演じました。頭差でクラブハウス・ライド Clubhouse Ride が3着、4着ワイルド・デュード Wild Dude もハナ差という大接戦で、シェイキン・イット・アップも内を衝きましたが前が開かず5着惜敗に終わっています。
ジェリー・ホーレンドルファー厩舎、ジョエル・ロザリオ騎乗のサハラ・スカイは、去年に続きサン・カルロス2連覇。去年は続いてメトロポリタン・ハンデを制してGⅠホースになりましたが、直後に故障で戦線離脱。今年は前走パロス・ヴェルデス(GⅡ)5着で実戦に復帰していました。もちろん狙いはメトロポリタン2連覇でしょう。
そしてGⅠ2連発の第一弾、今年が第55回目となるフランク・E・キルロー・マイル Frank E. Kilroe Mile (芝GⅠ、4歳上、8ハロン)です。芝コースは firm 、1頭が取り消して9頭で争われ、去年のBCマイル(芝GⅠ)で年度代表馬ワイズ・ダン Wise Dan の2着したザー・アプルーヴァル Za Approval がBC以来ながら9対5の1番人気。
レースは2番人気(7対2)のウイニング・プライズ Winning Prize がリラックスして逃げ、ザー・アプルーヴァルは後方3番手。しかし今回は逃げ馬がリラックスできたこともあり、前との差は詰まらないまま。結局ウイニング・プライズが3番手から伸びるロクティー Lochte の追い込みを半馬身凌いでの逃げ切り勝ち。1馬身差3着に前年の勝馬サジェスティヴ・ボーイ Suggestive Boy が追い込み、ザー・アプルーヴァルは直線で3番手に上がるもゴール直前で交わされての4着。
ネイル・ドライスデール厩舎、コーリー・ナカタニ騎乗のウイニング・プライズは、アルゼンチンでGⅠ戦に3勝している強豪。去年の夏にアメリカに転戦し、北米でのG戦初勝利が前走2月1日のアルカディア・ステークス(芝GⅡ)でした。これでG戦に連勝、アメリカでのGⅠ初制覇を達成しました。
最後は、土曜日のメインとなる伝統のサンタ・アニタ・ハンデキャップ Santa Anita H (GⅠ、4歳上、10ハロン)。今年が77回目となります。8頭が出走してきましたが、事実上は3強の争い。中でも去年のBCクラシックでハナ差の激闘を演じた勝馬ムチョ・マチョ・マン Mucho Macho Man が6対5の1番人気、ライヴァルの3歳チャンピオンに選出されたウイル・テイク・チャージ Will Take Charge が3対2の2番人気で続きます。サンタ・アニタ・ハンデに2度勝っている古豪ゲーム・オン・デュード Game On Dude は遅れて7対2の3番人気。
大歓声の中でスタート。レースは7枠から出たゲーム・オン・デュードがハナに立ち、本命ムチョ・マチョ・マンは2番手追走、ウイル・テイク・チャージは4番手で前2頭の行きっ振りを窺う展開。勝負の第4コーナー手前でウイル・テイク・チャージが2強に並び掛けると、勝負は正に3強の対決。しかし直線に入るとムチョ・マチョ・マンが一杯となって後退、逃げるゲーム・オン・デュードをウイル・テイク・チャージが懸命に追いますが、結局は1馬身4分の3差が開いたままゴール。何と8馬身差が付いて3着にはブリンゴ Blingo (22対1、5番人気)が食い込み、ムチョ・マチョ・マンは4着に沈んでいました。
これがサンタ・アニタ・ハンデ5勝目となるボブ・バファートが管理、名手マイク・スミスが騎乗したゲーム・オン・デュードは、2011年と去年に続きサンタ・アニタ・ハンデ3勝目。これまではジョン・ヘンリー John Henry 、ミルウォーキー・ブルー Milwaukee Brew 、ラヴァ・マン Lava Man の2連覇があるだけだった大レースに、新たな歴史を刻みました。去年のBCクラシックでは1番人気に支持されながら9着凡走、今年初戦の前走サン・アントニオ・ステークス(GⅡ)でも人気で5着敗退と、ピークを過ぎたと評価するファンもあっただけに、鮮やかな復活劇だったと言えましょう。そもそも同馬が1番人気にならなかったのは2011年のBCクラシック以来のこと。その間16戦続けて本命馬の地位を守ってきたのですから、今回の3番人気は屈辱ですらありました。レース前に大歓声を挙げた観客、古豪の復活を更なる歓呼で迎えたのは当然のことでしょう。
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