遂に聴けたエクの「アメリカ」

昨夜は上野の東京文化会館に出掛けました。大ホール、小ホール同時公演だったようで、開演前のロビーには人が溢れています。
私共は小ホールで行われる、2010都民芸術フェスティヴァルの一環として行われたクァルテット・エクセルシオの公演が目当てです。同フェスティヴァルの室内楽シリーズ第9回で、曲目は、

ハイドン/弦楽四重奏曲第67番二長調作品64-5「ひばり」
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第9番ハ長調作品59-3「ラズモフスキー第3番」
     ~休憩~
ドヴォルザーク/弦楽四重奏曲第12番へ長調作品96「アメリカ」
 クァルテット・エクセルシオ

エクセルシオ(通称エク)は私の日記にも何度も登場する一押しの弦楽四重奏団。改めてメンバーを紹介すると、第1ヴァイオリン/西野ゆか 第2ヴァイオリン/山田百子 ヴィオラ/吉田有紀子 チェロ/大友肇 の面々です。

1月半ばから3月一杯行われる恒例の都民芸術フェスティヴァルは、チケットが手頃なことや名曲が並ぶ親しみ易いプログラムで超人気の催し。チケット入手が困難なことでも知られています。クラシックはオペラやオーケストラから室内楽まで、更には邦楽や寄席を含めた日本の伝統芸術までを包括する多彩な内容でも人気になっています。

ということで、私共もいつものエクを聴く席とは若干異なる場所で聴いてきました。具体的には最前列の左端。

とにかくお客さんが入っていましたね。“空席を除いては満席で” というのはよく聞くギャグですが、その空席もホール後方に僅かに見られる程度。
アンコールに入る前に西野氏が、“こんなにたくさんの皆様に来て頂いて・・” と語りかけた様に、ほとんど満席のエクを聴くのは嬉しくもありました。

さてエクと言えば、東京ではベートーヴェンを中心にした定期と現代物を核に据えたラボ・シリーズが活動の中心です。クァルテットの定番とも言える「死と乙女」や「アメリカ」というロマン派の大作は、追っかけファンの私でもこれまで聴くチャンスに恵まれなかったもの。地方公演やアウトリーチでは頻繁に演奏しているようですが、意外にも初めて聴くレパートリーなのです。その意味でも聴き逃せないコンサートと言えましょう。

加えてハイドンの名作「ひばり」も東京では、いや私が聴くのは初めて。期待に胸が躍ります。
その期待は見事に報われ、大いなる満足感を抱いて帰路につくことが出来ました。

弦楽四重奏というジャンルが確立して間もない時代のハイドンは爽やかさの極み。無窮動風のフィナーレがいつの間にかカノンに変っていく処理の心憎いこと。

エク十八番のベートーヴェンは、弦楽四重奏が愈々本格的に作曲家の心情を映し込むジャンルに止揚した瞬間の音楽。
彼らの演奏で聴いていると、例えば終楽章のフーガでは、早くも晩年の大フーガの世界が垣間見えてくることに気付かされるのでした。

そしてアメリカ。エクのアメリカは実に壮大なスケールを持ち、そのシンフォニックな佇まいには圧倒されるばかり。改めてドヴォルザークの室内楽の素晴らしさに目を瞠ります。
この聴き古された感のある名作にも新しい光が当てられ、今まで如何に上っ面だけを聴いてきたのかに思い至りました。「名曲」と評価されるにはそれだけの理由がある。もう一度スコアを見なおさなければいけません。

今日の聴衆は、恐らくかなりの人達がエク初体験だったのではないでしょうか。都民芸術フェスティヴァルという人気企画に登場したことで、初めて「クァルテット・エクセルシオ」が数多くの聴き手の耳に届く。

その驚きは客席の反応でも明らか。退屈の筈だった弦楽四重奏がスリルの連続で、最後のドヴォルザークでは悲鳴にも似た喝采が彼方此方で巻き起こっていました。

アンコールに応えて演奏されたのは、ボロディンの第2弦楽四重奏から有名なノクターン。これも私はエクでは初めて聴いたレパートリーで、いつか全曲を聴いてみたいと強く思わせるもの。
あっという間に圧倒的な一夜が暮れて行きます。

今回の演奏で、次もエクを聴いてみたいと思った聴き手も多いでしょう。エクは来年のフェスティヴァルにも登場することが決定しているようです。
こうした大舞台に上がり、聴衆を魅了することに成功すること。これが彼らの定期演奏会、ひいては現代作品の演奏に関心を持って貰うことに繋がることを期待せずにはおられません。

駅に向かう途上で小耳に挟んだ感想、“名前通りの団体だ”(エクセルシオ=最高の) という一言が全てを物語っているように思います。

弦楽四重奏というジャンルにはいくつもの巨峰が聳えています。それを次々に制覇して行くエク。
彼らの活動を追うということは、自身の音楽体験をより高い所にまで引き上げる効果を伴います。更なる好奇心を掻き立てられることが、如何に生きて行く上に大きな支えとなることか・・・。

いつまでも聴いていたいクァルテット・エクセルシオ。細やかながらエールを送り続けたいと思います。

 

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