2014クラシック馬のプロフィール(5)

血統シリーズ、第5回目は先週のアイルランド2000ギニーに勝ったキングマン Kingman です。本来なら英2000ギニー、シリーズ第1回に登場してもおかしくない馬でしたが、漸くここで取り上げることになりました。
キングマンは、父インヴィンシブル・スピリット Invincible Spirit 、母ゼンダ Zenda 、母の父ザミンダー Zaminder という血統。ヨーロッパ競馬に詳しいファンなら、母の名前を聞いただけでキングマンがクラシックに勝って当然だと思うでしょうね。

先ずは父に付いて一言だけ。インヴィンシブル・スピリットは短距離馬グリーン・デザート Green Desert の仔で、自身もGⅠのヘイドック・スプリント・カップを制した他に短距離のGⅢに2勝した純粋なスプリンターでした。
その産駒であるキングマンが1マイルのギニーで活躍したのは、やはり牝系が影響しているから。競走馬は牝系が最も大事という自論を証明する1頭でもあります。もちろんこの牝系にも例外は登場しますが・・・。

ということで母ゼンダ(1999年 鹿毛)。近年このファミリーは、ハーリッド・アブダッラー氏を総裁に頂くジャドモント・スタッドの重要な牝系であることを覚えておきましょう。ジャドモントの生産馬・所有馬を預かる調教師は何人かいますが、この牝系は英国ニューマーケットでジョン・ゴスデン師が管理する馬がほとんどです。
ゼンダもその代表的な1頭で、勝負服はジャドモント、調教師はゴスデンのコンビでターフにデビューしました。2歳時は目立たない1頭で、ケンプトンの小さい新馬戦(7ハロン)でデビュー、レース中に尾を振りながらも2着。続くドンカスターの未勝利戦(1マイル)では3着してこのシーズンを終えます。
明けて3歳、ゼンダに選ばれたのはウインザー競馬場の未勝利戦(距離は1マイルちょっと)で、ここで人気に応えて注目されます。とは言ってもややレヴェルの高い程度の未勝利戦。ここからいきなりクラシック挑戦というローテーションは無謀にも感じられました。

しかしゴスデン師が選んだのはこの道、前走から3週間後のことでした。もちろん血統的な背景があってのことですが、大胆にもドーヴァー海峡を渡って仏1000ギニー(プール・デッセ・デ・プーリッシュ)に出走します。ゴスデン師は1999年にもこのクラシックをヴァレンティン・ワルツ Valentine Waltz で勝っており(この時点では2勝馬)、イギリスとフランスの競馬の違いは完璧に把握していました。
それも手伝ってか1勝馬にも拘わらず意外に人気もあり、馬券としては同じアブダッラー所有の馬(こちらはフランスのアンドレ・ファーブル厩舎)とカプリングされて3番人気に支持されていました。リチャード・ヒューズが騎乗したゼンダ、前走同様にハナを切ると、見事に逃げ切ってしまいました。デットーリ騎乗で人気のフランス馬(ファース・オブ・ローヌ Firth of Lorne)がスタートで出遅れたこと(1馬身差2着)、短首差の3着馬(オブライエン厩舎のソフィスティカート Sophisticat)に前が開かず不利があったことも幸いしたのは事実ですが。

こうして僅か4戦目でクラシック馬となったゼンダ、その後は勝星を挙げることはできませんでした。態々追加登録して次走に選んだ愛1000ギニーは、不得手な不良馬場にも泣いて15頭立て15着に惨敗。
しかしその名誉はロイヤル・アスコットのコロネーション・ステークス2着(フランスでは勝ったソフィスティカートに首差)して回復し、秋にはアメリカに遠征。キーンランド競馬場で9ハロンの芝コースで行われるクィーン・エリザベスⅡ世カップでも2着、再度遠征したブリーダーズ・カップ・フィリー・アンド・メアでは8着に終わって3歳シーズンを終えます。
BCの後そのままアメリカに残ったゼンダは、故ボビー・フランケル厩舎に所属し、恐らくアローワンス戦に一度出走して勝ったようですが、詳しいことは調べが付きませんでした。いずれにしても通算成績9戦3勝で繁殖に上がります。その成績を列記すると、

2005年 ナイル・クルーズ Nile Cruise 牡 父ダンジグ Danzig 未出走
2006年 リオ・カーニヴァル Rio Carnival 鹿毛 牝 父ストーム・キャット Storm Cat アブダッラー/ゴスデンで2戦未勝利
2007年 ヘンツァウ Hentzau 鹿毛 せん 父エンパイア・メーカー Empire Maker 障害レースで2戦し、何れも最下位
2008年 プレザントリー Pleasantry 黒鹿毛 牝 父ヨハネスバーグ Johannesburg 未出走?
2009年 パンザネラ Panzanella 鹿毛 牝 父ダンジリ Dansili アブダッラー/ゴスデン 2戦1勝(レスター競馬場の7ハロン未勝利戦)
2010年 リモート Remote 鹿毛 牡 父ダンジリ アブダッラー/ゴスデン 4戦3勝3着1回 3歳時に3連勝 アスコットのターセンテナリー・ステークス(GⅢ、10ハロン)優勝
2011年 キングマン

7年連続で受胎、キングマンは7番仔に当たります。因みに今年の2歳馬はダンジリの牝馬で、マルチリンガル Multilingual と名付けられた由。これで現在の所ゼンダには4頭の娘があり、彼女たちから次の時代のクラシック馬が誕生する可能性も充分にあるでしょう。

2代母はホープ Hope (1991年 鹿毛 父ダンシング・ブレーヴ Dancing Brave)。この馬の競走成績に付いてはほとんど情報がありませんが、どうやら一度だけ走って未勝利だったようです。しかしなから繁殖成績は素晴らしいもので、主なものは、

1997年 ホープフル・ライト Hopeful Light 鹿毛 せん 父ワーニング Warning アブダッラー/ゴスデン 7戦4勝(全て7ハロンから8ハロンの条件戦)
1998年 ハーヴェスト Harvest 栗毛 牝 父ザフォニック Zafonic 未出走?
1999年 ゼンダ
2000年 オアシス・ドリーム Oasis Dream 鹿毛 牡 父グリーン・デザート Green Desert アブダッラー/ゴスデン 9戦4勝 ミドル・パーク・ステークス、ジュライ・カップ、ナンソープ・ステークスに勝ったチャンピオン・スプリンターで、種牡馬としても大成功
2003年 イクスペクト Expect 牡 父ホーリング Halling 未出走?

もちろん注目すべきはキングマンの叔父に当たるオアシス・ドリームで、ジャドモントを代表する名馬。この牝系にして短距離馬だった彼は、父グリーン・デザートの血を濃く引き継いだためと考えられます。2歳時にミドル・パークに勝ちながらクラシックには向かわず専ら短距離路線を歩んだのは、やはりゴスデン師と陣営の判断だったのでしょう。
同じグリーン・デザートの仔でスプリンターのインヴィンシブル・スピリットを父に持つキングマンが、2歳時に7ハロンのソラリオ・ステークス(GⅢ)を勝っただけでギニー路線を選んだのも同じ陣営の選択。やはり長い目でファミリーを見ている証左と考えるべきですね。

ここからは多少駆け足になりますが、3代母バハミアン Bahamian (1985年 栗毛 父ミル・リーフ Mill Reef)は、リングフィールドのオークス・トライアルに勝ち、本番のオークスは5着。その後は長距離路線に転じ、フランスのレスぺランス賞で1着入線しながら進路妨害のために3着降着となった経歴があります。
バハミアンの娘ではホープの他に2頭が大事。1990年生まれのウェミス・バイト Wemyss Bight はアイルランド・オークス馬で、その仔ビート・ホロウ Beat Hollow もパリ大賞典に勝ち、アメリカでもマンハッタン・ハンデ、ターフ・クラシック、アーリントン・ミリオンと芝のGⅠを次々と制した長距離馬でした。
更に別の娘コラライン Coraline (1994年)の仔リーフスケープ Reefscape もフランス長距離戦の最高峰であるカドラン賞の勝馬という具合。

4代母ソルバス Sorbus (1975年 鹿毛 父バステッド Busted)もGⅠ「勝馬」ではないものの、アイルランド・オークスを1着で入線しながら娘バハミアン同様に進路妨害で2着降着となった因縁も。
その他ソルバスは愛1000ギニーでは真正の2着、愛セントレジャーとヨークシャー・オークスでも2着とGⅠ級の活躍を見せた馬でした。

ソルバスの娘ではバハミアンの他にクラリファイ Klarifi (1981年)という牝馬があり、3代を経てアイルランドのフェニックス・ステークスとメイトロン・ステークスに勝ったGⅠ級のラ・コリーナ La Collina を輩出しています。

以上見てきたように、マイラーと目されるキングマンはスタミナ牝系に短距離種牡馬の配合。ジャドモント・ファームの至宝とでも呼べる血統の持ち主です。もちろん現役を終えればジャドモントの運命を担う種牡馬になる可能性が高いでしょう。

ファミリー・ナンバーは19。デヴィルズ・オールド・ウッドコック・メア Devill’s Old Woodcock Mare という300年以上の昔に遡る牝系です。

Pocket
LINEで送る

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください