日本フィル・第298回横浜定期演奏会

関東地方が梅雨入りしたのは6月5日の木曜日。それから未だ3日目と言うのに例年6月の雨量を上回るほどの雨が続く中、横浜みなとみらいホールに日本フィル横浜定期を聴きに出掛けました。
ここ数年は横浜も会員になっていますが、仮にそうでなくともこの回だけは一回券を買ってでも聴きたい演奏会。プログラムは以下のものです。

ショパン/ピアノ協奏曲第1番
     ~休憩~
カリンニコフ/交響曲第1番
 指揮/アレクサンドル・ラザレフ
 ピアノ/上原彩子
 コンサートマスター/扇谷泰朋
 フォアシュピーラー/千葉清加

少し前にスヴェトラーノフがN響デビューで紹介してブレイクしたカリンニコフ、今回は願っても無いナマで聴く機会。ましてやラザレフの指揮ですから、聴き逃すわけにはいきません。これを無視するような人とは友達になりたくありませんネ。

やや入れ込みながら桜木町。前を歩くのがプレ・トークを担当する奥田佳道氏であることに気が付き、列に並んでプレ・トークもじっくりと聞きました。
前半のショパンに付いては、ラザレフが指名するピアニストは今回の上原、ドイツ在住の河村、そしてイギリス在住の小川の3人であるという解説に納得。それを証明するようなショパンでした。

後半のカリンニコフは、奥田氏の解説にも力が入っている様子。いつもより話に熱が入ります。今回の定期を聴く人は、カリンニコフって何? という人と、スコアもCDも予習して1回券を買ってでも聴きに来たという人の2つに分かれるという紹介もその通りでしょう。
実はカリンニコフを度々取り上げたのは近衛秀麿で、ベルリン・フィルとのデビューでも振っていること。日露交歓演奏会でも近衛が指揮したこと。日本ではアマチュア・オケの定番になっていること等々が話題になります。
そして音楽そのもの。第1楽章と第2楽章のテーマ、第4楽章でも再登場するこれらのメロディーを聴いて何も感じない人とは友達になりたくありません、というのは奥田氏に全く同感。これを味わいに来たのですよ。

日本フィルでカリンニコフと言えば、かつて東京国際フォーラムで行われていたマエストロ・サロンでのこと。ネーメ・ヤルヴィ氏の会で会場から質問と要望を求められた時、確かY女史がカリンニコフの第1交響曲を演奏して欲しいと意見を述べたことがあります。
そのときマエストロはニヤリと笑い、“ミー・ファーミレミー・ラシドレ・ミーミー・ソミラーソ・ミー”(移動ド)と冒頭のテーマを口ずさんでくれましたっけ。結局ヤルヴィ・パパはこれを取り上げてはくれませんでしたが、恐らく集客を口実にオケ側からやんわりと断ったのではないでしょうか。

しかしラザレフはラザレフ、“やる”と言ったらやるしかないのです。何でも今回はボロボロのスコアから自分で興したボーイング付きのパート譜を持参、それによる演奏だったそうな。手探りで鳴らすような柔な、あるいはセンチメンタルな演奏とは断然異なるものでした。
例によって速目、おセンチな雰囲気皆無の堂々たるシンフォニーで、この作品の真価に初めて接したような気がしました。ぶらぼぉラザレフ、ぷらぼぉカリンニコフ。
美しい第1楽章の第2主題にしても、伴奏するピチカートをおろそかにしない、いや寧ろ際立たせるように弾かせるので、メロディー・ラインは更に明確度を増し、全体がより構成的に響くのでした。
第2楽章のハープとヴァイオリンの伴奏音型を奏する弱音も、あのラザレフ・ピアニシモ。

初めてカリンニコフを聴いた人も、いやそういう聴き手からはより一層、“良い曲ですねェ~、こんな美しい音楽があるなんて知らなかった”という声が多数聞かれました。
前半でショパンを弾いた上原さんも、客席で熱心にマエストロへ拍手を贈っています。

横浜ですからアンコールもあります。両手をパタパタと扇いで始めたのはリムスキー=コルサコフの「熊蜂は飛ぶ」。指揮台には乗らず、ヴァイオリンの各パートを回りながらの指揮。最後の軽い和音を投げキッスで締めて、客席も爆笑の渦。相変わらずのエンターテインメント振りでした。
これがあるのでラザレフは止められません。今シーズンのラザレフはこれが最終回(あとは相模原でブラームスがあるとか)、来季からは期待のショスタコーヴィチ・シリーズが始まります。もちろん横浜は別メニューで。

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