日本フィル・第661回東京定期演奏会

日本フィルの6月東京定期は、首席客演指揮者インキネンによる次のプログラムでした。
マーラー選集Ⅳと銘打たれていましたが、本来は2011年4月に予定していたプログラム。あの震災による原発事故により、フィンランド政府からインキネンに対し訪日禁止令が出されたため没になっていた演奏会のリヴェンジでもあります。

シベリウス/交響詩「夜の騎行と日の出」
     ~休憩~
マーラー/交響曲第6番
 指揮/ピエタリ・インキネン
 コンサートマスター/扇谷泰朋
 フォアシュピーラー/九鬼明子
 ソロ・チェロ/菊地知也

マーラー選集は今回が4回目、これまで1番、3番、5番が取り上げられてきましたが、毎回シベリウスの余り演奏されない作品を組み合わせるというコンセプトが貫かれてきました。この企画も好評なようで、次回には7番が取り上げられることも発表されています。組み合わせは交響詩「大洋の女神」。同時進行する山田和樹のマーラー・ツィクルス(組み合わせは全て武満徹)との聴き比べも面白そうですね。
シベリウスとマーラーの関係については確か前回、クオレマ組曲と第5のときに詳しく触れましたから深く立ち入りませんが、今回は二人がヘルシンキで会った1907年を挟んで作曲されている2曲という所が聴き所でしょう。
そのとき二人の大作曲家は交響曲の意義について論戦しましたが、もちろん主張は平行線。それこそがシベリウスとマーラーを聴き比べるポイントでもありましょう。即ちマーラーは第6交響曲を初演したばかりでしたし、シベリウスもこの直後に「夜の騎行と日の出」を書き始めたのでした。この辺りは当日のプログラムでも適切に指摘されています(松本學氏)。

先ずはそのシベリウス。前シーズンで交響曲全曲を取り上げたコンビだけあって、冒頭からシベリウスの清冽な響きが横溢。シベリウスとしても最もシベリウスらしい作品を聴くことが出来ました。
構造は比較的単純で、馬のギャロップを表すリズムが前半を支配。リズムは次第に8分音符の流れに変わり、北欧の自然を連想させるようなテーマが繰り返されながら夜の騎行を終えます。静寂の中に鳥が鳴き、空が白んでくる。練習番号49の4小節目に出るクラリネット2本の急上昇は日の出そのもの。サッと眩しい光が会場に射すと、ホールには感動が満ちる。
そういう作品ですが、演奏は20分弱。マーラーの6番に組み合わせるにはやや長いかも。(演奏会が終了したのは9時を少し回っていました)

後半はマーラー。この曲を聴くのは去年のカンブルラン/読響以来ですが、日本フィルでも度々取り上げられてきました。私もヤルヴィ、沼尻を聴きましたし、残念ながら聴けなかったものの広上淳一が日本で定期デビューしたのも日本フィルとの第6でしたっけ。楽員によると佐渡裕とも演奏したばかりなのだとか。
正直に告白すると、私はマーラーは比較的苦手で、特に第6番は最も馴染めない一品。一言で言えば情報量が多過ぎる、というのが苦手の理由です。ところがナマで接する機会が多いのも第6、というのが何とも皮肉なことではあります。

今回も苦痛覚悟、楽しみチョッピリという姿勢でコンサートに臨みましたが、インキネンの颯爽たる解釈もあってそれなりに楽しめました。それにしても長い、特に第4楽章は!
そう感じる聴き手もかなりいると見え、演奏の途中で逃げだす人も何か見受けられましたし、終わると同時に席を立つ聴衆もいつもより多かったように感じました。(帰りの電車を気にしてのことで、演奏が気に入らなかったわけではないでしょう)

インキネンは全体的には速目のテンポで、構成的にも配慮が行き届いた演奏。ヴァイオリニスト出身だけあって、弦の表現法には独特の工夫が感じられます。内側の2楽章、今回は従来通りスケルツォ→アンダンテの順に演奏されましたが、特にこの二つの楽章で今までに気が付かなかったような響きが多数聴かれたのが、インキネンの主張でしょう。今回はアンダンテ楽章の美しさに改めて聴き惚れました。
「遠方から」と指摘されたカウベルは舞台裏下手から、また「低音の鐘」が舞台裏上手から聴こえます。楽器は見えませんでしたが、楽屋裏の話では低音の鐘は鉄板の様なものを叩いていたそうな。
更に好事家の興味を惹きそうな話題としては、例のハンマーを3回叩きつけたこと。最後の3発目はマーラーが初稿で書いたものの、後に削除したとされる個所で、私がナマ演奏で接したのは今回が初めてでした。二日目を聴かれる方は、この辺りにも注目して聴くと2倍楽しめる演奏だと思います。

ホルン首席・日橋辰朗の妙技にも触れておかねばなりますまい。次から次へとホルンの名手を送り出す日本フィルって、何?

演奏後にはマエストロのサイン会も開かれていました。最新盤は先のシベリウス・チクルスから第2番の抜き録りですが、来年にはライヴ全集も発売される由。
日フィルとの2番は九州でゲットしましたが、そのとき聞いたナクソス・スタッフの話では、全集に含まれる2番は別のテイクとのことで、単発を買ってもダブることはないそうです。安心してサインの列に並んでください。

いずれ出る予定の全集、ここからは小生の希望ですが、是非マーラー選集で組み合わされた珍曲をカップリングして欲しいもの。今回の「夜の騎行と日の出」、第5とのクオレマ組曲、第1とのクリスチャン2世も改めて録音で聴いてみたいと思います(第3はシベリウスとの組み合わせはありませんでした)。その他に私がインキネンを初めて聴いた時は横浜での「エン・サガ」でしたし、九州では定番のフィンランディアもありましたし、全て録音は残されているはずです。ナクソスさん、一考して下さいな。

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