サプライズが続くアーリントン国際

8月16日のアメリカ競馬は、何と言ってもシカゴはアーリントン・パーク競馬場の国際競馬フェスティヴァルに注目が集まります。日本では余り関心が無いようですが、ヨーロッパからは多くの有力馬が参戦するため、競馬先進国では毎年話題になる競馬週間の一つですね。
アーリントンは最終オッズなど詳しい情報が少ないため、大雑把なレポートになるので念のため。

この日のG戦は3鞍全てがGⅠですが、その前にリステッド戦ながらヨーロッパからも参戦するアメリカン・セント・レジャー American St.Leger (芝リステッド、3歳上、13.5ハロン)を紹介しておきましょう。今年が3回目、最初の2年は何れもイギリスのマルコ・ボッティ厩舎が制しています。馬場は firm 、1頭が取り消して(この馬に付いては後述)10頭立て。前年の勝馬ダンディーノ Dandino も参戦してきましたが、3対1の1番人気に支持されたのは、7日にバリーローン・ステークス(GⅢ)に勝ったエイダン・オブライエン厩舎のアイ・オブ・ザ・ストーム Eye of The Storm でした。
レースはカナダから挑戦してきたビッグ・キック Big Kick が逃げ、ライアン・ムーア騎乗のアイ・オブ・ザ・ストームは4番手追走。逃げ馬は第3コーナー手前で急速にバテ、替って先頭に立った2番手追走の4番人気(5対1)ザ・ピザ・マン The Pizza Man がリードを広げると、5番手から追い込むデットーリ騎乗のダンディーノを1馬身抑えて優勝。更に1馬身4分の1差でハヴァナ・ビート Havana Beat が3着に入り、アイ・オブ・ザ・ストームは終い伸びず5着敗退。前走から余り間隔が無かったことと遠征が響いたのでしょうか。
ロジャー・ブルッヘマン厩舎、フロラン・ジェルー騎乗のザ・ピザ・マンは、これで5連勝。一旦トーマス・エイモス厩舎に転じていましたが、古巣のブルッヘマン厩舎に戻っての快挙となる5歳せん馬です。

そしてGⅠ3連発の最初が、3歳馬のみによるセクレタリアート・ステークス Secretariat S (芝GⅠ、3歳、10ハロン)。2頭が取り消して7頭立て。アメリカン・セント・レジャーでは期待に応えられなかったオブライエン厩舎のアデライデ Adelaide がイーヴンの1番人気。これが未だ6戦目ですが、前走ベルモント・ダービー(芝GⅡ)で2着と、アメリカの競馬も経験済みです。一旦アイルランドに戻ってからの再遠征。
レースはモット厩舎のトゥーリスト Tourist が逃げましたが、3番手を追走していた本命アデライデが前2頭の外から並び掛け、直線では馬場の中央を堂々と抜け出す競馬で逃げたトゥーリストに1馬身半差を付けて今度は人気に応えました。3馬身差が開いてシェルドン Sheldon が3着。
これもライアン・ムーアが騎乗したアデライデは、前々走がロイヤル・アスコットのキング・エドワード7世ステークス(GⅡ)での2着。地元アイルランドではガリニュール・ステークス(GⅢ)に勝っている他、フランスでもオカール賞(GⅡ)で2着。既に4か国で走っており、今後も海外で活躍するタイプなのでしょう。

二つ目は古馬牝馬のビヴァリー・D・ステークス Beverly D. S (芝GⅠ、3歳上牝、9.5ハロン)。勝馬にはBCフィリー・アンド・メアへの優先出走権が与えられる重要なステップ・レースでもあります。11頭が出走し、既にGⅠ(去年のジャスト・ア・ゲイム・ステークス)に勝っている地元のステファニーズ・キッテン Stephanie’s Kitten が5対2の1番人気。
レースは伏兵ラ・ティア La Tia の逃げで始まり、デットーリが騎乗したステファニーズ・キッテンは行き脚が付かず最後方からの競馬。本命馬が前を捌くのに苦労する中、前半中団の内に付けていた6番人気(10対1)のユーロ・シャリーン Euro Charline が直線で外に持ち出すと一気に抜け、漸く馬群を割って追い込むステファニーズ・キッテンを4分の3馬身抑えて優勝。首差でイギリス(チャールズ・ヒルズ厩舎)のジャスト・ザ・ジャッジ Just The Judge が3着。
番狂わせを演出したユーロ・シャリーンは、英国のマルコ・ボッティ厩舎で、前のレースに続いてライアン・ムーアの騎乗。ロイヤル・アスコットのコロネーション・ステークス(GⅠ)で3着に来てファンを驚かせましたが、前走同じアスコットで1マイルのリステッド戦(ヴァリアント・ステークス)に優勝していました。3歳馬がこのレースを制したのは、1987年に創設されてから初めての快挙となります。オーナーのコメントでは、このあとはプレッチャー厩舎に移ってアメリカで現役を続ける由。当然ながら出走権を得たBCが目標になるでしょう。

アーリントンの国際フェスティヴァル、最後はメインのアーリントン・ミリオン・ステークス Arlington Million S (芝GⅠ、3歳上、10ハロン)。もちろんBC対象レースで、勝馬にはBCターフの優先出走権が与えられます。7頭が出走し、ここでもオブライエン厩舎の遠征馬で去年のBCターフ覇者マジシャン Magician が9対5の1番人気。アメリカでは負担重量が軽いために騎乗機会が少ないジョセフ・オブライエンが、ここでは全馬126ポンドのため可能とあって手綱を任されます。
レースは英国(アンドリュー・ボールディング厩舎)のサイド・グランス Side Glance が逃げ、マジシャンは2番手追走。直線、逃げ馬を交わしてマジシャンが予定通り先頭に立ちましたが、これに迫ったのが3番手を追走していた伏兵(11対1)のハーデスト・コア Hardest Core という無名の存在。結局は並ぶ間も無く本命馬を捉えたハーデスト・コアが1馬身差で優勝。1馬身4分の1差3着には逃げたサイド・グランスが粘り込みました。
エドワード・グレアム厩舎、エリルイス・ヴァズ騎乗のハーデスト・コアは、この日のアメリカン・セント・レジャーを取り消してこちらに回ってきた馬。前走デラウエア・パークの一般ステークスに勝ったばかりの4歳せん馬で、これがG戦初勝利となります。そもそも43歳のグレアム調教師がG戦に馬を出走させたことが初めてというサプライズ。厩舎には6頭しかおらず、4頭は障害レースの馬というから驚きです。ハーデスト・コアにしても、障害に使う積りでマクローリン厩舎から購入した由。こういう馬がいきなりGⅠ中のGⅠを勝ってしまうアメリカ競馬って・・・。

ここで気分を切り替え、ニューヨークのサラトガ競馬場に行きましょう。G戦は2鞍、先ずはレイク・プラシッド・ステークス Lake Placid S (芝GⅡ、3歳牝、9ハロン)から。6頭の登録がありましたが、2頭が取り消して僅か4頭立て。力関係が拮抗する中、2連勝中のクラウン・クィーン Crown Queen が6対5の1番人気に上がっていました。
4頭立てということで騎手同士の駆け引きとなる競馬、結局は2番手に付けたクラウン・クィーンが、逃げた最も人気の無い(12対1)ダフ・ワン Duff One を半馬身捉えて優勝。頭差で3番人気(2対1)のエクサレンス Excellence が3着。
ウイリアム・モット厩舎、ジョン・ヴェラスケス騎乗のクラウン・クィーンは、6月に3戦目で初勝利。7月には芝のアローワンスを連勝し(何れもベルモント)、3連勝でG戦初勝利(初挑戦で)となりました。

サラトガのもう一鞍が、伝統あるGⅠ戦のアラバマ・ステークス Alabama S (GⅠ、3歳牝、10ハロン)。fast の馬場に9頭が出走し、前走コーチング・クラブ・アメリカン・オークスを制したストップチャージングマリア Stopchargingmaria がイーヴンの断然1番人気に支持されていました。
逃げるサイズ Size を2~3番手で追走したストップチャージングマリア、直線では格の違いを見せ付け、ブービー人気(24対1)のジョイント・リターン Joint Return に4分の3馬身差を付けて人気に応えました。半馬身差で最低人気(30対1)のミス・ベシルー Miss Besilu が3着と、勝馬以外は波乱の結果となっています。
トッド・プレッチャー厩舎、ジョン・ヴェラスケス騎乗のストップチャージングマリアは、ブラック=アイド・スーザン、CCAオークスとG戦3連勝でGⅠも連勝、ケンタッキー・オークス馬アンタパブル Untapable に続く2番手の3歳牝馬としての地位を確立しました。このあとは古馬を破り、最強牝馬のタイトルをもぎ取りたいところでしょう。

さてモンマス・パーク競馬場でもジャージー・ショア・ステークス Jersey Shore S (GⅢ、3歳、6ハロン)が行われました。去年は7月初旬でしたが、今年は1か月以上遅れての実施です。fast の馬場に6頭立て。ベルモントで一般ステークスに勝っているフェイヴァリット・テイル Favourite Tale が6対5の1番人気。
レースは2番人気(7対2)のデット・シーリング Debt Ceiling が逃げ、フェイヴァリット・テイルは3番手追走。しかし1番枠からスタートし、2番手を追走していた3番人気(5対1)のプルード・ベイ Prudhoe Bay がインコースを利して先頭に立つと、フェイヴァリット・テイルの追い込みを4分の3差制して優勝。1馬身半差で最低人気(8対1)のグラッケン・トゥー Glacken Too が3着に入りました。
エドワード・プレーサ厩舎、パコ・ロペス騎乗のプルード・ベイは、芝の短距離戦で7着、3着したあとダート・コースに戻ってのG戦初勝利。今シーズン初めにはフロリダ産馬限定の条件ステークスに2勝したほか、ガルフストリームのスウェイル・ステークス(GⅢ)で4着の実績もある馬です。

昨日の最後は、デル・マー競馬場のデル・マー・オークス Del Mar Oaks (芝GⅠ、3歳牝、9ハロン)。firm の馬場に2頭が取り消して8頭立て。前走ベルモント・オークス(芝GⅠ)2着のシー・クィーン Sea Queen が、大外枠の不利がありながらも7対5の1番人気。
外枠を意識してか、スタートして直ぐに内に切れ込みながら2番人気(3対1)マイ・コンケスタドーリ My Conquestadory の2番手に付けたシー・クィーンでしたが、ペースが速かったためか伸び脚は今一つ。替って前半は最後方で待機していた4番人気(9対1)のパーソナル・ダイアリー Personal Diary が最後のコーナーで巧く間隙を衝いて抜けると、5番人気(11対1)ステラリス Stellaris 以下に2馬身4分の3差を付ける圧勝。入着争いは接戦で、首差でマイ・コンケスタドーリが3着、ハナ差でシー・クィーンは4着に終わりました。
ヴィクトリア・オリヴァー厩舎、コーリー・ナカタニ騎乗のパーソナル・ダイアリーは、目下8連敗中だった馬。6月にチャーチル・ダウンズでリグレット・ステークス(芝GⅢ)で繰上り2着していたものの、前走ポリトラック・コースのアローワンス戦でも2着と勝てなかった存在。今年41歳になるオリヴァー師は、同馬のオーナーであるハンフリー氏の娘で、夫も調教師のフィル・オリヴァーという家系。G戦勝はこれが2勝目となります。ナカタニ騎手はデル・マー・オークス4勝目のヴェテラン。この日の全米サプライズを総決算するに相応しい結果だったと言えるでしょうか。

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