セント・レジャーとチャンピオンズ・ウィークエンド

今週末のヨーロッパは大変なことになってます。英国では伝統のクラシック最終章であるセント・レジャーが、アイルランドは今年から秋のGⅠを一気にやっちゃおうという気概で土日にGⅠを纏め、フランスでは凱旋門賞ウィークのトライアル総覧会。
去年までは比較的バラけていた感がありますが、何故か今年は全てが集結した印象。記事のアップに時間が掛かりますが、焦らずに行きましょう。

先ずはドンカスター競馬場から。good 、所により good to firm の馬場で行われたレジャー開催の最終日、G戦は3鞍でした。
最初は歴史の古い2歳G戦、シャンペン・ステークス Champagne S (GⅡ、2歳、7ハロン)。6頭が出走し、前走サパラティヴ・ステークス(GⅡ)に勝ったエスティドカー Estidhkaar が3ポンドのペナルティーを課せられているにも拘わらず10対11の1番人気。ペナルティーを背負った馬は勝てないという最近のジンクスに対する挑戦でもありました。

5番人気(18対1)のエーシズ Aces がスローに落として逃げ切りを図りましたが、2番手を追走したエスティドカーがペナルティーを跳ね返す力の差を見せ付け、最後方から追い上げる4番人気(11対1)のウォー・エンヴォイ War Envoy に1馬身4分の1差を付けて優勝、長年のジンクスにも打ち克ちました。首差で逃げたエーシズが3着。
リチャード・ハノン厩舎、ポール・ハナガン騎乗のエスティドカーは、2戦目の初勝利から3連勝で二つ目のGⅡ制覇。来年の2000ギニーのオッズも20対1から16対1に上昇しました。ハノン師も同馬をギニー・タイプと評価し、クラシックの期待もかなり高いものがあります。このあとはデューハーストかレーシング・ポスト・トロフィーでシーズンを終え、来春に向けて更に成長を促す予定。

続いてはパーク・ステークス Park S (GⅡ、3歳上、7ハロン)。1頭取り消しがあり7頭立て。去年のサマー・マイル(GⅡ)勝馬で、今期は未勝利ながらダイヤモンド・ジュビリー(3着)、ジュライ・カップ(9着)と短距離GⅠを闘ってきたアルジャマヘール Aljamaheer が2対1の1番人気。ロイヤル・アスコットのスピードとマイルでも勝っている実績から、ここ7ハロンは全く問題なかろうという評価です。

レースは3番人気(7対2)のアンスガー Ansgar が逃げ、アルジャマヘールは最後方から。本命馬の末脚が逃げ馬を射程圏に入れましたが、最後は半馬身届かずアンスガーの逃げ切り勝ち。更に半馬身差で2番人気(5対2)のグレゴリアン Gregorian が3着と、平穏な結果に収まりました。
サブリナ・ハーティー嬢が管理し、ジェームス・ドイルが騎乗したアンスガーは、前走グッドウッドのシュープリーム・ステークス(GⅢ)に続くG戦2連勝となる6歳馬。7ハロンの良馬場という条件なら、まだまだ一線級相手に好勝負出来る1頭でしょう。

そして開催を締め括るセント・レジャー St Leger S (GⅠ、3歳牡牝、1マイル6ハロン132ヤード)。既に枠順を紹介した14頭の中から、先ずミン・アルマラート Min Alemarat が取り消し。更に珍しいハプニングが起こります。
パドックからスタート地点に向かったオデオン Odeon が、スターターによって発走を拒否されてしまいます。理由はフード(頭巾)を外さずにコースに出たから。同馬の頭巾はパドックのみの使用が届けられて許可されていたもので、コースでは外すのが決まり。馬が入れ込まないようにスタート直前まで装着しようとした陣営の意向は許可されなかったのですね。日本では想像することも出来ない事例ですが、海外遠征を計画している陣営は現地のルールに敏感でなければ、というサンプルになるでしょう。

ということでスタートしたのは12頭。枠順の日記でも触れたように、ダービー2着、エクリプス4着のキングストン・ヒル Kingston Hillが9対4の1番人気に支持されていました。
逃げたのはアイルランドからオブライエン厩舎が唯1頭送り込んできたコーム・オダナヒュー騎乗のグランドデュークオブタスカニー Granddukeoftuscany 。キングストン・ヒルは前半は最後方で我慢し、直線の末脚に賭ける自信満々の騎乗。逃げ馬が先頭をキープして直線に入りましたが、果たしてこの時点では先頭から12馬身差があったキングストン・ヒル、同馬の特徴でもあるジリ脚ながら徐々に前に接近すると、最後は追い縋る3番人気(13対2)ロムスダル Romsdal に1馬身4分の1差を付けて見事期待に応えました。更に2馬身差で2番人気(11対2)のスノー・スカイ Snow Sky が3着。以下ウィンドシーア Windshear が4着、5着にマーゾッコ Marzocco の順。上位は人気馬が独占する順当なクラシックでした。
最後の叩き合いで勝馬が2着馬に接触寸前になったことが審議になりましたが、直ぐに入線通りで確定。結果を左右するような妨害にはなりませんでした。

ロジャー・ヴァリアン厩舎、これがクラシック初制覇となるアンドレア・アトゼニ騎乗のキングストン・ヒルは、2歳時には無敗でレーシング・ポスト・トロフィー(GⅠ)を制した馬。この時点でクラシック制覇が目標になりましたが、ダービーのニアミスを経て念願成就。陣営は直ぐに凱旋門賞参戦を宣言しています。これを受けてオッズはレース前の20対1から14対1に上昇しました。ジリ脚タイプの馬だけに、馬場状態によっては浮上する可能性もありそう。

以上でドンカスターを終え、舞台はアイルランドのレパーズタウン競馬場へ。セント・レジャーが夕方4時には終わりましたから、レパーズタウン最初のG戦がスタートする4時5分までは一っ跳び可能な距離。実際何人かはヘリコプターで移動する光景も見られました。
こちらは good to firm 、所により good と、やはり速目の馬場。G戦は5鞍で、日曜日カラー競馬場の5鞍と併せると全10鞍の、正に競馬の祭典となる企画です。

最初に行われたのは、ジュヴェナイル・ターフ・ステークス Juvenile Turf S (GⅢ、2歳、1マイル)。去年はBCトライアルというタイトルが付いていましたが、今年は外されています。去年はオーストラリア Australia が勝ったレースで、その点も注目。7頭が出走し、オーストラリアと同じチーム、同じ雰囲気のジョン・エフ・ケネディー John F Kennedy が4対7の断然1番人気に支持されていました。それにしても何と言う馬名でしょう。

大本命のペースメーカーを務めるイースト・インディア East India が逃げ、ジョン・エフ・ケネディーは4番手。そしてケネディーはモノが違いました。堂々と先頭に立つと、2番人気(4対1)トームレーン Tombelaine に3馬身4分の1差を付ける圧勝。更に2馬身4分の1差で5番人気(20対1)のフェイスフル・クリーク Faithful Creek が3着に入りました。
もちろんエイダン・オブライエン厩舎、ジョセフ・オブライエン騎乗のジョン・エフ・ケネディーは、デビューのレパーズタウンでは2着だったものの、2戦目となる前走カラーで4馬身差の圧勝。3戦全て1マイルということもあり、来年の狙いはダービーでしょう。この勝利でダービーのオッズは7対1となり、現時点での本命。因みに2000ギニーのオッズは10対1となっています。
これでオブライエン師はこのレース5連覇、ガリレオ Galileo 産駒も3連覇(デューク・オブ・マレンゴ Duke of Marengo 、オーストラリア)となり、このレースの評価は更に高まることが予想されます。

二つ目はエンタープライズ・ステークス Enterprise S (GⅢ、3歳上、1マイル2ハロン)。10頭が出走してきましたが、何と言っても注目は長期休養から復帰した3歳馬フリー・イーグル Free Eagle 。未だこれが3戦目というキャリアーですが、9対10の2倍を切る断然人気を集めていました。

態々同馬のペースメーカーとして用意された9歳馬ロック・クリティック Rock Critic が逃げ、フリー・イーグルは後方から。しかしこの馬もモノが違っていました。何と2着イーリヴァル Elleval (20対1、6番人気)に7馬身差の圧勝。半馬身差の3着は5番人気(14対5)のチャンス・トゥー・ダンス Chance to Dance でした。
デルモット・ウェルド厩舎、パット・スマーレン騎乗のフリー・イーグルは、去年8月にレパーズタウンの新馬戦で鮮烈なデビューを飾り、この時点で将来のダービー馬と噂された逸材。2戦目のジュヴェナイル・ターフ(この日最初のG戦と同じレース)ではオーストラリアに6馬身差2着と大敗を喫しましたが、そのあと故障。それが癒えて今回の復帰戦となった次第です。
あくまでもレース後の状態次第ですが、シーズン末のアスコットで行われるチャンピオン・ステークスの有力候補に上がってきました。実際にオッズは、この時点で4対1が提示されています。ウェルド師によれば、凱旋門賞も考慮しているとのこと。その場合は、凱旋門を調教代わりにしてチャンピオンに向かうとか。恐ろしい発言ですが、ヨーロッパ競馬の頂点は2400メートルでは最早無く、2000メートルであることを暗示する一言でもありましょう。

続いてチャンピオンズ・ウィークエンドのGⅠシリーズ第一弾、マトロン・ステークス Matron S (GⅠ、3歳上牝、1マイル)。10頭が出走し、コロネーション・ステークス勝馬で前走ジャック・ル・マロワ賞4着の3歳馬リジーナ Rizeena が7対4の1番人気。

レースは2番人気(9対1)で愛オークス馬タピストリー Tapestry のペースメーカーを務めるパレス Palace と、シャノン厩舎のウィー・ジャン Wee Jean の激しい先頭争い。これを制したウィー・ジャンが大穴を開けるかと思われましたが、ペースが速かったこともあってゴール前で形勢は急転。8番手を進んでいた3番人気(5対1)のフィエソラナ Fiesolana が、5番手から伸びたリジーナに半馬身差を付けて快勝。4分の3馬身差でブービー人気(40対1)のトゥーバン Tobann が3着。3番手で前に付けていたタピストリーが9着と大敗したことからも、ペースが速かったことが窺われましょう。
ウィリー・マクリーリー厩舎、ウイリアム・リー騎乗のフィエソラナは、去年秋のチャレンジ・ステークス(GⅡ)を制していた5歳馬で、前走はモーリス・ド・ギースト賞(GⅠ)3着のスプリンター/マイラー。GⅠは初勝利で、次走のフォレ賞でGⅠ連勝を狙う由。なお、マクリーリー師はフットボールの選手だったそうで、華麗なる?転身と言えるのかどうか。

次のブーメラン・マイル Boomerang Mile (GⅡ、3歳上、1マイル)は初めて聞くレース名ですが、恐らく去年まではソロナウェイ・ステークス Solonaway S として施行されていたレースでしょう。明記した記事は読んでいませんが、レースの条件から判断して、去年までGⅢだったソロナウェーがGⅡに格上げされたのを契機に名称が変更された模様。8頭が出走し、愛2000ギニー3着で前走ジャージー・ステークス(GⅢ)に勝った3歳馬ムスタジーブ Mustajeeb がイーヴンの1番人気。

いつものようにレイティール・モール Leitir Mor が逃げ、ムスタジーブは後方2番手。逃げ馬はバテたものの、2番手を進んだ4番人気(7対1)のボウ・クリーク Bow Creek の先行力は衰えず、追い込むムスタジーブに半馬身差を付けての逆転勝ち。1馬身半差で2番人気(9対2)のヴェテラン、ゴードン・ロード・バイロン Gordon Lord Byron が3着。
マーク・ジョンストン厩舎、ジョー・ファニング騎乗のボウ・クリークは、前走セレブレーション・マイル(GⅡ)を逃げ切った3歳馬で、GⅡに2連勝。このあとはGⅠを狙うしかない状況になってきました。ジョンストンとファニングは、セント・レジャーにハートネル Hartnell で挑戦してきたばかりのコンビ。ドンカスターからヘリコプター移動でここに臨んでいたメンバーの一組でもあります。

そして最後は、凱旋門賞への動向も気になるアイリッシュ・チャンピオン・ステークス Iris Champion S (GⅠ、3歳上、1マイル2ハロン)。7頭立てと小頭数ですが、5頭がGⅠ馬という豪華版。以前からこれを最大目標に掲げていたダービー・愛ダービー馬のオーストラリア Australia がこのメンバーでも3対10の圧倒的1番人気。勝っても負けても日本馬にとっても結果が気になるでしょう。

レースはウェルド厩舎のアルカセーア Alkasser が引っ張り、オブライエンのペースメーカー、キングフィッシャー Kingfisher が2番手。後は全てGⅠ馬がこれを追走する隊形で、今年のエクリプス馬ムカードラム Mukhardram (12対1、4番人気)が3番手、去年の愛ダービー馬トレーディング・レザー Trading Leather (20対1、5番人気)が4番手で続き、去年のエクリプス馬で現役に復帰したアル・カジーム Al Kazeem (10対1、3番人気)は5番手。後方2頭は、仏ダービー馬で2番人気(7対1)のザ・グレイ・ギャッツビー The Grey Gatsby と、最後方のオーストラリア。
必勝態勢で臨むオーストラリアが外々を回って前を捉えにスパートしたのに対し、終始内で距離を稼いでいたライヴァルのザ・グレイ・ギャッツビー、漸く最後で外に出してオーストラリアに挑むと、最後は2頭のマッチレース。最後の一歩でライアン・ムーアの執念が実り、ジョセフが御すオーストラリアを首差制する雪辱劇となりました。3着は4馬身の大差が付いてトレーディング・レザー。以下ムカードラム4着、アル・カジーム5着と現時点での実力通りの結果に。

ケヴィン・ライアン厩舎のザ・グレイ・ギャッツビー、ドンカスターからヘリコプターで乗り込んだムーアの秘策もあり、前走ヨークのインターナショナルでは逆転困難と言われたハンデを跳ね返しての戴冠でした。
勝馬の父マスタークラフツマン Mastercraftsman は、セント・レジャーを制したキングストン・ヒルの父でもあり、一日GⅠ2勝、それも頂上戦を制するという快挙でもありました。
ザ・グレイ・ギャッツビーは、凱旋門賞には向かわないでしょう。オーストラリア陣営のコメントは未着ですが、今回の激戦から3週間でロンシャンは厳しすぎましょう。恐らく凱旋門賞は回避し、10ハロンのチャンピオン・ステークスが最も有望と思慮します。

そのチャンピオン・ステークス、再びオーストラリアとザ・グレイ・ギャッツビーの対決の場となるばかりでなく、この日鮮やかに復帰したフリー・イーグル参戦の可能性も大。愛チャンピオンの結果を受け、ザ・グレイ・ギャッツビーのオッズは4対1に、さっき4対1が提示されたフリー・イーグルは3対1と更に上昇しました。
今年のヨーロッパ競馬シーン、ファン最大の関心事は凱旋門賞にあらず、アスコットのクィーン・エリザベスⅡ世ステークスとチャンピオン・ステークスに注がれることは愈々明白になってきました。

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