豪脚復活、36年振りの凱旋門賞連覇
タイトルの凱旋門賞については既に日本でも放映されましたし、ユーチューブで再生することも可能。結果は津々浦々にまで知れ渡っているでしょうから、当ブログでは10月5日の結果をレース順に紹介して行くことにします。
いつもは雨が続いて重い馬場になる季節ですが、今年は天候に恵まれて馬場は good 。日本の馬たちにとっては絶好のコースになったと思われます。では第1レースから・・・。
トップ・バッターはスタンドから遠い5ハロンコースで行われるアベイ・ド・ロンシャン賞(GⅠ、2歳上、1000メートル)。日本には2歳上というレースはありませんが、ヨーロッパの短距離戦、特にGⅠクラスにいくつかあるもので、今年は2頭の2歳馬を含めて18頭が参戦してきました。1頭は取り消し。
6対4の1番人気に支持されたソール・パワーはキングズ・スタンド→ナンソープという短距離ダブルを達成した馬で、同じ年にアベイも勝ってハットトリックとなれば1990年のデイジャー Dayjur 以来の偉業となります。
多頭数の5ハロンですからレースが激しくなるのは当たり前、スタートから3番人気(11対1)の2歳馬コタイ・グローリー Cotai Glory 、4番人気(12対1)のステッパー・ポイント Stepper Point 、6番人気(13対1)のテイク・カヴァー Take Cover の3頭が熾烈なハナ争い。人気のソール・パワーも抜け出す機会を狙いましたが前が塞がり出られず、結局8着でレースを終えました。
混戦を制したのは、先行グループの直後に付けていた13番人気(31対1)のムーヴ・イン・タイム Move in Time 。ゴール板で4頭が並ぶ激戦を写真判定でもぎ取っています。頭差で先に抜けた7番人気(16対1)のランガリ Rangali が2着、また頭差で後方から追い込んだ8番人気(18対1)モヴィエスタ Moviesta が3着。4着スピリット・クォーツ Spirit Quarts (何と87対1!)も頭差。去年の勝馬マーレク Maarek はスタートに失敗し、11着と連覇は成りませんでした。本命に騎乗したリチャード・ヒューズによるとソール・パワーはいつもの瞬発力が無く、行き場が無かったワケではなく、間隙を衝く脚が無かったとのこと。完敗を認めています。
デヴィッド・オメーラ厩舎、ダニエル・タドホープ騎乗のムーヴ・イン・タイムは、G戦そのものが初勝利となる6歳馬。前走プティ・クーヴェール賞(GⅢ)を含めて2着が3回続いており、大一番で掴んだ勝利でした。調教師と騎手のコンビは、ヘイドック・スプリント・カップをジー・フォース G Force で制したのに続く短距離GⅠ制覇でもあります。
第2レースはマルセル・ブーサック賞 Prix Marcel Boussac (GⅠ、2歳牝、1600メートル)。12頭が出走し、カブール賞(GⅢ)勝馬で前走モルニー賞(GⅠ)3着のエルヴェディヤ Ervedya が23対10の1番人気。
大外12番枠から出たエルヴェディヤは、切れ込むように先頭に立っての逃げ作戦。一旦2番手に控える場面もありましたが、再び先頭に立ってゴールへ。しかし無理が響いたが、距離が長かったか最後の200メートルは苦しく、中団から伸びた2番人気(16対5)ファウンド Found の末脚に屈しました。勝馬と本命馬の着差は2馬身半、更に1馬身半差で3番人気(13対2)のジャック・ネイラー Jack Naylor が3着。
勝ったファウンドは、アイルランドのエイダン・オブライエン厩舎、ライアン・ムーア騎乗。カラーのデビュー戦に勝ち、2戦目でモイグレア・スタッド・ステークス(GⅠ)に挑戦して3着した逸材で、この日の瞬発力は格の違いを見せ付けた印象。ブックメーカーも直ぐに反応し、1000ギニーに8対1、オークスにも6対1のオッズが出され、共に1番人気に急上昇しています。来年の牝馬クラシックの中心になるのはこの馬でしょう。オブライエン師も“ギニーに必要なスピードと、オークス向きのスタミナもある”と、二冠を取れる器と見ているようです。
一方敗れたエルヴェディヤのルジェ師は、やはり最後の200メートルに言及。1マイルはこの馬にとってはギリギリとの見解でした。
三つ目のGⅠはジャン=リュック・ラガルデール賞 Prix Jean-Luc Lagardere (GⅠ、2歳牡牝、1400メートル)。1頭が取り消して9頭が参戦し、3戦無敗でコヴェントリー・ステークス(GⅡ)とモルニー賞を制したザ・ワウ・シグナル The Wow Signal が6対4の1番人気。
そのワウ・シグナルが逃げてレースを引っ張りましたが、後続に並ばれると急速に後退、最後は諦めて最下位入線と失望に終わりました。レースは最後方を進んだ2番人気(5対2)のグレンイーグルス Gleneagles が外から突き抜け、3番人気(39対10)フル・マスト Full Mast に半馬身差を付けて先頭でゴール。短首差で4番人気(13対1)のテリトリーズ Territories が3番手。
しかし最後の叩き合いでジョセフ・オブライエン騎乗のグレンイーグルスが左に斜行し、後続馬と接触したことが審議となり、勝馬は3着に降着。繰り上がってフル・マスト1着、テリトリーズ2着、グレンイーグルス3着で確定しました。繰り上がったフル・マスト陣営、管理するヘッド=マーレク女史は“勝った馬の方が強い”とキッパリ。更に審議にならなかった場合でも異議申し立てをする積りは無く、オーナーのアブダッラー氏も“異議申し立てはするな”と言明した由。
フランスの審議は裁決が自主的にする場合と、被害を被った馬の関係者が異議を唱える場合の二種類がありますが、今回は前者のパターン。フル・マスト陣営は接触があったのは事実ながら、1着で入線した馬が強いのは明らかという見解。前日のシリュス・デ・ゼーグルのケースと同じで、単なる事務的な審議と着順入れ替えに過ぎないというのが現場の見解のようです。
降着されたエイダン・オブライエン師も2007年の凱旋門賞での審議を引き合いに出し、“今回よりあの時の方が降着になるケース。ディラン・トーマスが失格して、グレンイーグルスがセーフなら納得するがネ”と、こちらも同じ見解です。どうもフランスの審判には風当たりが強いようです。
勝ちをプレゼントつれた形のフル・マスト、既に紹介したようにクリティック・ヘッド=マーレク厩舎、ティエリー・テュイレ騎乗で、ハーリッド・アブダッラー氏のジャドモントの所有馬。前走ロシェット賞(GⅢ)勝馬で、これで一応3戦3勝ということになります。しかし未だ馬は若く、将来は別として、真面ならグレンイーグルスの敵ではないでしょう。
第3レースに手古摺りましたが、次はオペラ賞 Prix de l’Opera (GⅠ、3歳上牝、2000メートル)。11頭が出走し、オークス2着、愛オークスも5着で前走ブランドフォード・ステークス(GⅡ)を制した3歳馬タファーシャ Tarfasha が23対10の1番人気。
4番人気(63対10)のニンフェア Nymphea が逃げ、タファーシャは2番手。直線に入って先頭に立ったタファーシャでしたが、これを4番手で追走していた2番人気(43対10)のリボンズ Ribbons が交わし、更に後方から抜群のタイミングで追い出した5番人気(7対1)のウィー・アー We Are が末脚を爆発、リボンズに首差の逆転勝ちです。更に首差で7番人気(8対1)のハダーサ Hadaatha が3着に入り、4着タファーシャも首差。
フレディー・ヘッド厩舎、ティエリー・ジャルネ騎乗のウィー・アーは、仏オークスのトライアルであるサンタラリ賞(GⅠ)の勝馬ですが、禁止薬物が検出され、後になってその前の1着と共に失格となった不運な馬。前走ロンシャンのリステッド戦も6着に終わっていましたが、改めて名誉挽回となるGⅠ制覇となりました。
(サンタラリ賞は、2着で入線したヴァジラ Vazira に優勝が転がり込んでいます)
そして愈々凱旋門賞 Prix de l’Arc de Triomphe (GⅠ、3歳上牡牝、2400メートル)。日本でも既に報道され、ここより詳しいコメントも出されていますから、ザッと触れることにしましょう。
20頭が出走、最終的にはタグルーダ Taghrooda が11対2の1番人気に上がっていました。2番人気は6対1でアヴニール・セルタン Avenir Certain 、エクトー Ectot は結局3番人気(68対10)で落ち着き、去年の覇者トレーヴ Treve は144対10の7番人気と、日本の3頭よりもオッズの高い異様な不人気です。
日本勢ではハープスター Harp Star が7対1の4番人気、ジャスタウェイ Just A Way が5番人気(8対1)、ゴールドシップ Gold Ship も12対1の6番人気と、3頭全てが6番人気以内という高評価がなされていました。
御存知のように、去年より前で競馬、終始内で待機していたトレーヴが去年以上の瞬発力を発揮し、瞬きする間に後続に5馬身差。後続から漸く11番人気(20対1)のフリントシャー Flintshire が抜け出して女王に迫りましたが、馬なりの勝馬に2馬身差まで詰めるのがやっと。以下1馬身4分の1差でタグルーダが3着、4分の3馬身差でセントレジャー馬ながら30対1と人気薄のキングストン・ヒル Kingston Hill が4着。ヴェルメイユ賞でトレーヴを破ったアガ・カーンのドルニーヤ Dolniya は5着。
日本馬ではハープスター6着、ジャスタウエイ8着、ゴールドシップ14着で、3馬とも勝馬を引き立てる端役に過ぎない結果でした。入着した馬たちも脇役、終わって見れば圧巻のトレーヴということでしょう。
その他有力馬ではルーラー・オブ・ザ・ワールド Ruler of the World が9着、復活が期待されたアル・カジーム Al Kazeem 10着、無敗だったアヴニール・セルタン11着、エクトーは17着大敗に終わりました。
凱旋門賞の連覇は、1977年と78年のアレッジド Alleged 以来36年振り。トレーヴが人気を落としていたのは、今期3戦して勝てなかったこと、背中を痛めるアクシデントがあったことからです。周囲はヘッド師に同馬の引退を強く勧めたそうですが、女史の信念は揺るぐことがありませんでした。
オーナーのカタール・レーシングも彼女の信念には脱帽。レース直前の調教のあと、電話で“本調子に戻りました。今年も勝てます”と告げられたそうな。それでもトレーヴは直ぐに引退します。GⅠ4勝、凱旋門賞を何れも圧勝で連覇した名牝として。
これでお祭りが終わったわけではなく、第6レースはフォレ賞 Prix de la Foret (GⅠ、3歳上、1400メートル)。2頭が取り消して14頭立て。今期勝鞍には恵まれないものの、クィーン・アン・ステークス(GⅠ)3着、前走ジャック・ル・マロワ賞(GⅠ)2着のアノディン Anodin が7対2の1番人気。
レースは7番人気(18対1)のヌーゾー・カナリアス Noozhoh Canarias が逃げ、アノディンは先行する絶好の展開。馬なりのまま進出したアノディンは、しかし追ってみると全く伸び脚無く5着敗退。逆にスタートで出遅れ、追っ付ながらやっと前を追っていた2番人気(9対2)のオリンピック・グローリー Olympic Glory が矢のような末脚を発揮し、4番手から伸びた2012年の勝馬で4番人気(11対2)のゴードン・ロード・バイロン Gordon Lord Byron に2馬身差を付ける圧勝。頭差でヌーゾー・カナリアスが3着に辛うじて粘り、ヴォルダ Vorda が4着に入りました。
リチャード・ハノン厩舎、フランキー・デットーリ騎乗のオリンピック・グローリーは、今期初戦のロッキンジ・ステークス(GⅠ)に勝ったあとイスパハン賞(GⅠ)4着、前走ジャック・ル・マロワ賞も3着と健闘していた4歳馬。7ハロン戦では無敗、今期限りで引退するのか、現役を続行するのかはオーナー(トレーヴと同じ)次第ですが、種牡馬になれば最も期待されるタイプであることは間違いありません。
ロンシャンのGⅠシリーズ、最後はカドラン賞 Prix du Cadran (GⅠ、4歳上、4000メートル)。取り消しが2頭あって8頭立て。ロンスデール・カップ(GⅡ)の勝馬で、前走愛セントレジャーで5着だったペール・ミモザ Pale Mimosa が23対10で1番人気。
レースは2番人気(4対1)のハイ・ジンクス High Jinx が絶妙なペース配分での逃げ切り勝ち。鞍上ライアン・ムーアは、ファウンドに続いてこの日二つ目のGⅠ制覇、改めて騎乗技術の巧みさを見せ付けました。首差で後方から5番人気(53対10)のバサイロン Bathyrhon が2着、中団を進んだペール・ミモザは4分の3差で3着でした。
ジェームス・ファンショウ厩舎のハイ・ジンクスは、前走グラディアトゥール賞(GⅢ)では2着バサイロンの3着で、今回はその雪辱戦となりました。その前にメゾン=ラフィットのリステッド戦(カルーセル賞)に勝っており、G戦は初勝利。6歳せん馬で、今期は仏セントレジャーも可能性が残っていますが、目標は来年のゴールド・カップ。この勝利で25対1のオッズが出ました。
さて昨日はロンシャンだけでなく、アイルランドのティッペラリー競馬場でもG戦が一鞍行われました。アイルランドのパターン・レースは最後から二つ目で、この日も障害レースとの混合開催の中での施行です。
good to soft の馬場で行われたコンコルド・ステークス Concorde S (GⅢ、3歳上、7ハロン100ヤード)は、2頭が取り消して8頭立て。去年の勝馬で、今期もグラッドネス・ステークス(GⅢ)に勝ち、前走デスモンド・ステークス(GⅢ)も3着のスルサン Surthan が2対1の1番人気。
レースは3番人気(3対1)のブレンダン・ブラッカン Brendan Brackan が逃げ、スルサンは5番手追走。3番手を進んだ2番人気(3対1)のビッグ・ブレイク Big Break が逃げ馬を半馬身捉えた所がゴール。スルサンも追い上げましたが、1馬身4分の1差で3着、2連覇は成りませんでした。
勝ったビッグ・ブレイクは去年のこのレースの2着馬で、同馬を管理するデルモット・ウェルド師は、2010年からこのレースを3連覇していた相性の良いレース。レイ・ローチの騎乗。2歳時にはキラヴュラン・ステークス(GⅢ)に勝ちましたが、3歳時は愛1000ギニー4着を含めて未勝利、今期もGⅢに続けて4着という成績が続いていました。
先生のコメントを拝読します、日本馬と騎手への怒りがおさまりました。
この際、中央競馬会にも外人騎手にもっとオープンになってほしい気もしました。