第590回・日本フィル定期演奏会
日本フィルの東京定期演奏会。本来の金曜日を昨日の木曜日に振替えてもらって聴いてきました。金曜日は読響の定期と重なってしまったためです。どちらも本来はサントリーホールを会場としていますが、現在改修工事中なので、この間だけの特例です。
席は1階13列4・5番。定席よりは大分左よりですが、文句は言えません。木曜定期は知った顔にたくさん出会えます。“どうもどうも、今日はね・・・”と何度も挨拶。
内容は次のもの
第590回東京定期 東京オペラシティコンサートホール
モーツァルト/歌劇「魔笛」序曲
モーツァルト/交響曲第36番「リンツ」
~休憩~
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第2番
チャイコフスキー/幻想曲「フランチェスカ・ダ・リミニ」
指揮/アレクサンドル・ドミトリエフ
ピアノ/エリック・ハイドシェック
コンサートマスター/木野雅之
客席には普段見かけない評論家などの顔もあって、明らかにハイドシェック目当てという聴衆もチラホラ。それはまた後で・・・。
まず軽やかに魔笛、と思いましたが、意外に遅いテンポ。大丈夫かな、と思う間もなく主部に入り、後は快いテンポで快調な滑り出しです。
リンツ交響曲は、ナマで聴く機会は意外に少ないですね。この前は、と思い出しても上岡/読響が思い当たる程度。日本フィルでもそれほど演奏されていないそうです。渡邉暁雄氏など一度も取り上げませんでしたから。
そういうわけでもありませんが、とても新鮮に響きました。ドミトリエフは独自な解釈を押し付ける、というのではなく、モーツァルトの自然なタッチを大切にしていきます。この曲がたった数日で書き上げられた勢いを重く見ているのでしょう。
弦も管も柔らかく、ウィーン風のしなやかさで紡いでいきますが、第4楽章の最後、ここではホルンやトランペットが大きく鳴り響き、極めてシンフォニックに纏め上げられていたのが印象に残りました。いいじゃないか、ドミトリエフ。
休憩後のベートーヴェン。期待(されているらしい)のハイドシェック登場。写真とは違って顎鬚が真っ白。オーケストラだけの前奏を腕組みしながら、もったいぶって聴いています。
で、ピアノの入り。こりゃイカン。私は印象が良くなかったときにはあまり細かに触れないようにしていますが、これは噴飯もののベートーヴェンでしたね。いや、こりゃベートーヴェンじゃない。
テンポはしどろもどろ、リズムは滅茶苦茶。ピアノはペチャペチャ。第3楽章のロンドなんか、音価が違うじゃない、これじゃワルツでしょうが。この楽章ではベートーヴェン自身がアクセントをずらせて現代風にスウィングして見せる個所があるけれど、ここだけギコチないリズムになるなんて笑止千万。性質の悪いブラックジョークとしか思えません。
第1楽章のカデンツァだって音楽にならない。あれじゃ勝手ンツァだ。
オーケストラは実に立派なベートーヴェンを付けていました。あの気紛れハイドシェック相手に瑕疵もなく纏め上げたドミトリエフに大ブラヴォを。
先日札幌で聴いた小菅優の見事なベートーヴェンを改めて思い出してしまいました。
驚いたのは聴衆の喝采。何でこれがああも受けるのか? ピアノの世界への不信感は募るばかりですぞ。
ご本人はご満悦らしく、訳の判らないことを言って変なピースをアンコール。余分じゃ。
ハイドシェックが終わったら空かさず席を立つ人がかなりいました。オーケストラに対して失礼でしょ。そういう人はコンサートに来ないで欲しい。正直、そう思いましたね。
ハイドシェック、一つ仇名を思いつきましたよ。だけど内緒。家内と笑いましたわ。
気を取り直してチャイコフスキー。これは見事でしたね。前のベートーヴェンが酷かっただけ尚更。オーケストラの風圧に圧倒されました。
ドミトリエフは闇雲にオーケストラを咆哮させるのではなく、構成を大事にして、実に品格のあるチャイコフスキー像を示してくれました。中間部のアンダンテ・カンタービレも上質なカンタービレ。節度のある啜り泣きに酔い痴れたのであります。
主部に登場するシンバルのピアニシモ。ここはどうやって音を出したのでしょうか。恐らく撥を工夫しているのでしょう。細やかな表現力に脱帽。芸のない演奏で聴くと喧しいばかりの25分ですが、些かの長さも感じさせない、さすがに文化功労賞に輝くドミトリエフでした。
帰り、駐車場に降りるエレベーターで懐かしい顔に遭遇。元コンマスの大河内氏。若くて素敵な奥様とご一緒です。気さくに“元コンマスの大河内でぇ~す、これからも日本フィルを宜しく”。
見ず知らずのファンにも素晴らしい笑顔で接してくれる、素敵な出遭いでした。
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