今日の1枚(202)

「20世紀の偉大な指揮者たち」シリーズ、アタウルフォ→アルトゥーロ→アルバート と来て、次はアンドレ・クリュイタンスです。
クリュイタンス (1905-1967) に付いてはプロフィールを詳しく紹介するまでもないでしょう。フランスの指揮者ですが、生まれはベルキー。アントワープ、リヨン、パリと歌劇場での経歴が長く、最後はパリ音楽院管弦楽団のシェフでした。バイロイトで指揮した最初のフランス系指揮者で、ロンドン・デビューは1958年にフィルハーモニア管弦楽団を指揮した時。
私は彼とパリ音楽院管弦楽団の初来日(最初で最後)を良く覚えていて、羽田に到着した日には夕方のテレビ・ニュースでその模様が放送されていました。未だコンサート年齢に達していなかったので来日公演は聴けませんでしたが、私に最初の音楽指南をしてくれた従兄弟がラヴェル・プロを聴いて感激、そのことを何時までも自慢にしていましたっけ。私は専らテレビで観戦し、その妖艶な指揮姿は今でも思い出すことが出来ます。

しかし、クリュイタンスは来日する前は日本では評判が良くありませんでしたネ。ビゼーのアルルの女は、当時のレコード芸術の大御所批評家Mは表情が硬くて雰囲気が乏しい、とバッサリ切り捨てていましたし、フォーレのレクイエム(旧盤)も「失敗作」と決め付けていました。私がレコード芸術という月刊誌に疑いを抱くようになった切っ掛けでもあります。
配信されている2枚組の1枚目は、

①ビゼー/交響曲ハ長調
②ドビュッシー/管弦楽のための映像
③ラヴェル/ラ・ヴァルス

その不評だったビゼーと同じ時期に録音されたのが、1枚目の冒頭に収録されている①です。フランス国立管弦楽団(録音当時はフランス国立放送管弦楽団という団名でした)を振ったモノラル録音で、手元にあるテスタメントによる復刻盤の資料によると1953年10月8・9日、パリのシャンゼリゼ劇場 Theatre des Champs-Elysees で収録されたもの。
プロデューサーは、ルネ・シャラン Rene Challan 、エンジニアがワルター・ルールマン Walter Ruhlmann と明記されています。この録音は最初英コロンビアから CX 1173 というLPで発売され、同じビゼーの「祖国」序曲がカップリングされていました。

モノラルということもあり、確かに音質的には硬さが感じられます。Mが硬いと感じたのは録音であって、演奏ではないと思いますがどうでしょうか。第1楽章と第4楽章の繰り返しは省略。第3楽章のリピートに付いては、主部は前半のみ、トリオ部は前半も後半も実行しています。

②はパリ音楽院管弦楽団とのステレオ録音で、別資料によると1963年9月10~14日に収録されたもの。録音会場やプロデューサーの名前など、手元の日本盤CD(CC33-3402)には記載がありません。多分同時期の有名なラヴェル全集と同じサル・ワグラムじゃないでしょうか。
クリュイタンスのドビュッシーはステレオ録音はほとんど無く、この録音に組み合わされていた「遊戯」と、他に「神聖な舞曲と世俗的舞曲」があった位のものでしょう。クリュイタンスを代表する名演奏。

③は珍しいフィルハーモニア管弦楽団を指揮したステレオ録音。最初に書いた様に、クリュイタンスの英国デビューはオットー・クレンペラーの代役として1958年にフィルハーモニアを振ったときでした。恐らくこの機会に録音されたもので、同時期にベルリオーズの幻想交響曲もステレオ録音されたと記憶しています。
ラ・ヴァルスには、後にパリ音楽院管弦楽団とラヴェル全集を完成させた時の再録音もあって、営業的には新録音が専ら使用されてきました。従って今回のフィルハーモニア盤は珍品の部類でしょう。ステレオ初期のものですが、音質的には新盤と比較しても遜色ないと思いました。

参照楽譜
①ユニヴァーサル UE 13162
②デュラン 8723, 7723, 7722
③デュラン D.& F. 10.080

 

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