サルビアホール 第42回クァルテット・シリーズ
11月11日に始まって連続5週のサルビアホールSQS、昨日は1年の締め括りとしてヴォーチェ弦楽四重奏団を聴いてきました。第13シーズンのトップ・バッターという演奏会でもあります。
ヴォーチェ弦楽四重奏団は2004年に結成されたフランスの団体で、「le Quatuor Voce」と表記。クァトゥール・ヴォーチェと呼んだ方が良いようにも思います。もちろんホームページもあって、次のもの。
フランスの団体ながら今回のプログラムはドイツとチェコの作品。別の演奏会のチラシによると11月23日から日本各地をツアーしているようで、西に東にと大忙し。この日のサルビアと9日の王子ホールが最後みたいですね。
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第4番ハ短調作品18-4
ヤナーチェク/弦楽四重奏曲第2番「内緒の手紙」
~休憩~
シューベルト/弦楽四重奏曲第15番ト長調D887
ということなんですが、中々感想は書き難いもの。掴み所の無いクァトゥールでした。
先ずメンバーですが、これがどうもハッキリしない。プログラムやチラシ、加えて幸松辞典を見てもファーストはサラ・ダイヤン Sarah Dayan (デイヤンという表記もあります)、セカンドがセシル・ルーバン Cecile Roubin 、ヴィオラはギョーム・ベケール Guillaume Becker 、チェロがリディア・シェレー Lydia Shelley となっています。ヴィオラ以外は全て女性。
しかし最初のベートーヴェンと次のヤナーチェクでは第1と第2が交替。最後のシューベルトとアンコールもベートーヴェンと同じ女性がファーストを受け持ちましたが、写真などで確認すると、こちらがセシルみたいです。帰ってからフランスのネットで写真を検索しましたが、間違いありません。鶴見ではサラはヤナーチェクのみファーストを弾き、他はセシルがリードしていました。
また4人の並びも変わっていて、ヴァイオリンが左手から二人並ぶのは同じですが、ベートーヴェンとアンコール(これもベートーヴェン)ではチェロが右端に座り、ヤナーチェクとシューベルトではチェロは中に入り、ヴィオラが右端に出ます。
つまり本編3曲では、3曲とも奏者・楽器の配置が違う。こういうのは初めて見ましたし、もちろん初めて聴きました。
経歴などをチェックすると、今年で結成10年になりますが、チェロは3人目のよう。結成時はジュリアン・ドゥコワンで、2008年にはフローリアン・フレールに代わっています。この年に最初のCD(シューベルト3曲)を録音し、初来日も果たしました。このCDジャケットを見ればチェロは男性ですし、設立メンバーも名前からして男性でしょう。
今回のリディアは女性で、彼等としては3度目の来日の由。いろいろなコンクールで受賞も果たしているようですが、ボルドーでもロンドンでも優勝じゃありません。2枚目で最新のCDはオール・ベートーヴェンですから、ドイツ物を中心に据えている団体なのでしょう。
それにしては最初のベートーヴェンがピンと来ません。第1楽章が終わった所でチェロが再度調弦のために舞台裏に引っ込んでしまい、ファースト(?)のセシルが日本語で“ごめんなさいね、ここに来ることが出来て嬉しいです”などと間を取り繕っています。
第2楽章から再チャレンジですが、音色はツルツルと滑る様な印象で、時には耳にも刺激的な高音。メヌエットなど闇雲に速いだけで落ち着かない。何とも違和感を拭えないままにベートーヴェンらしくないベートーヴェンが終わってしまいました。
サッと引き上げると、舞台に出るドアを閉めてしまいます。
そしてヤナーチェク、ファーストはサラに交替し、ヴィオラとチェロも場所を交換して座ります。椅子と譜面台はベートーヴェンと同じですから、チェロが椅子の高さを自分用に直したりしている。
こうして弾かれたヤナーチェクですが、これまたモラヴィアの土臭さとは無縁のもの。「内緒の手紙」は個人的には今年3回目のナマ体験でしたが、ヴォーチェのヤナーチェクは最も感心しない演奏でした。これが正直な感想で、これまたヤナーチェクらしくないヤナーチェク。
休憩の間にチラシを見ていると、「ヨーロッパの若いクァルテットの中でも傑出したクァルテット」とか、「最高の音楽性、知性、感性、完璧さとスタイルが全て備わっている」とあります。これがギュンター・ピヒラー(アルバン・ベルクQ)の賛辞というから驚いてしまいました。
さてシューベルト、これは前半に比べればピヒラーの称賛にいくらか近付いた印象で、この大曲が比較的すんなり耳に入ってきました。流石に耳が慣れたのと、あの長い第1楽章の繰り返しを省いたこともあるのでしょう、最後まで退屈することはありませんでした。
ただ全体に音色が明るく、聴き手の内面に食い込むようなスタイルではないので、第2楽章の短調から長調への転換が余り明瞭にはなりません。第3楽章のトリオもドイツ・リートというより、シャンソンを聴いているよう。「シューベルト」と言うより、「シュベール」と呼びたいような音楽でしたね。
アンコールの曲名は、セカンドに座っているサラが告げました。ベートーヴェンのラズモフスキー2番から第3楽章。これも3分の2、いや5分の3か。例のロシア民謡が出て、アレグレットを反復した所で終わってしまいました。「時間が来たんでこれでお仕舞」みたいな。
ということで、何ともアバウトな感じのクァルテット。これがフランス風と言うことなのかもしれませんが、チョッと思い出したことがあります。
演奏会の日記に馬の名前を出すのは気が引けますが、今年の凱旋門賞を制したトレーヴ Treve という馬。去年に続いて連覇でしたが、今年の前哨戦は何れもパッとせず、如何にも全盛時を過ぎた印象でした。それで人気も落ちていましたが、賞金が高いことで大発奮したのか、アッサリと楽勝。世に新聞が読める馬というのがいますが、正にそのタイプで、いつ走るか判らない。
音楽の話に戻せば、フランスに伝わる有名なジョーク。某指揮者がフランスのオケに客演し、某楽器に徹底的なリハーサルを課していたところ、その奏者が“マエストロ、そんなに練習しても無駄ですぜ。だって本番は別のプレイヤーが来ますから”。
こういうアバウトな所がフランスにはあって、馬も音楽も映画も掴み所が無い。
何か悪口ばかり書いたようですが、ヴォーチェには凱旋門賞のような舞台が必要なのかもしれません。恐らく実力は相当なものでしょうが、ハードな日本ツアーで多少疲労が溜まっていたのかもね。
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