今日の1枚(223)

モントゥーの2枚目を聴く前に思い出したこと。

ロシアの名指揮者アレクサンドル・ラザレフが、何時だったかのマエストロ・サロンで某ロシア音楽の演奏に関し、“昔の指揮者ではモンテーだけが素晴らしかった”と発言したことがあります。通訳を担当されていた小賀明子さんは当初“モンテー?”と訝しげな表情を浮かべていましたが、司会の新井豊治氏が“フランス人指揮者のピエール・モントゥーのことでしょ”と助け船を出しました。
音楽に関する著作もある小賀さんは直ぐに納得し、「モントゥー」と翻訳を続けます。ところがラザレフ氏は「モンテー」と発音して譲りません。二人は頑固に自分の立場に固執し、最後は会場大爆笑になったことがありました。
ということでモントゥーかモンテーかは判りませんが、日本での表記ピエール・モントゥーの2枚目に行きましょう。

①ドビュッシー/夜想曲
②チャイコフスキー/バレエ音楽「眠りの森の美女」抜粋
③リール/ラ・マルセイエーズ

前回も書いた様にモントゥーは様々なレーベルにレコーディングしていましたが、2枚目の3曲は夫々を代表するもの。
①はボストン交響楽団とRCAに収録したステレオ録音で、第3曲のシレーヌを含む全曲演奏。シレーヌでの女声合唱はバークシャー祝祭合唱団です。当音源はRCAが発売したモントゥー・エディションにも含まれており、手元のCD盤に附せられた解説によると、
1955年8月15日、ボストンのシンフォニー・ホールでの録音、プロデューサーは John Pfeiffer と記されています。タングルウッド音楽祭での演奏会直後に収録された由で、モントゥーらしい明快な演奏にライヴの雰囲気がそのまま残されているのが特徴でしょう。

②はロンドン交響楽団を指揮してデッカに録音したステレオ初期の1枚。これもデッカから再発された日本発売のCD盤が手元にあります。この盤のブックレットは貧弱なもので、データは1957年6月にロンドンとだけ記されていました。
チャイコフスキーのバレエには様々な版があって注意が必要ですが、「眠りの森の美女」全曲のスコアで最もポピュラーなのはオイレンブルク版でしょう。これは1952年にモスクワで出版された全曲スコアのリプリントですが、オリジナルのバレエ・スコアは初演後暫く埋もれていて、その間に譜面の一部が失われてしまった経緯があります。
バレエ全曲が復活したのはモントゥーも指揮者を務めていたディアギレフの「バレエ・リュス」ロンドン公演(1921年)で、この時に譜面の復元が行われました。何とストラヴィンスキーが復元を担当したのですが、この辺りの詳しい経緯が判らないので、録音によって含まれているナンバーに相違が生じているのかと思われます。

従って全曲版と称するものには様々な異稿があるようで、特に第3幕は版によって含まれていないピースも存在します。モントゥーのハイライト盤、特に3幕の音楽にはオイレンブルク版には収録されていないピースが多数あり、下記の参照楽譜は余り参考にはなりません。この辺りはアンセルメの全曲盤でも同様です。更にモントゥーは彼方此方にカットを施しており、こういう作品はスコアを見ずに聴いた方が精神衛生上は良いと思慮しますね。それでも有名な序奏やワルツ、パノラマも含まれており、ハイライト盤として楽しむには充分でしょうか。
(上記日本盤の解説にはチャイコフスキーは60曲を作曲し、モントゥーは聴き所を24曲演奏している、とありますが、曲数の根拠については書かれていません)
ステレオ初期の録音と言うこともあり、音質はやや低音が不足気味。オーケストラも、トランペットなど現代の水準から見るとやや落ちると思われる個所もあり、モントゥーの代表盤として挙げるのはどうかとも思われます。

③はロンドン交響楽団の演奏とありますが、実際はモントゥーが指揮したものではありません。解説が無いので断言は出来ませんが、これはモントゥーがウェストミンスターに録音したベートーヴェンの第9交響曲のリハーサルの際、ロンドン交響楽団からマエストロへの感謝のために団員だけで演奏したプレゼント。最後に“Thank You very much”と言っているのはモントゥー自身です。
この第9が初発売された時のLP盤には付録としてリハーサル風景が含まれており、その最後がフランス国歌のサプライズ演奏でした。手元にあるウェストミンスター盤CDにはリハーサルは付いていませんが、当初のLPがFM東海で放送された時にテープにエア・チェックして何度も繰り返し聴いた記憶があり、私の脳裏に沈殿していたと思われます。
そのウェストミンスター盤復刻CDによると、1962年6月、ロンドンのウォルサムストウ・アッセンブリー・ホールでのステレオ録音。

参照楽譜
①オイレンブルク No.1320
②オイレンブルク No.1355
③なし

 

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