今日の1枚(224)

今日はハンガリーの名指揮者、フェレンツ・フリッチャイを取り上げます。1914年8月9日のブダペスト生まれですから、今年が丁度生誕100年に当たっていました。バルトークとコダーイに学んだ人で、1939年から戦争が終結する1945年までブダペスト
歌劇場の指揮者を務めています。
フリッチャイが脚光を浴びるようになったのは、1947年のザルツブルク音楽祭でアイネムの歌劇「ダントンの死」を初演したことから。これは本来クレンペラーが振る予定でしたが、気乗りがしないとかいう理由でキャンセル、当時33歳のフリッチャイに白羽の矢が立ったのでした。

その後はトントン拍子に出世し、1948年からはベルリンRIAS放送のオーケストラを鍛えて世界的なアンサンブルに育て上げてドイッチェ・グラモフォンに多数の録音を残しましたが、好事魔多し、1950年代の終わりに白血病を発症。入退院を繰り返しながらも新装なったベルリン・ドイツ・オペラのドン・ジョヴァンニを成功に導くなど活躍しましたが、1963年2月20日にバーゼルで僅か48年の生涯を閉じました。
そのベルリン・ドイツ・オペラは1963年10月に初来日して日生劇場の杮落し公演を行いましたが、本来ならフリッチャイが指揮することになっていたものです。彼の死により、替って指揮したのがカール・ベームというワケ。
この公演はフジテレビがナマ中継したほどでしたが、当時のディレクターだった岡山尚幹氏に伺った所では、前年にクルーがベルリン入りしていくつかの公演を見た由。恐らくその時はフリッチャイが指揮していたのでしょう。早逝が無ければフリッチャイの来日も叶ったはずで、真に残念なことをしました。

フリッチャイの録音はほとんど全てがDGだったはずで、手兵のベルリンRIAS交響楽団(1954年まで首席)とのLPを中心に、晩年はベルリン・フィルとの録音も残しています。RIAS響は後にベルリン放送交響楽団と改名しましたから、その名称での録音も存在するようです。
1枚目に含まれているのは次の5曲

①デュカス/交響詩「魔法使いの弟子」
②コダーイ/ガランタ舞曲
③ショスタコーヴィチ/交響曲第9番
④ヒンデミット/ウェーバーの主題による交響的変容
⑤ヨハン・シュトラウスⅡ世/ワルツ「芸術家の生活」

③~⑤はベルリンRIAS交響楽団ですが、①は後にベルリン放送交響楽団と改名されてからのもの。また②はウィーン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮した録音です。
例によってNML配信では録音データなどが不明ですが、フリッチャイには熱烈なファンがいて、その方がディスコグラフィーをネット上に作製されています。従ってそれを参考にデータを追加して行くと、

①は1961年11月14日の放送録音だそうで、ステレオで収録されています。1961年と言えばフリッチャイが亡くなる1年半ほど前の演奏、死を既に意識していた最後に近い録音の一つでしょう。

②も同じく1961年8月27日にザルツブルク音楽祭で行われたウィーン・フィルとの演奏会のライヴ録音で、最後には拍手も入っています。1961年と年代は後ながらモノラルでの収録。ザルツブルク音楽祭の録音は毎年の様にNHKで放送されていましたが、ステレオに代わったのは随分後になってからだったことを思い出します。

③~⑤も全て放送録音だそうで、全てモノラル録音。③は1954年4月30日と5月3日 ④が1952年6月3日と4日 ⑤は1950年6月6日から8日となっています。
複数の日付があるということは、聴衆を入れてのライヴ・コンサートがあったのか、放送のみの演奏だったのか。いずれにしてもRIASは放送オケですから、この種の録音は多数残されているものと思われます。

ショスタコーヴィチの交響曲はフリッチャイとしては珍しいレパートリーじゃないでしょうか。
またフリッチャイは現代音楽というか同時代の音楽をレパートリーの中核に据えていましたから、ヒンデミットは得意中の得意でした。

フリッチャイは正規スタジオ録音でシュトラウス一家の音楽をかなり残しており、決して珍しいレパートリーじゃありません。ワルツと言えばウィーン・フィルの専売特許のように評する人もいますが、それは間違いで、ベルリンにもシュトラウス演奏の伝統はありました。以前に取り上げたエーリッヒ・クライバーはその代表選手でしょう。
シュトラウスのワルツには必ずダ・カーポや繰り返しがあって、それを全て実行する演奏は滅多にありません。しかし⑤では第1ワルツのダ・カーポこそ省略しているものの、他の繰り返しはほとんど実行。このワルツとしては演奏時間も長く、極めて丁寧で真面目な演奏になっているのが特徴でしょうか。
フリッチャイのシュトラウスでは所謂ウィーンの演奏とは異なった譜面を使用しているものもあり、例えばトリッチ・トラッチ・ポルカ、アンネン・ポルカ、ラデッキー行進曲ではその相違に驚かされます。興味のある方は別売のCDで確認してみてください。

参照楽譜
①デュラン D&F 6660
②フィルハーモニア No.275
③ブージー&ホークス No.96
④ショット No.3541
⑤オイレンブルク No.870

 

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