今日の1枚(226)

日程からして今年最後の音盤カテゴリーは、「20世紀の偉大な指揮者たち」シリーズからフリッツ・ブッシュということになります。私はブッシュに付いては余り知りませんし、思い出すほどのエピソードもありません。
晩年にグラインドボーン音楽祭で連続公演していたモーツァルトの歌劇が評判で、そのLPが雑誌でも取り上げられていたのを覚えている位のもの。当時のレコードは高価で、オペラ全曲盤などは脛齧りの身としては高根の花でしたからね。
グラインドボーンのモーツァルトはフィガロの結婚、ドン・ジョヴァンニ、コジ・ファン・トゥッテの3曲全てが歌劇全曲盤としての世界初録音でした。確かイドメネオもそうだったと思いますが、現在ではこれら全てがNMLで何時でも何処でも聴くことができます。時代が変わったことを痛感する事象でしょう。

で、改めてブッシュの経歴を調べてみると、1890年にウェストファリアのジーゲンに生まれたドイツの指揮者で、一つ下の弟がヴァイオリニストで弦楽四重奏団でも有名なアドルフ・ブッシュ。このブッシュ弦楽四重奏団も、別の意味で私には敷居の高い存在でした。
兄のフリッツはリガ、アーヘン、シュトゥットガルトと歌劇場を経歴を積み、1922年にフリッツ・ライナーの後任としてドレスデン歌劇場を引き継ぎます。1933年まで続いたブッシュのドレスデン時代は正に黄金時代だったそうで、シュトラウスのインテルメッツォとエジプトのヘレナの初演を指揮。この間にバイロイト音楽祭、ザルツブルク音楽祭、ウィーン・フィルでもデビューを果たします。
しかしナチ政権を嫌ってヨーロッパを離れ、ブエノス・アイレスやニューヨークのメトロポリタン歌劇場を拠点に活動。英国では冒頭で紹介したように、グラインドボーン音楽祭を最初に立ち上げたことで有名でした。この間に北欧のデンマーク国立放送響とストックホルム・フィルでも継続的に指揮していたそうです。1951年にロンドンで死去。

ということでブッシュの1枚目は、

①ベートーヴェン/序曲「レオノーレ」第2番
②モーツァルト/交響曲第36番
③メンデルスゾーン/交響曲第4番
④ブラームス/悲劇的序曲

全てデンマーク国立放送交響楽団とのモノラル録音で、②以外はライヴ演奏の記録、3点とも最後には拍手も収録されています。

①は1949年10月24日の演奏会だそうで、ブッシュのガッチリした構成力が特徴。楽譜に手を入れることの無い指揮者で、この時代の指揮者としては原典主義と言えると思います。

②は1949年11月7日の録音で、英コロンビアから DB 20115/7 のSP3枚6面で出ていたもの。繰り返しは第3楽章のみ実行していますが、ここでも原典に忠実な演奏が好感を持てました。手元のフィルハーモニア版は戦前の旧全集版で、第1楽章序奏の18小節目は fpfpfp の順。ブッシュもこの通りに演奏しています。
なおブッシュはリンツ交響曲をBBC交響楽団ともSP録音しており、②は新録音盤ということになるのでしょう。

③④は共にWERMには記載の無い音源で、恐らくデンマーク放送のアーカイヴから復刻したものでしょう。イタリア交響曲もリンツ交響曲同様繰り返しは第3楽章のみ。演奏のスタイルは①②と同じく楽譜に忠実、テンポの揺れも一切無いモダーンな表現を聴くことが出来ます。

参照楽譜
①オイレンブルク No.914(フィデリオ全曲版)
②フィルハーモニア No.49
③オイレンブルク No.420
④オイレンブルク No.657

 

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