今日の1枚(232)

「20世紀の偉大な指揮者たち」シリーズ、19人目は遂にヘルベルト・フォン・カラヤンです。残すはシェルヘンとクーベリックのみとなりました。
カラヤンに付いては説明の必要もないでしょう。人気・実力もナンバーワンだっただけに、アンチ・カラヤンという人種も産み出したほど。好き嫌いは世の常ですが、アンチも一種のファンと考えられなくもありませんね。私は極く普通のカラヤン・ファンで、ナマの演奏会も記憶しているだけで5回は通いました。その全の細部まで思い出せるところがカラヤンの凄かったところだと思います。
音盤もSPからディジタルCDまで息長く出し続けた指揮者で、私も未だにかなりの枚数を所有していますが、とても全て聴き切れていません。20年ほど前に音楽の友社から出版されたムック本のデータを参考にしながら聴いてみました。1枚目は意外な音源を含む次の3曲。

①ヨハン・シュトラウスⅡ世/トリッチ・トラッチ・ポルカ
②ウォルトン/交響曲第1番
③ムソルグスキー=ラヴェル/組曲「展覧会の絵」

①はウィーン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮したモノラル録音で、音友ムックによれば1949年10月18日、ウィーンのムジークフェラインザールでの録音。プロデューサーはウォルター・レッグ、エンジニアはダグラス・ラーターとアンソニー・グリフィスの二人の名前が挙がっています。ナチ党員だった廉で演奏活動が禁じられていたカラヤンを、公開演奏では無いレコーディングの仕事で契約したレッグの手腕は有名な話。改めてレッグの慧眼に想いを馳せつつ聴くディスクでしょう。
WERMによれば初出は英コロンビアの LB 128 というSP2面。同じシュトラウスの「無窮動」と裏表になっていました。カラヤンはシュトラウス一家の音楽を疎かにすることはなく、このポルカも6種類の音源があるそうな。ウィーン・フィルとの録音はこれが唯一で、6種の中でも最初のレコードでした。

②は意表を突く選曲で、恐らくこの音源が初出となるものと思われます。ローマRAI交響楽団とのライヴで、プライヴェート録音でしょうか、かなり貧弱なモノラル録音。最後には客席の拍手も収められています。ムックには記録すら記載がありませんが、別資料によれば1953年12月5日の演奏会の記録の由。カラヤンは翌年の春に初めて単身で来日し、NHK交響楽団を指揮した時期。聴き辛い音質の合間から才気煥発な若手指揮者の熱演を聴くことが出来ました。
第1楽章と第4楽章には数か所づつのカットがあり、出版されているスコアとは若干異なる部分も散見されます。一説によるとカラヤンはウォルトンに改訂を迫っていたのだとか。スコアの出版は1936年で、1968年に再販されていますが、これはプリント・ミスを訂正しただけのようです。
カラヤンとウォルトンには余り接点が無いように思えますが、確かカラヤン自身の著作の中でウォルトンに触れていた個所があったと記憶します。それによればウォルトンは独特なユーモアの持ち主で、カラヤンが彼に新作となる「主題と変奏」という作品を委嘱、中々出来上がらないのでカラヤンがウォルトンに電話で督促すると、“実は変奏の部分は仕上がったのだけれど、主題が未だなんだ”と答えたとか。眉唾だとしても面白いジョークじゃありませんか。ウォルトンの茶目っ気に付いては、ジェームス・ロッホランがマエストロ・サロンでも紹介していましたっけ。

③はフィルハーモニア管弦楽団とのステレオ録音。ムックによると1955年10月11日と12日、更に1956年6月18日にも追加で収録されたそうで、ロンドンのキングスウェイ・ホールでの録音。ステレオ方式が開発されて直ぐに行われたものです。
英HMVでは SAX 2261 、日本盤は RS 3007 という品番だったとのこと。日本盤の S はステレオの意味でしょうし、7番ということはその最初期の発売だったことが判ります。
未だ実験的な録音と言うこともあり、ホールの雰囲気が何とか伝わってくる程度の音質。カラヤンの指揮もどちらかと言えば大人し目で、特にスコアに手を入れることも無く、サラッと表現した演奏と言う印象です。記念すべきカラヤンの初期ステレオ録音というのが聴き所でしょうか。

参照楽譜
①日本楽譜出版 No.247
②オックスフォード大学出版
③ブージー&ホークス No.32

 

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