今日の1枚(237)
クーベリックの初来日は1965年4月、大阪国際フェスティヴァルに参加したバイエルン放送交響楽団の指揮者としてでした。この大阪公演だったか上野の演奏会だったか定かではありませんが、NHKのテレビ放送で初めて動くクーベリックを見たものです。
モーツァルトのハフナー交響曲、ヒンデミットのウェーバー変容、フランクの交響曲とどれも素晴らしかったのですが、アンコールで演奏したドヴォルザークのスラヴ舞曲(確か作品72-1)が忘れられません。クーベリックは目に涙を一杯に貯め、故国チェコへの望郷の思いを籠めての演奏。当時の貧弱な画面でもマエストロの頬を伝わる涙が確認出来たほどでした。
実際にクーベリックを体験したのは1975年の来日公演。私はこの年の6月にダービー観戦のため海外旅行に出かけたのでしたが、その直前の来日公演を2回聴くことが出来ました。開場は日比谷公会堂と上野文化会館に振り分けられていたのですが、クーベリックが会場のアクースティックを考えて事前の発表とはプログラムを入れ替えたものです。即ち日比谷で演奏する筈だったマーラー第9が上野に、替って上野のプログラムだったベートーヴェン第7他が日比谷で演奏されたのでした。
実は私はこの時の4公演全てのチケットを買っていたのですが、競馬旅行が急に決まったため最初の2公演、日比谷のベートーヴェンと上野のわが祖国を聴き、後の2公演は従兄弟に譲ったことを覚えています。
この処置に文句を言う人もいましたが、日比谷で聴いたベートーヴェンは実に凄いものでした。先ずクーベリックの登場は、まるでフルトヴェングラーを髣髴とさせるような風貌。これにも圧倒されましたが、モーツァルト(プラハ交響曲)、ブラッハー(血の結婚から間奏曲)に続いて演奏されたベートーヴェンの第7。第1楽章の序奏で弦楽器が奏するヒタヒタと迫る様なクレッシェンドは身の毛もよだつようなゾクゾク感に溢れ、これには完全に脱帽と多ものです。床を這う様な低音の響きは、デッドな日比谷だから体験できたのかも知れません。
ということでクーベリックには良い思い出しかありませんが、配信シリーズの2枚目は以下のもの。録音歴が長かったウィーン・フィルとベルリン・フィル、そして私も聴いたバイエルンとの録音です。
①シューマン/「ゲノヴェーヴァ」序曲
②シューベルト/交響曲第3番
③マーラー/交響曲第10番~アダージョ
④ヤナーチェク/シンフォニエッタ
①はベルリン・フィルハーモニー管弦楽団とのステレオ録音で、ドイツ・グラモフォン原盤。1964年9月にベルリンのイエス・キリスト教会で収録されています。この時同コンビはシューマンの交響曲全集を作製していて、4曲の交響曲の他にゲノヴェーヴァとマンフレッドも組み合わされました。
ゲノヴェーヴァ序曲は第2交響曲とカップリングされていたと記憶しますが定かではありません。第300小節辺りからスコアの指定には無いクレッシェンドを掛け、最後まで一気に突き進む。他の演奏もこのスタイルを踏襲していますが、やはりクーベリック盤が最も説得力に富んでいるように感じます。日本でも活動していたシカゴの評論家ヒューエル・タークィ氏がこの演奏を絶賛していたことを思い出します。
②はウィーン・フィルハーモニー管弦楽団とのEMIへのステレオ録音で、別資料によると1960年の録音だそうです。この録音は中々CD化されず「幻」などと言われていたものですが、現在では様々な形で入手できるようです。
実は私にも懐かしい演奏で、子供の頃に第4交響曲とカップリングされたLPをいつも聴いていました。当時は日本橋の三越でもレコードを売っていて、東芝のレコードのバーゲン・セールが催され、親に強請って買って貰った1枚がこのクーベリック盤でした。当時のLPはとうの昔に手放してしまいましたから、今回はウン十年振りに再会したことになります。
音質的にも最高クラスの録音で、私にとっては第3交響曲の規範だった演奏。第1楽章は繰り返しますが、第2楽章主部の前半は繰り返しません。クーベリックは第2楽章再現部の繰り返しも省略。第3楽章は普通に繰り返しますが、第4楽章は繰り返しません。
③はドイツ・グラモフォンにバイエルン放送交響楽団と完成したマーラー全集の一環で、1967年5月のステレオ録音。①②と違い、ここでクーベリックは弦を対抗配置にして演奏しています。DGの全集盤に付いているブックレットによると、エクゼキュティヴ・プロデューサーが Otto Gerdes 、レコーディング・プロデューサーは Hans Weber 、エンジニアが Heinz Widhagen とクレジットされています。
クーベリックは同郷、同業ということもあってマーラーには定評があり、ウィーン芸術週間でマーラー・ルネサンスが企画された際には第8交響曲を担当していました。このアダージョも昨今流行の遅く粘ったテンポではなく、チョッと聴くとアッサリ目に感じられるかもしれません。
④はウィーン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮したモノラル録音。同じウィーン・フィルでもEMIではなく、英デッカへの録音で、1955年3月8日と9日にムジークフェライン大ホールで収録されたもの。手元のデッカ盤によると、プロデューサーは Victor Olof と Peter Andry 、エンジニアが Cyril Windebank となっています。
初出は英デッカの LW 5213 、他にカップリングの無い贅沢なレコードだったようです。モノラル最後期の優秀録音ですが、この年代にはデッカは既にステレオ録音も始めていましたから、何処かにステレオ音源が眠っているかもしれませんね。
参照楽譜
①オイレンブルク No.647
②オイレンブルク No.506
③ユニヴァーサル UE 13880
④フィルハーモニア No.224
さて音盤カテゴーリーとして去年から「20世紀の偉大な指揮者たち」をNML配信で楽しんできましたが、これで一段落。一呼吸置いてから次のテーマを探して行こうと思います。
シーバードがキャンターで勝ったとの伝説的英ダービーの記事での
レス有り難うございます。識者であるメリー・ウイロウさんに対して
素人同然の僕がクラシック名盤ベスト10や欧州最強馬ベスト15
などと生意気なコメント失礼しました。自分を知ってもらうのに
手っ取り早いと思いまして恥ずかしながら書いたしだいです(笑)。
ところでグランディの英ダービーを観戦されたとはさすが
メリー・ウイロウさんですね。
グランディと言えばRace of The Centuryを思い出します。
クーベリックについては好きな指揮者で、ドヴォルザークの交響曲
第8・9番のベルリンPO盤とモーツァルトの第40・41番の
バイエルン放送SO盤は愛聴していてケルテスやセルと甲乙つけ難い
名盤だと思っています。ファーストチョイスとしては一番のお勧めじゃない
でしょうか?
つまらないコメントで申し訳ありませんがよろしくお願いします。
406クーペ 様
こちらにもコメントですね(笑)。
グランディのダービーは1975年で、当時は未だ珍しかった英仏ダービー観戦ツアーに便乗したものでした。クーベリックの来日ツアーと日程が一部重なっていて最後まで迷っていましたが、春にカーネルシンボリで目黒記念に勝って引退したばかりの野平祐二氏がツアーに同行されると聞いて決断したものです。
ダービー当日の朝はホテルの食堂で野平氏と血統論で盛り上がってしまい、慌ててエプサム行きのバスに乗り込みましたっけ。
この時はオークスを Julietta Marny が制し、レスター・ピゴットが内で動かず、残り2ハロンで一気に突き抜けた騎乗にも痺れたもの。またコロネーション・カップはキングジョージでグランディと対決し、レース・オブ・ザ・センチュリーと呼ばれることになるバスティノが制しています。しかしこの日は野平氏の手配と案内でニューマーケットのナショナル・スタッド見学が決まり、師の案内で繋養されている種牡馬を見て回りました。ジュリエッタ・マーニーの父ブレイクニー、あの名馬ミル・リーフにも直に接しています。チューダー・メロディーは高齢ということで、遠くから見るだけという条件付きでしたね。
エプサムの後はシャンティーで仏ダービー、Val de l’Orne が勝つのを観戦し、シャンティーの野平邸で楽しい時間を過ごさせてもらいました。
野平氏からは帰国してからも時々中山競馬場前にあった自宅に呼ばれ、“今日は帰さないからね”などと引き止められ、ご自身は明日の調教があるからと言って早くに就寝しまわれ、困ったこともありましたっけ。
師の御宅にはグランド・ピアノが据えられており、音楽一家でもありましたよ。
ということでクーベリックですが、録音の多い指揮者なので私もとても全ては聴いていません。手元のCD、ナクソスの配信などを集めて、いずれ機会を見て「今日の1枚」で特集してみましょうか。気長にお待ちください。
レス有り難うございます。
時にブログを覗いていてメリー・ウイロウさんは只者ではないなと
ずっと思っていましたが ・ ・ ・ やはり僕みたいな若造?は
足元にも及ばない存在でしたね。
ミスター競馬こと野平祐二氏については、ミスターシービーが
ダービーで二冠目を取った時から本格的に競馬に嵌りましたから
シンボリルドルフで野平氏の競馬界を超えた存在の大きさや
人間的魅力をリアルタイムで知ることができたのは幸いでした。
偶にコメントするかも知れませんが、いちいちレスされなくても
結構ですので、お忙しい時は無理しないでください。
機会があれば、メリー・ウイロウさんの欧州名馬(最強馬)、北米名馬(最強馬)
についてランキング等や好きな馬について教えて頂ければ嬉しいのですが。
期待しています。