今日の1枚(242)

先週金曜日以来の「今日の1枚」です。実は昨日はデュメイとロルティがオニンクス Onynx に録いれたブラームスのヴァイオリン・ソナタ全集を聴くことに決めていましたが(実際に聴きましたが)、確定申告に予定していた以上の時間が掛かってしまい、結局記事のアップは諦めました。
今日は税務申告を終えてスッキリした気分で新たな1枚を聴きましょう。今回も私は初めて接する新しいレーベルで、アパルテ Aparte から今朝新着ほやほやの弦楽四重奏盤です。

アパルテは、2010年に別のレーベル(Ambroisie)でプロデューサーを務めていたニコラス・バルトロメーによって創設されたフランスのレーベル。未だリリースされたアルバムは少ないのですが、鍵盤奏者で指揮者のクリストフ・ルセがメイン・アーチストだけあって古楽系やバロック音楽が多いようです。大野和士とリヨンによるデュティユーなど現代音楽もあり、今日現在で60点ほどが配信中。
今日聴いたのは AP 092 という品番で、キアロスクーロ四重奏団が演奏している2曲。

①モーツァルト/弦楽四重奏曲第15番ニ短調K421
②メンデルスゾーン/弦楽四重奏曲第2番イ短調作品13

演奏しているキアロスクーロ四重奏団 Chiaroscuro Quartet は私は初めて耳にする名前で、NML配信だけでは何の情報も得られません。そこでクァルテットならこの資料、幸松肇氏の「世界の弦楽四重奏団とそのレコード」シリーズを繙くと、ありましたね。第5巻のアメリカ・カナダ・北欧諸国編に含まれていました。
この名著によれば、2005年にロンドンの王立音楽院の女性3人と男性1人の卒業生によって結成、ヴィグモア・ホールでも演奏し、チェルトナム音楽祭やオールドバラ音楽祭にも参加している由。卒業校や活動の拠点などからイギリスのグループに分類されているようですが、国籍は様々です。
第1ヴァイオリンのアリーナ・イブラギモア Alina Ibragimova はロシア生まれの女性。第2ヴァイオリンのパブロ・エルマン・ベネディ Pablo Hernan Benedi はスペイン生まれの男性。またヴィオラのエミリエ・ヘレンルンド Emilie Hoernlund はエストニア生まれ(幸松辞典ではスウェーデン生まれ)の女性。そしてチェロのクレア・ティリオン Claire Thirion がフランス生まれの女性という具合。英国人は一人もいません。

更に彼等のホームページは以下

http://chiaroscuroquartet.com/

このサイトにはもちろん動画もあって、その一つにアパルテのプロモーション・ビデオでは彼らのインタヴューがあります。英語で喋っていますが、フランス語の字幕が付いているのはフランスのレーベルだからでしょう。どちらにしてもインターナショナルな団体であることは間違いありません。
この映像は彼等のファースト・アルバムの録音風景の様で、モーツァルトの不協和音がバックに流れています。百聞は一見に如かず、古楽器で演奏するグループで、短いバロック・ボウを使っているのが確認できますし、チェロ以外は立って演奏。そのチェロもエンド・ピンを立てず、膝で楽器を挟んで弾いています。並びはファースト→セカンド→ヴィオラ→チェロの順。

録音で聴いてもこれは明らかで、ノン・ビブラートによるピュアな音色が素晴らしい音質で捉えられています。2014年3月26-28日と、同年10月6-7日にフランスの修道院 Port-Royal des Champs で収録されたばかりのもの。恐らく映像に出てくるのがこの修道院でしょう。
因みにファースト・アルバム(AP 022)はモーツァルトの不協和音とシューベルトのロザムンデ、これは幸松氏も紹介しているもの。
続く2枚目(AP 051)はベートーヴェンのセリオーソにモーツァルトのK428とアダージョとフーガが組み合わされています。今回のモーツァルトとメンデルスゾーンが3枚目ということになるのでしょうが、ここまでの3枚は全てNML配信で全曲聴くことが出来ます。

幸松氏の解説によれば、楽器にガット弦を張り、駒もより低く小さくし、調弦もA=430ヘルツに調整しているとのこと。モーツァルトの冒頭など異様な緊迫感と、極端なまでの弱音に耳をそばだてる印象。繰り返しは全て実行し、特にピアニッシモの繊細な表現が独特だと思いました。
それでいて第3楽章のトリオではかなり思い切った遊びも感じられ、四角四面で退屈な古楽演奏とは一線を画します。

メンデルスゾーンは更に大胆な表現で、純度は何処までも高く、ハーモニーのクリアーな響きに心洗われる感じ。録音では彼らの音量が良く判りませんが、モダン楽器に比べれば小さい音量ではないでしょうか。それだけにフォルテとの対照が強烈で、比較的小さなスペースで聴くのが最適だと思われます。
ファーストのイブラギモアは日本でも演奏したことがあるようですが、弦楽四重奏団としては未だ来日していないはず。もし来日が実現すれば、サントリーのような大きいスペースより、サルビアホールで聴きたいところ。ジャケット写真やフォト・アルバムを見ると中々の美女3人、是非ナマで接してみたいキアロスクーロでした。
なお「キアロスクーロ」とはイタリア語の美術用語で「明暗法」のこと。特に白と黒の明暗によって調子を付けた16世紀の版画法を指すようで、正に彼らの演奏スタイルにピッタリな命名だと思いますね。

 

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