日本フィル・第305回横浜定期演奏会

先月40周年となる九州ツアーを終えた日本フィル、シーズン後期のスタートを待ち構えていたのは、首席の猛将ラザレフ。このコンビでは既に演奏したことのある2曲を並べたプログラムですが、更なる進化を期待して横浜に向かいます。
奥田佳道氏のプレトークを聞くべく早目に桜木町に着きましたが、いつもは大混雑の週末ながら何となく人出が少ない印象。何かあったのかな、と考えましたが、そうか、今週はみんな北陸に行ってるんだぁ~、と思い当りました。みなとみらいホールの周りだけ人が集まっていた横浜、以下のプログラムです。

チャイコフスキー/バレエ音楽「眠れる森の美女」(ラザレフ版)
~休憩~
ムソルグスキー(ラヴェル編曲)/組曲「展覧会の絵」
指揮/アレクサンドル・ラザレフ
コンサートマスター/千葉清加
フォアシュピーラー/九鬼明子
ソロ・チェロ/菊地知也

最初に奥田氏からの案内。チラシも挟まれていましたが、来月からプレトークはステージ上で行われるとのこと。ステージ設営の関係もあることから、開場はこれまでより10分早めて5時10分、プレトークは5時20分からに変更されるとのこと。このブログでもお知らせしておきます。
ということでホワイエでのプレトークは最終回。奥田氏は特に前半のチャイコフスキーについて聴き手が知りたいことを充分以上に紹介してくれました。それで思い出したこともいくつかあります。

そのチャイコフスキー、確か前回はサントリーホールの名曲シリーズで聴き、あれは未だラザレフが日フィルの首席に就任する前のこと(就任そのものは決定していました)。その時は今回の「ラザレフ版」ではなく、通常演奏される組曲版だったと記憶します。
今回のラザレフ版なるものは、次の8曲。念のため記しておくと、①序奏とリラの精 ②パ・ドゥ・カトル(宝石の精たちの踊り) ③長靴をはいた猫と白い猫 ④パ・ドゥ・カトル(4人の踊り) ⑤グラン・パ・ドゥ・ドゥ アダージョ(デジレ王子、オーロラ姫) ⑥パノラマ ⑦ワルツ ⑧アダージョ パ・ダクシオン となります。
この内、①③⑥⑦⑧は組曲(チャイコフスキーではなく、作曲者の死後にジロティが編んだもの)と共通していますが、演奏順は組曲とは異なります。奥田氏の指摘では、通常第2曲として演奏される⑧を最後に持ってくるのがラザレフの拘りなのだとか。それは聴いてみて心から納得できました。

これで思い出したのは、前回の演奏(2007年10月、第317回名曲シリーズ)。あの時は2曲目が壮大に終始した後、未だ曲の途中なのにラザレフ自身が拍手を始め、客席も連れて手を叩いてしまったのでしたっけ。このコンサートはブログでも紹介しましたから、私の記憶も確認できた次第。拙くとも感想は書いておくものですな。
アダージョ後の拍手は、かつてスヴェトラノフがN響と演奏した時にも起きたそうで、それは奥田氏の指摘で初めて知りました。真にロシア人指揮者にとって、この一品は自身の感動をストレートに表現できる名品に違いありません。

更にプレトークでは、全曲の開始部分こそラザレフ最大の見どころ聴き所であること、冒頭のカラボスのテーマはスラヴ系作曲家の名作が目白押しのホ短調であることなども紹介。人にもよりますが、やはりプレトークは聞く価値充分であることを宣伝しておきたいと思います。来月からは5時20分までに着席しておくことを強く推奨しておきましょう。

こうして聴いたラザレフ版「眠れる森の美女」。やはり前回の組曲版を数段上回る名演になっていました。恐らく前回の演奏で日本フィルとの相性を確信したマエストロ、次は更に作品の価値をより大きく証明できる自身の選曲によって取り上げようと心に決めていたのでしょう。ラザレフの作戦はまんまと的中しましたネ。
普段は録音でしか聴けないピースを、完璧な演奏でナマ体験できる機会。杉並で聴かれる方も是非耳を澄ませ、絶妙な細部も聴き逃すことが無いように・・・。

後半の展覧会の絵。こちらは2009年6月に332回名曲シリーズでも取り上げられ、その時の感想も書き残しています。もちろん精度は更に上がりましたが、ラザレフの表現には少しも変化はありません。
ラヴェルのフランス的なお洒落感覚より、ピアノ原曲の持つロシア的な重厚感に重きを置いた演奏。プレトークでも指摘されたヴィドロ(ロシア語では苦役の意味もある由)の独特な「重さ」はラザレフの真骨頂で、前回の感想でもここに触れていたのには嬉しくなりました。
最後のキエフの大きな門に鳴り響く鐘の乱打。かつてマエストロサロンで氏が、“ロシア人は生まれた時も鐘、結婚式も鐘、そして弔いにも鐘が欠かせないのです”と語ったことを今更のように噛み締める一時。

比較的短めなプログラムですから、もちろんアンコールも用意されています。マエストロが客席に向かって“やせいのくま”と叫んで始まる一品。
(はて、野生の熊ってなんだ。チャイコフスキーにもムソルグスキーにもそんな題名の作品はなかったはず)
弦の細かくもピタリと合ったアンサンブル、ラザレフが客席に向かって吠えるが如き熊の唸り声。金管の咆哮と弦のピチカートの応酬、打楽器の連打で一気に終えると、マエストロは客席に牙を剥く趣向。もちろん客席からは割れんばかりの大歓声。

ホール出口の掲示板にはエルガーの「青春の杖」から「野生の熊」との張り紙が。それで思い出しました。アンコールはエルガーが子供の演劇のために書いた「青春の杖」という二つある組曲から、第2組曲の最後(第6曲)に置かれた「野生の熊」The Wild Bears (因みに、第5曲は「飼い馴らされた熊」The Taming Bears)。
ラザレフは時折珍しいものをアンコールします。今日のエルガーは恐らくBBC響時代にレパートリーに加えた作品なのでしょう。そう言えば前回の「眠れる森の美女」でアンコールしたのはショスタコーヴィチの「馬アブ」のワルツ。あのときも初めて知った絶品ワルツに涙ぐんだものでした。この組曲、6月の横浜では全曲を紹介してくれることになっているはず。絶対に聴き逃せない横浜定期です。

 

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