クラシック前哨戦(1)フロリダ編

3月28日は世界の競馬ファンにとっては目の離せない一日で、何といってもドバイで世界一高賞金レースのワールド・カップを含むGⅠシリーズが行われました。日本からも三つのレースに参戦馬があって話題になりましたが、どうやら不発に終わったようです。
ドバイはアメリカでも大注目でしたが、地元のアメリカ本土でも愈々ダービー・オークスをほぼ一か月後に控え、土曜日は各地でクラシックに向けた最後の前哨戦が行われています。今週と来週は各州の代表馬決定戦の様相を呈しますので、州毎に区切ったレポートという形で記事を書いていきましょう。

ということで、最初はフロリダ・ダービーをメインとするガルフストリーム・パーク競馬場で行われたG戦7鞍を一纏め。去年12月からスタートした半年間開催の頂点となる一日でした。
その第一弾は第5レースのスキップ・アウェイ・ステークス Skip Away S (GⅢ、4歳上、9.5ハロン)。fast のメイン・コース(ダート)に6頭が出走してきました。7対5の1番人気に支持されたのは、去年のベルモント・ステークス2着馬のコミッショナー Commissioner。年初にはドバイ遠征計画もありましたが、前走ドン・ハンデ(GⅠ)で6着に終わり、本国に留まっての参戦です。
コミッショナーは好スタートから先頭に立つ勢いでしたが、ここはライヴァルで5番人気(10対1)のセニョール・キスケヤーノ Sr. Quisqueyano を先に行かせて2番手で待機。この2頭が後続を引き離しながら第4コーナーを回ると、直線はマッチレース状態。外から交わしに掛かるコミッショナーに内からセニョール・キスケヤーノが差し返すバトルがゴールまで続き、最後は首差で本命馬がライヴァルを競り落としていました。7馬身4分の1の大差が付いて2番人気(9対5)のエンクリプション Encryption が3着。
トッド・プレッチャー厩舎、ハヴィエル・カステラノ騎乗のコミッショナーは、2歳時にサラトガで初勝利を挙げた馬。サンランド・ダービー3着、アーカンソー・ダービー6着、ピーター・パン・ステークス2着を経てベルモント・ステークスに挑戦し、トーナリスト Tonalist の2着で一躍名を挙げた存在です。ベルモントのあと長期休養を余儀なくされ、今年1月10日のアローワンス戦3着(1番人気ながら)で復帰。ドバイを目指していましたが、上記の様にドンで敗退し、ここで漸くG戦初勝利の運びとなりました。今期はブルックリン・ハンデ(GⅡ)を当面の目標にしているようですが、その前にもう一叩きするか否かが陣営の課題でしょう。

続いては第6レースのアップルトン・ステークス Appleton S (芝GⅢ、4歳上、8ハロン)。こちらは firm の芝コースに8頭が参戦し、一昨年ヨーロッパでGⅠに2勝したデクラレーション・オブ・ウォー Declaration of War の全弟ウォー・コレスポンデント War Correspondent が6対5の1番人気。
レースは4番人気(7対1)のアリピカ Aripeka が逃げましたが、1頭を除く7頭がほぼ一団で向正面へ。直線に向いてアリピカがリードを広げて逃げ切るかに見えましたが、4番手に付けていた人気のウォー・コレスポンデントのエンジンが掛かり、ゴールでは逃げ馬を首差キッチリ捉えて人気に応えました。4分の3馬身差で後方2番手から追い込んだ2番人気(5対2)のグランド・ティート Grand Tito が3着。
クリストフ・クレメント厩舎、ジョン・ヴェラスケス騎乗のウォー・コレスポンデントは、兄と同じくヨーロッパでデビューし、フランスで2勝。去年9月、4歳の秋にクレメント厩舎へ移籍し、モンマス・パークのアメリカ・デビュー(アローワンス戦)を順当に快勝、2戦目はカナダのポリトラック・コースでオータム・ステークス(カナダGⅡ)で2着していました。今年は2月にガルフストリーム・パーク・ターフ・ハンデ(芝GⅠ)3着でシーズンをスタートさせ(この時勝ったムシャウィシュ Mshawish がドバイ・ターフで3着)、今回は4戦目でG戦初勝利となります。

この日三つ目のガルフストリームG戦は、第10レースの ハネー・フォックス・ステークス Honey Fox S (芝GⅡ、4歳上牝、8ハロン)。去年のフロリダ・ダービー開催も一日G戦7鞍でしたが、去年と違うのはランパート・ステークスからハネー・フォックスに入れ替えられた点だけ。ランパートは2月に回り、去年は3月中旬に行われていたこのレースがこちらに回ってきました。9頭が出走し、去年のジャスト・ア・ゲーム・ステークス(芝GⅠ)に勝ったコーヒー・クリック Coffee Clique と、今年スワニー・リヴァー・ステークス(芝GⅢ)を制したサンディーヴァ Sandiva の一騎打ちという前評判。コーヒー・クリックが2対1の1番人気、サンディーヴァは5対2の2番人気でした。
5番人気(9対1)のイスタンフォード Istanford が逃げ、コーヒー・クリックは3番手、サンディーヴァが4番手から。直線でサンディーヴァがスパートしてライヴァル対決を制したかに見えましたが、前半は後方3番手まで下げていた3番人気(9対2)のレディー・ララ Lady Lara が外から瞬発力を爆発、ゴールではサンディーヴァを首差捉えていました。1馬身4分の1差で人気のコーヒー・クリックは3着。
ウイリアム・モット厩舎、ジュニア・アルヴァラード騎乗のレディー・ララは、前のアップルトンを制したウォー・コレスポンデント同様ヨーロッパからの転厩馬。去年10月のアメリカ・デビュー戦はベルモントの一般ステークス(ペッブルス・ステークス)快勝で、2戦目の前走は去年11月のミセス・リヴィーア・ステークス(芝GⅡ)2着、3戦目でG戦初勝利となります。父エクセレント・アート Excellent Art 、母の父セルカーク Selkirk と典型的なヨーロッパ血統で、オーナーもオールド・ファンには懐かしいサングスター家(ベン・サングスター)の勝負服でした。

次も芝のG戦、こちらは長距離の第11レース、オーキッド・ステークス Orchid S (芝GⅢ、4歳上牝、12ハロン)。3頭のヨーロッパ産馬を含む9頭が出走し、去年シープスヘッド・ベイ(芝GⅡ)を制した英国産のリポスト Reposte が8対5の1番人気。
しかし人気のリポストはスタート前にゲートから逸走し、再びゲートインするアクシデント、これが原因で5着と敗退してしまいます。レースは2番人気(5対2)でアイルランド産のフォト・コール Photo Call が逃げ、ゆったりした流れ。スタートは4番手だった3番人気(6対1)の一角ビューティー・パーラー Beauty Parlor が最初のスタンド前では2番手に上がり、最後の直線では外から逃げ馬を捉えると、後方3番手から追い込む6番人気(8対1)で英国産のタブリード Tabreed を半馬身抑えて優勝。4分の3馬身差で3番人気の1頭キッテンズ・ポイント Kitten’s Point が3着に入りました。1・2着は共にクリストフ・クレメント師の管理馬によるワン・ツー・フィニッシュ。
第6レースに続いてジョン・ヴェラスケス騎手のG戦ダブルとなったビューティー・パーラーは、ケンタッキー産馬ながら又してもヨーロッパ帰りの馬。フランスでは7戦し、去年の最後をボルドーの一般ステークス勝で締め括っていました。これが今期初戦にしてアメリカ・デビュー、去年9月以来の実戦も、恰も自分の庭で走っているようにスムーズなレース内容でした。クレメント師は長距離に不安があったようですが、母ムーン・クィーン Moon Queen (父はサドラーズ・ウェルズ Sadler’s Wells)もフランスで走りロワイヤリュー賞(2500メートのGⅡ)に勝ち、やはりクレメント厩舎に転じてザ・ヴェリー・ワン・ステークス(芝GⅢ、1マイル3ハロン)にも勝った馬、長距離こそ得意にする血統でしょう。

第12レースはガルフストリーム・パーク・オークス Gulfstream Park Oaks (GⅡ、3歳牝、8.5ハロン)。距離が9ハロンからやや短縮されての開催です。1月24日のフォワード・ギャル・ステークス(GⅡ)に勝ったバードアットザワイア Birdatthewire が8対5の1番人気。前走2月21日のダヴォナ・デール・ステークス(GⅡ)は追込み届かずエカティーズ・フィートン Ekati’ Phaeton とエスケンフォーマネー Eskenformoney の微差3着でしたが、この3頭は今回もライヴァルとしての再戦となります。
逃げたのは3番人気(3対1)のエカティーズ・フィートン、バードアットザワイアは指定席とも言える後方2番手からの追い込み策。逃げたエカティーズ・フィートンは早くも第4コーナー手前で一杯となりズルズル後退、代わって3番手に付けていた2番人気(5対2)のエスケンフォーマネーが先頭に立って内ラチ沿いに逃げ込みを図りましたが、外から追い上げたバードアットザワイア、同じく後方3番手から人気2頭の間を衝いて進出した5番人気(14対1)のダネッサ・デラックス Danessa Deluxe との3頭の争いとなり、最後は本命馬が内のエスケンフォーマネーに1馬身4分の1差を付けて人気に応えました。4分の3馬身差でダネッサ・デラックスが3着に入り、逃げたエカティーズ・フィートンは7着惨敗。
デール・ロマンス厩舎、イラッド・オルティス騎乗のバードアットザワイアは、これで7戦3勝2着2回3着1回。フロリダの3強対決を人気の上でも成績の上でも制し、胸を張ってケンタッキー・オークスに向かいます。

G戦7連発の最後から二つ目は、第13レースに組まれたパン・アメリカン・ステークス Pan American S (芝GⅡ、4歳上、12ハロン)。9頭が出走し、一昨年のこのレースを制したトゥワイライト・エクリプス Twilight Eclipse がイーヴンの1番人気。
レースはチェンジ・オブ・コマンド Change of Command が引っ張り、トゥワイライト・エクリプスはこれをピタリとマークして2番手から。第3コーナーの手前で逃げ馬が一杯になると、替って先頭に立った本命馬に5番手の内を追走していた2番人気(5対2)のイマジニング Imagining がスパート。直線では外から本命馬に並び掛けたイマジニングが、ゴール寸前で人気馬を交わして2番手に上がった4番人気(12対1)のパイレート・マウンテン Pyrate Mountain に4分の3馬身差を付けて優勝。頭差でトゥワイライト・エクリプスは3着でした。
クロード・マゴーヒー厩舎、イラッド・オルティス騎乗のイマジニングは、去年のマンノ・ウォー・ステークス(芝GⅠ)以来の勝利で、5連敗に終止符を打ちました。マンハッタン・ステークス6着、ソード・ダンサー・ステークスが2着、ジョー・ヒルシュも3着、BCターフ7着、そして前走ガルフストリーム・パーク・ターフ・ハンデ8着と、全て芝のGⅠ戦を使ってきた同馬にとって、GⅢのここでは負けられなかったとも言えそうです。

愈々最後、この日のメインでもある第14レースのフロリダ・ダービー Florida Derby (GⅠ、3歳、9ハロン)。ケンタッキー・ダービーへのポイントは、トライアルとしては最高クラスの100-40-20-10ポイント加算戦。予定通り9頭が出走し、前走ファウンテン・オブ・ユースでは1着入線ながら2着降着となったアップスタート Upstart がイーヴンの1番人気。この時繰り上がって優勝となったイッツアノックアウト Itsaknockout は5対1の3番人気です。
逃げたのは7番人気(6対1)の伏兵ジャック・トリップ Jack Tripp でしたが、これは直ぐに後退。直線は2番手を進んだ2番人気(9対5)の新星マテリアリティー Materiality と、これを3番手で外から追い上げるアップスタートとの完全なマッチレース。この叩き合いで内のマテリアリティーが若干外に寄れアップスタートとニアミスするシーンもありましたが、最後はマテリアリティーがアップスタートに1馬身半の差を付けて優勝。審議にはならず、アップスタート陣営からも異議申し立ては無く入線通りで確定しました。12馬身半の大差が付いて4番人気(7対1)のエイミーズ・フラッター Ami’s Flatter が3着に入り、イッツアノックアウトは4着に終わっています。
トッド・プレッチャー厩舎、ジョン・ヴェラスケス騎乗のマテリアリティーは、1月デビューで3戦無敗。前走は3月5日の一般ステークス(イスラモラーダ・ハンデ)で、100ポイントを獲得して無事にダービー参戦資格を獲得しました。父アフリート・アレックス Afleet Alex はプリークネスとベルモントの2冠馬、姉のマイ・ミス・ソフィア My Miss Sophia は去年のケンタッキー・オークス2着という良血です。ダービー参戦の権利という意味では、2着のアップスタート、4着のイッツアノックアウトも問題ないでしょう。プレッチャー師はフロリダ・ダービー、去年のコンスティテューション Constitution に続き2連覇で3勝目。ヴェラスケス騎手にとっても3度目のフロリダ・ダービーとなりました。このトライアル、1952年に創設されれてから三冠レースでは既に57勝となる由。今年のマテリアリティーにも大いに期待が高まります。

 

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