日本フィル・第306回横浜定期演奏会
4月の横浜日フィルは首席客演インキネン登場、大得意のオール・シベリウス・プログラムで、作曲者生誕150周年の記念コンサートでもあります。
インキネン/日フィルは横浜と東京で既にシベリウス交響曲全曲演奏会を達成しており、今回の横浜ではその記録がCD化され、会場で先行発売されるという話題もありました。
また恒例だったフォアイエでのプレトークも今回から舞台上に移り、開場時間もこれまでより10分早くなるということもあっていつもより早目に家を出ます。
シベリウス/組曲「カレリア」
シベリウス/ヴァイオリン協奏曲
~休憩~
シベリウス/組曲「レンミンカイネン」
指揮/ピエタリ・インキネン
ヴァイオリン/三浦文彰
コンサートマスター/扇谷泰朋
フォアシュピーラー/千葉清加
ソロ・チェロ/菊地知也
横浜のファンは熱心で、プレトークが自席に座って聞ける様になっても開演前には長い列。その最後尾に並んでナクソスのCD売り場を覗き、先ずは出来たてほやほやで湯気が立っているインキネンの交響曲全集をゲットします。
この日買った人にはインキネンの写真付きチケットホルダーがオマケとかで、終演後にはサイン会もあったようです。CDは後でゆっくり聴くとして・・・。
今回のプレトークは奥田佳道氏の担当、今後は3人の評論家が持ち回りで開催されることになっています。聞きたい方は早目に来場することがお勧め。この日も初めて知ったような話題もいくつかあり、演奏前の一時としてはプログラムを読むより貴重な情報が手に入りました。
今定期はオール・シベリウスながら交響曲は一切入らず、良く知られた作品に滅多に聴くことが出来ないレアものも含めて多彩なプロ。シベリウス大好き人間には堪らない時間でしたが、苦手な人には厳しかったかもしれません。
冒頭は良く知られた方のカレリア組曲ですが、第1曲の間奏曲(いきなり間奏曲というのは奇妙な感じですが、実は別に序曲もあって、それは滅多に演奏されません)が比較的ゆったりしたテンポで開始されたのに注目。そのあとインキネンは Meno に入ってテンポを上げ、最後に Moderato が戻るところで最初の速度に戻します。
これが如何にも三部形式という感じで、構成的な把握に改めて感心。ただ、3月一杯で他の某オーケストラに首席奏者を引き抜かれたホルン群に若干難点があったのは残念でしたが・・・。
協奏曲以後は客演主席の丸山勉が加わり、ホルン・チームも安定。いつもの日フィルの高い合奏力が維持されていました。
協奏曲はヴァイオリン界のサラブレット、三浦のソロ。高度なテクニックとスッキリ纏める音楽創りを、同じヴァイオリンの名手インキネンが実に繊細なサポートで引き立てます。フル編成のオーケストラでありながらソロが埋もれないのは、やはり指揮者の抜群なバランス感覚のお蔭でしょう。
今回演奏されたのはもちろん現行版ですが、シベリウスの協奏曲にはオリジナル版というか初稿も存在します。かなり以前にカヴァコスがヴァンスカ指揮でオリジナル版をBISに録音したことがあって、私も個人輸入でゲットして聴いた記憶があります。カヴァコスもヴァンスカも未だ無名だった頃のことで、その時の印象ではやはり現行版が優れていると思いました。
確かそのオリジナルはシベリウスの遺族が特別に許可して録音したはずですが、奥田氏のプレトークでは出版もされているとか。これは初めて知った事件ですが、もし一般人でも見ることが出来るなら、是非スコアを取り寄せてみたいもの。尤も価格にもよりますが。
三浦のアンコールは、バッハの無伴奏パルティータ2番からサラバンド。最近の若手を聴いていると古楽器のバッハみたいだ、と感想を漏らす人もいましたが、往年の野太いバッハを弾くヴァイオリニストは絶滅状態で、無いもの強請りというもの。
後半のレンミンカイネン、これは圧巻でした。何より普段は聴く機会の無い、特にナマ演奏では滅多にチャンスの無い「レンミンカイネンと乙女たち」作品22-1と、「トゥオネラのレンミンカイネン」作品22-3に聴き惚れます。何でこれが演奏されずにいるのか、と。
特にトゥオネラのレンミンカイネンの中間部にフルートからチェロに引き継がれる美しい旋律はシベリウス作品でも特筆すべき見事なもの。これを聴かずに一生を終えれば、シベリウス・ファンは大いに悔やむことになるでしょう。何度でも聴きたい名曲と断言して憚りません。
ところで奥田氏は4曲の演奏順に言及。今回は作品に付けられた番号とは違い、「レンミンカイネンと乙女たち」→「トゥオネラのレンミンカイネン」→「トゥオネラの白鳥」→「レンミンカイネンの帰郷」の順で演奏されました。こうすることで交響曲的な構成にも大いに寄与する工夫。
氏によるとこれこそが初演、再演の時の順序だそうで、特にフィンランド人指揮者はこの並びに拘っている由。個人的には順序など些細なことと考えていましたが、有名な白鳥から帰郷に続くと、その音楽的対照がより明確となり、なるほどと納得した次第。
またシベリウスは晩年に至るまで改訂を施していたそうで、LP初期(SPだったかも)に聴いていたオーマンディー盤がスコアとは違う個所があったことにも合点がいきました。プレトークは真に為になりますよ。
ということでレアな体験満載のオール・シベリウス・プロ、東京でも演奏してくれれば一回券に並んでもう一度聴くのに、もったいないことではあります。ここはナクソスさんに頑張ってもらい、インキネン/日フィルの交響詩全集も出して貰わなくちゃ。
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