やはり強かった、グレンイーグルス!

1年の競馬シーズンで最も忙しいのが5月の第1土曜日、ニューマーケットの2000ギニーとチャーチル・ダウンズのケンタッキー・ダービーが立て続けに行われるからです。レポートはどえしても遅れがちになりますから、速報版で知りたい方はネット中継の方を見て下さいな。
ということでジックリ行きます。先ずはニューマーケット競馬場の2000ギニーですが、その前にG戦が2鞍行われていますから、順序良く進めることにしましょう。

この日のニューマーケットは散水を施しても good to firm とやや固目の馬場。最初はスプリント戦のパレス・ハウス・ステークス Palace House S (GⅢ、3歳上、5ハロン)から。前回のアスコット・レポートでも紹介したように、今シーズンは短距離路線に見直しが入ります。パレス・ハウスの出走条件は従来通り3歳上ですが、今年は3歳馬の参戦はありませんでした。
最終的には1頭が取り消して9頭立て。何と10歳馬が2頭と、短距離には息の長い馬が目立ちます。前走ニューマーケットのクレイヴァン開催でアバーナント・ステークス(GⅢ)2着した5歳馬ウォッチャブル Watchable が5対2の1番人気。

10歳馬でブービー人気(14対1)のタンジェリン・トゥリーズ Tangerine Trees が逃げましたが、好スタートから2番手に控えた3番人気(5対1)のゴールドリーム Goldream が残り1ハロンで抜け出すと、3番手追走の6番人気(12対1)ジャスティス・デイ Justice Day に1馬身4分の1差を付けて快勝。更に1馬身4分の1差で、4番人気(8対1)の10歳古豪キングスゲイト・ネイティヴ Kingsgate Native が後方から追い込んで3着に食い込みました。人気のウォッチャブルは先行策から残り1ハロンで抜け出しを図りましたが、意外に伸びず5着敗退。
勝ったゴールドリームと3着のキングスゲイト・ネイティヴは、共にロバート・カウエル師の管理馬で、勝馬にはマーチン・ハーレイが騎乗していました。今年6歳のゴールドリームは、これがG戦初挑戦での初勝利。去年まではハンデ戦中心に使われ、これが何と29戦目となるせん馬です。今回が5勝目、未勝利戦の他は3勝が全てハンデ戦でした。
今年はロイヤル・アスコットのキングズ・スタンド・ステークスに登録を済ませ、そのオッズもレース前の50対1から20対1へと急上昇しています。来月ヘイドックのテンプル・ステークスをもう一叩きし、アスコットを目指すローテーションだそうです。2・3着馬も当然ながらロイヤル・アスコットが目標で、好勝負した馬たちの再戦も遠からず見ることが出来そう。

次は対照的に長距離のジョッキー・クラブ・ステークス Jockey Club S (GⅡ、4歳上、1マイル4ハロン)。こちらは最初から頭数が揃わず、何と4頭立て。奥手の長距離馬の調教では定評あるサー・マイケル・スタウト厩舎のテレスコープ Telescope が8対13の断然1番人気。3歳時にはグレート・ヴォルティジュール・ステークスを、4歳の去年はハードウィック・ステークスを制してキングジョージでも2着、BC遠征でも4着しているスタウト好みの1頭ですね。
最低人気(16対1)オデオン Odeon の逃げを3番手で追走したテレスコープ、残り2ハロンで先頭に立ち楽勝かと思われましたが、その後ろでマークしていた3番人気(7対1)のセカンド・ステップ Second Step が徐々に差を詰め、最後は頭差でテレスコープに逆転勝ち。3着は18馬身もの大差が付いて2番人気(11対4)のピサーズ・ムーン Pether’s Moon でした。

ルカ・クマニ厩舎、アンドレア・アズテニ騎乗のセカンド・ステップは、これがG戦初挑戦の4歳馬。去年はニューバリーで2勝、シーズン最後にカラー競馬場のリステッド戦にも勝っており、今期から上のクラスで真価を問う1頭でした。初挑戦のここでは本命馬が絶好の目標だったこともあり、戦術的に有利だったことは否めないでしょう。
負けたテレスコープも結果は充分満足が行くもので、ロイヤル・アスコットでハードウィック・ステークス連覇を目指すことになるでしょう。

そして愈々今年のクラシック第1弾、2000ギニー 2000 Guineas S (GⅠ、3歳、1マイル)です。既に報告済みの出走予定馬からレーシング・ポスト・トロフィー馬エルム・パーク Elm Park が取り消して18頭立て。やはりオブライエン/ムーア・コンビのグレンイーグルス Gleneagles が4対1の1番人気に支持されていました。本命としては配当の高いオッズで、それだけ混戦というか、力の比較が難しいクラシック・レースと言えるでしょう。
例年ギニーはスタートから内外に大きく分かれ、それが運命を左右するということもあってか、スターティング・ストール(日本ではスターティング・ゲートと呼びます)がスタンド寄りに変更されました。例えば本命馬に騎乗するライアン・ムーア騎手などは、これをヤンワリと批判。長い歴史の中で繰り返されてきた伝統を変更するには及ばないのでは、と発言してさえいました。

そしてゲートが切られて見ると、何のことは無い、出走各馬はスタンド寄りのグループと馬場中央を走るグループとに二分されてしまいます。中央のグループは10番人気(20対1)のクール・カンパニー Kool Kompany が、スタンド側のグループは12番人気(25対1)のホーム・オブ・ザ・ブレイヴ Home Of The Brave が先頭でレースを引っ張ります。グレンイーグルスはスタンド側の5番手辺りに付け、抜け出すタイミングを計る構え。
坂を上がって勝負所に入ると二つのグループは徐々に馬体を合わせ始め、残り1ハロンで抜け出したのはやはり本命のグレンイーグルス。同じくスタンド側で本命馬をマークしていた2番人気(5対2)のテリトリーズ Territories が遅れを取らじとスパートしましたが、結局2頭の差は縮まらず2馬身4分の1差で決着。中央のグループから抜け出した6番人気(10対1)のアイヴァウッド Ivawood が4分の3馬身差で3着に入り、以下4着ボッシー・ゲスト Bossy Guest (50対1、14番人気)、5着セレスティアル・パス Celestial Path (14対1、7番人気)の順。

終わって見れば1・2番人気の上位決着、去年のジャン=リュック・ラガルデール賞での入線順位と同じ結果(1着馬は降着となりましたが)になりました。これを見れば裁決の判断に疑問が持たれても仕方ない所でしょうが、審議はレース単位で行われるもので、ここで論評する問題でもないでしょう。
審議と言えば、今回もスタンド側からモヒート Moheet が一気に馬場の中央に向かって斜行し、カペラ・サンセヴェロ Cappella Sansevero の進路を大きく妨害するシーンが映し出されていました。対象の2頭は8着と11着でしたが、モヒートに騎乗したデットーリ騎手には3日間の騎乗停止が課せられています。

グレンイーグルスは言うまでもなくクールモアの馬で、管理するエイダン・オブライエン師は2000ギニー7勝目。今更驚くこともないでしょうが、去年10月初旬以来のレースをぶっつけ本番で制する辺り、その調教技術には舌を巻くばかりでしょう。騎乗したライアン・ムーアは、意外なことに2000ギニー初制覇。あくまでも冷静にレースを振り返っていました。
グレンイーグルスはマイラー、スペシャルなマイラーと、オブライエン師もムーア騎手も言明。このあとは愛2000ギニー、セント・ジェームス・パレス・ステークスという3歳マイラーの王道を歩むでしょう。間違ってもダービーで2冠を、という発想にはなりません。これが英国競馬の真髄でもあります。それはファーブル厩舎のテリトリーズも同じで、頂上対決はロイヤル・アスコット。それまでに2馬身差を詰める成長力に期待を掛けるファーブル師でした。

 

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