波乱のGⅠ戦2鞍
ケンタッキー・ダービーとプリークネス・ステークスが行われる5月第1と第3土曜日の間に挟まれる週末も、アメリカ競馬はGⅠ2鞍を含む豪華版。三冠最終戦のベルモント・ステークスへの絶好な前哨戦もあり、今週も目が離せません。
とは言っても先週と次週よりは少なめのG戦、先ずは4鞍が行われるベルモント・パーク競馬場から見ていきましょう。
最初はベルモント・ステークスのトライアルとして知られ、事実ここからベルモントを制した馬も数多く出ているピーター・パン・ステークス Peter Pan S (GⅡ、3歳、9ハロン)から。fast の馬場に5頭が出走し、今期初戦の前走キーンランドのアローワンス戦を快勝したばかりのトゥー・ウィークス・オフ Two Weeks Off が4対5の1番人気。余程前走の内容が高く評価されていたのでしょう。
レースは2番人気(2対1)のウルフ・マン・ロケット Wolf Man Rocket が逃げ、4頭が縦一列でこれを追う展開。トゥー・ウィークス・オフは2番手で前を捉えるタイミングを計ります。最後のコーナーを回って直線に入るところで本命馬が逃げ馬に並び掛けましたが、ほぼ同時に前半4番手を進んでいた3番人気(9対2)のメイドフロムラッキー Madefromlucky が前2頭の外から襲い掛かると、やはり最後方から追い込む最低人気(10対1)のコンケスト・カーリネイト Conquest Curlinate に1馬身差を付ける快勝です。1馬身半差でトゥー・ウィークス・オフは3着に後退しました。
トッド・プレッチャー厩舎、ハヴィエル・カステラノ騎乗のメイドフロムラッキーは、一時はケンタッキー・ダービー出走を真剣に検討していた馬で、前走アーカンソー・ダービー(GⅠ)では後のダービー馬アメリカン・フェイロー American Pharoah の4着、更にその前もレベル・ステークス(GⅡ)でダービー馬の2着していた馬。ピーター・パンの結果を見ても、如何にアメリカン・フェイローが卓越しているかが判ろうというもの。しかし未だチャンスはあります。ここを勝って最後の舞台となるベルモント・ステークスでライヴァルを逆転できるか、これからの3週間はその点に掛かっていると言えそうです。
ベルモントの二つ目は、かつてGⅠだったこともあるラフィアン・ハンデキャップ Ruffian H (GⅡ、4歳上牝、8ハロン)。6頭が出走してきましたが、ゴドルフィンの馬で共にキアラン・マクローリン師が管理するヴィア・ストラーダ Via Strada とウエディング・トースト Wedding Toast が馬券上は組になって3対5の1番人気。
レースはその1頭、ヴィア・ストラーダがペースメーカーの様な形になって逃げ、これを事実上2番人気(2対1)のプリンセス・ヴァイオレット princess Violet が2番手に付けてプレッシャーを掛けます。しかし前半4番手で待機していたゴドルフィン・チームのウエディング・トーストが直線では馬3頭分の外を回って追い込むと、プリンセス・ヴァイオレットに4馬身差を付ける圧勝でした。更に2馬身半差で後方2番手を進んだ3番人気(7対2)のハウス・ルールズ House Rules が3着。
ホセ・レズカノが騎乗したウエディング・トーストは、一昨年カムリー・ステークス(GⅢ)を含めて4連勝した馬ですが、去年は一般ステークスで1戦して2着したのみ。今期は1月にガルフストリームの一般ステークス(マイアミ・ショア・ハンデ)に勝ち、2月のランパート・ステークス(GⅢ)が1番人気でハウス・ルールズの3着、前走マディソン・ステークス(GⅠ)でもプリンセス・ヴァイオレットの4着と敗れていました。ここでGⅡ初勝利、次走はベルモント当日に行われるオグデン・フィップス・ステークスでGⅠ初制覇を目指します。
続いてはボーゲイ・ステークス Beaugay S (芝GⅢ、4歳上牝、8.5ハロン)。firm の馬場に7頭立て。一昨年のデル・マー・オークス(GⅠ)勝馬で、去年11月末のメイトリアーク・ステークス(芝GⅠ)3着以来となるディスクリート・マルク Discreet Marq が9対5の1番人気。
大外7番枠発走のディスクリート・マルクがハナを主張して外から一気に先頭に立つと、後はスローに落しての逃げ作戦。2・3番手の馬が掛かるのを懸命に抑えるというアメリカ競馬では珍しいシーンも見られる中、まんまと自分ペースに持ち込んだディスクリート・マルクが後方2番手から追い込む5番人気(8対1)のフォト・コール Photo Call を4分の3差抑えての逃げ切り勝ち。半馬身差で4番手を進んだブービー人気(17対1)のレセプタ Recepta が3着。
クリストフ・クレメント厩舎、ジョン・ヴェラスケス騎乗のディスクリート・マルクは、前走からオーナーが代わった馬。新オーナーにとってはこれが初勝利となります。新しいオーナーとは、彼のモイグレア・スタッドですから、もちろん繁殖牝馬としての勝ちを見出しているからに間違いはありません。今の彼女はもちろん、将来の母としての活躍を大いに期待しましょう。
ベルモントの最後は伝統の芝GⅠ戦、マンノ・ウォー・ステークス Man o’War S (芝GⅠ、4歳上、11ハロン)。1頭が取り消して6頭が出走し、去年の勝馬で連覇が掛かるイマジニング Imagining が8対5の1番人気。
レースは4番人気(8対1)のウォー・ダンサー War Dancer が逃げましたが、イマジニングは1番枠スタートから、最初のスタンド前で前が狭くなって一気に後退するアクシデント。そのまま後方を進む苦しい流れとなり、結局は5着と良い所なく惨敗に終わってしまいました。優勝は、2番手で逃げ馬をマークした3番人気(9対5)のトゥワイライト・エクスプレス Twilight Eclipse で、ウォー・ダンサーとの直線での長い叩き合いをゴール手前で外から首差捻じ伏せての勝利です。後続は前を捉える所まで行くこと無く、3馬身差で最低人気(11対1)のハイパー Hyper が3着に入り、アーリントン・ミリオン(GⅠ)勝馬で2番人気(7対2)のハーデスト・コア Hardest Core も最下位と期待を裏切りました。
トーマス・アルベルトラーニ厩舎、これがこの日4勝目となるハヴィエル・カステラノ騎乗のトゥワイライト・エクリプスは、去年のBCターフ3着などチャンピオン芝馬メイン・シークエンス Main Sequence と善戦するも勝てずに来た6歳馬。今年も初戦のマック・ダイアルミダ(芝GⅡ)でメイン・シークエンスの2着、前走パン・アメリカン・ステークス(芝GⅡ)でもイマジニングの3着で、これがGⅠ戦初制覇となりました。
昨日はサンタ・アニタ競馬場でも2鞍のG戦、珍しく最初にGⅠ戦のヴァニティー・ステークス Vanity S (GⅠ、3歳上牝、9ハロン)が行われました。去年は6月中旬の施行でしたが、今年は前倒ししての一戦。当初から5頭と登録が少ないレースでしたが、出れば大本命になるはずのビホールダー Beholder が発熱と白血球の数値が異様に高くなったことから取り消し、4頭立てになってしまいました。この中からサンタ・マリア・ステークス(GⅡ)、サンタ・マルガリータ・ステークス(GⅠ)と圧勝してきたウォーレンズ・ヴェニーダ Warren’s Veneda が1対9の圧倒的1番人気。
しかし小頭数の競馬に波乱は付きもの、スタートから逃げた2番人気(9対2)のマイ・スイート・アディクション My Sweet Addiction が直線では外に振れ、再びインコースに進路を取り直しても、2番手追走の3番人気(7対1)ガス・トータル Gas Total に1馬身差を付けて逃げ切ってしまいました。最後方から追い込んだウォーレンズ・ヴェニーダでしたが、一旦は逃げ馬を交わした場面もありましたが、再び巻き返されて頭差届かず3着敗退の波乱。
マーチン・ジョーンズ厩舎、名手マイク・スミス騎乗のマイ・スイート・アディクションは、これがG戦2度目の挑戦で、何とGⅠ初勝利。1月19日のサンタ・モニカ・ステークス(GⅡ)では6着と、G戦クラスはやや壁が高いと思われていた馬でした。前走サンタ・アニタのアローワンス戦勝利は、それまでの5連敗に終止符を打ったばかり、やはり競馬はやって見なければ判りません。
この日の最後はアメリカン・ステークス American S (芝GⅢ、3歳上、8ハロン)。firm の馬場に8頭が出走し、レース名に相応しく北米馬と南米馬の対決の様相、ブラジルのGⅠ馬でこれがアメリカ・デビューとなるバル・ア・バリ Bal a Bali が3対2の1番人気、2番人気(2対1)にもアメリカ転向の先輩で、去年フランク・キルロー・マイル(芝GⅠ)を制しているアルゼンチン出身のウイニング・プライズ Winning Prize が続いていました。
レースはブービー人気(31対1)のウォー・アカデミー War Academy が逃げ、8番枠スタートのバル・ア・バリは終始外目の5番手を追走。直線、2番手から先頭を窺うウイニング・プライズと、最後方から外を通って一気に追い上げた3番人気(9対2)タルコ Talco との間を思い切りよくも巧みに衝いたバル・ア・バリ、鋭い瞬発力でタルコを1馬身抑えて人気に応えました。馬群を割る根性は相当なものと見ました。1馬身4分の1差で4番手を進んだ5番人気(8対1)のガブリエル・チャールズ Gabriel Charles が3着に入り、ウイニング・プライズは最後に力尽きて4着。
リチャード・マンデラ厩舎、フラヴィアン・プラット騎乗のバリ・ア・バリは、上記の様にブラジルの三冠馬であると同時にブラジル大賞典(芝の2400メートル)、リオ・デ・ジャネイロ大賞典(芝の1600メートル、レコードタイム)など現地のGⅠに4勝、12戦して負けたのは1回だけという5歳の強豪。アメリカ・デビュー戦という条件だけでなく、去年は蹄葉炎との戦いも克服したあって、その底力には底知れないものがありそう。今期アメリカの芝GⅠ戦では台風の眼になる予感さえ感じさせるレース内容でした。
最近のコメント