2015クラシック馬のプロフィール(9)
今回の血統プロフィールは、英国のジョン・ゴスデン厩舎、フランキー・デットーリ騎手に英ダービーに続きクラシック・ダブルをプレゼントした、フランス・オークス馬スター・オブ・セヴィル Star Of Seville を取り上げます。
スター・オブ・セヴィルは父デューク・オブ・マーマレード Duke of Marmalade 、母ステージ・プレゼンス Stage Presence 、母の父セルカーク Selkirk という血統。
父デューク・オブ・マーマレードは既にその現役時代が当ブログの対象範囲内でしたから、検索機能を使って頂ければそのプロフィールは自ずと明らかになってきます。3歳まではG戦の常連ながら勝つまでには至らない(2000ギニーと愛2000ギニーは共に4着)レヴェルでしたが、4歳になって才能が開花、キングジョージを含めてGⅠを5連勝したことは記憶に新しい所でしょう。
種牡馬としては今年のクラシック世代が3年目。初産駒からいきなりクラシック馬というワケには行かなかったところは如何にも現役時代を髣髴させますが、仏オークスがデュークにとって最初のクラシック馬となります。GⅠ戦に限っても、スター・オブ・セヴィルが最初のGⅠ馬。
ただし、今年の仏オークスにはデューク・オブ・マーマレード産駒のサウンド・オブ・フリーダム Sound of Freedom が出走していて、この馬は既にイタリア1000ギニーを制してシャンティーに挑戦してきました。もちろんイタリア1000ギニーも堂々たるクラシック・レースですが、格付けはGⅡで、最上級のクラシック馬とは言えないでしょう。因みにサウンド・オブ・フリーダムは仏オークス6着でした。
父系はここまでにして牝系に入りましょう。母ステージ・プレゼンス(1998年 栗毛)は故ロバート・サングスター氏の所有馬で、英国のバリー・ヒルズ師が調教。2歳時は2戦未勝利でしたが、3歳の3戦目、8月にブライトンの7ハロン戦で初勝利を挙げます。2勝目は11月のリングフィールド、オールウェザー・コースで行われた1マイルのハンデ戦で、このシーズンを9戦2勝で終え、そのまま繁殖入りしました。
ポリトラックの10ハロン戦でも掲示板に載っていますから、適距離は7ハロンから10ハロン、芝でもタペタでも問題無しというタイプでしょう。G戦に出走したのは唯一度、何と2歳のデビュー戦がGⅠのモイグレア・スタッド・ステークスでしたが、さすがにこれは10頭立ての9着に終わっています。
余談ですが、ステージ・プレゼンスが3歳だったのは2001年、あの9・11を挟んで2勝したと言えば、当時の雰囲気が思い出されるでしょう。さてステージ・プレゼンスの産駒、いつものように一覧表に纏めました。
2003年 スペクタキュラー・ショー Spectacular Show 栗毛 牝 父スペクトラム Spectrum 5ハロンから1マイルで15戦1勝、勝鞍は2歳時にノッティンガムの5ハロン戦。リングフィールドのタペタ・コースのリステッド戦(6ハロン)に勝ったヴァルブチェク Valbchek の母
2004年 イングリッシュ・バレー English Ballet 栗毛 牝 父デインヒル・ダンサー Danehill Dancer ヒルズ厩舎で2歳時のみ出走で5戦2勝。スイート・ソレラ・ステークス(GⅢ)優勝。メイ・ヒル2着、フィリーズ・マイル3着、ロックフェル5着で引退
2005年 アイリッシュ・バレー Irish Ballet 鹿毛 牝 父ハイ・シャパラル High Chaparral 未出走
2006年 ステージ・パフォーマンス Stage Performance 栗毛 牝 父デインヒル・ダンサー ゴスデン厩舎で3歳時に10ハロンで2戦未勝利 スター・オブ・セヴィルと同じレディー・バムフォードの所有馬
2007年 カリプソ・ドリーム Calypso Dream 鹿毛 牝 父デインヒル・ダンサー 成績不詳
2011年 セイクリッド・アクト Sacred Act 鹿毛 牡 父オアシス・ドリーム Oasis Dream レディー・バムフォードの自家生産馬 ゴスデン厩舎で4戦1勝(現時点) 勝鞍はノッティンガムの8.5ハロン 今期は2戦未勝利で、直近のリングフィールドのハンデ戦はデットーリ騎乗で2着
2012年 スター・オブ・セヴィル
ステージ・プレゼンスにとってスター・オブ・セヴィルは、イングリッシュ・バレーに続いて2頭目のG戦勝馬。産駒には娘が圧倒的に多いのが目に付きます。因みに2013年産も牝馬で、父はオアシス・ドリームだそうです。
2代母パーク・チャージャー Park Charger (1992年 鹿毛 父チロル Tirol)はアイルランドでエイダン・オブライエン師が調教し12戦2勝、勝鞍はゴウラン競馬場の1マイル未勝利戦と、レパーズタウン競馬場の10ハロン一般戦、何れも3歳時のものでした。愛1000ギニーにも出走しましたが10頭立て8着、他にリステッド戦で4回入着を果たしています。
その産駒ではステージ・プレゼンスの他に2頭に注目、2000年生まれのパクホース Pakhoes (鹿毛 牡 父カレッジ・チャペル College Chapel)はデルモット・ウェルド厩舎に所属して8戦1勝、ロイヤル・アスコットのコヴェントリー・ステークス(GⅢ)で2着、カラーのレイルウェイ・ステークス(GⅢ)でも2着という実績を残しました。
またその一つ上の牝馬ラム・チャージャー Rum Charger (1999年 鹿毛 父スペクトラム)もウェルド師の管理下で11戦3勝、アサシ・ステークス(リステッド、7ハロン)に勝った他にバリーコーラス・ステークス(GⅢ、7ハロン)も制して、見事G戦勝馬となりました。
ラム・チャージャーはアメリカで繁殖入り、GⅠ4勝の強豪ウインチェスター Winchester (2005年 鹿毛 父シアトリカル Theatrical)の母となります。ウインチェスターは3歳時にセクレタリアート・ステークス、5歳時にはマンハッタン・ハンデとジョー・ヒルシュ・ターフ・クラシック、6歳時にもソード・ダンサー・ステークスと、芝の10ハロンから12ハロンのGⅠを制したステイヤー。
ウインチェスターは現在、韓国で種牡馬として供用中の由。今年の仏オークスの結果に、韓国生産界も大いに沸いていることでしょう。
3代母はハイティエンヌ Haitienne (1982年 鹿毛 父グリーン・ダンサー Green Dancer)と言い、フランスで10戦1勝した馬。残念ながら手元の資料ではこれ以上のことは調べが付きませんでした。
繁殖牝馬としてもパーク・チャージャーが最も活躍した馬のようで、その他には特別優れた成績を残した馬はいないようです。
しかし4代母ハマダ Hamada (1972年 鹿毛 父ハビタット Habitat)はG戦に2勝した名馬で、2歳時には1000メートルと1300メートルで2勝、エクリプス賞(GⅢ、1300メートル)で2着では首差の2着。エクリプス賞も2勝目も不良馬場で、少なくとも1マイルまでは問題ないとされていました。
ハマダは3歳時、サンドリンガム賞(GⅢ、1600メートル)と大混戦だったポルト・マイヨー賞(GⅢ、1400メートル)に優勝した他、秋シーズンにはムーラン・ド・ロンシャン賞(GⅠ、1600メートル)が2番人気で5着、フォレ賞(GⅠ、1400メートル)も3番人気で4着と健闘。シーズン終戦となったパース賞(GⅢ、1600メートル)では1番人気に支持されましたが19頭立ての8着に終わっています。通算では13戦4勝。
ハマダの娘はハイティエンヌを含めて7頭が繁殖入りしていますが、現在までの所では障害レースで実績を上げている馬以外には目立った活躍馬は出ていないようです。
5代母エルヴェティー Helvetie (1965年 黒鹿毛 父クレイロン Klairon)も9戦して1600メートル戦に1勝した馬で、その娘イストワール Histoire が1994年のダービー馬エルハーブ Erhaab を出して話題になります。
この牝系を更に6代母へアレス Heiress 、7代母マーシャル・エア Martial Air まで遡ると、マーシャル・エアの別の娘ロンドンデリー・エア Londonderry Air が、アスコット・ゴールド・カップ勝馬セレリック Celeric の3代母となることを付け加えておきましょう。
以上、スター・オブ・セヴィルの牝系はA級馬続出というほどの繁栄ではありませんが、間歇的にGⅠ勝馬を出してきたファミリー。今年の仏オークス馬は、父の距離適性も考慮に入れれば、やはり2000メートルが最適の距離と思われます。
ところで父デューク・オブ・マーマレードは、インブリードが産んだ名馬という側面もありました。即ち父デインヒル Danehill はノーザン・ダンサー Northern Dancer の母ナタルマ Natalma を3×3の近親で持ち、母ラヴ・ミー・トゥルー Love Me True もレイズ・ア・ネイティヴ Raise a Native を同じく3×3でインブリードする血統。
その結果生まれたデューク・オブ・マーマレードも、バックパサー Buckpasser を4×4で持つ配合となりました。
しかしスター・オブ・セヴィルの母ステージ・プレゼンスは、少なくとも5代まではデューク・オブ・マーマレードと共通の祖先は無く、ほぼ完璧なアウトブリードになっていることに注目すべきでしょう。流石にノーザン・ダンサー Northern Dancer の血は父母共に流れていますが、重なるのは6代先のこと。その影響力は相当程度薄まっていると思われます。
彼女を生産したレディー・バムフォードは有機農業の権威でもあり、血統的な知識も見識も豊かな方ではなかろうか、と想像されるじゃありませんか。
ファミリー・ナンバーは1-w。1860年生まれのオークス馬クィーン・ベルタ Queen Bertha を基礎とする牝系です。
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