2015クラシック馬のプロフィール(11)

前半最後の-と言ってもあとは英セントレジャーだけですが-クラシック勝馬の血統紹介です。結局今年はクラシックを複数勝ったのはグレンイーグルス Gleneagles だけで、このコーナーもフル回転となりました。
今回は先日の愛オークスを制したカヴァート・ラヴ Covert Love を取り上げます。

カヴァート・ラヴは父アザムール Azamour 、母ウイング・ステルス Wing Stealth 、母の父ホーク・ウイング Hawk Wing という血統。当初クラシックに登録がありませんでしたが、3連勝して急成長、スタミナも充分な血統と言うことで追加登録料を支払っての快挙でした。
単にスタミナがあるというだけでなく、少し遡ればGⅠ級の馬が目白押しの牝系で、特にアイルランドのクラシックに縁が深いファミリーと関係者が認識していたことが追加登録に踏み切らせた理由ではないかとも考えられます。

最初に父アザムールというのが順序ですが、この馬については2012年の仏オークス馬ヴァリラ Valyra のプロフィールで詳しく取り上げています。こちらをご覧ください↓

http://merrywillow.com/?p=2536

カヴァート・ラヴはアザムール6年目の産駒で、確かヨーロッパのクラシックに勝ったのもヴァリラ以来のことでしょう。アザムールが3歳クラシックを迎えたのは2004年ですが、この年は牝系の紹介でも再登場しますから、頭の片隅に置いておきましょう。
さて母ウイング・ステルス(2005年 黒鹿毛)はアイルランドのジョン・オックス厩舎に所属していた馬で、2歳から4歳までの3シーズン、7ハロンから12ハロンまでの距離に9戦して未勝利。特に3歳以降は全て10ハロン以上の長距離で、オックス師もスタミナ系と見ていたのは事実でしょう。

そのまま繁殖に上がり、これまでの成績は、
2010年 モンジェス Montjess 鹿毛 牝 父モンジュー Montjeu 英国でローラ・モーガン厩舎に所属 2歳から4歳までの3シーズン走って17戦未勝利 8ハロンから2マイルで走るも、3歳以降は長距離専門。14ハロンで2回、2マイルで2回と合計4回2着あり
2011年 ステルス・ミサイル Stealth Missile 鹿毛 牝 父インヴィンシブル・スピリット Invincible Spirit クライヴ・ブリテン厩舎で8戦2勝。勝鞍は2歳時アスコットの7ハロンと、3歳時リングフィールドの7ハロン。G戦は2歳時のオー・ソー・シャープ・ステークス(GⅢ)5着のみ
2012年 カヴァート・ラヴ
2013年 プリンセス・エヴァ Princess Eva 牝 父マンデュロ Manduro 現在までのところ、フランスで3戦未勝利

以上、産駒は全てが牝馬で、やはり父の距離特性に合った使われ方がなされているようです。

2代母スターライト・スマイル Starlight Smile (1997年 鹿毛 父グリーン・ダンサー Green Dancer)はアメリカのモイグレア・スタッドが生産した馬ですが、未出走のまま。
残念ながらその産駒にも目立った活躍馬はありませんが、調べた限りでの9頭の産駒は全て父馬が異なっている、というのが目に付きます。その中の1頭、ポートレート・オブ・ア・レディー Portrait of a Lady の娘ミス・ユー・トゥー Miss You Too は2歳時にクリテリウム・ド・サン=クルー(GⅠ)で3着になり、3歳時には12ハロンのリステッド戦に勝ったステイヤーでした。

駆け足で3代母バビンカ Bubinka (1976年 鹿毛 父ナシュア Nashua)に行くと、この馬はアメリカ産馬ながらフランスで調教され、フランス、イタリア、アメリカで出走。特にイタリアではブオンタレンタ賞というGⅢ戦に優勝し、地元フランスではヴァントー賞(GⅢ)で4着の実績もあります。

バビンカにはスターライト・スマイルの半姉に当たるスタイル・オブ・ライフ Style of Life という牝馬がおり、その産駒グレイ・スワロー Grey Swallow (2001年 芦毛 牡 父デイラミ Daylami)が2004年の愛ダービーに優勝。2004年と言えば、上記アザムールがアイリッシュ・チャンピオン・ステークスを制した年でもあります。
アザムールとグレイ・スワローとは英愛の2000ギニーで対戦しており、英2000ギニーではアザムール3着、グレイ・スワロー4着。愛2000ギニーもアザムール2着、グレイ・スワロー3着と何れもアザムールに軍配。着差は前者が1馬身差、後者が半馬身差でしたが、アザムールが出なかった愛ダービーでは、グレイ・スワローは英ダービーの1・2・3着馬を全て蹴散らしてクラシック戴冠を果たしました。その年のレースホースでは、アザムールに128ポンド、グレイ・スワローには127ポンドが与えられています。
2頭の対決は翌年も続き、先ず5月のトトソルズ・ゴールド・カップはグレイ・スワローが制し、アザムールはライヴァルに2馬身ほどの差を付けられて4着。7月のキングジョージでは逆にアザムールが1番人気に応えて優勝、グレイ・スワローは7着完敗でした。2頭の最後の対戦は、前年にアザムールが勝っている愛チャンピオン・ステークス。しかし最後は両馬共に3歳馬のワン・ツーに敗れ、アザムールが5着、グレイ・スワローは6着。5度の対戦は4勝1敗でアザムールの勝ちとなりましたが、2頭の差は僅か、タイムフォームの最終レーティングはアザムール130に対し、グレイ・スワローが129。3歳時の評価と同じ1ポンド差でした。
因みにアザムールはジョン・オックス師、グレイ・スワローがデルモット・ウェルド師が管理し、共にアイルランドを代表する名調教師でもあります。

更にバビンカの娘シーゾナル・ピックアップ Seasonal Pickup からは、娘のサマー・トライスティング Summer Trysting を経て香港の年度代表馬デザインズ・オブ・ローム Designs of Rome が登場。
デザインズ・オブ・ロームもアイルランドで経歴をスタートさせた馬ですが、香港に転じて才能が開花、その地でダービー、香港カップ、クィーン・エリザベスⅡ世カップ、香港クラシック・カップ、香港ゴールド・カップと、香港のGⅠ戦を5勝しています。

先を急ぐと、バビンカの母、即ちカヴァート・ラヴの4代母ストーン・デイト Stone Date (1970年 栗毛 父サダイアー Sadair)はアメリカで20戦3勝でしたが、何と言っても偉大なる繁殖牝馬ベスト・イン・ショー Best In Show (1965年 栗毛 父トラフィック・ジャッジ Trffic Judge)の妹であることに大注目。つまりこのファミリー、ベスト・イン・ショーから繁栄している馬たちが大本流だとすれば、ストーン・デイトから今日まで続いているのは言わば支流。メイン・ストリートの脇街道とでも表現しておきましょうか。
その本流であるベスト・イン・ショーの代表産駒を挙げるだけでも一冊の本が出来そうですが、大雑把に代表的な馬を列挙すると、ベスト・イン・ショーには5頭の重要な娘があり、

①セックス・アピール Sex Appeal はデューハースト・ステークスのトライ・マイ・ベスト Try My Best と2000ギニーと愛ダービーに勝ったエル・グラン・セニョール El Gran Senor の母であり、その娘たちからはバハミアン・パイレート Bahamian Pirate 、チンチョン Chinchon が・・・。
②ミニー・ホーク Minnie Hawk はフェニックス・ステークス馬アヴィアンス Aviance とカドラン賞馬チーフ・コンテンダー Chief Contender の母であり、アヴィアンスからはチャイムズ・オブ・フリーダム Chimes of Freedom 、デノン Denon 、アルデバラン Aldebaran 、シー・オブ・シャワーズ Sea of Showers 、愛2000ギニー馬スピニング・ワールド Spinning World 、パスフォーク Pathfork が・・・。
③モンロー Monroe はデューハースト・ステークスに勝ったザール Xaar の母で、その娘たちからはセニュア Senure 、クローズ・ハッチェス Close Hatches が・・・。
④ブラッシュ・ウィズ・ブライド Blush With Bride は自身がケンタッキー・オークス馬で、ジャン・ロマネ賞のスモーレンスク Smolensk の母でもあり、その娘たちからはベルモント・ステークスのジャジル Jazil 、ケンタッキー・オークスとベルモント・ステークスを制したラグス・トゥー・リッチズ Rags to Riches 、マン・オブ・アイアン Man of Iron 、ストリーミング Streaming 、愛オークス馬ピービング・フォウン Peeping Fawn 、ザウェイユーアー Thewayyouare が・・・。
⑤ニジンスキーズ・ベスト Nijinsky’s Best はアメリカのGⅠ3勝馬ヤグリ Yagli が・・・。

という具合。クラシック馬については当該レース名を挙げましたが、他も全てGⅠ戦、乃至はGⅠ級(現在のGⅠ、かつてGⅠだったレース)に勝った馬たちで、具体的なレース名は関心を持たれた方が各自調べて下さい。
それほどに名馬の数は限りないのです。

以上概観したように、コヴァート・ラヴは英国調教馬ながら、5代以内のファミリーからは愛ダービー馬2頭、愛オークスもカヴァート・ラヴが2頭目、愛2000ギニー1頭とアイルランドのクラシックに縁が深く、陣営が追加登録料を支払ってもアイルランドのクラシックに向かったのは、この辺りに根拠があったのではないでしょうか。

5代母はストールン・アワー Stolen Hour (1953年 栗毛 父ミスター・ブッシャ― Mr. Busher)、ファミリー・ナンバーは8-f。1807年生まれのリメンプランス・メア Remembrance Mare を基礎とする牝系です。

 

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