ラボ・エクセルシオ イギリス編

昨日はクァルテット・エクセルシオのラボ・シリーズ、イギリス編を聴いてきました。エクフレンズの片割れとしては客席の入りも気になるところでしたが、よく入っていました。今シーズンのクァルテット・ウエンズデイの中でも目立つくらい。

私は今シーズン、2階の隅に陣取っています。理由はいろいろあるけれど、周りに人がいない状態で、いわば寝っ転がるようにしてクァルテットを聴きたかったのです。しかしこの日は、普段誰もいない私の列にも何人か並んでおりまして、いつもとは雰囲気が違いました。
イギリスの弦楽四重奏という物珍しさから集まったとは思えません。やはりエクセルシオを聴こうという方々が増えてきたこと、プロジェクトの努力が実を結びつつあること故かと思われます。真に喜ばしい。

さて曲目はエルガーのホ短調、ブリテンの1番のあと休憩、後半がディリアスの「去りゆくツバメ」でありました。
日曜日の試演会で同じプログラムを聴いていますから、いわゆる予習としては準備万端。最初から音楽に没入して楽しみました。
実は試演会の時点では、エルガーに多少の不安はあったのです。正直な所。このエルガーだけなら不安は感じなかったでしょうが、ブリテンとディーリアスを聴いてしまうと、エルガーは改めて消化不良の感じが残りました。
しかしさすがエク、本番ではキッチリ仕上げてきました。もちろんサロンとホールという違いも大きいでしょう。アンサンブルは一段と磨かれましたし、何より全体の見通しが明瞭になっていました。もちろん私自身が作品を一度体験した、という事実も手伝っていることは間違いないのですが。

エルガー、改めて素晴らしい曲ですね。出だしが良いですよ。一歩一歩慎重に歩みながら、意を決して歩を進める、という風情のテーマ。全体にメランコリックな第1楽章が、最後の2小節、ピウ・レントでフッと明るい光が射す。哀しいけれど、慰めもある。
そして第2楽章のピアチェヴォーレ。ここはクァルテット通によると、もっとゆっくりと演奏されてきた楽章なのだそうです。実際、サロンで第2ヴァイオリン・山田さんに伺ったところでは、弾いているとどんどん遅くなってしまうのだとか。
今回は改めて気持をリセット、楽譜の指示どおり、♪=104で演奏されたはずです。このエルガー節、当分は頭を離れそうにありません。私の Most Favourite な一品に昇格しました。

ブリテンも凄かったですねぇ。確かアメリカ時代、ピーター・グライムズと同じ時期の作品ですから、どうしても雰囲気が似てきます。特に第3楽章のアンダンテ・カルモは5拍子を基本とし、厳粛な祈りを捧げていきます。チェロ→ヴィオラ→第2ヴァイオリン→第1ヴァイオリンと受け渡されていく魂の告白が、聴くものの胸を衝く。
しかしこの作品は、全体的には極めてエアリー、というか妖精が出てくるような音楽に満ちていますね。特に第2楽章のスケルツォは、エクセルシオの極めて高いレヴェルにあるテクニックが冴えていました。

休憩後のディリアスはいかにもディリアスで、全2作ほどの緊張はありません。何故これを最後に据えたのか疑問に思っていたので、サロンでチェロ・大友氏に尋ねたところ、これが一番好きだから、という至極当然な回答が返ってきました。
それを証明するように、演奏としてはほぼ完璧な域にまで磨かれていました。全体が和声ばっかりというような作品ですが、4本の弦のバランスが何処を取っても見事。楽章間の音楽的バランスも実に良く考えられていましたね。

そしてアンコールはエルガーから、「愛の挨拶」。クァルテット版で聴くこの愛らしい小品も素敵でした。特にヴィオラ、良かったですねぇ。
弦楽四重奏は、演奏が終了したときに強い緊張から解き放たれる。その開放感に酔うことが多いのです。しかしこの夜のイギリス編は、緊張というよりも、その音楽にいつまでも浸っていたいと思わせるようなコンサートでした。真に幸せな気持で晴海を後にしたのであります。

 

Pocket
LINEで送る

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください