今年もアーリントンの芝フェスティヴァル

アメリカの夏競馬と言えばサラトガとデル・マーですが、今週ばかりはニューヨークもカリフォルニアも脇役に甘んじ、主役はシカゴ、アーリントン競馬場の芝G戦5連発。特に最後の3レースは全てGⅠ戦で、海外からの参戦組を迎え、国際色を豊かに開催されました。
8月15日のアーリントン・パーク競馬場、馬場は firm で始まりましたが、途中から雨に見舞われています。今回はアーリントンからレポートして行きましょう。

最初のパッカー・アップ・ステークス Pucker Up S (芝GⅢ、3歳牝、9ハロン)は去年まで9月中旬に行われていましたが、今年の祭典のために前倒しされた一戦。1頭が取り消して10頭立て。前走ベルモント・オークス(芝GⅠ)は8着ながら、去年ベルモントで芝の一般ステークス(チェルシー・フラワー・ステークス)に勝っているミス・シャトレーヌ Miss Chatelaine がイーヴンの1番人気。
レースは7番人気(16対1)のアンブライドルド・カレッジ Unbridled Courage が逃げましたが、2番手を追走していた5番人気(14対1)のミズ・マネー Mizz Money が第3コーナーでこれを交わして勝負に出ると、中団から強烈に追い込む4番人気(7対1)リターン・トゥー・グレース Return to Grace をハナ差抑える番狂わせ。半馬身差で2番人気(5対1)のプラードズ・スイート・ライド Prado’s Sweet Ride が3着に入りましたが、2着馬と4着馬(アメリカ・モナミー America Mon Amie)に同時に異議申し立てがあったものの何れも却下となり、入線通りで確定しました。
パッティー・ミラー厩舎、ロビー・アルバラード騎乗のミズ・マネーは、今年初めに一般ステークス(アレン・ルコーム・メモリアル・ステークス)でステークス初勝利、これがG戦初制覇となります。管理する女性調教師のミラーにとっては、これがステークス初勝利でした。

続いてアメリカン・セントレジャー American St.Leger (芝GⅢ、3歳上、13.5ハロン)。2012年に創設され、去年まではリステッド戦でしたが、何れはG戦に格上げされると見て当日記でも毎年紹介してきました。今年から目出度くGⅢに格上げされましたが、去年の勝馬ザ・ピッツァ・マン The Pizza Man がミリオンに回るため回避するなど2頭が取り消して9頭立て。5月にマンノ・ウォー・ステークス(芝GⅠ)で3着したハイパー Hyper が2対1の1番人気。
レースは伏兵(51対1)のアルファー・キタルファ Alpha Kitalpha が逃げましたが第3コーナーまで。替って4番手に付けた英国馬で4番人気(6対1)のパナマ・ハット Panama Hat が直線で抜け出しゴールを目指しましたが、前半5番手から外を回って進出した2番人気(3対1)のドイツ馬ラッキー・スピード Lucky Speed が最後の瞬発力を繰り出すと、パナマ・ハットを4分の3馬身差し切って優勝。人気のハイパーも追い上げましたが、4馬身離された3着に終わりました。ヨーロッパ勢のワン・ツー・フィニッシュ。
ピーター・シールゲン厩舎、アンドラーシュ・シュタルケ騎乗のラッキー・スピードは、一昨年のドイツ・ダービー馬。それ以来勝鞍に恵まれず5連敗中でしたが、去年のベルリン大賞典(GⅠ)では3着に入っていたステイヤーで、勝時計の2分46秒50はコース・レコードだったそうです。北米での競馬は前走カナダのニジンスキー・ステークス(カナダ芝GⅡ)4着に続く2戦目で、シュタルケ騎手共々アメリカでは初勝利となりました。

そしてここからがGⅠ戦3連発、その第一弾がセクレタリアート・ステークス Secretariat S (芝GⅠ、3歳、10ハロン)です。7頭が出走し、最終的なオッズは不明ですが、恐らくベルモント・ダービー(芝GⅠ)を制したフォース・ザ・パス Force the Pass が1番人気だったと思われます。
先手を取ったのは、2番人気(2対1)だったアイルランドのハイランド・リール Highland Reel 、このレースの前から降り出した強い雨の中、内ラチ沿い一杯を2着争いに5馬身4分の1差を付ける圧巻の逃げ切り勝ちでした。際どい2着争いは、内の伏兵(14対1)クロージング・ベル Closing Bell が外のフォース・ザ・パスを頭差で差し返しての逆転劇。無敗で臨んだ今年のイタリア・ダービー馬ゴールドストリーム Goldstream は3馬身離されての4着でした。
エイダン・オブライエン厩舎、シーミー・ヘファーナン記事用のハイランド・リールは、前走グッドウッド競馬場のゴードン・ステークス(GⅢ)に続きG戦2連勝。今回は前走の1マイル半から2ハロン短い10ハロンでの圧勝で、オブライエン師に4度目のセクレタリアート・ステークスをプレゼントしました。

これに続く2レースは、何れも勝馬にブリーダーズ・カップの優先出走権が付与される重要な一戦で、先ずは牝馬のためのビヴァリー・D・ステークス Beverly D. S (芝GⅠ、3歳上牝、9.5ハロン)ですが、何とも荒れた結末になってしまいました。馬場は突然の雨で yielding に軟化し、1頭が取り消して9頭立て。去年の覇者ユーロ・シャリーン Euro Charline が5対2の1番人気。去年の2着馬ステファニーズ・キッテン Stephanie’s Kitten は7対2の1番人気で続き、ユーロ・シャリーンが勝てばレース史上初の連覇となります。
そのユーロ・シャリーンがレースを引っ張って逃げ作戦に出ましたが、2番手を追走していた5番人気(6対1)のシークレット・ジェスチャー Secret Gesture がこれを捉えると、内から伸びる6番人気(8対1)のワッツダチャンシズ Watsdachances を4分の3馬身抑えて先頭でゴール。惜しかったのは勝馬の外から急襲したステファニーズ・キッテンで、勝馬が最後の段階で外に膨れ、前を過られる形となって思わず馬を止め、その間に内を掬われて首差の3着に敗れたこと。明らかにこれが無ければステファニーズ・キッテンは2着を確保していたはずで、当然ながら審議となり、シークレット・ジェスチャーは3着に降着。結果的に漁夫の利を得た形でワッツダチャンシズ優勝、ステファニーズ・キッテン2着、シークレット・ジェスチャー3着で確定しました。人気のユーロ・シャリーンは4着。
チャド・ブラウン厩舎、ジョー・ブラーヴォ騎乗のワッツダチャンシズは、2歳時にベルモントでミス・グリロ・ステークス(芝GⅢ)に勝ってBCジュヴェナイル・フィリーズ・ターフが2着。そして5歳になった今年は、ピムリコで前年2着だったギャロレット・ハンデ(芝GⅢ)に勝ってG戦2勝目。そして今回は繰上りとは言え、GⅠ戦初勝利となりました。
アンラッキーとしか言いようがないのが、ジェイミー・スペンサーが騎乗した英国のシークレット・ジェスチャー。たとえ外の馬が不利を被ったとしても、事実上の勝馬はこちらでしょう。スペンサーは2004年のアーリントン・ミリオンでもパワースコートPowerscourt に騎乗して1着入線も4着に降着となっており、彼にとってアーリントンは鬼門と言えそう。

そして最後がアーリントン・ミリオン・ステークス Arlington Million S (芝GⅠ、3歳上、10ハロン)。もちろん勝馬に与えられるBC出走権は、ブリーダーズ・カップ・ターフが対象です。馬場は good と更に軟化、13頭と頭数が揃いましたが、アーリントンの中継は最終オッズが判りません。従って1番人気も不明ですが、前走マンハッタン・ステークス(芝GⅠ)の1・2着馬スランバー Slumber とビッグ・ブルー・キッテン Big Blue Kitten は共に3対1、この2頭が中心だったと思われます。
レースは27対1の伏兵シャイニング・クーパー Shining Cooper が思い切った大逃げを打ち、後続との差を保ったまま直線。ここから伸びたのは、人気の一角ビッグ・ブルー・キッテンと、5対1の地元のヒーローでもあるザ・ピッツァ・マン The Pizza Man で、一歩先んじたザ・ピッツァ・マンがビッグ・ブルー・キッテンの追い上げを首差凌いでいました。4分の3馬身差で逃げたシャイニング・クーパーが3着に粘り、スランバーは8着敗退。
ロジャー・ブルッヘマン厩舎、フロラン・ジェルー騎乗のザ・ピッツァ・マンは、これで芝コースでは6連勝。今年は前年制したアメリカン・セントレジャーと二重登録していましたが、最終的にGⅠ戦狙いが見事的中した形です。前走はトライアルとなるスターズ・アンド・ストライプス(芝GⅢ)を2連覇しての参戦、去年はセントレジャーで連勝を果たしましたが、今年は頂点のミリオンでの連勝達成です。地元シカゴのファンから大声援で迎えられたのはもちろんでしょう。6歳せん馬ですが、BCはせん馬にも出走権が与えられています。優先出走権を獲得した以上、チャンピオンを目指すのは使命でもありましょう。

すっかり影が薄くなったサラトガ競馬場、この日はG戦2鞍で、最初はアディロンダック・ステークス Adirondack S (GⅡ、2歳牝、6.5ハロン)。fast の馬場に7頭が出走し、このレースを3勝しているトッド・プレッチャー師が送る1戦1勝馬トナーサー Tonasah が6対5の1番人気。
そのトナーサーがスタートからスピードを活かして逃げましたが、4番手に付けた2番人気(3対1)のジャスト・ウィックド Just Wicked が第3コーナーで2番手に上がると、直線は本命馬との一騎打ちに持ち込みます。外からトナーサーに競り掛けたジャスト・ウィックド、再び差し返すトナーサーとの叩き合いを1馬身4分の1差制してのG戦初勝利です。8馬身の大差が付いた3着は、後方2番手から伸びた3番人気(9対2)のデリケート・レディー Delicate Lady 。
スティーヴン・アスムッセン厩舎、ホセ・オルティス騎乗のジャスト・ウィックドは、ベルモントの芝コースでデビューして2着。2走目にサラトガで初勝利を挙げ、これで3戦2勝となります。 母はフェアグラウンズで6ハロンの一般ステークスに勝ったウィックド・ディード Wicked Deed で、やはりアスムッセン師が同じオーナーのために調教していました。

ベルモントのもう一鞍はフォースターデイヴ・ハンデキャップ Fourstardave H (芝GⅡ、3歳上、8ハロン)。firm の芝コースに2頭が取り消して8頭立て。5月にピムリコでディキシー・ステークス(芝GⅡ)に勝ち、前走ベルモントのクレーミング戦も快勝したイロニコス Ironicus が2対1の1番人気。
レースは2番人気(5対2)のキング・クリーサ King Kreesa が逃げましたが、3番手を進んだ6番人気(8対1)のグランド・アーチ Grand Arch がこれを直線で外から捉え、前半は最後方に控えていたイロニコスの大外急襲を首差凌いでのサプライズ。更に首差で4番人気(6対1)の去年の勝馬シーク・アゲン Seek Again が3着でした。
ブライアン・リンチ厩舎、ルイス・サエズ騎乗のグランド・アーチは、去年のこのレースで首差2着に惜敗していた6歳せん馬。G戦そのものは去年、カナダのキング・エドワード・ステークス(カナダGⅡ)に勝って以来の2勝目となります。

やっと昨日の最後、デル・マー競馬場に辿り着きました。G戦はGⅠのデル・マー・オークス Del Mar Oaks (芝GⅠ、3歳牝、9ハロン)一鞍。firm の馬場に8頭立て。セニョリータ(芝GⅢ)、サン・クレメンテ(芝GⅡ)と芝のG戦を2連勝中のプライズ・イクジビット Prize Exhibit が7対5の1番人気。
最低人気(23対1)のポーリーナズ・ラヴ Paulina’s Love が逃げましたが、直線で一杯。替って2番手を追走していたブービー人気(14対1)のハー・エミネンシー Her Emmynency が先頭に立った所に、3番手追走の3番人気(6対1)シャーラ・レー Sharla Rae が外から襲い掛かり、4分の3差を付けて優勝。人気のプライズ・イクジビットも後方3番手から追い上げましたが、1馬身半差届かず3着まで。こちらも人気馬は勝てませんでした。
ダグ・オネイル厩舎、ジェームス・グレアム騎乗のシャーラ・レイは、前走ベルモント・オークス(芝GⅠ)7着からの巻き返し、勝鞍は2月ゴールデン・ゲートのカリフォルニア・オークス(一般ステークス)以来で、G戦は5度目の挑戦で初勝利です。2歳時には一般ステークスを2勝しており、ステークスそのものは4勝目となりました。

 

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