日本フィル・第673回東京定期演奏会

今年の夏はナマの演奏会には一度も行かず、7月末に名古屋で京都市響を聴いて以来の演奏会カテゴリーとなります。実に1か月ぶり、感想文の書き方も忘れてしまいました。
昨日は久し振りの赤坂サントリーホール、会員である日本フィルの新シーズン開幕コンサート。プログラムはかなり凝った内容で、以下のもの。

ミヨー/バレエ音楽「世界の創造」
ベートーヴェン/交響曲第1番
~休憩~
イベール/アルト・サクソフォンと11の楽器のための室内小協奏曲
別宮貞夫/交響曲第1番(日本フィル・シリーズ再演企画第9弾)
指揮/山田和樹
サクソフォン/上野耕平
コンサートマスター/扇谷泰朋
フォアシュピーラー/千葉清加
ソロ・チェロ/菊地知也

同団正指揮者の山田和樹、最近は正に飛ぶ鳥を落とす勢いですが、この定期も山田らしい捻りの効いた選曲で聴き手の視聴意欲を誘います。
例によって自身でプレトークをする「Y’s Style」。選曲の意図も自信の口から。

現在も続いている日本フィル・シリーズの再演企画も今回が9回目。山田も日本人作品には当初から意欲を燃やし、今回の初挑戦では別宮貞夫の第1交響曲を選びました。これが最初に決まった演目。
これに組み合わせるには、やはり別宮が師事したフランスの巨匠ミヨーでしょ、ということになり、ミヨーと言えば代表作の「天地創造」。そして別宮が生涯尊敬し、学校(東大だそうです)の卒論にも選んだベートーヴェンから、同じ第1交響曲。(初演の時はやはりベートーヴェンの第2交響曲が組み合わされていましたっけ)
これでもまだ演奏時間に余裕があり、何かと考えていたところで出会ったのがサクソフォーンの上野。ミヨーとのフランス繋がりで、サクソフォーンの協奏曲と言えばイベールでしょ。ということでプログラムが確定しました。

山田は更に考えを巡らせます。ミヨーもイベールも小編成、もちろん別宮は3管編成を主体にする大編成ですから、比較対照をより明確にするために、ベートーヴェンは思い切って倍管(4管)でやっちゃえ、と言うことで異端児の挑戦が決まります。
これが今回のプログラムで、聴いている方は小編成→大編成という構図を前半と後半の二度味わうことになりました。ベートーヴェンを別にすれば、他の3曲は私も多分ナマでは初体験。その辺りも真に新鮮なコンサートだったと思います。

最初はミヨー。LP時代にはプレートルとミュンシュの名盤があって、学生時代にその不思議な音響に馴染んできましたが、意外にナマ演奏に遭遇する機会は少ないのが現状でしょう。
実際にバレエとして上演すれば、かなりエロティックな演出も可能。今回は純粋にジャズ風アンサンブルを楽しみました。

中でも注目は、ヴィオラの代わりとして選ばれたサクソフォンのソロ。実際にスコア上でもサックス・パートは弦楽のヴィオラの位置に書かれているほど。山田はこれをどう解釈するかと思っていましたが、アンサンブルを舞台中央の奥にカッチリと纏め、サックスも管楽器の一つとして扱っているようでした。
最近の日フィルは特に管楽器に名手が揃い、客演の上野はもちろん、クラリネット(伊藤)、ホルン(丸山)、トランペット(オットー)、トロンボーン(藤原)のアンサンブルは、それ自体が快感でした。

続いて舞台係が大活躍のベートーヴェンへの場面転換。このベートーヴェンが唖然とするような演奏で、思わず吹き出してしまいましたね。
昨今のベートーヴェンと言えばベーレンライター版に代表されるように、原典主義、小編成、古楽器、ノン・ヴィブラートで透明なテクスチュアが常識。フルトヴェングラーやカラヤンで育った世代としては、何とも栄養失調のベートーヴェンに欲求不満の塊になっていました。
山田は敢えてそれに抵抗するように倍管、16型の弦合奏による肥大型ベートーヴェンを誇示します。

しかしそれだけじゃない所が山田の機知で、私が気付いた点だけを列記すれば、
第1楽章再現部ではテンポを僅かに落し、提示部では弱音だった第1主題を強音で殊更に強調して見せる。
第2楽章冒頭の弦楽器を何とソロのアンサンブルに変え、弦楽五重奏で始めて聴き手を驚かせる。しかもテンポは超スロー。
第4楽章冒頭のフェルマータをこれでもか、と引き伸ばし、音階を徐々に上がる序奏部を音楽が止まってしまうほどの遅さでスタート。主部に入ると逆に猛スピードで突進し、4本に増やした管楽器を総動員して誠にゴージャスなベートーヴェンを響かせる、という具合。

これは山田が単に巨匠時代の演奏スタイルを再現し、オールド・ファンを喜ばせるのが目的じゃないでしょう。というよりも、カラヤンに代表される様な演奏スタイルをやや皮肉を込めて模倣し、パロディーの意味も込める。
これが逆に昨今の栄養失調ベートーヴェン表現への警告にもなり、改めて現代の演奏スタイルを考える上で一石を投じたのではないか、とさえ思えるほどでした。
いや~、何とも面白いベートーヴェンでしたね。好き嫌いは別にして、山田の勇気を讃えたいと思います。

前半に拘り過ぎました。後半は簡潔に纏めると、
イベールを吹いた上野はそれこそ天才的な奏者。その演奏を聴き、見ているだけで聴き手を楽しくさせてしまうような独特なオーラがあります。滅多に演奏されないイベールですが、上野によって完全復活した感があります。

最後の別宮作品。山田が指摘したように、日本人作曲家の作品は人気が無いのが通り相場ですが、特に第2楽章の難解なリズムを完璧にクリアーし、最後で回帰する第1楽章の抒情性を見事に表現した好演に出会えば、そうしたジンクスも徐々に払拭されていく様な気がします。
この Y’s Style 、これからは紆余曲折もあるでしょうが、どうか初心を貫き通して行って欲しいとエールを送らざるを得ません。

 

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