オブライエン師のGⅠハットトリック
土曜日に愛チャンピオン・ステークスで世界の注目を集めたアイルランドですが、翌日の日曜日もカラー競馬場でGⅠ3鞍を含めて一種の競馬フェスティヴァル。最近は重要なレースは全て纏めてしまうという傾向があり、正にアイルランドの9月第2集は競馬の祭典と化してきました。
この週末が終わると、アイルランドで残っているG戦は数えるほど。実際GⅠ戦は昨日が最後で、アイルランドは一足先に店仕舞いとなってしまいます。
ということで、この日のカラー競馬場は good の馬場。行われたG戦をレース順に取り上げていきます。
最初はブランドフォード・ステークス Blandford S (GⅡ、3歳上牝、1マイル2ハロン)。9頭が出走し、今年の愛1000ギニー5着馬で前走ダンス・デザイン・ステークス(GⅢ)に勝っているボッカ・バチアータ Bocca Baciata が2対1の1番人気。
最低人気(33対1)で3頭出しオブライエン厩舎のペースメーカーを務めるアウトスタンディング Outstanding が逃げ、ボッカ・バチアータは4番手から。3番手に付けていたオブライエン厩舎の主将格で3番人気(4対1)タピストリー Tapestry (去年のヨークシャー・オークス馬)が抜けましたが、最後方に待機していた2番人気(3対1)のリボンズ Ribbons が持ち前の瞬発力を活かして一気に躍り出ると、タピストリーに半馬身差を付けて優勝。ボッカ・バチアータも順位を挙げましたが、1馬身4分の1差及ばず3着に終わりました。
勝ったリボンズは英国のジェームズ・ファーンショウ厩舎、トム・クィーリー騎乗の5歳馬で、去年はドーヴィルのジャン・ロマネ賞を制したGⅠ馬。今期はプリティー・ポリー・ステークス(GⅠ)3着はあるものの、2連覇を狙った前走ジャン・ロマネ賞は6着に凡走していました。今回は最後方でリラックスできたことが勝因で、久々に豪脚復活の勝利です。
3週間後にオペラ賞(GⅠ)が控えていますが、やや気性に難しい所のある牝馬でもあって3週間は厳しいかも。むしろチャンピオン・ステークスで牡馬に挑戦というプランの方が現実的で、チャンピオンのオッズは25対1から16対1に上昇しています。
この日二つ目のG戦はフライング・ファイヴ・ステークス Flying Five S (GⅡ、3歳上、5ハロン)。去年まではGⅢでしたが、今年からGⅡに昇格して競馬フェスティヴァルを盛り上げます。歴戦のスプリンター12頭が出走し、5対1の1番人気には3頭が並ぶ混戦。年齢順に並べれば、GⅠ5勝の8歳馬ソール・パワー Sole Power 、一昨年のアベイ・ド・ロンシャン(GⅠ)勝馬で同じく8歳のマーレク Maarek 、そして前走ルネサンス・ステークス(GⅢ)に勝って好調の5歳馬ムーヴィエスタ Moviesta です。
3頭出走している8歳馬のもう1頭で9番人気(12対1)のテイク・カヴァー Take Cover が逃げてあわや、と思わせましたが、7番手を追走していたソール・パワーと後方待機のマーレクが追い込み、最後はソール・パワーがマーレクに頭差で優勝。1馬身差でテイク・カヴァーが3着に粘り、8歳馬が1着から3着までを独占するという珍しい結果になりました。
エディー・ライナム厩舎、今回が同馬に初騎乗となったクリス・ヘイズのソール・パワーは、当競馬ブログには何度も登場しているお馴染みの馬。キングズ・スタンド・ステークス2連覇、去年のナンソープなどGⅠの常連で、今期はドバイの短距離GⅠ戦に勝った後、4連敗中でした。アイルランドで勝ったのは、古く2010年のダンダルク競馬場以来とのことで、これが通算では12勝目だそうです。
このあとはパリ(アベイ・ド・ロンシャン)から暮れの香港、そして3月はドバイと、例年と同じ旅程が組まれています。
さてここからはGⅠ戦3連発。その第一弾が2歳牝馬のモイグレア・スタッド・ステークス Moyglare Stud S (GⅠ、2歳牝、7ハロン)で、1頭が取り消して9頭が出走してきました。ここ3年は英国遠征馬が制してきましたが、今年はエイダン・オブライエン厩舎のバリードイル Ballydoyle が5対4の1番人気。前走デビュタント・ステークス(GⅡ)を2馬身差で制し、そのプロフィールは既に紹介済みです。
そのバリードイルが先頭から主導権を奪い、そのまま逃げ切るかに見えましたが、2番手に付けていた同じオブライエン厩舎の4番人気(15対2)マインディング Minding が残り100メートルで本命馬を捉え、4分の3馬身差で逆転勝ち。半馬身差の3着にもオブライエン軍団の7番人気(20対1)アリス・スプリングス Alice Springs が飛び込み、何とオブライエン厩舎のワン・ツー・スリー。3年間の鬱憤を一気に晴らした形です。
本命馬にはジョセフ・オブライエンが騎乗していましたが、勝馬はシーマス・ヘファーナン騎乗。マインディングは前走デビュタント・ステークスではバリードイルの2着していた馬で、今回はバリードイルが重馬場を苦手にしているのに対し、こちらは母譲りの重得意を活かしての逆転だったようです。ヘファーナン騎手は、“もし自分に第一選択権があったとしても、マインディングは選ばない”というのが厩舎の評価で、バリードイルは負けても来年の牝馬クラシックでは第1候補であることに変りはないでしょう。
ブックメーカーの反応はやや異なっていて、1000ギニーのオッズはマインディングが25対1から一気に9対1に上がったのに対し、バリードイルは8対1のまま。更にオークスはバリードイルが10対1から12対1に下がったのに対し、マインディングは逆に25対1から10対1に上がって逆転しています。来年のクラシックもオブライエン厩舎の馬たちが中心になるのは間違いなさそうですね。
されは次のナショナル・ステークス National S (GⅠ、2歳牡牝、7ハロン)にも言えて、こちらは2頭が取り消して5頭立て。やはりオブライエン厩舎のエア・フォース・ブルー Air Force Blue が10対11の断然1番人気。既に前走フェニックス・ステークスでGⅠを制していますが、嫌っているとされる重馬場を克服できるかが見所でしょう。敢えて出走に踏み切ったのは、あくまで将来の事を考えて馬の適性を見極めるためかと思われます。
先ずチーム・オブライエンのペースメーカーで最低人気(14対1)のペインテッド・クリフス Painted Clffs が逃げてペースを作り、スローにならないように努めます。3番手に付けていた2番人気(5対2)のヘラルド・ザ・ドーン Herald The Dawn が先ず動いて先頭に立ちましたが、続いて2番手を追走していた3番人気(13対2)のバーチウッド Birchwood が残り2ハロンで先頭を奪います。しかし4番手で待機していたエア・フォース・ブルーにゴーサインが出ると、外から前の2頭を一気に纏めて抜き去り、ヘラルド・ザ・ドーンに3馬身差の大楽勝。1馬身4分の3差でバーチウッドが3着。
改めて紹介するまでも無く、エア・フォース・ブルーはエイダン・オブライエン厩舎、ジョセフ・オブライエン騎乗で、早くもGⅠ戦に2勝。ジョセフは父から“半馬身差で良いよ”と言われていたそうですが、追ってみれば3馬身差も付いてしまったというのが本音とのこと。嫌いな重馬場での7ハロンをあっさりと克服し、来年の2000ギニーのオッズはレース前の8対1から5対1と更に上昇しました。オブライエン師はこのレース、去年のグレンイーグルス Gleneagles を含めて10勝目。エア・フォース・ブルーは今期はもう1戦、恐らく10月10日のデューハースト・ステークスを使うことになるでしょう。
カラーの競馬祭、最後はアイリッシュ・セント・レジャー Irish St. Leger (GⅠ、3歳上、1マイル6ハロン)です。現在は古馬に解放されているためクラシック・レースとは言えませんが、長距離GⅠ戦であることに変りはありません。今年は前年の勝馬ブラウン・パンサー Brown Panther を含めて11頭が出走してきましたが、3歳馬はたった1頭のみ。しかし5対4の1番人気は、その3歳馬オーダー・オブ・セント・ジョージ Order Of St George 。あれっ、と思われる方も多いでしょうが、この馬は前日の英セント・レジャーを取り消してこちらに回ってきたもので、オブライエン師がよりスタミナを必要とするカラー向きと判断しての決断でした。
レースは2番人気(9対2)フォーゴットゥン・ルールズ Forgotten Rules のペースメーカー(デルモット・ウェルド厩舎)を務める最低人気(100対1)のグッド・トラディション Good Tradition が逃げましたが、2番手に付けていたブラウン・パンサーが後脚を骨折して競走中止(残念ながら安楽死となります)し、押し出されるようにフォーゴットゥン・ルールズが2番手。しかし直線に入ると様相は一変。最後方に控えていたオーダー・オブ・セント・ジョージに残り2ハロンでスイッチが入ると、あっという間に後続を引き離し、8番手から伸びた3番人気(6対1)のエージェント・マーフィー Agent Murphy に何と11馬身の大差を付けてブッ千切ってしまいました。首差でジョイント5番人気(20対1)のウィックロウ・ブレイヴ Wicklow Brave が3着に入り、フォーゴットゥン・ルールズは5着敗退。
もちろんエイダン・オブライエン厩舎、ジョセフ・オブライエン騎乗のオーダー・オブ・セント・ジョージは、前走愛セントレジャー・トライアル(GⅢ)に続くG戦2連勝で、目下3連勝。オブライエン師はこの日GⅠ戦ハットトリックで総なめ、息子ジョセフもGⅠダブルとなります。
同馬の次走はアスコットのロング・ディスタンス・カップとなるようですが、ブックメーカーは早くも来年のアスコット・ゴールド・カップに3対1のオッズを出して本命馬扱い。ステイヤーにしてはスピードも瞬発力もあり、順調に行けば来年の長距離戦はオーダー・オブ・セント・ジョージの独壇場になるかも。
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