トレーヴ、圧巻の脚慣らし

アイルランドが競馬フェスティヴァルに沸いた同じ日曜日、フランスでも3週間後に迫った凱旋門賞祭のトライアル3連発に競馬ファンが沸騰していました。
この日のロンシャン競馬場は各種トライアルに加え、マイルの頂上決戦も行われるという豪華さ。生憎前夜降ったかなりの雨で馬場は very soft まで悪化していましたが、結果に余り影響は無かったようです。こちらもレース順に行きましょう。

最初はアベイ・ド・ロンシャン賞(GⅠ)のトライアルになるプティ・クーヴェール賞 Prix du Petit Couvert (GⅢ、3歳上、1000メートル)。1頭が取り消して11頭が出走し、去年のアベイ優勝馬ムーヴ・イン・タイム Move in Time が31対10の1番人気。前走ナンソープ・ステークスは9着と凡走に終わりましたが、目標はあくまでもアベイでしょう。
9番人気(189対10)のレッド・バロン Red Baron が大逃げを打ちましたが、これを抑え気味に追って先行していたムーヴ・イン・タイムが残り1ハロンで先頭に立つと、2番手を追走していた8番人気(132対10)のジェンジス Gengis に1馬身4分の1差で快勝。2馬身差で3番手を進んだ2番人気(26対5)でこのレースを二度制しているミルザ Mirza が3着。

予定通りトライアルを快勝したムーヴ・イン・タイムは、英国のデヴィッド・オメーラ厩舎、ダニエル・タドホープ騎乗の7歳馬。去年のこのレースは2着から金星を射止めましたが、不安と言えば今年の方が出来過ぎということでしょうか。いずれにしても強敵はレヴェルの高い今年の3歳勢でしょう。

続いてはこの日行われる凱旋門賞トライアルとなる三つのG戦の第一弾、ニエル賞 Prix Niel (GⅡ、3歳牡牝、2400メートル)。3歳世代限定の2400メートル戦で、凱旋門賞同様せん馬には参加資格がありません。7頭が出走し、仏ダービー馬ニュー・ベイ New Bay と無敗のパリ大賞典馬イラプト Erupt の対決が最大の見所。前者が6対5の1番人気に支持され、後者は21対10の2番人気で続きます。
レースはニュー・ベイのペースメーカーで6番人気(236対10)のカウンターメジャー Countermeasure が逃げてペースを作り、重得意のイラプトが2番手に付け、ニュー・ベイはこれをマーク。しかし2頭の対決は意外にアッサリと決着が付き、抜け出したニュー・ベイが後方から追い込む3番人気(6対1)のシルヴァーウェイヴ Silverwave に2馬身半差を付ける快勝。更に1馬身4分の3差で中団の内から進出した4番人気(36対5)のミグウォー Migwar が3着に入り、イラプトは4着に敗退して初黒星を喫しました。

言うまでも無くニュー・ベイはアンドレ・ファーブル厩舎、ヴィンセント・シェミノー騎乗。前走ドーヴィルのギョーム・ドルナーノ賞(GⅡ)にも勝っており、仏ダービーから3連勝で本番を迎えることになります。トレーヴを脅かす1頭としての存在感をアピールしました。一方イラプトは一頓挫となりましたが、7月のパリ大賞典からの休み明け、これで見限るのは早計と言うもので、重馬場は間違いなさそうな凱旋門賞での巻き返しを図ります。

さて愈々大本命に君臨するトレーヴ Treve が参戦するヴェルメイユ賞 Prix Vermeille (GⅠ、3歳上牝、2400メートル)。5歳の牝馬に7頭の3歳馬が挑む9頭立て。もちろんトレーヴが3対5の圧倒的1番人気で、ミネルヴァ賞(GⅢ)を含めて4連勝中のカンダリーヤ Candarliya が49対10の2番人気。前走ヨークのインターナショナルでゴールデン・ホーン Golden Horn に土を付けたアラビアン・クィーン Arabian Queen は36対5の3番人気で続きます。
レースはトレーヴのペースメーカー、最低人気(97対1)ディーナ Dihna が逃げてペースを上げ、同じく先行タイプのアラビアン・クィーンが2番手。直線、満を持していたトレーヴがスパートを掛けると、勝負は一瞬。矢のような末脚を繰り出すと、内で先行していたカンダリーヤに何と4馬身半差を付ける次元の違う実力を見せ付けました。半馬身差で先行していた4番人気(93対10)のシー・カリージ Sea Calisi が3着に入り、アラビアン・クィーンは今回ばかりは6着敗退に終わっています。

女傑を管理するクリティック・ヘッド=マーレク女史はプレッシャーからか言葉少な。未だ凱旋門賞3連覇を達成したわけじゃない、これはあくまでもトライアルと冷静そのもの。歓喜に沸く関係者の中にあって、先を見据える目だけが光っていました。この結果、凱旋門賞のオッズはブックメーカーになって区々ですが、何れも更にオッズは上がって4対5(1.8倍)から11対10(2.1倍)までの間。完璧過ぎる本番への脚慣らしは、却って不気味に思えるほどです。因みに去年はこのレース4着からの巻き返しでしたから、今年の3戦3勝は死角の存在を感じさせません。

次もGⅠ戦ながら一息入れて、ムーラン・ド・ロンシャン賞 Prix du Moulin de Longchamp (GⅠ、3歳上、1600メートル)。これも準クラシックと評価されているため、せん馬には出走権がありません。馬場のため有力馬を含めた4頭が取り消し、6頭立て。前走ロッシルド賞(GⅠ)こそ不覚を取ったものの、今年の仏1000ギニーとコロネーション・ステークスを制している3歳のエルヴェディヤ Ervedya がイーヴンの1番人気。
レースは去年の仏2000ギニーとBCマイル勝馬で、今期初戦のジャック・ル・マロワ賞6着から始動した日本産馬カラコンティー Karacontie が逃げましたが、2番手の内で待機したエルヴェディアが期待通り前を捉えると、最後方から末脚に賭けた6番人気(122対10)のアカテア Akatea に1馬身差で優勝。更に1馬身差でカラコンティーが3着に粘りました。

ジャン=クロード・ルジェ厩舎、クリストフ・スミオン騎乗、アガ・カーン所有のエルヴェディアは、これが三つ目のGⅠ制覇。次はアスコットのクィーン・エリザベスⅡ世ステークスか、あるいはカラコンティーの後を追ってBCマイルを狙うのか、現時点でのレポートは入ってきていません。

そしてこの日三つ目の凱旋門賞トライアルが、古馬のためのフォア賞 Prix Foy (GⅡ、4歳上、2400メートル)。これもニエル賞と同じくせん馬には出走権がありません。8頭が出走し、牝馬ながら去年の凱旋門賞5着、今期もドバイでシーマ・クラシックを制しているドルニーヤ Dolniya が17対10の1番人気。但し前走サン=クルー大賞典ではトレーヴの3着に敗れています。一方牡馬では前走キング・ジョージを制したポストポーンド Postponed が英国から遠征し、こちらは13対5の2番人気で続きます。
ポストポーンドに帯同してきたペースメーカーのローズバーグ Roseburg がレースを引っ張り、これを2番手で待機したポストポーンドが残り2ハロンで先頭に立つと、3番手を追走していた6番人気(156対10)のスピリットジム Spiritjim に4分の3馬身差で優勝。先行していた3番人気(16対5)のバイノ・ホープ Baino Hope が3着に食い込み、先行したドルニーヤは4着敗退。

ルカ・クマニ厩舎、セントレジャーでは悔しい思いをしたアンドレア・アトゼニ騎乗のポストポーンドは、凱旋門賞に勝てば同じ年にキングジョージ/凱旋門のダブル達成となります。如何にも穴党向きの候補馬で、成績こそ派手ではないものの、トレーヴ対3歳クラシック馬という今年の構図に割って入る可能性を残した1頭と言えそうです。これまた極めて順調なトライアルを終えました。

日曜日の最後は、長距離戦カドラン賞のトライアルとなるグラディアトゥール賞 Prix Gladiateur (GⅢ、4歳上、3100メートル)。11頭が出走し、前走メゾン=ラフィットのリステッド戦(3100メートル)に勝ったミル・エ・ミル Mille et Mille が7対2の1番人気。
最低人気(66対1)のヴィフ・ムシュー Vif Monsieur が逃げ、ミル・エ・ミルは内を衝いて進出を図りましたが伸びず、中団から伸びた2番人気(18対5)のフライ・ウィズ・ミー Fly With Me が抜け、先行していたヴァルツァータクト Walzertakt に1馬身差を付けて優勝。1馬身4分の1差3着には3番人気(39対10)のオリエンタル・フォックス Oriental Fox が入り、ミル・エ・ミルは8着に沈んでしまいました。

エリック・リボー厩舎、マクシム・グィヨン騎乗のフライ・ウィズ・ミーは、今期2戦目のバルべヴィユ賞(GⅢ)で2着、続くシャンティーの長距離リステッド戦に勝ち、前走ミル・エ・ミルが勝ったリステッド戦(カルーセル賞)では5着に敗退していました。現在5歳、カドラン賞からカップ・レースのスターに成長するかは疑問ですが、フランスの長距離界を彩る1頭ではありましょう。

以上、日曜日のトライアルを見てきました。今年の凱旋門賞で話題になりそうな馬は全てトライアルを勝利で締め括り、愈々本番が楽しみです。
トレーヴを中心に、ゴールデン・ホーン、ニュー・ベイ、ジャック・ホッブスのダービー馬トリオ。これにポストポーンドを加えた今年の凱旋門賞は、順当に全ての候補馬が駒を進めれば、近年では希に見るほどレヴェルの高いレースになりそう。来年はシャンティーに舞台を移すことでもあり、もし凱旋門賞を現地で見たいというファンたち、行くなら今年でしょ!!

 

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